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リサコラム
連載415回
      本日のオードブル

アドラーに聞きに行こう


第1話

「黄金色の君」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉さん他たくさん。


私の部屋は私の世界。
肌さわりも匂いも風景も想像も空想も
全部、
私のものだから。

こんな小さな世界でも
それは私だけの私の世界。

ウォーレン・ヴァフェットだって
ここは所有できない、
私だけの素晴らしい世界でしょ?
 
      
  





      


第1話 「黄金色の君」



 街路樹の木漏れ日の日差しは少し華奢に思えたけれど、坂道を登る手前

で私は手の平をかざすと汗をぬぐった。そしてポケットから飴を出すと口

に放り込んだ。


            


 2時間前に下っただらだらの坂の上りは以前に上った時より軽やかに感

じる。口に含んだ飴は駄菓子屋のはちみつのお菓子のようにとろんとして

香ばしい甘さで、少しいい気分になって、西日に向かって息を弾ませてい

た。


 先週、口コミだけで流通する話題を知っていることが自慢の友人のゆう

こは、耳より情報を教えるからと連絡をしてきて、平日のランチタイムに

私たちは待ち合わせをした。


          


 「ネットには絶対出てこないからね」ゆうこはこのセリフを言う時、い

つもきらっと瞳を動かす。それは公園に出没する不思議な絵描きの話のよ



うだった。紹介者がいないと絶対に絵は描かないという変わった習性らし

く、ゆうこは「それがほんと面白いのよ。描いてもらったら?」とまた視

線の定まらない瞳の動きをした。


 「似顔絵を描くわけでもなく、そして風景を描くわけでもないんだけど

ね、」「それじゃ何を描くの?」「相手の理想の未来を描き出すのよ」「

それって、占いみたいなこと?」「でもないんだけどね。私は海を見渡す

高台の別荘の絵を描いてもらったんだけどね、それを額に入れて壁に掛け

てから、前は単に夢だったけど、それが目指す目標に見えてきて、なんか

こう、ブレイクスルーしたって感じかな?それにまあ、行ってみたらわ

かるって」私はうなぎ店の店先でランチの行列に一緒に並ぶゆうこの横顔

を見た。


             


 サバラン、そうゆうこは今、サバランみたいな高貴な顔をしている。有

名店で買う飛び切り上質なサバラン。ラム酒をたっぷり吸い込んだブリオ

ッシュにホイップクリームをたっぷり絞って、先端につやつやしたふたを

かぶせたお菓子。その含みのある言葉の裏にどんな「それから」があるの

か、私は「ぜひ、教えてよ」と言った。


 「それじゃ、これ、渡してね」ゆうこがランチの最後に手渡した名刺に

は、「絵描き アドラー 黄金色が目印」とだけ記されていた。


 翌週の土曜日、私はゆうこに聞いたアドラーの出没場所に足を運んだ。

高いビルに囲まれたにぎやかな公園の中を、黄金色を探して歩いた。


            


 大きな木の下にそれらしき黄金色の帽子をかぶった絵描きの男性がひと

り、女性を前にスケッチブックに向かっていた。私は間違いないと確信す

ると、ランチの順番待ちのようにそれとなく並んで、後に来る人を割り込

ませないように気を配った。


 待つこと4,50分。ようやく私の順番がやって来ると、すぐに名刺を差

し出した。黄金色の帽子を目深にかぶった絵描きは私に木の椅子をすすめ

た。絵描きはお待たせいたしましたとは言わず、その代わり「人間関係に

悩んでおられますね。時間がないと日々悔やんでおられる割には、時間を

浪費されるようですね。結構、ストレスを感じておいでのようですから、

自分を癒してくれるエステや旅行にはお金を惜しまれないのでは?さあ、

どうぞ」と言った。私はあっけにとられ、「どうしてそんな」といい終

わる前に、「何色が好きですか?」と相手は聞いた。「え~と、ピンク、

白に、グリーン、ブル―、黒、黄色」「正直ですね」「はっ?そうでしょ

うか」「どんな場所が好きですか?どんなホテルに憧れますか?好きな

スターは?嫌いなスターは?」黄金色の帽子はどんどん私の質問を投げか

けて、そしてスケッチブックはどんどん線で埋まって行った。


             


