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リサコラム
連載545回
      本日のオードブル

饒舌な場所


第9話


「カタカタ音」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


白い天蓋の下は
ブルーのレースカーテン
ベッドには優雅なフリルの
スカートに、キルティングの
ベッドスプレッドを掛けました。
その奥にはまたさらに
ベージュのレースカーテン
さらに奥にブルーとライラックの
花柄のバックカーテンがくるのです。
ベッドの回りだけで3種類のカーテンです。
出窓のシルバーのレース、シルクのシェード
は新に作ったものですが、
その他のカーテンは実家から
もらってきたものです。
ガラス張りのクローゼットは
ぜひ作りたかったものです。
これでも自分なりに律して
日々頑張っているつもりです。

 
      
  





       


第9話
 「カタカタ音」



 「カタカタカタ...」静かな音が舞の眠りを静かに覚ました。母の舞子からのメッ

セージが入って来たようだ。舞はポケットを探った。続くドサッという大きな音が

舞の眠りを完全に覚ますと同時に、洗濯かごを持ったままで熟睡していたことに

はっと気づいた。


               


 「今、明日の授業の予習をしております」舞は母のメールにそう返信してから、

ローブのポケットに戻した。舞の立ったままで眠れるそのくせはカバンを胸に抱え

たままで電車のつり革に頼らずに立ったまま熟睡できる技の応用であるらしい。

受験生時代に眠るチャンスがとても少なかったことにより、自然に身に着いた特技

で、しかしそんな舞の姿を母の舞子が知らないとしたら、おそらく他のことはなん

でも知っていた。


               


 「カタカタカタ...」というメッセージ音は母をもっとも象徴している音だと舞

は思う。カタカタカタというその音は、台所で母が何かを刻む音で、休みの日は常

にこの音が聞こえてきていた。その音がやんだかと思うと、今度は家事室のシュ~

シュ~というアイロンの蒸気の音に変わる。そのシュ~シュ~とカタカタは、舞に

とって、無駄口をたたかないけれどしつけに厳しい母を表す音になっている。


               


 舞はあくびをひとつと伸びをひとつした。明日の授業の準備をしていることには

嘘はなかった。舞の頭の中には、黒板の前に立つ自分の姿があったし、チョークを

持って今日の作文の課題を書き出す寸前のところまではイメージが出来ていた。


 舞は散らばった洗濯ものを洗濯機の中に入れると、家事室からワンルームの真新

しい自分の部屋を鑑賞するように眺めた。「フォーシーズンズパリのスイートにだ

って負けないわ」舞はつぶやき、しばらくそのまま見惚れていた。


               


 セミダブルのベッドの脇にはナイトテーブルが二つシンメトリーに置かれ、そし

て曲線を描く天蓋とその下のとろみ感を生地で描き出したようなドレープを描くカ

ーテンが幾重にも下がり、美しい夢のような空間だった。右手はガラスで仕切ら

れ、その手前に薄いブルーのレースカーテンが中のものの陰をぼかしているクロー

ゼットルームも自慢だった。さらにベッドを挟んで向いの出窓にはシルクのシェー

ドとシフォンレースのカーテンがリュクスな趣を振りまいている。その手前のデス

クにはフィリップ・スタルクデザインのスケルトンの椅子があった。


               


 しかし完成したばかりの自慢のその部屋の一人掛けの椅子でゆっくりランチを楽

しむ前に、舞にはまだやることがあった。休日はたまった洗濯とアイロンがけがそれ

だった。


 またそれに舞が自宅で晩ご飯を食べるのは週に1、2回ほどで、それを知ってか、

知らずか、いやきっと母の舞子は知っていて、舞の宅配ボックスに野菜をどんどん

送り込んでくるのだろう。しかし、舞はそれをうまく消化しきれず、腐らせること

もしばしば以上にあり、それなら、チョコレートやクッキーかチーズにしてもらえ

ないかと思ったが、しかしそれはどんな代償を払ってでも母に言えない相談だっ

た。


 舞はふんわり乾いたタオルをテーブルの上にふわっと置いてから、たたみにかか

った。そしてクローゼットの中の定位置に置いた後、次にパジャマを空いた洗濯機

に丁寧に入れると、ローズの香りのする洗剤と柔軟剤を入れ、ボタンを押した。


               


 次はシャツのアイロンがけだった。まだ濡れている綿のシャツの上に高温になっ

たアイロンを置くとシュ~シュ~という音が静かな家事室に響く。6枚のシャツを

心地よいシュ~シュ~音を聞きなが平たくピンと伸ばし終えると、次は掃除機のス

イッチを入れた。今度はう~ん、う~んという音が鳴る。


               


