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リサコラム部屋

2016年1月10日(日)~4月10日(日)


  ようこそ、「リサコラムの部屋」へ。


「リサコラムの部屋」は10(最後に0)のつく日の更新です。
本家の「リサコラム」と同じ作者によりますが、

架空のストーリーに交えてお客様のお部屋のご紹介など、
いろいろなメインディッシュをご用意致します。


それでは、
ぜひ、おいしいお飲み物を傍らにイマジネーションの部屋をじっくり
ご堪能くださいますように。

ある日間」へようこそ。


第9日
Room No.0029




「予想外の想定内」




第5日
Room No.0025


第6日
Room No.0026
第7日
Room No.0027
第8日
Room No.0028


「ローズ・ホテル」


「クローゼットに住む
魔術師」

「魔術師の残業」 「新居にて」


第1日
Room No.0021


第2日
Room No.0022
第3日
Room No.0023
第4日
Room No.0024

「Mikiと
トリアノン・コード」

「彼女とシャネルと
2つの目アパルトマン」
「ドアマンいる
ゲストルーム
"ミカエルマス・デイジー"」
「ピーチタルトの
思い出ホテル」



「リサコラムの部屋」バックナンバー集です。

この小さな窓から、イマジネーション豊かな世界が広がっているのです。


2015年10月20日~12月30日までの「リサコラムの部屋」「ワーズワースの前庭」は下の写真より。





2015年7月10日~10月10日までの「リサコラムの部屋」「ワーズワースの前庭」は下の写真より。





2015年3月30日~2015年6月30日までの「リサコラムの部屋」「W.T.クラブ」は下の写真より。




2014年11月30日~2015年3月20日までの「リサコラムの部屋」「ホテル・サン・スーシ」は下の写真より。






2014年9月10日~11月20日までの「リサコラムの部屋」
「アドラーに聞きに行こう」は下の写真より。

 



2014年5月30日~8月30日までの「リサコラムの部屋」
「時はやさしく、時につめたく」は下の写真より。




2014年2月20日~5月22日までの「リサコラムの部屋」
「カーテンの向こう マダム・ワトソンのひみつ」は下の写真より。






2013年11月14日~2014年2月14日までの「リサコラムの部屋」
Café After The Rain」は下の写真より。










2013年7月25日~11月7日までの「リサコラムの部屋」
「楡の木の叔父」は下の写真より。




2013年4月16日~7月18日までの「リサコラムの部屋」
「シーサイド・ビレッジ」は下の写真より。




2013年1月8日~4月9日までの「リサコラムの部屋」
「HOTELS」は下の写真より。




2012年10月2日~2013年1月1日までの「リサコラムの部屋」
「AAA」は下の写真より。




2012年6月25日~9月24日までの「リサコラムの部屋」
「5分の人生」は下の写真より。




2012年3月26日~6月18日までの「リサコラムの部屋」
「失われた明日を求めて」は下の写真より。




2011年11月21日~2012年3月19日までの「リサコラムの部屋」
「露店マイヤー・倶楽部」は下の写真より。




2011年9月5日~11月14日までの「リサコラムの部屋」
「N氏の場合」は下の写真より。




2011年6月13日~8月29日までの「リサコラムの部屋」
「ノンちゃんカフェ」は下の写真より。




2011年6月6日までの「リサコラムの部屋」は下の写真からバックナンバーをご覧頂けます。




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ある日間

第9日
Room No.0029
2016年4月10日(日)


「予想外の想定内」





私の春は3度目の見知らぬ場所から始まった。
新居となる社宅は5畳の部屋と10畳のLDそしてクローズドキッチンがあった。
そこに
小さなボストンバッグ一個でやって来た私は
荷物の到着を待つ間、無機質な白い壁を眺めていた。
この壁の向こうには上司の家族が住んでいると思うと、
気分はどうにも暗くなった。





すぐに5畳の部屋に机とセミダブルベッドを入れてみたら、
クローゼットのドアはベッドを乗り越えないと開かないことに気づいた。

社宅とはいえ、好きなように住んでも、誰も文句は言うまいと、
それならLDの方にベッドを置いたらどうかと考えた。

ベッドを出窓の下に置いて、机を正面の壁に付けたら、
SOHOみたいにも見えた。
「よし、自宅でサイドビジネスでも始めるか、あるいは新たな勉強でも始めてみようか」
そんな考えも浮かんだ。

しかし、ひと月もたたないうちに、SOHO案も新たな勉強の意欲も薄れて
張りのない生活に陥りそうになっていた時、社内の総務にいるS子と仲良くなった。





彼女は美大を出た後、製菓関連の企業なら、
自分の力を発揮できるだろうという予測の元に入社したらしかった。

彼女は転勤族を支援するためと社のアピールのために、
私の部屋のインテリアをステキに変える手伝いをさせてほしいと申し出た。

彼女は私のありふれた社宅の部屋をブーローニュの森の中に潜む
誰にも知られていないお菓子の家のような部屋にしようと言い出した。





会社の援助もあることだし、デザインセンスのない私があれこれ考えるよりはと、
彼女の提案に100%従った。

ベッドの向きを変え、出窓にはカーテンを2重に掛け、
出窓からの光も楽しめるようにと美しいレースのシェードも掛けた。
そこにガラス天板のテーブルのセットともう一台の机とイスを買い足し
ベッドメイキングも新しく変えた。
そして彼女はなんと、壁一面に森の絵を描いた。
「社員が部屋を出る時には必ず壁は張り替えるから...」そう言った彼女の顔は
少し寂しげに見えた。

私は日本の地方都市の社宅に越して来たつもりだったが、
予想外なことに、
「ブーローニュの森の中に潜むお菓子の家」に住むことになった。

さらに、3年後、
私は出世コースと言われる波にうまく乗り、その部屋を後にすることになった。

そして、その予想外なことは
「ブーローニュの森の中に潜むお菓子の家」が出世コースへの登竜門のように噂され、
今では8年先まで希望者で埋まるという、
ドミノ倒しの現象を引き起こした。




