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リサコラム
連載574回
      本日のオードブル

彼女のアイデア


第4話


「負けました」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



きしむ床は
張り替えられ、
そして元のように
アンティーク風の
色に塗られました。
壁の色も屋根の色も
彼女のセンスで
塗り替えて
彼女の
センスで
イギリスの田舎風の
コージーなゲストルーム
が見事完成したのです。
中に一歩足を踏み入れると
漂ってくるのは懐かしい匂い
でしょうか?実は、新鮮で
手の込んだおもてなし
の匂いなのです。


 
      
  





        


第4話  「負けました」



 その時、ギーギーときしむ梯子段を私たちは四つん這いになりながらよじ登っ

ていた。正しくは私たちではなく、私がだった。


             


 前を行く彼女は真っ平の場所を歩くようにタンタンとリズムを取りながら、軽や

かに上ってゆく。その間、彼女は2度私の方を振り向いて、「大丈夫?」とおっと

りした声をかけたが、心配の色は希薄だった。


 私は手に持ったハンドバッグをバタバタと前後左右に振り回し、両手両足がバラ

バラになりながら、とても「大丈夫」とは言えない状況で、しかし、「大丈夫」と

強がった。


             


 やっと上り終える数段手前で、実は「エレベーターもあるから、そっちでもよか

ったかなと思ったんだけどね..」と彼女は申し訳なさそうに言った。「そうなら、

先に言ってよ」と私は内心思ったが、鈍感力がとりえの彼女に言い返すことほど、

愚かなことはないことは私が一番よく知っていた。


 この新しくも古い彼女の別荘は今風に言えば古民家で、長年物置として使われて

いた納屋を彼女が彼女の親戚からタダ同然で譲り受け、イギリスの田舎にありそう

なコテージ風にしたというものだった。私はその風情を味わうべく、梯子段に四つ

ん這いになっていることころだった。


             


 その彼女とは小学校からの幼なじみの同級生で高校時代はテニスでダブルスを組

んでいたこともあった。年齢的には私の方が約11か月上で、また、テニスの上手

下手でも私の方が上で、それは彼女も認めるところだった。私は彼女の凡ミスに

「ドンマイ」と言いながらも、負け試合の後は苦情めいた言葉を吐いた。すると彼

女はいつも「ごめんなさい」と素直に私に謝った。しかしまた次では同じミスを繰

り返した。彼女は「ドンマイ」の方を優先する得な性格だった。そして私はその正

反対の性格と言えばきっと想像がつくことを自分でもよくわかっている。二人の正

反対の性格のためかテニス以外でも、そしてその後もずっと付き合いが続いた。


             


 卒業後、彼女は地元の大学に行き、そして地元で高校の教師になった。私は都会

の大学に行き、そのまま就職したが、年末年始と盆休みにはほぼ間違いなく帰省し

そして彼女にほぼ間違いなく会った。


 10年経ってもふたりとも独身のままで、私たちの交友関係は変わらず続いた。

彼女はそのおっとりした性格のせいで生徒から慕われる先生になり、それまでは異

動という憂き目に会うこともなく同じ学校で教鞭を執っていた。私の方も異動、転

勤、そしてリストラというハリケーンがたびたび襲ってきそうな寸前のところで、

幸運にも私の横をすり抜けて行った。そんなあれこれの時々に、私は地元にいる彼

女に愚痴めいたことを話した。そしてまた地元に帰れば必ず1日は彼女の家に行き

その愚痴の続きを聞いてもらうこともたびたびあった。というより、今思い返せば

大半はそうだったかもしれない。しかし、彼女の口からは愚痴めいたことはほとん

ど聞いたことがなかった。私は時に、そんな彼女を羨ましく思った。昔から変わら

ない彼女のおっとりした性質は、穏やかな人間関係、穏やかな環境の中で変わらず

育まれてきたからだろうと想像したからだった。


             


 梯子段をおそるおそる1段ずつ上りながら、そんな彼女と私との関係をつらつら

と思い返しながら、彼女にあるようなしなやかなバランス感覚というようなものが

私にはほとんどなくなっていることを痛感していた。私は9割方打ちのめされた状

態でやっとゴールした。


             


 秋分の日、3階ほどもある屋根裏の天井の方から聞こえる、今年最後のつくつく

ぼーしの鳴き声を耳にしながら、彼女が先に立って、黒光りする廊下を歩き、そし

てドアを開いた。


 その隙間、「わ~ハイジの部屋!」私は膝がしらの下をお医者さんにポンとトン

カチみたいなもので軽く叩かれたときの無意識の脚の反応にびっくりした子供の頃

の感覚がぱっとよみがえった。そして、同時に「わ~ハイジの部屋!」に彼女の肩

甲骨がぴくっと動いたことに私は気づいた。しかし彼女は黙っていた。そして廊下

と同じく黒光りするドアを手で押さえながら、「どうぞ」と満面の笑みで私を中へ

招き入れた。


             


