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リサコラム
連載618回
      本日のオードブル

わがままな部屋

第9話


「月をめでる部屋」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





ブルーの
壁紙は海の色

窓の木枠のグリーンティは
私の好きなヨモギ茶の色。
大きな一人掛けソファは
ここで読書をするために
頑張って買ったもの。
だから誰にも文句は
言わせないわ。
デスクには
パソコン
2台
必死

勉強
する
こと

人は
様々な
苦難を
意欲に変えることができると思うから。


 







        

第9話
  「月をめでる部屋」




 「やっとリフォームが終わってね、イタリアンモダンって言うのかしら?

とにかく素敵になって。壁はスカイブルー、床はブラウンの絨毯を敷き詰め

たの。お風呂の壁をガラスの仕切りに変えたのよ。ちゃんとミラーガラスにな

るからご安心!うん、ぜひ、遊びに来てよ、今週末でも。うん、ほんと、

いつでも。バルコニーの外は海だけだし、ほんとにお天気がいい時は~」

私は、電話の相手に自分の週末マンションがいかに美しくリフォームを終えた

かを説明をし始めたところで、「うい~ん、うい~ん」という、地鳴りのよう

な音が脳の奥の方に鳴り響いた。私は彼女に後で掛け直すと言って急いで電話

を切った。


            


 そしてすぐに、海の見える方とは別のマウンテンビュー側の小部屋の窓に走

り寄ると、狭いバルコニーに出た。22階のマンションの窓から見下ろすと、

クレーン車やダンプカーが一軒の古い家に集まり、今、まさに屋根の上にショ

ベルカーが一撃を食らわせるところだった。私は急いで耳にイヤホンを突き差

した。


            


 私のこのマンションは、平日用のマンションとは別に買った海沿いの週末用

のリゾートマンションで、この夏、10数年ぶりにリフォームをし、それをや

っと終えたばかりだった。


            


 10数年で、周囲はガラリと様子を変えた。買った当時はまだ地元のサーフ

ァーが週末にやって来る静かなビーチだったのだが、今は、週末は県外からの

サーファーの方が多いらしい。さらに夏は海水浴客が加わる。半面、周囲の戸

建ての古い民家は空き家が目立ち、手放されたものは、低層階の介護施設に

変った。中には、脱サラしてきた人達が運営する、流行りの古民家カフェのよ

うなものに変った家もある。そのため、週末は、住民のための生活道路にリュ

ックを背負った若い人たちや子供たちを連れた家族連れが風変りなものを見る

ような表情でそぞろ歩くようになった。


            


 もの珍しい何かがあるわけではなかった通りも少しずつ今風の装いになり、

夏は飲食店の店先にかき氷屋ができたり、クレープやタイ焼きのようなものを

売る3坪くらいの小さな店もできたり、平日は閑散としているラーメン店に週

末は長い行列ができたりした。地元住民の食堂がスペイン風バルに変貌した店

もある。


            


 さらに、5,6年前までは、古民家カフェの場所を尋ねられれば、いかめし

い顔をさらにいかめしくして、「そんな店は知らん!」と言っていた頑固者の

名物おじさんがいきなり、地元の観光案内ガイドに変り、にこやかな笑顔で観

光客の質問で答えるまでに変わった。地元のお店のスタッフに限らず、地元住

民はポケットかスマホを取り出し、観光客に、尋ねられた場所を正確に知らせ

ることができるまでに徹底的に観光化が進められているからさらに驚きだ。

しかし、そんな涙ぐましい努力にもかかわらず、週末、夏休みに竹下通り化す

る道では、彼らの多くは自分のスマホのアプリに尋ねるのだ。「シリー」など

と呼びかければ、いつも懇切丁寧に音声でも道案内もしてくれる。そんな

“週末竹下通り”の道沿いから一つ入った場所に曽祖父、そして祖父母が長年

の辛苦をなめた旧家があった。


            