S子は初めて自分ひとりの棲家を手に入れた。
長らく家族と一緒に暮らして来た彼女にとって、やっと山頂の見える裾野にやってきたようだった。

彼女にはひそかにあたためてきた明確なある目標があったが、
両親はそれを荒唐無稽な夢物語と笑った。

いつか「風光明媚な場所にリゾートホテルを建てる」それがS子の夢だった。

S子は新人からスタートするこれからの仕事人生の裾野から
雲の切れ間に浮かぶ山頂を眺める気分で
その何もない白い壁を見つめた。
しかし、そこには明瞭にあるリゾートホテルの情景が浮き上がっていた。





13年前、
美大を出たS子が製菓会社に入って最初に配属されたのは総務部だった。
「ここで頑張れば、いつかもっとクリエイティブな部門に移れるよ」
その上司の言葉を信じてS子はミスのない仕事を続けて来た。
しかし、その上司も転勤でいなくなり、そして
S子の期待とは逆に総務部にしっかり根が張り付いてしまった。

いつか「リゾートホテルを建てる」そのために少しでも近づきたい。
S子は「あきらめる」という言葉を知らないように思えた。

S子は休みの日、近くの公園に行っては、そのリゾートホテルのスケッチを描いた。
しかし、どんなに画用紙に線を引き、色を塗っても、
自分の夢や特技をアピールすることなしにそれが3次元になることはありえないと思った。
どうしたら取っ掛かりがつかめるだろうか、S子は日々考えた。

「まずは会社に貢献すること」
これが、サラリーマンS子には近道だろうと悟った。

そしてS子は社宅を管理しているの管理会社とのやり取りの中でアイデアを見出した。
だんだんと社宅がなくなる近年、もしもおしゃれな社宅があれば
もっといい人材も集まるのではないかとS子は思った。
そしてそのアイデアを温め、
「おしゃれな社宅に住んでいる社員の部屋をWEBとSNSで発信するのはどうか?」と
ある時、5歳年下の上司に提案した。






S子より若い上司は難なく賛成した。
そしてまずは、転勤してきたばかりの独身のM美と仲良くなると、
M美にその計画を話し、M美の部屋の改装を社として応援することを取り付けた。
すぐに、
森の中の隠れ家のような部屋の改装プランを提案して、M美の賛成を得ると、
まもなく「ブーローニュの森の中に潜むお菓子の家」という部屋が実現した。

ネットを介すると、その部屋は社内だけでなく、
いろんな会社や個人から問い合わせがやってきてすぐに話題になった。地元の放送局も取材にやって来た。
その半年後、
リゾート開発を広く手掛けているデザイン会社からオファーがあり、S子は転職をした。
「予想外なことに」と社内の人間はみな思ったが、
S子にとっては想定内だった。


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ある日間

第8日
Room No.0028
2016年3月30日(水)


「新居にて」




桜並木にピンク色の影ができる頃、B子はその通りにできたマンションの部屋を
借りることにしました。

10畳+6畳のLDKの部屋には出窓がひとつと高層マンションのため、
床まで切られた開かない窓がひとつありました。
取り立てて変わった間取りでもなかったのですが、
天井下の太い廻縁が気に入りました。
これで生活が一新するはずだと期待は高まりました。





まずは、
今まで持っていたシングルのベッドを窓に沿って並列に置き、
新しくしたシンプルな机と椅子を正面の壁に置きました。
持っていた絵5枚も壁に掛けました。

部屋にはラジオ体操ができるほどのスペースができましたが、
ラジオ体操をすることはありませんでした。

独身のB子はその春、忙しい部署に移ったため、
帰宅も夜11時、12時になるもしばしばで、
心機一転を図って移った新居とはいえ、
想像とは裏腹の憂鬱な日々が続きました。

週末は疲れてつい、だらだらと過ごすこともあり、
期待した新生活は古い習慣のままの新居生活になっただけに思えました。


それがだらけ始めた生活のせいではなかったとしても、
仕事でも小さなミスは続くようになりました。

ミスをした日、散らかった家に帰った時の気分はどん底感をさらに強めました。
B子はいたたまれない気持ちにさいなまれました。
そして、
B子は、ここでやっと新生活を再度立て直す決心をしたのです。





そうすれば、仕事でミスをして落ち込んだり、
何か嫌なことがあっても家に帰ればきっと忘れられる。
またミスもなくなるはずだと考えてのことでした。

「いつか」、
ビバリー・ヒルズの邸宅のような部屋で眠ってみたいとも
実は、ずっと思っていたのです。

「いつか」それはいつ来るのか?
「3年後か?」「10年後か?」
「待ってれば、いつか、ほんとうに来るものなのか?」
しかし、
ただ待っていても何も起こらないことは明らかのようでした。

B子は思い切って
模様替えをしようとインテリアの相談に行きました。
そして、
映画スターの部屋にもラグジュアリーなホテルにも負けないような
B子の部屋のプランは出来ました。

今持っている机とイスと5枚の絵はそのまま使い、
それでも、B子の部屋はがらりと変わりそうでした。





ブルー&ホワイトのインテリアがずっと夢だったB子は
ベッド回りはホワイトでまとめて、
カーテン、シェード、絨毯にブルーをたっぷり入れました。

ベッドは思い切ってクイーンサイズにしました。
そして天蓋カーテンを天井から下げました。
その中に囲まれるように眠ってみたかったのです。

しかし正面の壁の白いビニールクロスがどうしても好きになれず、
気に入らない壁をカーテンで隠したらとの
提案に乗って、壁全面にカーテンを掛けることにしました。

そして、左側の出っ張った壁にもカーテンを掛けて
その中に3枚の絵を掛けました。

B子の仕事は相変わらず忙しく、しかし、
新しい部屋が作り出したおだやかな気持ちは
新しいよい習慣をB子に植え付けました。

B子は、自分の部屋にこっそり名前を付けました。
「ヒルズB」と。
そして、
「ヒルズB」をどうしても誰かに見せたくなったのです。

まもなく、仲のいい友人のA子を部屋に招きました。






A子はB子の部屋を見て愕然としました。
最初は声も出ませんでした。

さらにB子のほがらかな表情、普通のサラリーマンなのに、
自分とは別世界にいるようなそんな余裕のある所作に
A子の心は激しくざわつきました。

B子とはずっと仲良くして来たにも関わらず、
心の中に何か違う感情が芽生えてきたことにA子自身、驚いていました。

「私だって....」
A子は唇をかみました。

A子はB子より年上で、年収も上だと感じていました。
「それなら、私だってできるはずよ」

そして、A子は新たな部屋に引っ越そうと考えました。

B子に内緒で似たような間取りの部屋を見つけて
「ヒルズA」をプランニングしてもらったのです。





A子はB子とは全然違うインテリアの部屋にしたいと思いました。

B子は課長レベルでしたが、A子はすでに部長レベルで
男性の部下も10数人持っていたので、
ライバル心が働いたのです。

そして、ほどなく、
キャリアを醸し出すようなシックでラグジュアリーホテルのような
A子のプラン「ヒルズA」は完成しました。






天蓋カーテンはB子の部屋で見て以来、どうしてやってみたかったので、
デザインだけを変えて真似てみました。

全体の色調はベージュ、グレー、ブラウン、アイボリーでまとめ、
濃いめのライラックのクッションでエクスクルーシヴ感を出しました。
絨毯はチョコレートブラウンの中に淡いピンクの蘭が咲いた