 私には今まで古民家改造というようなレトロ趣味はなかった。常に新品好き。新

築好き。新し物好き。なんでも新しければよくて古ければだめというそんなものさ

しでしかものを見られない偏ったものの見方をする人間だった。しかし古民家を改

造したゲストルームに入ったとたん、体の外側を覆っていた透明なバリアのような

ものがバリバリと崩れ落ちるような感じがして、私はへなへなと床にひざをついて

しまった。


 「どうかした?」彼女は梯子段の時よりは驚いた風で私に尋ねた。

「いや、ちょっと気分が。でも、大丈夫」「お水?それとも、あったかいもの?」

「ああ、それじゃ、あったかいものを」「わかった。そこに座ってて」彼女が私を

椅子に座らせると、私の手から離れたバッグからボロボロと中身がこぼれ落ちた。

「そのままでいいから。私が後で片づける。すぐだから、ちょっと待ってて」彼女

はタンタンタンと甲高い音を立てて廊下を走り、そして3分後に戻ってきた。


             


 「りんご酒よ。あったかいね」「りんご酒?」「大丈夫。希釈したものだから」

「そう」私はグラスからあたたかなりんご酒というものを初めて口にした。彼女は

私が椅子と足載せの上で長くなっているうちに、そのあたりに散らばった水のボト

ルやポーチ、スマホや携帯、iPadなどを拾い集め、バッグに戻した。


              


 「すごいね、いつもこんなにたくさんのキカイものを持ち歩いてるの?」「たっ

たの3つよ。会社の電話と自分のと、自分のiPadよ」「そう。私なんて1個だけ」

「へ~、そんなんでよく生きて行けるね」「うん」


 私はホットりんご酒のせいで体が温まってきていた。そしていつの間にか瞼は重

くなってきていた。その少し朦朧としてきた頭で彼女の部屋を見渡していると、

ずっと前からこの場所を見知っていたような気になってきた。


             


 見上げた天井は三角屋根で、年月を色に染めた太い梁が何本も通っていた。しか

し、屋根は薄緑色に塗られているし、漆喰の薄いグレーの壁は汚れてグレーになっ

た色ではなく、あえてそんなグレーに塗ったという匂いがぷんとした。壁の中心に

はベッドが2台並び、間にはハーブグリーン色の子引き出しがたくさんあるチェス

トが一台、ナイトテーブル代わりに置かれている。ベッドの上にはタータンチェッ

クのベッドカバー、大小のクッションがイギリスのコテージ風な趣で並んでいる。


             


 彼女はいつ、こんな繊細で高いセンスを取得したのだろう。私は高校時代の彼女

を思い浮かべてそんな形跡を探した。そして思い当たったのは、テニスのトーナメ

ントで2度タイブレクを経験した時だった。その時、彼女は別の彼女にバージョン

アップした。その劇的な変化に近い衝撃を私はその時、その部屋と彼女から受けた

のだった。同時に私は彼女の古民家に完全に魅了されてしまった。それからという

もの、あのコージーな雰囲気を反芻しながら慌ただしい日常を送っていた。


             


 そして1年後、彼女は都会の高校に転勤することになった。昇進と言ってもよか

った。私は心の中で拍手した。それは別のもくろみもあったからだった。


 そして2年後、私は地元に近い関連会社に異動するになった。彼女は都会で結婚

をし、海外勤務になった夫とともに数年の予定でイギリスに移住することになっ

た。私は「おめでとう」という言葉を言った3秒後には、「あのお家、売ってくれ

ない?」と言ってしまっていた。


             


 「いいわよ」彼女は少し考えてから、そう言うと、「めいちゃんになら格安で」

と言った。私は都会のマンションのバスルーム部分くらいしか買えないような値段

で彼女のゲストルーム付きの古民家を手に入れた。


 今、私たちふたりのどちらがより幸せなのかはわからない。だれかが幸せかなん

て、他人からは絶対にわからないものだし、それでも時折、私は思う。もしかして

彼女は虎視眈々と何かからの脱出計画を練っていたのではないかと。そんなとき、

この部屋のドアを最初に開けたときの彼女の顔と、昔、タイブレクでバージョンア

ップした時の彼女の顔が重なって見える。


             


  私は地元に戻って2年目の秋分の日、廊下で「ツクツクボウシ」の声を聴いた。

 「負けました」私はごく小さな声でつぶやいた



   


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  「神武以来の天才」という異名を持つ、加藤一二三将棋棋士のドキュメンタリー
番組を見ました。
デビュー、名人、そして引退までを追った60年にわたる将棋人生の中で、
未来永劫破られない記録を打ち立てたことにとても感銘を受けました。
それは勝ちの回数に匹敵するほどの1200回近い負けの回数です。
一二三氏は60年間に公に1200回近く、この言葉を言ったことになります。
「負けました」
実に素晴らしいことだと思いました。

  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
             


p.s.2
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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