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リサコラム
連載517回
      本日のオードブル
習慣

第7話

「優雅なあなたに
贈るジャズ」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



別荘風の
自宅には黒白市松の
床の上に大きなベッドのある
ベッドルームとたんたんと4段降りた
場所にあるすてきな水浴びプール
みたいなバスタブがありました。
天井には
可動式の
カーテンが
取り付けられ
晴天の日には
大きな天窓から
すばらしい青空が
見下ろせるのです。
すがすがしい気分は
リバーサイドから
吹きよせる風と
優雅なジャス...
それは過酷な人生経験をした人に
与えられた当然の恩恵に
違いありません。。


 
      
  





       


第7話
「優雅なあなたに贈るジャズ」



かなはラジオをつけた。かなの好きな「優雅なあなたに贈るジャズ」という番組

はあと2分以内で始まる。


             


 かなは落ち着き払って、バラの花びらでピンク色の染まっている小さなプールほ

どもある白いほうろうのバスタブにゆっくりゆっくり入ってみた。


 このリバーサイドにあるかなの新しい家は400坪ほどある土地にこじんまりと

建てたもので、独身だったかなの叔母が13年前に他界した後の土地をかなが相続

したものだった。


             


 かなは長いこと、その土地の利用方法を考えて来た。そして考えあぐねた結果、そ

れを『ローズの庭』の同窓生数人に相談を持ち掛けた。


 『ローズの庭』とはかなの出身校の同窓会の名称で、毎年5月1日に開かれる。

かなはその日を心待ちにしながら残りの日々を過ごして来た。そして『ローズの

庭』の会は回数を重ね、今年50回目を迎えた。その記念すべき同窓会のパーティ

会場は新しくオープンしたばかりのこのリバーサイドのラウンジ会場になり、そこ

に80数名の同窓生が集まって来た。その敷地の隣に建つ白い別荘風の瀟洒な家が

かなの新しい家だった。


              


 パーティではまず、世話役のせつこが乾杯をすると、お花畑のようなファッショ

ンショー会場のような女ばかりのラウンジはぱっと華やぎ、賑やかさを増し、すぐ

に同じ方言が一斉にけたたましいほどに飛び交った。


 それから30分ほどして、次のメインディッシュが運び込まれてくる前、かなは

ゆっくりと席を立ち、そしてお花畑を見渡すような段の上に立った。年齢も様々な

4世代に渡る女性たちは一斉にかなのほうに好意の視線を投げた。かなはゆっくり

とスピーチを始めた。


             


 「50年前に始まったこの同窓会は、後日『ローズの会』と命名されましたが、

別の土地で暮らす同窓生の母校を忍ぶ愛好会として、これまで一度として途切れる

ことなく続けられてきました。私はこの50年間で10数回の引っ越しをし、日本

の約半分を転々としました。そしてこの地に落ち着いてから20年間は義理の母の

介護をしました。太平洋戦争も経験しました。B29の爆撃で焼夷弾が45個も家

に落ちていたのに、奇跡的に私たち家族は助かりました。ですから、今、50回目

の同窓会をこの場所で開催できたことは何乗もの奇跡が起きたようなものだと思い

ます。そうして大正、昭和、平成を生きて来て、次の元号まで間に合わないかなと

思っておりましたが、このところそれが可能になるかもと、もう一つの楽しみが増

えたところでございます。


              


 実を申しますと今まで入院などしたことがなかったのですが、6年前、主人が他

界しました後、過労のため私の脚が悲鳴を上げて、とうとう手術することになりま

した。これからやっと自分の時間が持てる、遊べると思ったとたんに、脚が不自由

になってしまったのです。ですから、当時、私は主人の位牌に向かってこんな繰り

言を言っていたものです。『あと3年早く行って下さったら、私もっともっと遊べ

てよかったのにと』ね、はははは~」会場も一斉に笑いどよめいた。それが止むと

かなはまた話し始めた。


             


 「ですのでね、私、頑張りました。リハビリを。それは、こんな苦しい思いは今

までしたことがないくらいの試練だったのです。そしたら、また無事に歩けるよう

になりました。もちろん、杖は必要ですが。そうなると人間というものはやる気が

むくむくと湧くものですね。いきなり活動的になって、おしゃれしてタクシーを飛

ばしてどこへでも一人で行くようになりました。行きつけのインテリアショップな

んかでベッドやパジャマやバスグッズなんかを見ていましたら今まで当然のように

我慢してきました素敵な暮らしをしてみたくなりましてね、こんな歳でとお思いか

もしれませんが、叔母から譲り受けたこのリバーサイドの土地に、子孫に残すため

の大きな家は要りませんから、ひとり優雅に暮らせる小さな家と、そしてこの『ロ

ーズの庭』のために何かできないかと後輩に相談をしました。私ももう一花咲かせ

たいとおもいましてね、ふふふふ。そして、今回、やっとパーティ用ラウンジとオ

ープンキッチンが完成いたしました次第です。さらに幸運なことにこの同窓生の中

にバラのエキスパートが数名おいででしたので、残りの場所を使って海外のバラ園

のような本格的なバラの温室を作ることになりました。さらにバラを販売するショ

ップ、そして各種ボランティアセンターの事務所も加わって、それらをまとめて財

団法人にすることができたのです。これからは年1回と言わず、毎月でも皆さまと

お国言葉でなんでも話せるのです。ふふふふ」


             


 会場からまた大きな拍手が湧いた。「さらに、これまで私たちの中だけ交わされ

て来た有益な情報、語り継ぎたい戦争の話、介護のこと、その他なんでも電子書籍

にして、つまり家庭内の愚痴をこぼすための同窓会に終始することなく、未来の麗

しい女性を育むための母校の卒業生たちが集う第2の社会人学校にしたいのです」

会場の拍手はだんだんと大きくなり、そしていつまで続くのかと思うほどに鳴り止

まなかった。


 かなは言い終わると、両手で顔を覆うとしゃくり上げた。すぐに、脇から世話役

のせつこがやって来て、自分のハンドバッグからバラ色のレースのハンカチを出す

とかなに渡した。


             


 その瞬間、かなは赤ちゃんに「いない、いないば~」をするときみたいに両手を

ぱっと広げると、「ウソ泣きで~す」と言った。もちろん、会場は「わ~」とか

「きゃ~」とかいう色付きの叫び声と爆笑が一緒になって壁に跳ね返り共鳴した。


 「実はね、バラ園を思いついたのは、ほうろうのお風呂にバラの花びらをちりば

めて、好きなジャズのラジオ番組を聴きながら入ってみたいと思ったからなの。だ

ってそのために遠くに行くのはもう、大変なことですもの。ペディキュアはね、ロ

ーズピンク色に決めていますのよ」そして最後にかなはマイクに向かって小声でつ

ぶやいた。

             


 「なんてったって、93歳、なんでも経験済みのマダムに一つだけ困ったことが

あるとしたら、もうどんなことが起きても動じないという一種の習慣のようなもの

ございますね」かなは杖を片手にスローなジャズに合わせて、優雅に体をゆすりな

がらスロープを降りた。



    



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

  かなり脚色しておりますが、実話に基づいております。
 このようなとても上品で優雅なお客様がおいでなのです。
 50回目の同窓会も実話です。その土地の独特の言葉で話すのを
 ほんとうに懐かしく、楽しく、それを楽しみになさっておいでなのです。
 戦争のお話しもいろんなお話もたくさんお聞きしました。
 だって、93年分もあるのですから。まだまだきっと面白いお話が
 聞けることだと思います。
 8月15日に書きたいと思っておりました。
 


 「もの、こと、ほん」は下の写真から。

            

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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