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リサコラム
連載165回
本日のオードブル
華麗なる贋作人生 第4回


ミスターP.S.の真相


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに勤務し、400名以上の顧客を持つカリスマ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
18年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒は強くない。
好きな作家は夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、マルセル・プルースト
      
      
      「ようこそ、先輩!わが、『探偵ヒグマクラブへ』」

   「アタシなんかで、ようござんすか?」                           
 
      
  






ミスターP.S.の真相




 「とうとう完成しました。かつてない名探偵の完成です。.そう、です。シャーロ

ック・ホームズも、エルキュール・ポアロも舌を巻くはずです。顧客はすべて上流

階級。大会社の社長、重役、ハリウッドスターたちです。つまり彼らの犯した殺人

事件専門です。それに人気推理作家も、」


 受話器の向こうで、「あ」とも「う」ともともつかないうめき声の後、息詰まる沈黙

が続いた。電話の相手は乗り気半分のようである。「推理作家と対決か?そりゃ

ぁ、無理だろう」「それが、今回の開発の目的なんです。推理作家の完全犯罪さ

え暴くレベルで作り上げたロボットです。絶対の自信があります」「う~ん…」だる

そうな空気の5秒が流れた。


 「犯罪顧客は、上流階級ねぇ~」「はい、その手の調査にも絶対の自信があり

ます」男は電話の相手に熱心に売り込みをかける。「新作ロボットは人情のきび

も理解しますし、ジョークも得意です。時々ミスも犯します。つねに煙たがられ、

さらにおっちょこちょいな人間臭さも十分加味いたしました。今回はその味つけに

多くの時間を費やしましたから。さらに、学習能力に秀でておりますから、難事件

を解決すればするほど、どんどん知識が蓄積し、次なる完全犯罪にデータは生

かされると確信しております。誰もロボットとは信じないと思います。さらに事件を

追う貪欲さと勘の鋭さはシャーロック・ホームズ譲りです。


 機密事項に類しますため極秘ですが、推理の結末に至るプロセスは繊細緻密

です。いうなれば、3つ星レストランのフレンチシェフが創作する逸品に等しいと

自負いたします。そしてまた、中国料理のシェフが見せる包丁さばきのように鮮

やかに完全犯罪を視聴者の前に解き明かしてお見せいたします。そして最後に

視聴者が予想もしないようなドラマチックな演出をするようにプログラムされてお

ります。その劇的なオチはコニャックのように謎めいて芳醇な残り香を放つことで

しょう」


 「ほう、ドラマチックなオチねぇ、」電話の向こうの相手の関心がやっと第2ステ

ージに上がってきたことを男は確認した。「そう、ドラマチックなオチがつくことが、

推理物に求められる最高のエンターテイメントです。推理の大どんでん返しのあ

と、まるで、アラジンの魔法のランプに煙となって吸い寄せられるように視聴者と

犯人は奴の巧妙な話術とワナに一気にはまります。そしておとなしく犯人は連行

されるという、まあ、いわばワンパターンの展開をいたします」


 「つまりだね、きみ、われわれは、殺人事件さえ計画すれば、そいつが、そのロ

ボット探偵が、毎回、コニャックの残り香を漂わせながら、鮮やかに解決してくれ

るというのか?」「ご明察です、監督。しかも、きっかり45分で」「視聴者は、ワン

パターンで収束するドラマを好む傾向にあるからなぁ」「はい、水戸黄門の印籠

の安心感を求める心理に等しくございます。人間とは不思議なものでしてね」

「つまりドラマのシナリオを書く必要がなくなるということだな。われわれのシナリ

オライターはいらんということだな」電話の相手は静かに念を押した。「さようでご

ざいます」「は~ん、面白そうじゃないか」「もちろんです」「これで苦労なく探偵ド

ラマが量産できると言うことか」「毎週でも何年でも」「それなら、毎週金曜日のゴ

ールデンタイムに設定しよう」「それがいいと思います。高視聴率が取れること間

違いありません」「つまり、スポンサーからがっぽりと言うことだな」「さようでござい

ます。監督はさすが、頭の回転がお早いことで



 「ところでヤツのキャラクターだが、どんな風に?」「中年の庶民派刑事。さらに

家庭の問題を持ち出すとドラマが45分で終わらない危険性が出てまいりますの

で、子どもなし、妻は出さずに、そのうち離婚したということにいたします」「なるほ

ど。それがよかろう。視聴者は犯人と刑事の駆け引きにだけ集中できると言うこ

とだな」「さらに、経費削減とエコも兼ねて毎回同じ服にしようと考えております」

「それじゃ、いくらなんでも」「それが、ロボット、いえ探偵のキャラクターとなるんで

