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リサコラム
連載554回
      本日のオードブル

秘密基地はバラの香り


第4話


「デザイナーは
自分の居場所で考える」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



その緑の地平線を
見たことはありません。
その緑の丘に登った
こともありません。
でも、緑の地平線を
横眼で眺めながら、
ベッドでほんを
読む心地よさは
想像がつきました。
そうしてデザイナーは自分の居場所で
いつも考えていました。
その場所にはバラの香りが
漂っていたからです。

 
      
  





       


第4話
 「デザイナーは自分の居場所で考える」

 

 「海外旅行ね~。いいにはいいんだけど、まあわざわざ行くのはめんどくさい

な~」涼子(すずこ)はため息をつくと、コンビニのコーヒーの紙コップをぎゅ

っと握りしめた。


               


 昼休みのパターン室の前の廊下には、優奈と涼子(すずこ)のほかはだれもい

ない。涼子はスチールの重たい窓を開け放して窓枠に両肘を乗せるとその上に顎

を乗せた。このところの陽気に窓の外に見える公園の緑の木々は地面を覆い隠す

ように葉を茂らせている。


               


 優奈は日差しに目を細めながら黙ってそれを眺めている涼子にその先を話すべ

きかどうか、迷った。しかし、どうしても言いたい虫が抑えられず、「ネットの

感想って、どうしたって主観だから、人それぞれ、感じ方は違うよね。だから、

それ全部鵜呑みにするのはどうかとは思うけどね。部屋が清潔かどうかは当然と

しも、高級ブランドのバスジェルかどうか、バスローブはどうで、アフタヌンテ

ィにどんなお菓子が出てくるとか、スタッフがああした、こうしなかったかそん

なことばかりが多いホテルに泊まったって、気分は晴れないと思うのよね」優奈

は涼子の顔色を窺った。


               


 涼子は「そうね。確かに」とだけ言った。「バスジェルがブルガリだからって

だけで、星つけたりはしたくないわ。それに、その時のスタッフの対応がよかっ

た、悪かったもね。だって人間だから、ロボットじゃあるまいし、いろいろある

でしょ。うれしい時や気分が落ち込んでいるときとか、それじゃプロじゃないっ

て言われるかもしれないけどね。なんだっけ、あの映画、ご主人様にものすご

く忠実なバトラーの映画、親子で同じ邸宅のバトラーをやっているあれ」優奈

は涼子の横顔を見たが、涼子はちらっと優奈の顔を見ただけで「わかんない」と

だけ言った。


              


 「そう、それでさ、親の方のバトラーが高齢でその家で亡くなったとき、子供

のバトラーはお別れもそこそこに平然とお客様のおもてなしをやるのよね。『ち

ょっと気分が』と一言だけ、ご主人に言った後にね。あれこそバトラーの鏡であ

り、厳しさだっていう意味だと思うけど、すごく酷な仕事よね。あれ見てから、

バトラーさんを見たら手を合わせたくなったわ。まあ、いいサービスに当たれば、

ラッキー、そうじゃなきゃアンラッキーってくらいにしておさめておかなくちゃ

ならないのかなとかね」優奈はまた涼子の顔を見た。涼子は「うん」とだけ言っ

た。


               


 「だから、そんなことより、カーテンが素敵だとか、ベッドスプレッドのキル

ティングが凝っていたとか、ベッドリネンの色がこんなだったとか、クッション

の配色はどうだったとかそんなコメントもあってもいいと思わない?ねえ」優奈

はまた涼子の顔を見た。涼子はまた「うん」と声にはならない声で反応した。

「でもさ、そんな感想、見たことないわね。それより、ネスプレッソがあった、

コンプリメタリーの有名ブランドのチョコレートが置いてあったとか、そんな些

細なことに感想を書いたり写真をUPしたりするじゃない。それって単に置くだけ

でしょ。私だってできるわよ。置くくらいなら」涼子はふふんと少しだけうなず

いた後、黙って10階から下の公園の緑地を眺めた。


               


 「だから、もっとナチュラルな場所に行ったらいいと思うのよ。まあ、ナチュ

ラルっていうのかワイルドライフっていうのか、ライオンとかキリンをジープで

身に行くような場所よ。そうなったらもうどこどこのチョコレートだとかより、

ライオンの襲撃から身を守ってくれた勇敢なドライバー、すごい!とか、もっと

視点が変わるんじゃないかなってね」優奈はそう言ってから涼子の細い鼻のあた

りを見た。涼子は両手の平の中で目を閉じて、うんうんと無言で頷いているよう

にも眠っているようにも見える。


               


