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リサコラム
連載401回
      本日のオードブル

時はやさしく、時につめたく

時をめぐる
約14のストーリー

第1話

「ベイサイドホテル」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)は
2013年12月で7刷)
Kindle版は2013年12月発行。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、他たくさん。



ジグザグに建てられた3階建ての
ごくごく薄い桃色の壁に濃紺のテントのある
リゾート風のオーベルジュの前に立った時、

実はすでに負けたと思ったのです。
何に?

濃紺のパラソルの下で夕陽に染まった
ビール片手に、
かぼちゃのニョッキでチーズソースを
絡め取りながら、
何を思ったと思いますか?

私の後ろ姿から想像してください。



 
      
  





      


第1話

「ベイサイドホテル」





 そのホテル壁はたっぷりの白に桃色を小指の先でわずかにパレットに取

って混ぜ込んだ感じのごく淡い薄桃色をしていた。




           



 私は再びホテルの表玄関を出ると、建物の全体が視野に入るくらいの場

所に立って改めて眺めてみた。


 昨日ここに立った時とはまるで違うホテルに思えた。私にとってはまだ

少し、癪なホテルではあるけれど。それはジェラシーだということももち

ろんわかっていた。



           



 ちょうど夕暮れ時に遠路このホテルにやって来た昨晩、夕日にライトア

ップされたホテルの外観は、地元の宿がヨーロッパの代名詞的な海の岸壁

に建つホテルを真似た嫌味な味を感じさせた。このまま帰ろうかと思うほ

ど自分が似つかわしくなくも思えた。なのに、今は惜別に似た感情を抱い

ているとは、「こりゃ、すごいね」私は声に出して敗北を宣言した。



           



 3階建ての瀟洒な外観の趣はホテルの中の隅々にまで反映されており、

まるでピンセットでひとつひとつの部品を模型の中に置いていったような

神経質な細やかささえ感じられた。そしてそれは私の予想に全く反してい

た。



 昨日までの3年間、この辺鄙な場所の小さなホテルにどうやって遠来の

宿泊客を呼ぶのか、そんな簡単にゆくわけはないと思い続け、半ばばかに

するように遠巻きにしてきた私は昨晩食べた手打ちパスタの同様、麺棒で

たたき伸ばされ、挙句、機械から細くカットされて出てきた状態に完全に

打ちのめされた。それほどに、地元のワインと一緒に味わった手打ちパス

タは絶品だった。都会で食べるどんなパスタより濃密で感動的だった。さ

らに、料理の味に引けを取らないさまざまなクオリティ、スマートなサー

ビスに至るまで文句のつけようもなかった。



            



 実はこのホテルのオーナーは私のかつての親友だった。彼とは高校時代

以降、音信不通を続けていたが、その噂は時折耳にしていた。彼はイタリ

アで料理の修行をして、ホテルを渡り歩き、そしてこの度、晴れて共同経

営者を見つけて、3階建てのオーベルジュを建ててしまったのだ。その1

2室のホテルは、幸運なことに南西に海岸線を見渡す絶好の立地を得てい

た。



            



 リゾートホテルに欠かせない条件の一つにサンセットがある。リゾート

のベッドを目指す旅行者は、あまり早起きをしない。だから、朝日の昇る

東向きの海より、どこにでも沈む同じ夕日を感動的なエンターテイメント

に仕立てあげる西向きの海はシーサイドリゾートの絶対条件と言ってもい

い。だから客室を南西に大きく広げるため、正面玄関と廊下は北東側で、

とがった角を持つ変形な建物に設計されていた。各部屋の大きな窓からは

晴れた日は一日中、素人の絵描きの好む絶景を提供していたし、快適なバ

ルコニーに出ると湾とその向こうの海の海岸線を堪能でき、さらにうまい

具合に南側の入江の先のなだらかな低い山はその向こうのさびれた地元の

日常生活を覆い隠していた。都会からの旅行者にはきっと感動的なグリー

ンとブルーの中に建つハイダウェイリゾートと映るに決まっている。そん

な意味では彼は成功したと言えるだろう。



            



 私がいた頃は、辺鄙な田舎町という意識しかなく、私は高校を卒業する

とほとんど未練も感じることもなく、ここを離れた。そして貧乏学生をし

ながらも建築学科を出て何とか資格も取り、私なりの必死の努力で今の有

名な設計事務所に就職を果たした。しかしそこでも激しい競争の波に翻弄

され続けた。そして3年前、私の故郷だったこの田舎町にホテルを建てる

仕事を請け負うことを知った。


 私はその施主の名に見覚えがあったため、家に帰るとすぐに古びた卒業

アルバムを開いた。そしてビールとポテトチップスの袋を片手に過去の扉

を1枚1枚めくっていった。そこには間違いなく施主の彼の名があった。

それは子供の頃、夕焼けの海を背に遊んだ親友に違いなかった。



 私はパリパリと歯切れよく割れる薄いジャガイモの音を心地よく感じな

がら、その辺鄙な地元への私の愛着の薄さも同時に感じていた。




            



 そしてそのプロジェクトから私は外された。ホテルのオーナーシェフで

ある彼は幼馴染だと知ってわざと私を外したのか、それとも全部故意なの

か、もしそうなら私に対する何かのリベンジの意味なのか、複雑な気分を

持ち越し、そのホテルは開業した。



 部屋のバルコニーに立つと、時折、澄んだ青い水の表面を撫でてゆく風

は平安そのもので、昔感じた色とは違った色に見えた。それは癒しの色と

いうのかもしれない。私は今では完全に都会からの旅行者になっていた。



 架空の名で予約を入れた私は、現金で支払いを済ませると、一旦ホテル

から外に出た後、思い直してまた、ホテルに向かった。そしてカウンター

でオピニオンカードをもらうと、イタリアンのランチの予約を願い出た。



   



  席に着くと真っ白なテーブルクロスにインクのしみを付けないように

注意しながら短い手紙を書き、こう結んだ。『僕をまた故郷に戻してくれ

たMへ。最高の料理と最高のベッドをありがとう。これでまた昔通りここ

に来て遊べるよな。最高のインビテーションをほんとうにありがとう」

私は少し照れながら、水を持って来たボーイに手渡しながら言った。



      



 「できれば、今すぐにシェフに渡して欲しい」と。





   *上のイラストから「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10(最後に0)の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

p.s.1
 
  今日からまた新シリーズを始めました。
  題して、「時はやさしく、時につめたく」 さて、どんなスト―リーを書き連ねましょうか?
  約14話の予定です。どうぞご期待くださいませんように。

p.s.2
  また、リサコラムでこれ、好き!というタイトル(漠然としたもので結構です)
  ございましたら、ぜひ、お教えくださいますように。

  AAA、N氏の場合、狐狸相談室、初期のコラム、いろいろご意見を頂戴致しまして
  ありがとうございます。

  必ずご返信致します。下のイラストをからメールの文面に入って頂けます。


                      


  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

(Amazon、書店では1,500円で販売しています。)

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,800円にてお届けいたします。  
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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