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リサコラム
連載601回
      本日のオードブル

愛おしいひとびと

第3話


「さくら咲くころ」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




モノトーンのインテリア。
白勝ちの清潔なベッドルーム
カーペットもベッドリネンも
そして、クローゼットも白。
書棚の本は白いブックカバー
ベッドルームのガラス窓は
バルコニーからプールを
越えて海につながって
いるように見える
仕掛けですよ。
さてどんな人が住んでいるのかな?





 







        

第3話 「さくら咲くころ」




  
「ハル、ここよ」私が手招きすると、ハルは飛ぶより早いくらいのスピー

ドでバルコニーの先から私の方にやって走り寄って来ました。


             


 「今日はちょっと早いけどさ、桜見に、散歩、行こうか?」ハルはサンポ

の「サ」という言葉だけで将棋のプロ棋士の反応をしていました。そしてすぐ

に散歩の道具を口にくわえて戻ってきました。私はいつもより早く、桜並木を

ハルを連れて散歩に出かけることにしたのです。


             


 「お母さま、散歩に行ってくるけどいいでしょうか?」私はバルコニーから

窓越しに顔をくっつけて中で家事にいそしんでいる母の背中に向かって声を掛

けました。しかし、母は私の気配に気づくでもなく、引き出しをあれこれ引っ

張り出しては、引き出しの中の順列組合せに精を出しているようでした。


             


 「お母さま、散歩、行ってくるけど、いい?」私はまた、母に向かってちょ

っと大きな声を上げると、手を振りました。しかし、私に背を向けたままでせ

っせと引き出しの整理をしている母は私には気づくことなく、集中した表情で

手元をにらんでいました。


             


 私はしばらく反応を待っていました。しかし、3分ほど経ってもこちらを

振り向く様子もないため、ごく軽くガラス窓をたたきました。母は、白勝ちの

モノトーンで整えられたベッドルームのクローゼットの前で引き出しを引き

ながら、整理を続けています。母が整理好きなのはこの当時の私ももちろん

知っていましたし、それは、30数年経った今も変わりません。そんな母は行

儀作法にも厳しく、私たち、つまり、私と犬のハルを厳しくしつけしていた

のです。私はその時、母に黙って出かけることにちょっとした魅惑を感じてい

ました。


             


 「ねえ、ハル、こっそり、行ってこようか?15分くらいならきっと気づか

ないよ」私はハルを引いて、いやハルに引きずられてバルコニーから外に出

ました。ハルは、羊飼いを束ねる犬のように足が速く、当時小学2年の私以上

に頭がよく、機転も効きました。


 陽はまだ高く、鮮やかなブルーを競うよう、空と海に挟まれた桜並木をゆっ

くり歩きました。海沿いのこの街は、都会まで車で1時間以内、さらに、電車

もバスの便もあるため、週末は観光客風の人たちでにぎわっていました。そし

て週末族の私たちもその人々の中に混じって、束の間の別荘ライフを楽しんで

いたのです。


             


 駅前までやって来ると、『桜まつり』という大きな垂れ幕が山小屋風の駅舎

に垂れ下がっていました。その下でメガホンを手にハッピを来た人たち何か叫

んでいます。


             


 賑わいの元は桜もちや、桜ぜんざい、桜チョコ、桜アイス、桜ワインなど

など、ピンク色の美味しそうな食べ物、飲み物などの出店でした。ハルを連

れた私の口の中には唾液が充満していました。私は少しも逡巡することなく、

ハルを電柱に預けて、そのにぎわいの渦中に入りました。


 当時、私の母は、私に女の子のような装いをさせませんでした。特に、ピン

ク色はおもちゃや文房具であれ、絶対に与えることなどなかったのです。さら

に、虫歯になるからと甘いお菓子も炭酸飲料水などのジュースも与えてくれな

かったのです。


             


 私は桜まつりの人込みの中をハルに負けない嗅覚で探し回りました。それは

人の好さそうな、しかし、食いしん坊そうなおじさんかおばさんを見つけるこ

とでした。当時小2の私はそんなことはいとも簡単にできたのです。まず、

50
代くらいの体格のいいおじさんの後をついて歩きました。おじさんは案の

定、桜色の出店の前でひとつひとつ立ち止まります。私はおじさんが試食を

する度、まるで孫のような顔をして、そのおすそ分けにあずかるのです。お金

を持っていなさそうな小2の女の子にお店の人は試食なんてさせてくれませ

ん。一度目は憐みでさせてくれても、2度目は常習犯とめぼしをつけられる

のです。私はハルを電柱に括り付けていましたので、安心してその作戦に出

ました。桜もちも、桜アイスも桜まんじゅうも桜ワッフルもどれもこれもおい

しくてたまらず、ほぼ3周するとおなかいっぱいになりました。


             


 私は最後にハルの分のさくらパンケーキをおまけでもらうと、急いでハルを

連れて海沿いの道を走りました。母は私が黙って出かけたことに気づいてはい

ないか、走りながら冷や汗をびっしょりかいていました。


 陽はすでに海の中に半分沈み込もうとしていました。私は大きく見開いた

母の恐ろしい瞳を思いながら、バルコニーの門をぎ~と開けて中に入りまし

た。バルコニーから母のベッドルームをのぞくと私のおびえた顔がガラス窓に

映りました。母は引き出しの前でまだあれこれと何かの作業を続けていた

のです。


             


 母はたとえハンカチ1枚でも、それが今引き出しにあるのか、自分のバッグ

の中にあるのか、あるいは洗濯かごにあるのか、ガラス窓に張り付いているか

全部把握していたい性分だったのです。


 私は、絶望の表情のまま、とんとんとガラス窓をたたきました。その時、母

の表情がパッと明るくなったと思ったら、すぐにバルコニーに出てきて、ハル

に駆け寄り、手を出しました。「ハル、ほら、頂戴」ハルはすぐに口にくわえ

ていた白いハンカチを母に手渡しました。「ああ~よかった。どこに落ちて

いたの?ハル、ありがとう」そう言うと、今度は私に向かって疲れた顔に笑み

を浮かべて、「恩師から頂いたスワトーっていう高級なハンカチなのよ。

ああ~、よかった!」母は午後中、ずっと探していたようでした。私はハルに

感謝しました。それは全く別の意味で。ハルは見つけたハンカチを母の知らな

い秘密の隠し場所に隠していたのです。


             


 ハルは時々、母のものを失敬しては、隠し場所に隠し、私が窮地に陥った

ときに、隠し玉として出してくるのです。ほんとうに賢い犬なのでした。



 その晩、母はとてもめずらしいことに、食事のあとにおやつをくれたので

す。それは桜アイスと桜もちでした。私は今日でなければよかったのにと思い

ながらも別腹に入れました。


             


 毎年、桜の季節になると、30数年も前のそんな出来事を胸の中に秘めた

まま、街で一番おいしいと思う桜もちをスワトーのハンカチに包んで、未だ

几帳面な母の別荘に持ってゆくのです。今は亡きハルを思い出しながら



   




 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  犬は飼ったことがないのですが、
 お客様のお宅にいる犬を観察しながら、
 想像で書いています。


  「もの、こと、ほん」は下の写真から、
  2018年4月号へ。

           
            


p.s.2
   
 E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   
 英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    
E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
  
 どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。






シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
    お申込はこちら→「Contact Us」           
                          

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