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リサコラム
連載559回
      本日のオードブル

思い返せばいろいろ
ありまして


第1話


「シェフの裏技」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



思い返せば
スペインの旅でも
素敵な思い出がありました。
丘のてっぺんにあるレストランは
白い壁を半円にくりぬいた明り窓のある
フレンチドアで、常に明け放されてあり、
その先の人口の池を見ながら
食事をしました。
差し込む美しい光は
白い壁にかかっていた
ピンクのレースカーテンを
際立たせていたのです。
料理の内容はもう忘れて
しまいましたが
確かにその味には裏技を感じたのです。

 
      
  





       


第1話  「シェフの裏技」




 「ええ、それは重々承知しております」S氏の丁重な言葉の向こうでカチャ

カチャと食器の触れ合う音だけが響く。


 「先方にも大変人気のシェフでいらっしゃることは伝えております。ですから、

ええ、すぐにお返事が難しいことも承知しております。しかし、ぜひ、そのウェイ

ティングリストに加えていただきたいのです。ご返事は今でなくてももちろん構い

ませんが、どうか日本にお帰りの際には私の依頼人のパーティをお願いをできませ

んでしょうか?」電話の向こうから慌ただしいキッチンの様子が漏れて来た。


              


 「ちょっと待っていただけません?それとも後でおかけ直しくださいますか?」

相手は丁重な言葉で周囲の慌ただしい様子を伝えた。


 「いえ、いえ、いえ、もちろん….S氏は頭を小刻みにブルルルと震わせた。

「もちろん、このままずっとお待ち申し上げます。お忙しいところ、恐縮でござい

ます。どうぞ、どうぞ」電話の相手はしばらくその場から離れたようだった。



               


 S氏はじっとケイタイを耳に当てたまま、息を殺していた。食器の鳴る音がやっ

と止んだかと思うと、ざわざわと風の音が聞こえる。「ああ、あれだ。あの、あれ

だ。オリーブの葉のこすれる音だ!」S氏は2年前にスペインのグラナダから延々

と続くオリーブ畑を取材で行ったときのことを思い出した。きっとシェフはこのケ

イタイをあの芝生の上のサービング用のテーブルの上に置いてゲストの元に走った

か下の人間に指示を出しているに違いないと思った。


               


 S氏はケイタイを耳に挟んだままでここ数週間この著名なシェフとコンタクトを

試みた回数を右手の指で数え始めた。そして右手だけで足りなくなるとデスクの

上に置き、すぐにスピーカーモードにしてから、左手で続きを数えた。

 「10回とはいわないな」


               


 スペインのパラドールに取材に行った際、地元の日本人ガイドを頼んで人気のレ

ストランに行ったのが、そのシェフを知った最初だった。その時はそのレストラン

にも料理にもさして期待を寄せて行ったわけではなく、取材旅行先で何か地元のお

いしい食事を食べてみたかっただけのことだった。


               


 濃い緑とシルバーの葉裏を輝かせるオリーブの木が一斉にざわざわと葉音を立て

るオリーブ畑を過ぎると、紹介されたレストランのあるホテルはそのオリーブ畑と

町を見下ろすごつごつした岩肌の丘の上に立っていた。


 乾燥した茶色い地面からむくむくと隆起してできたかのようなその茶色い石づく

りの建物を前に地元の日本人のガイドがS氏一行を待っていた。


               


 「ここは13世紀に要塞として作られた建物の跡で、700年後の1957年に

史実に基づき当時と同じ姿に復元された建物なのです」岩ばかりの丘のてっぺんに

あるそのレストランのあるホテルは青い空を背景にオリーブ畑と町を見下ろす絶景

を得ている。S氏の一行はそのガイドの案内でホテルのエントランスから中に入っ

た。40度近い灼熱なのに、回廊は外の暑さを忘れるほどの冷気が漂っていた。


              


 「今でもときどき、兵士の恰好をしたゴーストが出るようです」ガイドの声は

S氏の背筋にさらに冷たい冷気を浴びせた。しかし、回廊を過ぎて中に入るとその

様子はS氏の期待をすばらしく裏切ったことがわかった。


 レストランは白い柱の間からオアシスのような人口の池に出ることのできるテラ

スがついており、半屋外のスタイルになっていた。


               


 白いクロスのかかったテーブルの上には青い絵具を手でポトンポトンと落として

いったようなしゃれた皿が並び、その上に何枚もの羽を広げたような白いナプキン

が今風のセンスを醸し出している。「ここはホテルとして開業してから、歴史と絶

景ゆえに人気はあったのですが、やはり都会のホテルと比べるとあまり垢抜けず、

セレブな雰囲気もしなかったようなのです。歴史はあっても、やはりセンス優先の

時代ですからね。そこに1年ほど前、ひとりの日本人のシェフがやって来ましてか

らは、その料理が評判になり、さらにそれを聞きつけて、今では日本からの観光客

も、そして著名人もやって来るようになって、そのためホテル全体の内装や客室の

設備までイメージを保ったままでセンスよく変わったようでして


             


 「その、シェフには会えないでしょうか?」S氏はガイドの話を遮った。

「それがなかなか難しいようです。国内だけでなく、海外、日本のホテルからもヘ

ッドハンティングが来ているようで、もしかしたら今日もあちこちと飛び回ってい

るのかもしれませんし」「シェフの人気でホテル自体をセンスUPしてしまうとは

きっとすごい人物なんでしょう。ぜひ、会ってみたいな~面白い話が聞けそうです

ね」「噂によれば、彼は料理の腕だけではなく、若い人間の育成にも、そして交渉

術にも長けたビジネスマンでもあるようなのです。きっとそのうち支配人も彼の影

響力を認めざるを得なくなるでしょうね。よそに行ってしまわれたら元も子もない

ですから」


 S氏は話を聞くうちにどうしても取材を申し込みたいと思った。「なるほど、ま

すます会いたいですね。日本に戻ったらすぐに上の人間に報告をして、宣伝しまく

りたくなりました」


               