オリジナルデザインでした。

A子は厳しい上司と恐れられていたのですが、次第におおらかな雰囲気を
帯びるようになり、
部下は信頼を寄せるようになってきました。
それはどうしてなのか、誰も知りはしなかったのです。

そのうち、
A子は誰かに見せたい気持ちが芽生えている自分に気づきました。
この幸せで穏やかな気持ちをこの空間と共に
誰かに伝えたいと思ったのです。

そしてその時やっと、
あの時のB子の心持ちが理解できたのです。
ねたみに近いような負の感情は霧のように消えていました。



次は、4月10日の日曜日。

さて、次はどんな展開になるのでしょうか?

イラスト、文章の無断転用はご遠慮くださいますようにお願い申し上げます。


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ある日間

第7日
Room No.0027
2016年3月20日(日)


「魔術師の残業」


クローゼットに住む魔術師が2度目に私の部屋にやって来たのは、
私が自分のベッドリネンにアイロンをかけてきちんとしまうようになってからです。





夜遅く帰って、クローゼットの4つある扉のひとつを開け、
パジャマとローブを出そうとした時です。





「わ~、どうしちゃったの?」
私はびっくりして思わず、後ろずさりしてしまったほどです。
「あのぐちゃぐちゃだったのがどうしてこんなになっちゃてるの?」





開いた扉の中には
白いとローブ、白いガウン、白いパジャマ、白いバスローブが
一糸乱れぬ様子で並んでいたのです。





そしてとなりの扉を開けてまたびっくりしました。
そこにもやはり、グラデーションでブラック、生成り、ブルー、ブルーグレー、
ピンク、ベージュ...とガウン、ローブ、パジャマが整列していたのです。





でも、どうして色ごとにクローゼットを分けるのかしら?
と最初は思っていました。
それは、すぐにわかりました。





白いベッドリネンでベッドメイクしたら、
やはり、白いパジャマでないと奇妙な気がし始めました。





すると、
白いベッドリネンのベッドで眠る時には
白いパジャマやローブの扉だけをさっと開けばいいことに気づいたのです。
あれこれ探す手間さえなくなったのです。





そして、ブルーグレーのベッドリネンに、ピンクのパジャマを着て
眠るのもなんだか奇妙な感じがして、
ベッドリネンの色とパジャマの色を合わせるようになりました。





そうして、
私のパジャマクローゼットは白いパジャマとローブの扉、
色つきのパジャマとローブの扉の2つに分かれて、
それぞれの色のベッドリネンに合わせてその内のひとつだけを開けるようになりました。
そして、
それまで、ベッドリネンにアイロンなどかけたことがなかったのに、
アイロンをかけ始めると、
パジャマにもアイロンをかけるようになったのです。





私のアイロン癖は、こうして始まったのです。
ただ、
ぴんとしたベッドリネンによれよれのパジャマが合わなかっただけです。

そのうち、外で仕事をしている時も、日に何度も
クローゼットの扉を開けて中を覗いている自分に気づきました。
もちろん想像上です。

するとどこか気持ちのいいカフェで、
ほっと一息ついたようない~いきもちになれるのです。





なので、仕事帰りにどこかでほっと一息つくこともなくなったのです。
これも、クローゼットの魔術師の残業のおかげでしょう。


次は、3月30日の水曜日。

さて、次はどんな展開になるのでしょうか?

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ある日間
2016年3月10日(木)




第6日
Room No.0027
「クローゼットに住む魔術師」


「ああ、ちょっと、そこのあなた、早く入ってくださいな~」

私は玄関ドアから一歩中に入ると、
子供のような大人のような奇妙な声がどこからともなく聞えて来て、
ぎょっとしました。





「誰?」
誰もいないはずの私の部屋に誰かがいる!
私の心臓はバクバクと打ち始めました。

「誰?ここで何をしているの?」
私は脅し文句を言ったつもりで、出てきた言葉はか細い声でした。

相手は黙っていました。

私は忍び足でクローゼット部屋と呼んでいる部屋に入りました。





しかし、そこには誰もいません。





「ここよ、ここ、その扉、開けてみて」
その声はあきれたような、ちょっと馬鹿にしたような声にも聞えました。
私は言われるまま、クローゼットの取っ手に震える手を掛けました。






このクローゼットにはどう考えても人間が隠れられるような余裕はありません。

「まさか、懐中時計を持ったうさぎでも飛び出してくるんじゃ?」





「わ~、なにこれ?」
そこにはたくさんのシーツ類が整然と棚に並んでいるのです。
私はクローゼットの前で茫然と立ちすくみました。

「あなたがぐちゃぐちゃに押し込んでいたものを整理して、
きれいにアイロン掛けて並べたのよ」
姿なき声は少しさげすんだような声で小さく答えました。





確かにこれまで買いためた私のベッドリネンでした。
それはきれいに伸ばされ、まるで別人の美しい顔をしてきちんと並んでいるのです。





「あなたが毎回適当に押し込むから、
シーツもピロケースも、カバーも区別がつかなくなっていたわよ。
だから私が見かねて全部整理してあげたのよ」





「シーツと、カバー、ピロケースはひとまとめにしてセットしておいたから、
これで棚をひっくり返して探さなくてもいいでしょ」





「そうね、言われてみたら、色ごとに並べてみるときれいなものね」

「ここは、ライトブルーのベッドスプレッドとピロケース」





「ここはブルーグレーのカバーのセット」





「ここはライラックのフリルのピロケース。特別にスペースを取って
ふんわりおいてあげたわよ」





「そしてこれは夏用の麻のリネンのセット」





「使うアイテムごとに重ねて収納すれば、そのひとかたまりをベッドルームに持って行って、
すぐにセットできるでしょ」

「ああ、そうよね。白いベッドリネンは色だけじゃ、ぱっと区別がつかないのよね。
なるほど、かたまりで置いてくと、セットも早いわね」





「こちらは、あなたが大事にしてる綿レースのピロケースのセットよ」





「あ~、思い出したわ。梅雨の季節に使っていたセットね。
どこにしまっていたかわかなくなっていたから、ここ数年、使わずじまいだったけど、
こうして、きれいにたたまれていたら、また使いたくなったわ」





