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リサコラム
連載655回
      本日のオードブル

火曜日倶楽部

第1話

「ブラックタイルの男」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


漆黒の
ブラック
タイルの
バルコニーに
ブラックタイル
プールがあります
白いデッキチェアに
寝そべる男性の横に
赤ワインで満たされた
カラフェとワイングラス
見渡す先は真っ黒な海と
真っ黒なビーチ
遠くに町の明り
まだネットに
地球が
全部
覆い
かぶさる
前の頃の
出来事のようです。



 







        

第1話 「ブラックタイルの男」




 
僕の自己紹介を始める前に、まず先に言っておきたいことがある。それは、

僕の成功人生は偶然から始まったということだ。それがどのような偶然から生

まれたものであるかをここで暴露したい思う」A氏は檀上でひとり笑ったが、

7人の男性ばかりの聴衆は無言だった。


            


 A氏は、しかし、気を取り直して、「僕の成功は僕の努力や才能の結果で

はない。これだけは自信を持って言える。まずはその点をはっきりさせたい。

そうすれば、僕に対する理解がより深まるだろうと思うから…」と控えめに

述べてみたが、しかし、相変わらず無反応な6人に変わりはなかった。


            


 「もちろん、僕を理解して欲しいとは思ってはない。人は他人を深く理解で

きるほどのスペースを残念ながら持ってはいないというのが僕の信条だから。

まずは自分のことで精一杯で、こと他人に関しては、表面的な部分しか理解で

きない事実は、ここで僕が述べるまでもないことだろうと思う。もしも、自分

以外の他人を深く理解し、その人について語る人間がいたら、それはおそらく

伝記作家だろうと思う」A氏はそこで、自分を取り囲んだ6人の男性を見渡し

た。


            


 30㎡ほどのプレハブの部屋は、ガランとして何もない。そこに年齢も職業

もてんでばらばらな7人の男たちが集まり、それぞれ、好き勝手な場所に陣取

って、好き勝手な恰好でビールやワインやあるいはコーヒーを手にA氏の話に耳

を傾けていた。しかし、誰ひとりとして、A氏の演説に特別な反応を示す者は

いなかった。こうなれば、自分のペースで話を続けるほかはないとA氏は思っ

た。


            


 「僕は、3回の離婚を経験した」そこでA氏はまた周りを見渡したが、空気

の流れさえ感じないくらいに無反応の空気には変わりがなかった。


 次にA氏は、「僕は6つの会社を独自で設立して、7つの会社を買収し、8

つを売却し、2つを倒産させた」と言った。しかしそれでも、驚きどころか、

あくびをする者がいたくらいで、A氏の思惑とはまるでかけ離れた反応だった。


            


 「その中で、僕が最も得意とするのは、リゾート部門だ。ホテル業と言って

いいかもしれないが、僕は、基本的にホテルとリゾートは別物だと思っている。

それは、」A氏はあえて話を止めて、6人の男たちの顔をひとり、ひとり眺め

てみたが、依然として顔色を変えるものはいなかった。


            


 そこでA氏は咳払い一つしてから、「僕はこれまで世界中を旅し、世界中の

名ホテルと言われるところに宿泊した経験上言えることは、一度たりとも、満

足できなかったということだ。そこで自分のために自分のホテルのような別荘

を作ろうと考えた。まず選んだのが、タイのプーケット島にある小さな村の

ビーチ付きのヤシの木のジャングルを買った。僕はその場所を秘密にしたかっ

たからだ。僕の別荘なのだから当然だが。そこに僕の会社の役員を集めて会議

をしたり、友人を呼んでパーティをしたりというプライベートな別荘のつもり

だった。だから、後付けの過剰な装飾は一切不要だった。さらに地元の人々に

そのありかを知られない方が安全だと思った。しかし、人の口に戸は立てられ

ないということわざ通り、瞬く間に地元の人々に知れ渡ることになってしまっ

た。それではこの別荘のプライバシーどころか、安全を脅かされると思い、使

用人を地元の人々から集めることにした。そうなると、うわさはさらに広まっ

てしまう。隠しておきたい自分の別荘だったのに、これでは本末転倒となった。

僕はそこで発想の転換をした。リゾートとして営業することにしたのだ。もち

ろん、友人の建築家の手を借りてだが。


            


