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リサコラム
連載533回
      本日のオードブル

かつて

第9話


「ミステリーツアー」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


その昔、お城は
イスラム教徒のお姫様が
カトリック教徒の男性に
声を掛けられないように
幽閉するための場所でも
ありました。
今は、
ピーコック
ブルーに
塗られた壁
のある寝室で
そこに素敵な
天蓋ベッドがあって
パール・オパール色のカーテンと
白いソファと白いナイトテーブルのある
明るい庭に面したスイートになっています。
そんな新しいシャトー・ホテルの部屋を
ご自宅にいかがですか?


 
      
  





       


第9話
 「ミステリーツアー」



「明日の朝はちょっと早いですが、8時半にここにお集まりください。それからいよいよ、最

後の5つ星シャトーホテルに向かいます」小柄な添乗員のタフ氏は、ホテルの玄関前で両手をメ

ガホンのようにして叫んだ。夕食後にチェックインして、明日の朝8時半集合というのはもちろ

ん好まれないのはわかっている。


               


 間髪入れず、散らばっている16人がそれぞれに何かを言い始めた。しかし、タフ氏には好都

合にもその16の見解はざわざわと葉をゆする風がかき消した。ひとりひとりの意見を聞いている

と添乗員は務まらない。特にこのミステリーツアーのゲストは、みな一癖も二癖もあるタフガイ

ばかりなのだからと、タフ氏は胸の中で言い聞かせながら次を続けた。


               


 「バスは9時前に出ます。それに間に合わない方はさらに、ここからパリまでおよそ60

強の距離がありますし」と言うと、タフ氏の黒縁メガネの中の細い開口部から黒い瞳がきらりと

光を放った。ざわざわは一気に収束していった。タフ氏は自信を得て続けた。


               


 「今日は素泊まりでございますので、星は3つですが、明日から2連泊する5つ星のお部屋は

とても素晴らしいものです。これまでシャトーホテルをたくさんご体験なさったみなさま全員に

ご満足いただける自信がございます。しかしながら、今日のこのホテルもお部屋の内装はそれぞ

れ異なっており、さらに清潔感では5つ星に匹敵するレベルです。直近の報告でもそれに相違な

いとのことでした。短時間ではございますが、今晩はご自宅でおくつろぎいただいているように

お休み頂き、明日の5つ星シャトーホテルをまた楽しみにしていただければ思います」


               


 シャーロックホームズの土産物店で買ったような鹿狩り帽をかぶった女性が手を挙げた。「わ

たしの自宅、ワンルームだから、ここが自宅みたいって言われたら幻滅するな」「すみません。

訂正をいたします。まるで、映画の中の主人公になったような気分で」「どんな映画?」ガム

を噛みながら、ハルという中年の男性が言った。


               


 「それはロマンチックな素敵な映画です」とタフ氏が言うと、「だって、これ、ミステリー

ツアーでしょ。ロマンスの陰にぞくっとするような、例えば、『“レディ・グレーの開かずの間”

みたいな部屋を本日は一部屋、特別にご用意いたしました』なんて、そんなんじゃなきゃ、ここ

にいる連中はみんな満足しないんじゃないの?」とペチャクチャとガムを噛む音を響かせて言っ

た。タフ氏はどんなにタフな添乗員でも毎日、毎日、開かずの間を巡るミステリーツアーじゃ、

身が持たないんですよ、と心の中で言ったが、実際にはそうは言えなかった。


               


 「もちろん、最後まで練りに練ったミステリーが待っております。ただし、今晩は素泊まりの

ため、それは明日のお楽しみとさせて頂きます。それではみなさま、明日の8時半まで自由行動

でございますので、どうか明日からのシャトーホテルを楽しみに、本日はお早めにお休みくださ

いますように」


               


 タフ氏が言い終えると、タック氏というミステリーツアー常連の男性が手を挙げて言った。

「次のホテルに一足先に行っていいかな?タクシーで行くから結構だよ」「しかし次のホテルは

お分かりですか?」とタフ氏が意味深な笑みを浮かべると、タック氏は「ああ、推理はもうでき

ているよ。私はこのツアーの常連だからね」と左の口角を上げながら言った。


               