 休みではないゴールデンウイーク明け、新緑はさらに緑色を増し、憂鬱に似た

けだるい気分は反対に増したように優奈には思えた。涼子は短い髪の毛を風に吹

かせながら目をつぶっていた。


 昼休みの終わりかけのこのけだるい気分が優奈は一番嫌いな感覚だった「休み

って終わるときが一番嫌じゃない?でもまあ、あたしたち、仕事だったから関係

ないけどね」優奈は涼子の表情の変化を伺った。涼子は寝ているのか、あるいは

夢うつつの状態なのか判別はつかなかった。優奈は振り向いてパターン室の大き

な文字盤の掛け時計で残り時間を確認すると、「あと10分あるね」と涼子の横

顔に向かって言った。涼子は反応しなかった。


                


 「だからさ、ほら、自然そのものじゃないけど、自然にもっと近いところに身

を置いてみるとね、些細なことにこだわっていることがばかばかしくなるんじゃ

ないかなってね、そんな風に思ったわけよ」優奈はひとりしゃべり続け、涼子は

目をつぶったままだった。


               


 「パリなんか、繊細な芸術の街に行くとさ、細かいことがいちいち気になると

思うのよ。傷心の旅なんてね、素敵なカフェでプチットマドレーヌを紅茶に浸し

てメランコリックな物思いに更けるのもいいけどさ、まあ、マドレーヌ専門店も

パリにはあるくらいだからそれは楽しい気分の時にでも楽しめばいいし。それよ

り南アフリカの国定公園のゲームリゾートに行った方がいいと思うのよ」優奈は

我ながら素晴らしい提案だと思った。


               


 「すっごくセンスいいホテル、見つけたのよ!目の前は水平線ではなく、緑の

地平線よ。朝は日の出で目が覚めて、外で鹿と一緒に朝食なんて、イカさない?

もちろんプールもあるし、本物のワイルドなキャンプだって体験できるし、そこ

でキャンプファイヤーを囲んで、何語をしゃべる人たちかわかんない人たちと歌

うたって盛り上がるって、いいんじゃない?こう、ぱ~と吹っ切れそうじゃない

!」涼子は黙ったままだった。


 それからすぐに涼子のスマホからチャイムが鳴った。涼子は大きな伸びをした。

「どうお、私の案は?」優奈がにこにこ笑いかけながら涼子の反応を待った。


 「ふん?」涼子はぽかんとした顔で優奈を見た。「だからさ、私の旅行プラン、

どうお?」「旅行のプランって?」「聞いてなかったの?」涼子は「うん」と気

乗りしない雰囲気で答えた。


               


 優奈は涼子の背中を軽くたたいて、「は~あ、これ以上のすばらしい案は絶対

にないって思ったのに~それも名演説だったのに~。あ~あ、もう一回させる

の?なんか気合抜けるよ~」優奈はがっくりと首をたらした。


               


 「ごめん。最初は聞いてたんだけど、だんだん眠くなっちゃって、ほんとにご

めん。そんなに素晴らしい提案だったの?」「ええ。もちろん。だってあんなに

落ち込んでたから、私、必死に考えてしゃべったのに、まじで聞いてなかった

の?」涼子はぺこんと頭を下げてから優奈に向き直った。


 「うん。ごめん、ごめん。それでね、わたし、思ったんだけど、仕事の勝敗の

借りはやっぱり次の仕事の勝負で返さなくちゃよね」涼子は淡々と続けた。「そ

れでね、思いつたんだけど、次の秋冬のコレクションのテーマだけどね、南アフ

リカで行こうよ。南アフリカのゲームリゾートって、テーマでね。これなら勝ち

目ありそうじゃないかしら?ということでさ、吹っ切れたから、さあ、仕事しよ

うよ!」


 涼子は優奈の背中を思い切りたたいた。




              



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
 リゾートに行くまでの考える時間が結構楽しくて、行って帰ればまた行きたくなって
でも、その内、自分の部屋に作り出すのは実はもっと楽しいということに
気づいたのが15年ほど前のことです。

 


  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
           


p.s.2
     
お待たせをいたしましたが、
     近いうちに下のE-bookの英語版をアマゾンで出版いたします。

     自分で四苦八苦して訳してネイティブの先生にチェックしてもらい
     わいこさんに編集作業をお願いしておりますものです。

   
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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