「それに、この黒白の水玉柄のピロケースも大事にしていたんじゃないの?」





「あ~ら、どこにあったの?白いベッドリネンと合わせて夏前にセットで使っていたわね」

「あ~ら、じゃないわよ。奥の方に突っ込まれていたのを
私が引っぱり出してきて、きれいにアイロンかけてたたんであげたんだから!」





「そうそう、これも、コード刺繍のカーテンよ。大好きな本の中の一節...
『ブラームスはお好き?』っていう恋愛小説のね」





「そう、そう、この赤いストライプのピロケースと合わせて春から使えるわよね~。
ああ、思い出した、思い出した!」





私は数年前に揃いでオーダーしたカーテンとベッドリネンを眺めながら、
ほのかなノスタルジーを感じていました。





「あら、こんな引出しに、あのカーテン、これも夏用のお気入りよ!」





私は丸くリング状に穴が開けられ、そのリングに沿ってエメラルドグリーンに刺繍された
夏用の麻のカーテンを見つけたのです。





「ああ、これこれ、連休に早速かけてみようかな。
初夏の朝、これで目覚められる時間は至福の時なのよね~なんで、忘れていたのかな?」





「洗濯したらすぐにアイロン掛けて、たたんできちんとしまうこと!
メンテナンスなくして、インテリアなしだから。
今度からきちんとするのよ!」





「はい。わかりました」
わたしは姿の見えない相手にうなだれました。

「ああ、これも、バラのカーテンとソファカバーね。
もう10年以上前にオーダーしたんだけど、すっかり忘れていたわね~、ほんと、もったいないわ」





「それに、これはクリスマスの季節用だったわね。
ソファカバーと合わせてね。
ゴールドと黒のとってもシックなコーデイィネートなのよ。
これも私のお気に入りだものね」





私は昨年のクリスマス、すっかり出し忘れていたブラックのピロケースと
ゴールドのベッドスプレッド、ソファカバーを眺めながら、
数年前のクリスマスを思い出していました。

その時です。





「それじゃ、私はこれで失礼!
次の家に行かなきゃ!時間がない、時間がない!」

そして、すっと風が通り過ぎたような気がしたあと、
もうその声は聞こえなくなってしまったのです。

それが何者だったのか今でもわかりませんが、
私は「クローゼットの魔術師」と呼んで引出しを引くとき
挨拶をするようになりました。





その「クローゼットの魔術師」のおかげで
それからきちんとした状態を維持できるようになったのです。



次は、3月20日の日曜日。

さて、次はどんなドラマが待っいるでしょうか?


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ある日間

2016年2月20日(土)



第5日
Room No.0025

「ローズ・ホテル」



「5つ星のホテルにだって負けない素敵なお部屋よ!」





マダム・ローズと名乗ったホテルの支配人は
階段の数段上を歩きながら振り向くと、
私に向かって大げさに両手を広げました。





「わ~、楽しみです!」そう私が一言言ったとたん、
マダム・ローズの少し褐色を帯びた肌の中でかなり強い
インパクトを与えているローズピンクのくちびるから
ぶくぶくと質問なのか、解説なのかわからない言葉があふれ出てきました。
まるで、マダム・ローズ・シャンパンという栓を抜いてしまったようでした。

私はそのたびごとに適当な単語に感嘆詞をつけてやっと返しながら
一段ごとに息を弾ませ、後について階段を上りました。





「5つ星ホテルだってきっと負けない素敵なお部屋」
この言葉に期待を膨らませながら、
5階までひと息に階段を上り、そしてマダム・ローズは
金の丸いドアノブのついた白いドアを押し開けました。
バスルームでした。
赤白のストライプの壁紙に白い家具と白い刺繍のカーテンの向こうは、
ドレッシングルーム、俗にいう脱衣室になっているようでした。

「さて、お次はベッドルームよ」
そういうと、マダム・ローズはまた廊下に出て、次の部屋に向かいました。





「ここが第一のベッドルームよ」
「第一?」私はちょっと不思議な感じを受けながらも部屋の中を覗くと、
そこはバラの壁紙を背に白いキャノピーベッドが置かれた部屋でした。





数種類の淡いローズ色のピローがたくさん並んだ大きなベッドルームでした。
それが「ローズ・ホテル」という単純な名前に由来していることは
すぐにわかりました。





「でも、これで終わりじゃないのよ、
ここは2ベッドルームスイートのひとつめのベッドルームなの...」





「ひとつめ?」私が疑問を投げかけると、
マダム・ローズはまた廊下に出て、別の部屋のドアを開けました。

ドアの向こうに日当たりのいい部屋が見えました。

一人旅の私に2つのベッドルームが必要かしら?と私は胸の中で思いました。
そんなこととは知らず、予約を入れた手前、もう後には引けないかなと
ちょっともったいないことをしたような気になりました。






南西に向いた窓から差し込む午後の日差しは
白いベッドスプレッドとかたちもいろいろの白いクッションに照り返して、
白いクローゼットとインパクトのあるアンティークな壁紙の貼られた部屋は
とてもゴージャスに見えました。





「信じられないかもしれませんけどね、
その昔、私は映画のアクトレスだったのよ。」
マダム・ロースは私の後ろから話し掛けました。

「ま~、そうだったんですか!」
私は少なからず驚きました。





「私自身は全然はスターなんかじゃなかったけど、たくさんのスターもセレブの素顔も
見て来たのよ。でも、ほんとうのセレブって、
ぜんぜん質素な日常を送っている人たちなのよね」