 添乗員のタフ氏はしばらく考えてから、「それではくれぐれもお気をつけくださいませ」とた

め息をつきながらしぶしぶ同意すると、「それなら、私たちもそうしようかな?ねえ、」と中年

カップルの女性の方がタック氏に向かって手を挙げた。タック氏は「構いませんがね、私は一人

で行動したいものですから、同乗はお断りいたしますよ」と言った。タック氏のその言葉を受け

て、ひとりで参加しているシルバーグレーのスーツを着た男性が「それなら、添乗員付きのツア

ーなんて、どうして参加されたんですか?」と尋ねた。「あなたはまだ推理力が足りないね」と

タック氏は冷たく言い放った。


         


 「あら、なんか面白い展開になりそう。うふふふ」と意味深な笑みを浮かべたのはアガサクリ

スティに出てくるミス・マープルと自分から名乗っている妙齢のマダムで、トートバッグから編

み棒と毛糸の玉さえ覗かせている。


                



 「それではみなさま、ご滞在をお楽しみくださいますように」とタフ氏は何度目かの声を張り

上げると、一人参加の若い女性が「部屋の鍵をまだもらっていないんだけどね」と言った。「こ

れから中で私がお名前を呼び上げますので」とタフ氏が言うと、「それじゃまるで、修学旅行の

生徒みたいじゃない?」と一番手前に陣取っている熟年女性二人のグループの片方が言った。


                


 「そんなことはありませんよ。このホテルは3つ星とは言え、歴史あるホテルですから」とタ

フ氏が言うと、「ほんとに3つ星で快適なの?」とボルドー色の軽い上等なウールのコートを羽

織った女性は言った。「いいから、早く部屋に入れてくれよ」と憤慨した声を上げたのはベン氏

という長身でがっちりした体格のやはりミステリーツアー常連の男性だった。「ほんとうにそう

よ。こんな玄関先で失礼千万よ。いかにも私たちがロビーで騒ぎ立てるから、恥ずかしいとでも

言わんばかりじゃないの」
と声が上がると、次々に16の口から何かを言い始めたために、添乗

員のタフ氏は慌ててみんなを落ち着かせるそぶりをした。


               


 「わかりました。3つ星でも上品なホテルですから、みなさまもそのような行動をお願いした

いと思っております」と言ったタフ氏の言葉を受けて、「品がないですって?言っておきますけ

どね、シャトーというシャトーホテルはあなたよりずっとよく知っているのよ。それに、もう


つうのミステリーツアーには飽き飽きなのよ。ここにいるみんなそうなんだから」と先ほどのミ

ス・マープルが言った。
「わかりました。それではご案内いたします」添乗員のタフ氏はそう言

い終えると玄関の方に歩いて、10段ほどある階段をゆっくり上り始めた。


               


 6,7段ほど登ったところで、どうも様子が変な気がして後を振り向くと、タフ氏のお客さん

は誰ひとり後についてきていなかった。タフ氏は舌打ちをした。みな次の5つ星シャトーホテル

に向かうバスに乗って、今、門を出るところだった。タフ氏はシャトーホテルを巡るミステリー

ツアーの最後で、タフ氏が自分のお客さんにだまされたことを知った。


               


 タフ氏は石段の上からバスを見送りながらぶつぶつ言った。「こんなじゃなかった。お客さん

は添乗員に言われるままにミステリーツアー楽しんだものだったんだ。最後にお客さんが添乗員

をだますミステリーツアーなんて、そんなものは、かつてはなかったんだから」



    


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 古城ホテルをめぐるミステリーツアーの添乗員さんは大変でしょう。
私は怖くてできない気がします。新しいシャトー・ホテルというのが最近は
できているようですね。そちらの方が断然好みです。さらに自宅に
そんなホテル風の部屋を作るのがもっと好みです。


 「もの、こと、ほん」は下の写真から。

           
           

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
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