 S氏一行はガイドの説明を聞きながら一皿ずつ料理を堪能した。それはこの地域

名産のオリーブをふんだんに使いながら、和のアレンジを加えた斬新なもので、最

後はこの土地のごつごつした岩肌を表現したデザートで完成した。すべてがナイフ

を入れるのを躊躇するほどに美しく美味だった。「さすがに素晴らしい料理と、そ

してサービスです」S氏がそう言うと、「先では1年の3分の1を日本で仕事をす

るそうで、日本に戻ったらしかるべきパーティのケータリングサービスなどの面白

い企画もしているようです」「ほう!そうですか。それは楽しみですね。ぜひ、だ

れかを誘ってパーティを催したいものです」「しかしですね、」ガイドは小声にな

った。「しかし?」S氏は聞き返した。「ここのシェフはまあ、職人気質のような

ところもあって、気に入った相手のパーティしか受け付けないようなのです」「あ

あ、なるほどね、気に入った相手とね~」「ええ。まずは相手を知った上で、さら

に順番待ちだそうなので、簡単にはゆかないようですね。まずは代理人であるアシ

スタントマネージャーに連絡を取って、それから彼の右腕と言われるアシスタント

が都合をうかがうという段取りを取るようです」「そうですか~なるほどね、つま

り、シェフと直接話ができたら、奇跡的ってわけですね」「つまりはそういうこと

ですね」


               


 S氏の一行はそれから丘を降りてそのホテルを後にした。


 それから2年が経ち、日本でもそのシェフの噂はよく耳にするようになった。

S氏はそんな矢先に知り合いの著名人が新築パーティを催したいからどこかいいケ

ータリングサービスを知らないかと言ってきた。S氏はこれぞまさに、そのスペイ

ンのレストランのシェフに直接会えるチャンスが巡って来たと自分の幸運に感謝し

た。すぐに前の資料をめくってガイドにメールで連絡をつけることできた。


 ガイドは数日後、ケイタイの番号を連絡してきた。S氏はやっとそのシェフと

直接電話がつながり、日本でのパーティの予約を取り付けている最中だった。


              


 「お待たせいたしました」やっと相手は電話口に戻って出た。「ああ、お忙しい

ところ恐縮です。それで、先ほど申し上げましたが、日本にいらしたときにぜひ、

パーティをお願いしたいのです。ご多忙中と存じますが…..」「はい。結構です。

承ります」


              


 「ああ~、そうですか、やっていただけますか!よかった!ほんとによかった。

それでは性急ではございますが、お手続きとか、どなたを窓口にすれば」「私で結

構です」「直接ですか?」「ええ。私がそのシェフの下で働いております、アシス

タントでございます。先ほどお待たせしました間にシェフと連絡がつきましたの

で。しかし、シェフとは面識がおありと私は伺いましたが」「あなたは、アシ

スタントの方?」S氏はちょっとがっかりした。


「ええ、そうです。私が伺いましたところ、2年前、ホテルのレストランでお話を

させていただいたそうですが」「いえ~、そんなはずはありません。私はまだ一度

もお目にはかかっておりません。それはどなたかの間違いでしょう」「そうでしょ

うか?」電話の相手は冷静な声で応じた。「シェフはあなたのことをよく存じてお

ります。あなたのおかげでその後、日本の方もそして著名人もたくさんやってこら

れるようになって、さらに地元に限らず、取材がひっきりなしにやって来るように

なって、こうして今に至ったのはあなたのおかげだととても感謝しておりました。

今ではシェフはたくさんのホテルやレストランの指導もするようになり、大変忙し

い身でございますが、あなた様のご依頼ならいつでも飛んでゆくと申しておりま

す」S氏はしばらく当時のことを思い出しながら、やっと理解できた。


               


 「もしかして、あの、ガイドさんがシェフだったってことですか?」「ガイド?

いえ、ガイドではなくシェフです」

「ガイドさん以外の日本人とは会っていませんけど

「ああ、そうですか、そうなると、つまり、シェフはガイドにも化けられるのです

ね。はっはっはっいえ、実はシェフには変わったところがあって、若い頃は俳

優志望だったらしく、そちらで芽が出なかったので、シェフに転向したようです。

それでもプロモーションビデオにはよく出ていたらしいですけどはっはっはっ

いずれにしても、シェフは料理に限らず、多彩な裏技をもっておりまして....

自己PRもその裏技の一つと伺っております




             
              


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
   リサコラムは今週から
土曜日の更新に変更させていただきます。

   Eテレの「旅するスペイン語」に触発されて、
   人生何度目かの
   スペイン語の習得に再挑戦を始めました。
   以来、スペインに行きたくて行きたくて。
   何度も挫折しているのですが、
   今年はぜひ続けたいと意気込んでおります。

   このホテルはスペインのアンダルシア地方の
   ハエンにある実在するホテルから
   インスピレーションを受けて書きました。
   以前、ドラマで一世を風靡した「ヘンリー8世」ですが、
   その最初の妃キャサリン(スペインでは カタリナ)を偲んで
   この要塞は「聖カタリナの城」と名づけられました。


  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
             



p.s.2
     
お待たせをいたしましたが、
     近日中に下のe-bookの英語版をアマゾンで出版いたします。

     またリサコラムもの、こと、ほんでご紹介をさせていただきます。
   
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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