す!」「そんなもんかな?」「そうですとも。これからの時代は、経費削減目的の

エコ企業が増えてくるに違いありません。近い将来、スーパーの袋も有料化され

るでしょうし。しかし、企業間競争の激化により、ホテル、レストランなどのサービ

ス業にかかわらず、あらゆる企業のサービス部門におきましては、物理的にも人

的にもエコに逆行するサービス向上を迫られる、そんなねじれた動きが加速す

ることになるかと、予測いたしております。人間の行きつくところでしょうね。まあそ

んな風にわたしは予測しております」


 「なるほど、それは一理あるな。そうか、よし、探偵ロボットには毎週同じ服を着

せるとしよう。エコで経費削減か。一石二鳥だな」「ご納得いただき、まことにあり

がとうございます」「ところでそいつの名前はなんと?」「ラストネームだけで十分

でしょう。これから熟考いたします」「よし、わかった。君の言うとおり、それでいこ

う。後は万事任せたぞ」



 電話を切った男は、今まさに幸運の只中にいた。それからという毎日、すべて

が思い通りに行った。毎週奴は面白いように、完全犯罪を鮮やかな手法で解決

して行った。しかも45分きっかりで。


 奴は撮影が終了すると、おんぼろの車を転がし慎重に自宅のパーキングに止

める。15段の階段の段数を数えながら10秒きっちりで上ると、自宅のドアの前

に立った。いつものようにドアのすぐ横の隠し扉を開け、洋服ブラシを取り出すと、

コートの襟元、袖、胸、背中と丁寧にブラシを掛ける。次に高級洋服ハンガーに

掛け、扉に鍵をかけた。玄関の中に入るとシューズクロークに、履いていた靴をし

まい、部屋履き用のスリッパに履き替える。背広のポケットから使い古しの手帳

を取り出すと、玄関脇の秘密の小さな小引き出しに収め、脱いだ背広とネクタイ

はクリーニング用のハンガーかけに掛けた。彼のネクタイはすべて細い。さらに数

十着の背広、数十本のネクタイもほぼ同じデザインである。しかもそれが整然とク

ローゼットの棚に並んでいる。




                



 今週の事件は特に面白かったと奴は満足げに回想した。犯人は知能レベルが

格段に高かったからである。犯人の相手は、知能指数上位2%しか加入を認め

られていない、“シグマクラブ”というクラブに所属している知能の持ち主だったか

ら。

その名前をオリバーといった。公認会計士のオリバー・ブラント。彼はもう一度情

報を整理するために着ていた残りの服をすべて脱ぎ去ると、バスルームに行き、

強いシャワーを浴びた。ひとり暮らしの彼の部屋は、常に整然と整っている。ひと

しきり熱いシャワーの洗礼を受け、今日の事件を緻密に分析、分類し、頭の中の

引き出しにしまうと暗号のついた鍵をかけた。その後はパスワードを知るものしか

その鍵を開けることはできない。しかし、すばらしい知能も、いったん悪に向かっ

て使われるとき、恐るべき武器を発明し、行使するようになる。


 あるものはカルト集団を結成し、優秀な頭脳を集めて悪の城を築くことさえある

だろう。そんな人間たちは自分の能力の高さを誇るために、善悪の判断がつか

ないまま、突き進むことがある。そうなる前に奴は探偵ロボットとしてこの世界に

使わせられたのである。


 奴の名は、ロボットのコードネーム“P.S.”と言われた。彼は常に、『ちょっと最

後にもうひとつだけ』といっては、一旦出たドアから顔を出し、一番核心に迫る質

問をする癖をつけられていたからである。


 ドラマでは、ラストネーム“コロンボ警部”とだけで呼ばれた。よれよれのトレンチ

コートを着たエコなロボットであった。




            


P.S.

彼はこの事件で初めて人間以上に人間らしい過去の経験を語った。

『警察学校でも、どこ行っても頭のいいやつばっかりでね。ああゆうのが大勢い

ちゃ、刑事になるのも容易じゃないとおもったもんです
.アタシ、考えました。連

中よりも、もっとせっせとはたらいて、もっと時間かけて、本を、読んで、注意ぶか

くやりゃぁ、ものになるんじゃないかってね。
.なりましたよ』。



筆者P.S.1.

シビレますね。このせりふ、コロンボのすべてのせりふの中でも最高傑作だと思

います。最後の、『ものになるんじゃないかってね』の後に、たばこのけむりを吐

くんです。それから、ゆっくり、『なりましたよ』と知能犯のオリバー・ブラントにボソ

ッとつぶやく。



 ピーター・フォークと今は亡き声優小池朝雄がビンテージワインとチーズのよう

なマリアージュ
を演じたセリフ、真に迫る演技でした。刑事コロンボが芸術作品と

言われる所以だと思います。
詳細は『殺しの序曲』を。名作です。




              


筆者P.S.2.


 今回は星新一風の贋作をコロンボ警部でやってみました。13日の金曜日

なものですから。




                                    Risaco











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