「質素な日常?」

「ええ。 だから見た目では全くだれも、そんな人がセレブな人だって
わかりはしないわ」

「彼らは好んで高級レストランで食事なんてしないし、
高価なシャンパンだってめったに飲まないし、
それより自分のポリシーにあった暮らし方をしているのよね。
健康でいられるための習慣とか
質素でも正しい食事とか、運動とか。
そして誰も起き出さないうちに早く起きることとかね。





真冬の身を切るような空気から
いいインスピレーションを吸い込んでいるのかしらって
私は思っていたわ」

「へ~、それは意外だわ」
私はいきなりのマダム・ローズの話に素直な反応をしていました。


「実のところ、『セレブな』と呼ばれる人たちはグルメとかファションとか
旅行とか、贅沢なものに大金を投じているわけじゃないってことよ。
その代り、懸命に働いたり、ボランティアに参加したり、
つまり、彼ら自身は大して優雅な気分を味わってはいないということなの」





私は意外なマダム・ローズの言葉に返事もできず、
ただ、「へ~」とか「は~」とか言いながら黙って聞いているだけでした。

「だから、ほんとうにリラックスできる場所が必要なのよね。
それは結局、自宅の自分のベッドルーム以外のどこでもないのよ。
だから1週間はあなたの自宅みたいに、
お好きなようにお使いくださって。セレブになった気分でね」


マダム・ローズは言い終わると、私にこの上なく艶やかな笑顔を送り、
そして、タンタンタンと足音を響かせて階段を下りて行ったのです。





後に残された私は二つの部屋を交互に行き来しながら、
その残りの一日を過ごし、そしてそれから1週間を過ごしました。

それが私に新たな物の見方という扉をひとつ開かせてくれた
マダム・ローズとローズ・ホテルの思い出です。
だから、その1週間をどう過ごしたかはまるで思い出せないのです。

****

今回もまた木村里紗子のベッドルームにお越しくださりありがとうございます。

真に セレブな私共のお客さまのことを思いながら架空のストーリーを作りました。

次は、3月10日の木曜日。

さて、どんなドラマが展開するのでしょうか?


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ある日間

2016年2月10日(水)



第4日
Room No.0024

「ピーチタルトの思い出ホテル」



あの日、私の旅の最後のホテルは
街全体を見渡せるような小高い丘の上に瀟洒にぽつんと立っていました。





フロントのカウンターにはユリが一輪あるだけで
シンプルと言うのか、殺風景と言うか、
私は一抹の不安を抱きながら、 鍵をもらうと、
螺旋階段を5階までひとりスーツケースを引っ張り上げながら登りました。

「どうしてだれも手伝ってくれないのかしら?」そんな気持ちで
恐る恐るドアを引くと、





私を待っていたのは
とろっとしたコンデンスミルクの中に浮いたように置かれたような
大きな白い天蓋ベッドとその左右の白いサイドテーブル、
そして白いひとりがけのソファとオットマンでした。





どのぐらい時間がたったのか、
私は大きなベッドの前にぼうっと突っ立っていました。
目の前のベッドの上には大小たくさんの枕が乗っていて、
いかにも触れてみてと言わんばかりに、どれもつるんとしたきれいな顔をしています。





私はその内の小さなピローにそっと触ってみました。





食べられるものではないのに、
その色、さわり感、手の中からすべり落ちそうななめらかさが
いかにもおいしそうで、
子供の頃、友人の誕生日パーティで出されたお母さんお手製の
フレッシュな桃のタルトを思い出したのです。
その桃のタルトには
周囲に点々と絞り出した真っ白い生クリームがホイップされていました。





ホールにナイフを入れて8等分に切り分けられ、
私の前に置かれた三角の桃のタルトは
豊かさ、温かさ、愛情のおすそ分けとして
知らぬ間にあこがれの色や形になっていたのでしょうか?





私はいてもたってもいられず、シャワーを浴びると、パジャマに着替え、
ベッドにもぐりこみました。

その日からの数日、私はその”桃のタルトの部屋”で今まで味わったことのない
感覚で過ごしたのです。





部屋には窓と言わず、壁と言わず、
アイボリーやオレンジやクリーム色のいろんなカーテンが
掛けられていました。





天蓋ベッドからとろんと下がっているレースのカーテンは
昔の貴婦人の巻き毛のように床の上に余裕という余韻を残しています。





そのうちに、それまで知らず知らず自分自身の心身にため込まれていた、
どろどろ、ざわざわ、がさがさ、かさかさが、





きれいに洗ってパンパンと叩かれ、そしてアイロンをかけられ、





本来あるべき正しい位置にきちんと置き直されたのです。





家に帰った後もしばらく
あのホテルで目覚めた瞬間のす~とするようなほわっとするような、
そして一日ドキドキするようなそんな感覚を思い出していました。






そのうち、
めったに行ける場所ではないからなおさら、あのホテルで味わった
あの感覚をまた味わいたくて、味わいたくてたまらず
とうとう、こうして自分の家に再現してしまったのです。

脚立に乗ってカーテンを掛け替える時、
私はあの時の自分を上から眺めている気分になります。





それまでの私は、朝起きると無意識の恐怖心で目が覚めていました。
今日はどんなどろどろ、ざわざわ、がさがさ、かさかさが
私を待ち構えているのかと。





次は、2月20日の土曜日に、
また木村里紗子のベッドルームでお待ちいたしております。
さて、次はどんなドラマが展開するでしょうか?
ストーリーはフィクションです。
写真、文章の無断転用はご遠慮くださいますようにお願い申し上げます。


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ある日間

2016年1月30日(土)



第3日
Room No.0023


「ドアマンいるゲストルーム"ミカエルマス・デイジー"」




「はじめまして、ようこそいらっしゃいました」

ドアから一歩部屋の中に足を踏み入れた私を見て、
ふかふかした白いマントを羽織った風変りなドアマンは
椅子に手を置いたままで挨拶をしました。





「ああ、こんにちは。はじめまして」
私も気軽に挨拶をしました。

「私はこの部屋を管理しております、ドアマンでございます」

「ああ、そうですか」
私は部屋の中を見渡しました。
「素敵なお部屋ですね。きっと後でやって来る妻も喜ぶと思います」


「そうでしょうとも」
ちょっと無愛想なドアマンは相変わらず椅子に手を置いたままです。





「わ~きれいですね、真っ白な、これ、カーテン?ですか?」

「だめだめ!さわらないで!」

ドアマンの厳しい叱責に私はびくっとして手をひっこめました。

「それは天蓋カーテンと申します。
ご存じないかもしれませんのでお教えしておきますが、
開けたり閉めたり、ましてや引っ張ったりしないでもらいたいものです。
つまり、この天蓋カーテンは別名、『プリンセスのベール』と呼ばれておりまして、」