 いや、いい時もあっただろう。私の祖父はよく、「その時々で、人は昔がよ

かったと懐古的なセリフを吐くけれど、戦中、戦後を除けば、おそらくその時

が一番いい時代だったはずだ」とよく私に言っていた。そして100年続いた

祖父母の家もこの潮流に飲み込まれるように売却されると、しばらくして解体

というシナリオに従うことになってしまった。


            


 室外機が置けるくらいの幅しかないバルコニーの壁にへばりつくようにし

て、私は祖父母の古い家を眺めた。そしてイヤホンから流れるクラシック音楽

のボリュームをさらに増した。22階の高さからなら、ショベルカーの音もお

そらく遠い地鳴りほどくらいにしか聞こえてはいないはずだが。


            


 私の耳にベートーヴェンの『月光』が流れ込んできた。「Clair de Luneか、

フランス語にするといい響きね~」このコロコロと転がるような悲壮なピアノの

音色がショベルカーの動きに添うようにずんと胸に響いてきた。


            


 100年間、そこに寝起きして来た人間たちの生きざまを知るその建物も、

まるで特撮映画のように、簡単にぺちゃんこになった。そしてバラバラに分割

されると、ダンプカーに載せられた。こんな時、地震でも来てくれたら、まさ

しく一気につぶれて手間が省けるだろうし、悲しみも残念で済むのかなどと自

分勝手で不謹慎なことを私の頭は想像した。人間はなんとも妙なことを思いつ

くものだ。


            


 大事に使われて来た家財道具も一緒にみるみる産業廃棄物となってゆく。

100坪の庭の大半の木は買い手がついたようだが、中が腐りかけているもの

は、残念ながら切り倒す以外に方法はなかったらしい。


           


 そしてひと段落つくと、私はバルコニーを出た。持ち込んだ大量の積読を今

週こそは読むのだと不思議なことに意欲があふれて来たのだ。


            


 リビングのドアを開けると、小学生の娘と夫は、反対側のバルコニーから夕

陽を浴び始めた海を眺めている。


            


 祖父母のいなくなった家を相続はしても、やっとの思いで手に入れたこの海

沿いのリゾートマンションを、その相続税を払うために売り払うことはどうし

てもできなかったのだ。悲しいことに。


           


 「Clair de Lune、ベートーヴェンのピアノソナタ、月光、第一楽章、何か

を壊すならこんな葬送曲みたいな悲壮感に満ちた曲が、悲しみを和らげて、次

なる意欲につなげられるのなのかもしれない。歓喜の歌みたいなものよりも」

私は二人の背中を眺めながら、ひとり胸の中でつぶやいた。


            


 「ああ、そうだ!電話、かけなきゃ!」私はそこでやっと友人に電話をかけ

直すことを思い出した。私は彼女が電話に出るなり、「月光、ベートーヴェン

のピアノソナタ、第一楽章、久しぶりに聴いたけど、あれ、いいわよね~」私

は自分の気持ちを抑えることができず、いきなりそんなことから話し出して

しまった。私としたことが、いったいどうしたんだろう!私は赤面しながら後

悔した。


            


 すると彼女は、あっけにとられるどころか、意外にも、「素敵よね~、私も

『月光』の第一楽章、大好き、ねえ、今晩から泊まってもいい?『月光』聴き

ながら、明け方の皆既月食、一緒に見ようよ!」と、今にも万歳でもしそうな

歓喜の声で言った。


            


 私の頭の中では『月光』のピアノの音色と赤い皆既月食、そしてショベルカ

ーが3重奏に重なりあった




   



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
    2018年7月28日の皆既月食、
   ご覧になられましたか?
   私は朝、4時前に一旦起きて、また寝てしまい、
   見損ないました。
   こんな方、もしかしたらおいでかもと
   想像だけで書いてみました。


   

  「もの、こと、ほん」は下の写真から、
           
            


p.s.2
   
 E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   
 英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    
E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
  
 どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。






シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
    お申込はこちら→「Contact Us」           
                          

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