 こんな部屋はいかがですか?お好みから想像を膨らませました。「ああ

ええ、ステキですね。こんなシンプルで、でもカラフルなホテルみたいな

部屋、いいですね~。ほんとに私、こんな部屋に住めるんでしょうか?理

想ですけど。これは天蓋ベッド?いや、それ、いいです」


 私はスケッチブックの上にくぎ付けなっていた。黄金色の帽子は次に絵

の具で色をつけ始めた。そして2時間ほどで絵は完成した。


 大都会の中のリゾートのような直線で構成された大きなベッドと窓から

下がる白地にブルーグリーンのカーテン、グリーンとブルーの花柄の飾り

カーテン。そしてベッドの向こうに見えるバスルームとリラクシングスペ

ースのあるホテルのスイートが私の理想の部屋になっていた。


         


 「ありがとうございます」私は絵を入れた筒を受け取ると代金を支払う

と、そしてさっきから疑問に思っていたことを思い切って聞いてみた。


「あのぉ、私が人間関係で悩んでいるとか、時間が足りないとか、エステ

や旅行にお金を使っているなんて、どうしてわかったんですか?」「ああ

なるほど、そんなことですか。簡単ですよ。今日は土曜日ですから、OL

さんですよね。あなたの前の女性の後にしっかり並んでおられたのは、普

段、ランチでも並んでおられるから慣れておいでだからでしょう。ランチ

タイムに並ぶのを時間の無駄とは考えないから、40分も待っていられる

のですよね。当然仕事は忙しく、いろんな意味で切羽詰まっておられるで

しょうから、人間関係に悩みがあってもおかしくはありません。旅行とエ

ステにお金を投じておられるのは、夢と無形のものにも投資できるという

ことです。だからこんな絵を描いてほしいと思われるんですよね」「ああ

なるほどね。そんなことですか」

 「それと、とてもお美しいからです」そういうとアドラーはゆうこにも

らったものと違う色の名刺と飴の入ったかごを差し出した。


 「ご紹介者くださるときは、この名刺をその方にお渡しください」私は

代金を支払い、礼を言うと、楡の木の下から出て公園を坂道の方に歩いて

行った。


            


 「あ、これは、あれだ」木漏れ日の下で、別れ際にもらったきらきら光

る飴はトパーズのような褐色の「黄金糖」という昔ながらの飴みたいだ。

昔懐かしいシンプルな甘さ、口の中で香るカルメ焼きの香ばしい香りと後

味はつい2時間ほど前に知り合いになったばかりのアドラーという絵描き

のくぐもった声に似ているようで、私は二つを結び付けていた。舌の奥に

ずっと残る甘さと、一見単純に見えてしかし不思議なニュアンスを残す彼

を、きっとこの黄金糖をまた舌の奥で味わうときには、思い出すだろう。


 本名はわからない“絵描のアドラー”は、きっと正直で、信頼できる相

手だと思う。いや、そう思いたい。


 私は小さくなったかけらをかまずに口の中でとろかしながら、絵の入っ

た筒を大事に胸のあたりで抱えて坂道を登りきった。



   



 「それと、とてもお美しいからです」運動会の終わった夕暮れ時に感じ

る達成感に混じった切ない気分…アドラーの言葉を反芻しながら、私は街

路樹の道を歩いた。

 


   *上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10(最後に0)の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

P.S1.

 今週から新しいストーリーの始まりです。
 毎号読み切りでも楽しめるように書くつもりです。
 さて、アドラーさん、誰か似ている人がいそうですね。
  

P.S.2 
  今週から次号のBonChicの撮影が始まります。楽しみです。

P.S.3

  今回のE-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」です。
  ちょっと毛色が変わっていますが、僭越ながら、面白い読み物だなと思います。
  ぜひ、下のドアを軽く押してみてください。
  ドラえもんの「どこでもドア」みたいに飛んでゆけます。袋小路に迷い込みながらも
  歩むのも面白いものですから。

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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マダムワトソンでは 
                                    
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