「プリンセスのベール?」





「そうです。つまり、王女様のベールですから勝手に触って頂きたくないんですよね。
神聖なものなのですから。
まあ、この『プリンセスのベール』という名前は私が命名したものではありますけどね」
ドアマンは堂々と胸を張った。





「その上にひらひらとついているものは
プリンセスのベールを止める冠、つまりはティアラです。」

「ほう?ティアラね~」

「さようでございます」
ドアマンは神妙な面持ちで答えた。





「実際の窓の窓掛けは、玉のついたひもを引きますと、昇降します」

「窓掛け」とはきっとシェードのことを言っているのだなと内心くすっと笑いながらも
ドアマンの言う通りに操作をしてみました。
しかし、このドアマンは「窓掛け」などと結構古風な言い方を知っているようでした。





「この布はなんです?」私はベッドの上に横長の布が掛かっているのを
恐る恐る指さして言いました。
触ろうものならまた怒られそうだったからです。

「よく気づいて頂けました!」ドアマンはうれしそうに笑みを浮かべました。
「それは、ベッドスローというものです。
つまりベッドスプレッドを簡略化したものですが、
しかしインテリアを引き締めるアクセントとしてのチャーミングな役割がございます。
だからと言って、むやみにその上に鞄や靴を乗せてはなりません!」





「はい、かしこまりました!ドアマンさん」
私はどちらがゲストでどちらがドアマンなのか
わからなくなってきました。





「ドアマンではございません。バトラーと呼んでいただけますか?」
ついさっきはドアマンと名乗っておきながら、いきなりバトラーに昇格したようです。
かと言って部屋を借りに来た私に反論する理由はありません。
「失礼いたしました、バトラーさん」
新バトラー氏はえへんと咳払いをすると解説を始めました。





「この部屋のメインの生地のデザインは今から150年ほど前に
ウイリアム・モリス先生によりデザインされたものです。
この花の名前を『ミカエルマス・デイジー』、和名は宿根(シュッコン)アスターと申しまして
キク科の多年草でございます。
細い花びらはアスター(星)のように広がることから
その昔、ある庭師が命名したもの言われております。
その単調に見えてしかし、150年の時を超えてもなお生き残るこの完璧なデザインは
モリス先生の植物に対する愛着の深さとカメラのような完膚なきまでの
観察眼の作り出した芸術でございます。





野に咲く地味な花でも、その可憐な中に力強い生き様までも正確にとらえて
図案化できるモリス大先生の右に出る者はいないと
私は信じております。
よってこのゲストルームの名前もそこから拝借いたしました」

言い終わるとバトラー氏は自分の演説に陶酔しているように見えました。

このバトラーはかなりのモリスファンに違いない、私はそう納得しました。

「さらに、」バトラー氏は私にしゃがむように視線を送りました。





ベッドの下にひらひらと下がっているもの、これをベッドスカートを呼び、
その色はピーコックブルーといいます。

今度は「上をご覧なさい」とでもいうようにまた私に視線を送りました。






「先ほどのベッドスローにも、大小のクッションの端にも窓掛けの下に
ピーコックがおるのでござる」

「おるのでござる?」
私は吹き出しそうになりましたが、それを必死になんとかこらえて
「なるほど、すてきなあしらいですね」と言うと、

「こんな風にデザインを合わせながら全体の調和を図ることを
『コーディネーション』と申します」とことさらに『コーディネーション』を
強調するように語気を強めました。





なるほど、このバトラーはつまり私にこの部屋を大事に使うようにと忠告している
つもりなのだなと私はやっとピンときました。
それなら簡単です。私がこの部屋に大変感銘を受けていることを
バトラーに示せばいいことです。
私はサイドチェストの上のランプを指さしました。





「あのかわいいツリーのアートの横のランプ、あれもその、ミカエラデイジーですか?」

バトラーは案の定、ぴくりと反応しました。
そしてゆっくり、「ミカエルマス・デイジー、正確には」と言ったあとで、
「さよう、ランプシェードももちろん、その『コーディネーション』でございます。
しかし、取り外せるからと言って、むやみに外したりせぬように」
バトラー氏は言い終わらない前に私が触りでもしないかと心配するように、
最後は、早口になりました。





「はい、かしこまりました」
私は所詮、このゲストルームに一晩お世話になる身、長いものには巻かれろの
精神で素直に頭を下げました。

「さらに、念のために言っておきますが...」
バトラー氏はまた目だけで私を振り向かせました。





「あ~、あれですか?」
私はチェストの上の人形を見つけました。

「あの釣り人は、この部屋にお泊りになるご主人様のために
置いておるモビールですが、念のために申し送りしておきます....」

「かしこまりました。触って遊ぶようなことは決して致しませんから
どうかご安心くださいますように」
私はバトラー氏の話を取って深々と頭を下げ、

そして「今日は大変お世話になります」と言い終えて顔を上げた時、
私はしりもちをつくほどビックリしました。





さっきまで椅子に手をかけていたドアマン兼バトラー氏がいなくなって、
その代わりに白く愛らしいテディベアが腰かけているではありませんか!

恐る恐る抱き上げてみると意外なほどにずしりと重く、
私はどきりとしました。
そしてその足には名前と何かの数字が刻まれていたのです。





私は空想の中で思いを巡らせながらしばらくじっとしていました。
そしてやっと事情が呑み込めたのです。

このゲストルームは遠くにお嫁に行ったお嬢さん夫婦が年に1度帰ってくる時を
じっと待っている部屋だったのです。





白いふわふわのテディベアは
お嬢さんの生まれた時の体重そのままの重さで作られ、
そして、結婚式当日にお母さんに手渡されたものでした。
今ではそのテディベアはこの部屋でひとり娘のお嬢さんの代わりを務めていたのです。

私はまたそっとテディベアを椅子に座らせました。





そして、『ミカエルマス・デイジー』と名付けられたゲストルームで
幸運にも今晩一晩過ごせる幸運を味わいながらも
私は胸が熱くなっていました。






これまでもA様のお部屋をたくさんのご紹介させていただきましたが、
新しい年にこの最新のゲストルームをお見せできますことをとても楽しみにしておりました。
そして、
写真に映っていたテディベアを見て、勝手な空想の物語を作ってしまいました。