 舞は電気店で一番静かな音のものを下さいと言ったときの店員さんのちょっと戸

惑った顔を思い出していた。そして店員さんは丸いテントウ虫のような形をした自

動掃除機が回る場所に連れて行った。「今は、こちらのものもよくでます。これな

ら、音も小さいですし、ご不在の間に勝手に掃除をしてくれますし」舞は迷っ

た挙句、舞はテントウ虫と手動のものを1個ずつ買って帰った。しかしいつもテン

トウ虫がくるくるやった後、舞は以前と同じように自分で掃除機をかけた。


 掃除を終えると、ローズのバスジェルをたっぷり入れて泡立てたお風呂を作り、

お風呂から出た時はすでに午後2時前だった。


               


 それから、母から送られてきた野菜の中でまだ鮮度を保っていそうなものを見繕

い、玉ねぎ、ホウレンソウとブラウンマッシュルームを抜き出した。しばらく冷蔵

庫の扉の前で考えてから豆乳と豆腐を出し、水を張った鍋を火にかけた。鍋がぶつ

ぶつと音を立て始めるとアルペンザルツの岩塩を振り入れ、洗ったホウレンソウを

入れた。その間に玉ネギをオートカッターで刻み、豆乳と豆腐とオリーブオイルも

加え、ゲランドの塩も手に取ってから振り入れるとゆるやかに攪拌した。できたド

ロリとしたものを平たいグラタン皿に入れるとカットしたル・コンテとブルーチー

ズを混ぜ入れカットしたホウレンソウも乗せるとオーブンに入れた。


 舞は冷蔵庫からボルドーの赤と丸いワイングラスを取り出すとトレーの右上に置

いてから、家事室の仕切り壁の空いた部分から部屋に入った。

 舞は一旦ソファに体を横たえると、一気に力が抜けて、静かに目をつぶった。


                


 瞼の中ではル・コンテとブルーチーズが豆腐と豆乳と玉ねぎの中でぐつぐつと音

を立てて溶解しながら次第に接着剤の役目を果たしている様子がリアルに浮かんで

来た。

 「そうか、それでいこう!」舞は黒板に『キッシュの作り方をフランス語で説明

する文章を作りなさい』と書いている自分が思い浮かんだ。そして書き終えて振り

向くとわっと沸き起こるブーイングをよそ目に、舞はにっこり笑みを浮かべて教壇

の椅子に腰かける。そして学生たちが悪戦苦闘してノートにアルファベを書き綴る

間、からみついた2種類のチーズが長々と糸を引くフォークを高く持ち上げなが

ら、片手にボルドーワインを持っている空想上の舞を今の舞が想像した。


 舞の母はよく、休日の昼ごはんにキッシュを焼いたものだった。卵アレルギーの

舞のために卵を使わず、サーモンやマッシュルーム、しめじ、ブロッコリーなど

の具材をたっぷり入れた味わい深いキッシュを作るのが得意だった。普段は眼鏡を

かけない母が眼鏡をかけてまで玉ねぎをカタカタと刻む音がいつも聞こえてきてい

た。そうして毎週家族のためにたくさんの玉ねぎを刻む母、舞子をちょっと離れた

意識で眺めながら、自分にはそこまではできないなと舞は思った。


               


 一人掛けのソファの上でいっぱいに体を伸ばした舞の鼻先に香ばしい匂いが漂っ

てきた。「あっ、パイ生地を敷くのを忘れちゃった!」舞は口に手を当てたまま、

母に「パイ生地のないキッシュはありえますか?」とメッセージを送信した。しば

らくすると、「それはグラタンね」と母の舞子から回答が来た。「そうよね、グラ

タンよね」舞は空想の映像の中で、教壇の椅子から立ち上がると、黒板消しでキッ

シュの文字を消し、グラタンに変えた。


               


 「カタカタiPhoneが小刻みに震えるような音を出した。舞はボルドーワイ

ンと熱々のグラタンを食べながらそのメッセージを読んでいた。「玉ねぎはよく刻

んでから炒めたんでしょうね?」



      


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 NHKのフランス語のラジオ講座の芳野まい先生のような
フランス語の先生をイメージして架空の物語を作ってみたました。
まい先生は子供の頃、とても厳しくしつけられたそうですが、
とてもとてもかわいいお声に、
こんなかわいく素敵なベッドルームを
イメージしてみました。

もちろん、事実とは無関係です。


  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
           


p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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マダムワトソンでは 
                                    
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