 まず、このリゾートに至る道筋の数か所に検問所ならぬ、セキュリティチェ

ックの門番小屋を置いた。そして、“ジャングルの中の隠れ家”、 “ヤシの木

を含め、一本の木も伐採することなく、その中にバンガローを点在させること

によって、自然による完全なプライバシーの確保”を図った。さらに、“地元の

産業を育成する”という目的を掲げ、”地元の工芸を生かした内装、家具調度品“

しかも、”シンプル“という大目を設けた。実はそれがコストカットだったとは

誰が知るだろうか。


            


 もちろん、問題は様々あった。まずはタイルのクオリティが非常に低いとい

う点だった。それは多分に土に起因するかもしれないが、タイルを製造する設

備にも問題があった。つまり、ヨーロッパのホテル並みの真っ白い美しいタイ

ルがなかなか手に入らなかったのだ。そこで、多少の難点を隠すことのできる

ブラックタイルというものを考案した。世に言われるところの、ブラックタイ

ルのプールにブラックタイルのバスルームだ。


            


 当初は、ブラックタイル自体にコンセプト的なものはなかった。だた、珍し

さを狙っただけだ。もちろん、そんな経緯から生まれたタイルなわけなのだか

ら。しかし、僕の妻が夕暮れ時、”ブラックタイルのプールで泳ぐ“シーンを雑

誌メディアの編集者が見つけて、ブラックタイルのプールからビーチに向かっ

て継ぎ目なく泳ぐような錯覚をこの上なく魅惑的に書き立てたんだ。そうして、

秘密裡にしたかった僕の別荘は、隠れ家とブラックタイルのプール、自生のヤ

シの木が作り出すプライバシーというキーワードでハイソなリゾートとして、

魅惑のベールを帯びた。


            


 そこからは簡単だった。まだインターネットが地球を網羅していない時代だ

ったが、口コミで世界中のジェットセッターが押し寄せた。ハイソな人々がお

忍びでやって来るようになった」A氏は次第に自分自身が興奮してきたことに

気づいた。周りの6人の表情は先ほどよりは多少好奇の面持ちに変っていた。

A氏はそれを見て少なからず自己満足を得られた思いに駆られ、ここで最後の

セリフを言うべきだと判断した。


            


 「そこから僕のアマン伝説が始まったのだ」A氏は重々しい感じは欠片も

なく、ごく軽く、さらっと述べた。


            


 ガレージ部屋の他の6人がそれぞれバラバラと拍手をし始めた。それに答え

るようにA氏は「一言ずつ感想を聞かせていただきたい」と言うと、ドラム缶

に腰かけた芸術家B氏は自慢の顎髭を撫でながら「失敗から生まれた芸術と言

うわけだね」と言った。猫用飲料水メーカーのCEOであるC氏は、「辺鄙を逆

手に取る手法はすばらしい」とうなずいた。犬用歩行器メーカーの部長D氏は、

「人はニッチなものに惹かれる」と言った。「財産の使い道を見つけてやった

んだね、君は」と言ったのは、E。彼は一度も働いた経験のない45歳だった。


            


 不思議なものを開発する発明家F氏は、「ブラックタイルのプールは特許を

取る方法を考えるべきだった」と言い、本を出したことのない有名なコンサル

タントG氏は、「君の許可を得られたら僕の処女作として、君の伝記を書き

たいね」と言った。火曜日倶楽部はこうして第一回の会合をガレージで開始

し、A氏は満面の笑みでビール瓶のケースの演台から降りた




   


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1  
   
    アマンリゾーツの創始者、エイドリアン・ゼッカー氏の
    実話をもとに架空のストーリーを書いてみました。
  
p.s. 2  
    リゾートの話は大好きです。
   ホテルとは違うリゾートのとらえ方を
   長年、自分なりに研究しています。


  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2019年4月号です。
           

           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             (木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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