テディベアのことをA様に尋ねましたところ、

「娘と同じ重さのテディベアを結婚式で渡されたときは、
ずっしり重く感じたけれど、娘が生まれて初めて抱っこしたときは
全然重く感じなかったのよね、きっとそこには命があるからよね」と
おっしゃったお言葉に、とてもじんときました。





深い愛情のこめられたゲストルームのインテリアを
お嬢様ご夫婦が帰省なさるお正月前に完成できてほんとうによかったです。

これからもご家族のみなさまの日々のお幸せを心よりお祈り申し上げております。

そして私たちにとっても大切なA様の数々のお部屋をこれからも
大事に守り続けてゆきたいと思っております。








次回は、2月10日の水曜日。
また、「リサコラムの部屋」のドアをノックしていただけますでしょうか?
どんなドラマが展開するでしょうか?

写真、文章の無断転用はご遠慮くださいますようにお願い申し上げます。


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ある日間

2016年1月20日(水)



第2日
Room No.0022

「彼女とシャネルと2つ目のアパルトマン」




彼女の別宅を初めて訪れた時、
私はパリの高級な地区にある
隠れ家ホテルにやって来たような感覚にとらわれました。






エントランスから入ると、天井高4mはありそうなラウンジには
たくさんのセンスある椅子やソファがあり、まるでパリの星付きレストランのカフェのようでした。





そのラウンジを横目で眺めながら広い中庭の周りに巡らされた
回廊をたどった最上階に彼女のアパルトマンはありました。
こじんまりした2部屋だけのアパルトマンは
窓を開けるとそこに美しいチュイルリー公園の緑が広がっているような
そんな幸せな錯覚に放り込まれました。





白い壁、白いテーブルと白い曲線をグレーのパイピンが輪郭を描き出すゆったりした椅子。

「どうぞ」とマダムがソファを勧める声は耳に入っても、
私は白い壁の中から豪奢な香りを放つバラの花瓶に釘づけになっていたのです。





「ま~、なんて、いい香り....」
私はきれいとか美しいとか、素晴らしいとかそんな形容詞を
選ぶまもなく、自分の口から出てきた言葉に自分で驚いていました。

華奢で上品なマダムは私のそばに寄ると、
「弟のレストランに長く貸していたのだけれど、やっと引き上げて来たのよ。
それでも、レストランの常連のお客様が、このバラを見るために来ているんだから、
持ってかないでって言ったらしいの」

「そうなんですね。う~ん、その方のお気持ち、わかります」





まだ真上に登りきらない南窓の斜めの光はレース越しに白い色で部屋を満たしていました。





マダムは「こちらがベッドルームよ」と私をリビングと反対側の部屋に
案内してくれました。

磨き上げられた床の上にはやはり同じ曲線の白い革張りの椅子が
白いキルティングのベッドスプレッドのベッドの横で静かに朝日を浴びていました。





「あのベッドの後ろの壁がさびしくて、絵をかけたいんだけれど、
あなた、この絵をどう思うかしら?
私はこの絵の置き場はあそこかしらと思ってね。
もしもよかったら、一緒に掛けていただけないかしら?」

私はすぐに承諾しました。





それは力強いタッチで描かれた裸婦像でした。
真珠色に光る背もたれのクッションの輝きと正反対の裸婦は
薄いグレーとベージュと草色とたくさんの色彩を帯びた皮膚を持ち、
ネイビーブルーのブランケットの上に横になってました。

私はベッドの足元から眺めてみました。
神秘的、ゴージャス、善と悪、美と醜
明と暗そんな言葉が頭にいろいろとめぐり、
しかし、
「ぴったりですね。なにかとても神々しい雰囲気がしてきました」
としか言えなかったのです。
そして、
「この絵は誰の作品ですか?」私は質問しました。





「私よ」
「えっ?そう、なんですか!」
彼女はリビングの方を振り向くと、
「あれも、全部そうよ」と言ったのです。

それから私はマダムのこれまでをいろいろと伺うことができました。
数十年、著名な画家の先生について絵を書き続け、
数えられないほどの絵画が自宅にも、彼女の会社の廊下にも応接室にも
あらゆる場所に置かれているということ。





そして、パリの一番いい初夏の季節に約1か月ほど、
しかも毎年、もう何十年も、アパルトマンを借りて写真を撮り、絵を描きながら
過ごしておられること、
音を聞けば、楽器の値段がわかるほどのご趣味の音楽鑑賞のお話、
そしてパリの5つ星ホテルを巡るお話などなど、
そんなうらやましいほどの素敵なお話を伺ったのです。

「リッツの中庭で頂く朝食もきもちいいし、
ホテル・ル・ムーリスの天井画はそれはそれは素晴らしいわよ~」
天井を見ながら手をひろげて私に語る彼女は
あまりにも優雅でした。





「初期の絵は大半を燃やしてしまったけれどね」と淡々と言う彼女は
いい時も悪い時も常に先読みしながら時代の変遷を乗り越えてきた
力強い信念のある人でした。

「ここは時々やって来て、静かに過ごすための部屋ね。
自宅とパリのアパルトマン、そしてパリに行けない間を過ごす
ここは2つ目のパリのアパルトマンていう感じね」

私は彼女の初々しく美しい自画像を見ながら
パリを愛し、仕事愛し、一生をパリで過ごしたかっこいいシャネルの人生と、
それに負けないほどかっこいい彼女の人生を重ねざるをえませんでした。


***
M様、お部屋の最後のセッティングと撮影に伺った日、
お話くださったさまざまなことにとても感銘を受け、それを拙い物語に綴ってみました。
もっと奥深いパリと芸術とお仕事を通したかっこいいライフスタイルの
お話を楽しみにいたしております。

***
次回は、1月30日の土曜日。
また、「リサコラムの部屋」のドアをノックしていただけますでしょうか?
どんなドラマが展開するのか、私も楽しみです。
写真、文章の無断転用はご遠慮くださいますようにお願い申し上げます。


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ある日間

2016年1月10日(日)



