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リサコラム
連載612回
      本日のオードブル

わがままな部屋

第3話


「レンブラントを鑑賞
する部屋」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




年代
ものの
シャン
デリアは
そのままに
模様替えした
応接室はグレーと
ティファニーブルーと
ダックエッグの中間色で
壁の色もドレープカーテンも
コーディネートしました。
12畳ほどの広さですが、
名画を鑑賞しながら
下手なピアノを聴く
のも、
まんざら悪くはありません。



 







        

第3話 「レンブラントを鑑賞する部屋」




 
僕はあるニュースをラジオで聞いた。それは、ある画家の名画が見つか

ったというニュースだった。


            


 その画家というのは17世紀のオランダの画家、レンブラントで、ある画商

が作者不詳のまま買った絵が最近レンブラントのものであることが証明された

というものだった。レンブラントの新たな絵が発見されたのは、40年数年ぶ

りのようだった。


            


 僕はそのニュースを聞いてすぐ、僕が子供の頃に行方不明になった叔父のこ

とを思い出した。


 「この家の絵は僕の財産だから、勘弁しろよ」と叔父は応接間のソファで、

僕を膝の上に乗せて言ったことがあったことを。その時、ステレオからは

キーキーというけたたましい音楽が鳴り響いていた。


            


 当時、膝の上に乗るくらいだから幼稚園に入ったくらいの幼児だったろう。

当然、叔父の言葉の意味は当時の僕にはわからなかったはずだが、「絵」、

「財産」、「勘弁しろよ」という3つのキーワードがその後、僕には重要な

言葉のように思えて、以来、ずっと記憶の引き出しにしまってきたのだろう

と自分では思う。


            


 その頃、母の弟のその叔父と一緒に住んでいた。母と年が離れていたから、

きっと叔父は20代だったと思う。叔父の部屋にはたくさんの絵があった。

それは叔父が描いたものと、祖父たちが買ったものが混在していたらしい。

叔父は絵描きを目指していたのかもしれないが、確かなところではない。とに

かくずっと部屋に籠って、絵を描いていた。しかし、その割には、部屋の中は

雑然とした感じはなかったことが今は不思議に思う。


            


 叔父の他に絵を描く人間は家族の中にも親戚の中にもおそらく知る限りにお

いてはいないから、その絵がどんなものだったのかわからないし、今はそれら

の絵はすべてどこかへ行ってしまって一つもない。絵画と行方不明はつきもの

だが、それはきっと時の流れの中で、いろんな事情で散逸するだろうと実感と

してわかる。


            


 叔父は、知る限りにおいて、家に友人を連れて来たことはなかった。独身

で、外で仕事をしていたような気配もなかった。つまり、そんな変わり者で回

りの人間からも爪弾きされていたことは子供心にも感じ取ることができた。

今、生きていれば、まだずっとひとり者で家族もないと思われる。


 僕の記憶にある、応接間で叔父の膝の上に乗っていた風景からしばらくし

て、叔父はいなくなった。姉である母は、「叔父さんは遠くに行った」とだけ

言ったが、それがどこなのか、僕には知らされなかった。以来、僕が叔父と一

つ屋根の下で暮らしていたときの記憶はぷっつりと切られたビデオテープの

ように、それ以外は何もない。


             


 しかし、僕が小3の夏休みに、叔父はひょっこり僕の家に現れた。その時の

叔父の姿を僕は今でも、目の前にいるようにありありと思い出すことができ

る。叔父はとてもおしゃれな、俳優さんのように見えた。グレーの麻っぽいジ

ャケットとパンツを履き、黒い点々のある青いネクタイをしていた。


           


 僕の家はごく普通の2階建ての家で決して裕福な家ではなかったから、元、

叔父が使っていた部屋はすでに、僕の部屋になり、叔父の居場所はなかった。

しかし、当時まだ、応接間という離れがあった。そこは吹き抜けの部屋で天井

が高く、洋館のような作りだった。その部屋には僕ら子供たちはめったなこと

では入ることも許されていなかったから、僕は叔父がやって来たことで、その

応接室に入ることができることがうれしく、ドキドキした。


            


 母は応接間のエアコンをつけ、扇風機を回してから、氷の入った麦茶を出

した。僕はすぐに、叔父に、始めたばかりのピアノ練習曲を弾いてきかせよう

と思った。


            


 叔父はといえば、年代物のソファに座るやいなや、

「ああ、ここにあったのか」と正面の壁にかかった、古ぼけたような絵を見て

言った。それから、すぐに僕の姿を見ると、「まるで星の王子さまだね」と言

って笑った。僕は発表会用の燕尾服を着て蝶ネクタイをしていたからだった。

久しぶりに会う大好きな叔父に普段着ではなんだか失礼なような気がして、

しかし、これといったよそ行きの服の1枚も持たず、そんな恰好になったの

だった。


            


 僕は叔父の前で赤面した。しかし、叔父は、「それじゃ、一曲お願いする

かな?」と言って、僕にピアノのほうに手招きした。僕は間違いながらもなん

とか弾き終えると、叔父は、少し遅れて拍手をした。それから、叔父はちょっ

と昼寝したいから、ひとりにしてくれないかといい、僕は応接間を出た。


            


 そして叔父はいつの間にかいなくなっていた。僕は急いで駅まで走って見に

行ったが、グレーの麻のスーツの男性は見つからなかった。


            


 僕が叔父に再会したのは、これが最初でおそらく最後かもしれない。以来、

叔父の消息は途絶えたままになっているのだ。


 叔父が黙っていなくなってからしばらくして、母が応接室の掃除をしていた

時、壁の絵がなくなっていることに気づいた。「は~」と母は大きなため息を

ひとつつくと、倉庫から別の何かの絵を持って来て、黙って掛けた。しかし、

その絵のことも叔父の話も食卓の話題になることはなかった。


            


 それから35年が経った先日、あのレンブラントの絵画発見ニュースを聞い

てからしばらくして、偶然ネットでその絵を見た時、僕はとても驚いた。あの

応接室にかけてあったその絵にそっくりだったからだった。まさか、僕の家に

そんな絵があるはずはないと思うが、叔父の不可解な行動と、その後の消息が

わからないこととが入り混じり、ハリケーンが僕の体の中に侵入したくらいに

動揺した。


            


 その週末、20年ぶりに実家に行ってみた。そこは20年前から空き家で、

テクノロジーの進化からも時代からも取り残されていた。時々、姉の一人が窓

を開けに来ているらしいが、僕は、その時、その家を相続することに決めた。


 僕はあの応接室のある離れはそのままにしたいと家族を説得し、骨組みはそ

のままに内装だけを今風にした。そして、この夏、家族共々引っ越した。


            


 週末はその応接間でピアノを習い始めの息子に燕尾服を着せて、練習の成果

を発揮させる場にしている。そして叔父が腰かけていた同じ場所に僕は新たな

ソファを置き、正面の壁には、レンブラントの絵のレプリカを掛けた




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
   作者不詳の絵画が家の中の物置にありませんか?
   もしかしたら、名画かもしれません。
   絵画とミステリーは合体しています。
   
p.s.1
   絵画と言われるような絵は
   一枚も描いてはいませんが、
   いつか、壁に掛けられるような絵を
   時間をかけて描きたい思いです。


  「もの、こと、ほん」は下の写真から、
           
            


p.s.2
   
 E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   
 英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.5
    下は日本語版です。

    
E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
  
 どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。






シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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