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リサコラム
連載539回
      本日のオードブル

饒舌な場所


第3話


「淑女の弁明」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



すてきな
2ベッドルーム
スイートには、
お庭がついています。
そこにはキャンドルでライト
アップされた緑とがあります。
そしてきらめく都会の夜景が
望めるようになって
います。さて、
キャンドルの
灯りで
ひとりの晩を
楽しみましょうか。
しばし、話し相手を
させてもらった後でね。

 
      
  





       


第3話
 「淑女の弁明」



「あの塔みたいのなのはなにかしら?」白いウールのコートの裾を少し下に引っ張り

ながら、小さな淑女は尋ねた。


               

 「はい、ユイ様、あちらは電波塔でございます」とバトラーは答えた。


               


 ユイと呼ばれた小さな淑女は、「それは存じておりますが、その、どんな役目を担っ

ているのかしら?」と小さな顔ににっこり笑顔を浮かべて尋ねた。「はい。失礼をいた

しました」バトラーはまず謝ってから、さて、電波塔がどんな役目を担っているのかと

尋ねられてもそれ以上の踏み込んだ答えは胸ポケットの中の黒い手帳の中にもおそらく

なかったはずだと思った。「はなはだ勉強不足で申し訳ございませんが、わたくしはそ

れ以上存じ上げませんため、すぐに調べましてからお電話申し上げます」と言うと、下

がろうとした。「いいえ、それには及びません」小さな淑女は軽く右手を挙げると、立

ち去ろうとするバトラーを制して言葉を続けた。「ここは素敵な眺めですこと。きっと

あの電波塔の中でもお食事ができるのでしょう?」と言った。


               


「さようでございます。あの一番先端の下の部分が360度常に回っておりまして、そち

らから街の景色を眺めながらお食事をしていただけます」「そう。それはすてきね。

でも、今晩、父は学会で遅くなるらしいから、残念ですがあちらでのお食事は無理ね。

それでも、こんなことには結構慣れておりますのよ。父ひとり、子ひとりの家庭ですも

の。まあ、父の学会が連休だったからこうして父にエスコートして参りましたけれど、

そうでなくては、私は自宅でひとりを満喫しておりましたでしょう。普段はお手伝いの

方と一緒に食事も作りますし、掃除も洗濯も何でもできますのよ」ユイは穏やかにそう

言った。


               


 バトラーは「さようでございますか」と言ったものの、レストランのオーダーストッ

プを過ぎた時刻まで父親がホテルにチェックインできないとなると、まだ10歳になるか

ならないかの女の子にはそれ相応の配慮をすべきであると考えてから、「それでは、お

父様がいらっしゃる前に何かお部屋にお食事をお持ちいたしましょうか?」と言った。

「そう願いたいところですが、部屋で事をとったところでわびしいだけでしょ?しかし

ひとりでレストランに行ってお食事をとるのは、やはり気が引けますものですから」

ユイはまたバトラーの顔を見て、にっこり笑って見せた。しかしバトラーがその瞬間、

言葉に詰まったのを逃しはしなかった。


              


 「どなたかご一緒してくださる方はいらっしゃる?」とまた電波塔を見ながらユイは

言った。バトラーすぐに、「それでは、私共のベビーシッターをよこしましょうか」と

提案した。ユイは眉間にしわを寄せて、「いえ、それは結構でございますわ」と言うと、

ごくんと何かを飲み込んだようなそぶりを見せてから少し顎をあげると、「それより、

この素晴らしい景色を見ながらこちらのガーデンでアペリティフをしたいものですね」

と言った。「アペリティフでございますか?」とバトラーは言ったあとで、この小さな

淑女に恥をかかせないために、「かしこまりました。それでは、ソフトドリンクとオー

ドブルのご用意をいたします」と付け加えてから、一歩後ろに下がった。ユイはガラス

のキャンドルポットから漏れるオレンジ色の光を眺めながら目を細めていたが、すぐに

バトラーに反応した。


               


 「いいえ、ソフトドリンクではなく、ノンアルコールのカクテルをお願いできるかし

ら?」バトラーはびっくりした感じをユイに与えてはいけないような気がしてゆっくり

一言、一言を置くように「ノンアルコールのカクテルでございますか?」と答えた。


 するとユイはそれよりさらにゆっくりと、「そう。できれば、メロンと桃のスラスを

トッピングしてくださるかしら?」と言った。


              


 バトラーはここでやっとわかった。このおませなお嬢さんはフルーツの乗ったパフェ

のことをノンアルコールのカクテルと呼んでいるのだなと思った。しかし、10歳やそこ

らにしてはあまりに大人ぶっているところを見ると、ここで子ども扱いをして「パフェ

のことですね」とでも言おうものなら、また眉間にしわを寄せて、「それは結構よ」と

言われそうな気がして、それ以上は何も言わず、ユイのほうに向き直ると、「かしこま

りました」とだけ答えた。


               


 「ああ、それとバナナのスライスの上にかけるチョコレートのトッピングはあまり甘

くないものが希望です」とまた電波塔を眺めながら言った。


               


 バトラーが「かしこまりました。それではご用意できましたら、係の者がお持ちいた

します」と言ってから下がりかけると、「あの、このオーダーは父には内緒にしておい

てくれるかしら?」とユイは半分だけ顔をバトラーのほうに向けながら言った。背中で

聞いたバトラーはすぐにまたユイの方に向き直り「かしこまりました」とだけ答えた。


              


 「不思議かもしれませんが、父は厳格な人で『カクテル』なんて伝票に記載されたら

大変なのよ。まるで禁止された薬物を摂取したような言い方で私を責めるわ」と言って、

さらに一呼吸おいてから付け加えた。


               


 「父にゆっくり食事を楽しんで来てと言ったのは、実はそんな事情なものですから。

父ひとり、子ひとりの家庭はなかなか大変なのです。こうしていろんな裏工作がひつよ

うでね」と言ったあと、「その、ですから、そうね、え~と伝票には…『カクテル』と

は書かずに『パフェ』とでも書いておいてくれるかしら?」と後ろ向きの姿勢のままで

言った。


 バトラーは口元が緩むのをこらえることができず、向き直らずに立ち止まった場所で

「かしこまりました」と言った。


               


 「ああ、それと、上にパラソルは乗せないでくださる?」とユイは笑いながら付け加

えた。


               


 「ふふふ、あれは、もう、ずいぶん昔に卒業しましたので」と白いコートの淑女は

言った。



      


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
 こんなおませなお客様は時々ご来店です。



 「もの、こと、ほん」は下の写真から。

           
           

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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