第1日
Room No.0021

「Mikiとトリアノン・コード」


 「ボンジュー、 マッモアゼル」





晩秋のパリから足を延ばして、かの有名な「庭園」を見ようと
Mikiの乗ったタクシーはあるホテルの玄関先で止った。

若いドアマンがタクシーのドアを開け、
「ボンジュー、ムッシュー」とMikiが挨拶を返すと、
待ちかねたように、ホテルの中から出てきた初老のバトラーは
Mikiににっこり笑いかけた。





「ボンジュー、 マッモアゼル」
ボンジュー、ムッシュー」

バトラーは、「こちらのホテルではカウンターだけではなく、
お部屋でも、ロビーでもでお好きな場所でチェックインがOkでございます」と言うと、
早くも老舗の気品を漂わせながら、Mikiの反応をにこやかな表情で見守った。

市松の床にシャンデリアの影が落ちるクラシカルなロビーを見渡すと、
ラウンジに座る人たちの表情にも穏やかな色がある。
パリとはやはり空気の質が違うとMikiは思った。





「それでは、お部屋でお願いします」

Mikiの合図でバトラーはゆっくりと先を歩きながら、案内を始めた。





「カクテルアワーからここで毎日、ピアノの演奏がございます。
さらに、本日の土曜日の晩には、チェロの生演奏もございますから、
よろしければぜひ、
コンプリメンタリーのシャンパン片手にご堪能頂ければと存じます」





チェロの生演奏ですって?それは楽しみだわ~。
私、チェロを弾くんです

「オー、トレビアン!すばらしい!それではアーティストでいらっしゃるのですね?」

「ああ、いいえ。銀行で働いておりますが、
趣味で室内楽をやっているのです。楽器もフランスのものなのですよ」

トレビアン!さようでございますか。
やはりアーティストでいらっしゃるのですね、マッモアゼル。
きっとほかにもご趣味をお持ちでございますでしょう?


熟練のバトラーは会話が途切れないように話しかけた。






「実は、最近、写真を本格的に始めたくて、カメラも買ったんです。
だから、「あの庭園」をすてきにカメラにおさめたくて、
ここまでわざわざやって来たのです。
なにか撮影ポイントやアドバイスなどありませんか?」






「それでございましたら、朝の時間帯は絶好のシャッターチャンスでございます。
まだ観光客の少ない朝靄(もや)に煙る庭園を散策なさいましたら、
きっと美しいお写真が撮れますことでしょう」

Mikiは明日の朝の撮影に胸が踊った。






「さあ、マッモアゼル、本日のお部屋はこちらでございます。512号室...」
バトラーは部屋番号を確認すると、急に驚いた顔でMikiを見た。

「えっ?512号室?それがどうかしたのですか?」





「実は、本日の当ホテルのコードを握るお部屋が、
マッモアゼル、こちらのお部屋でございます!」
バトラーの持ったキーケースはわざとらしいとは思えないほどに、わなわなと震えた。





バトラーはさらに神妙な顔をして、Mikiにやっと聞こえるくらいに小声になった。
「本日の『トリアノン・コード』のお部屋が、
かの有名な部屋番号と同じ、まさにこちらの512号室でございます!
『ダビンチ・コード』と同じのお部屋番号でございましたなんて!」
バトラーは深呼吸をして、さらに意味深な顔して見せた。
Mikiは不安に駆られた。

「『ダビンチ・コード』の512号室?でも、あれはパリのリッツの部屋じゃないの?
ここはベルサイユでしょ?」

「当ホテルでも、リッツ様のご改装中の折より、
『トリアノン・コード』と題しまして、毎日、部屋番号を引き当てて、
お部屋に特別なしつらえをいたしております。
つまりはMiki様のお泊りのお部屋は本日の大当たりのお部屋ということでございます。

Mikiは案内される前に、急いで部屋のドアから滑り込むように中に入った。






白く引き締まったティアラをかぶった王女の眠るようなベッドが
Mikiを静かに出迎えた。





白い王冠は独特のラインでカットワークがされ、
ベージュの縁取りがされている。
そこからさらにシャンパンゴールドのオーガンジーレースが
まるでベールのようにベッドの周りを覆っている。





窓辺のゴールドの刺繍のカーテンはシャンデリアの光にきらめき、
Mikiの瞳もほほもきらめいた。

「ま~!なんてすてき!プリンセス仕様なのね」





「美しいわ~。このベッドカバーも真っ白でゴージャス!
今日はここで眠れるのね~、ほんとに夢みたい。全部マニフィックだわ!」

Mikiは、傾斜窓のデコレーションのビーズを窓の下からうっとり眺めた。





「そしてこちらがバスルームでございます」バトラーはドアを開いた。

「モダンなラウンジのパウダールームみたい!
モザイクタイルがおっしゃれね~。清潔そうで、とても気に入りました」





「メッシー、マッモアゼル!お気に召して頂けたようですね。
それでは、ぜひ、口コミの方にもご感想のほど、よろしくお願い致します。
口コミをご記入いただきますと、その~、このお部屋をまるごと
ご自宅にプレゼントさせていただいておりますものですから」

「え~、そんなすてきなことってあるの?まさか夢じゃないでしょうね...」




Mikiは自分の歓喜の声で目覚めた。
窓の外はもうほの明るい朝の光が差し込み、慌ただしい車の音も聞こえてきた。

「あ~、やっぱり私のホテルの部屋は夢じゃなかったのね、ほんと、よかったわ~」





Mikiはあの美しいベルサイユの森の中でもうひと眠りしようと
週末のここちよいまどろみの中に再び入った。

                  FIN
***





Miki様、晩秋のフランスの旅からご自宅のバスルーム、ベッドルームのしつらえまで
たくさんの麗しいお写真を撮影して頂きまして、
ほんとうにありがとうございます。





ベルサイユの庭園からノートルダムの教会などなど、
まるでプロカメラマンの撮ったカタログ写真のようです。





あらためて拝見しながら、
ご一緒にベッドルームを考えた秋の日々がとても愛おしいです。
アーティストMiki様に心よりの感謝とそして尊敬をこめてお礼申し上げます。

***

パリとベルサイユの二つのホテルと出来立てのMiki様のバスルーム、
ベッドルームを組み合わせた架空のストーリーでございました。
二つのホテルのインテリアの違いもミステリー仕立てということで、
楽しんでいただけましたら幸いに存じます。

次回は、1月20日の水曜日。
この「リサコラムの部屋」のドアをノックしていただけますでしょうか?

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