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リサコラム
連載582回
      本日のオードブル

時代は変わり、
変わらないものは、
ここに存する。


第5話


「営業マンMの
クリスマス会」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




ここは
ちょっと
おしゃれな
イタリアンのお店
ブルー&ホワイトの
ストライプの絨毯に、
ベージュ&アイボリー
ストライプのカーテにだよ
ピンクのレジメンタルの
僕のネクタイは
運気UPと
白い
テーブルクロスに
一番映える色だから。
さて、来年を占う時が来たね。


 
      
  





        

第5話 「営業マンMのクリスマス会」




  営業マンMLEDランプが点滅するツリーを眺めた。およそ2.5mはある

そのツリーには昔懐かしい緑と赤の光が、赤、金、ブルーの丸いボールを輝かせて

いる。


           


 イタリアンレストランの個室風に仕切られた一角に特別に据え付けられたその

ツリーは円卓の下座にあたるMの座る位置からが、実は一番よく見える。


 M は最近流行の、枯れ枝に枯れた葉っぱや紙風船のようなオーナメントらしき

ものがぶら下がったモダンなツリーをおしゃれな店舗で目にする度、薄っぺらい

気分になる。Mにとってのクリスマスツリーは触れば痛い緑のモミの木のツリーで

あり、カトリック系の幼稚園と小学校で飾りつけをした本物の大きなツリーだっ

た。当時、色紙で作ったオーナメントをぶら下げたツリーには今では見かけなく

なったチカチカ点滅する直列の電飾が巻かれていた。直列のため、一つでも電球が

切れると全部がつかなくなってしまうシロモノで、点滅しなくなったら、どの球が

切れたかを探し出さなければならないという難行が待っていた。


           


 そんなツリーにはしごをかけて、最後にてっぺんに星を取り付けるのは、いつも

先生だった。それをMは子供ながら妬ましいほどにうらやんでいた。それから早、

0近くが経とうとしてもやはり、Mはクリスマスツリーを飾ることと、クリスマ

スが1年のうちで一番好きなイヴェントに変わりなかった。


 Mは仕事では営業畑一筋、もう30年になろうとしていた。同僚は昇進したり、

飛ばされたりと人生いろいろな中で、課長Mの営業成績は先細りすることなく、い

つもトップだった。なのに「私は椅子に腰かけて、部下を見下ろしているのは性に

合わないので」と毎年同じセリフを言って、昇進を辞退する変わり者だった。


           


 Mは企業用にお菓子などのアメニティグッズの開発と販売をして来た。商品につ

けるおまけもたくさん作ってきたが、ほぼ8割強の割合でそれらは好評を博してき

た。趣味はお菓子作りとプラモデル作り。ジオラマには果てしない憧れがある。

しかし、3LDKのマンション住まいでは自分の遊び場は望むべくもなく、ジオラ

マは専門店で鑑賞するのみだった。


 そんな少々変わり者のMにはひそかな楽しみがあった。いや、ひそかな楽しみと

言うよりもこの上なく大きな楽しみといってよかった。それは、年末になると業種

も様々な得意先の課長レベル以上3人だけを呼んで『クリスマス会』をやることだ

った。その『クリスマス会』は次第にMの人生における一大イヴェントとなってい

った。Mは毎年、そのために1年かけてアイデアを出し工夫を凝らす。


           


 そして111日、招待状が3人に届けられる。その習慣は次第に社内外で知られ

るようになった。今ではその『クリスマス会』に招待されることは名誉なこととさ

れるまでになり、毎年、今年の人に誰が選ばれるかの予想もされるようになった。

M
のこの『クリスマス会』は始めてから20年が経ったが、未だかつてその招待を

辞退した人間は一人もいなかった。その会の中では一切、仕事の話はしないことが

原則となっている。しかし、それがゆえにMの営業成績は好調なのだともいわれ

た。


           


 今年の『クリスマス会』は、あるイタリアンレストランが選ばれた。メニューも

やり方もいつも通り、出席者の好みを事前に調べ上げた上で数か月前からMが一人

でレストランと交渉しながら、慎重の上にも慎重に決定される。


 会費は一人¥3,000で、これも20年前から変わっていなかった。当然予算には

満たないが、足りない分はMが全部支払う。


           


 そして今年も招待客3人とMはカーテンで仕切られた個室で『クリスマス会』を

始めた。料理を堪能する前に、4人はまず、上着を脱いで、用意してあったモミの

木に飾りをつけ始めることから始めた。そこでいつもながら、ちょっとした言い争

いが起きる。つけ方が違うだのなんだのという子供じみたもので、つまり、これが

いい年をしたおじさん4人が子供に帰る儀式になっている。そして最後に電飾を回

す。ここでもひと騒動が起きる。カーテンの外ではそんなことが行われているとは

知らない他のお客さんたちがその騒がしさに何事かと耳をそばだてる可能性がある

ため、その時はBGMをロックに変えるようにあらかじめレストランに言い渡して

ある。


           


 ツリーに飾りをつけ終えた後は、お待ちかねの生クリームの白いデコレーション

ケーキのキャンドルに点灯をし、歌を歌い、4等分する。そしてケーキとノンアル

コールの発砲性ワインで乾杯をすることも変わらなかった。洒落たオードブルも

洒落た名前の料理もない。その代わり、一風変わったハンバーグステーキ、カニ

コロッケ、ポテトサラダ、クリームシチューという子供向けの料理が並ぶ。それを

食べながらクリスマスケーキを堪能するのだった。


 そして最後に特製デザートが出てくる。○○シュトゥルーデルなどという洋物で

はない。時にはホットミルクセーキにザラメのついた小豆入りのカステラ、白玉ぜ

んざい風のパフェにミロ。マロングラッセ風栗きんとんにホイップクリームの乗っ

たカラメルプリンのパフェにミルクコーヒーなど、まさに子供が好きそうなおやつ

が出てくる。しかし、その最後のデザートこそ、実はMの秘密兵器だった。


           


 これらのお菓子は、Mが自分で試作をしたオリジナルレシピを基にレストランの

協力を得て作られている。Mがこれまで人望を集めて来た理由のひとつがその

『クリスマス会』と最後のデザートのお菓子らしいと、噂は近年、ネット上で流布

した。


 今年は見た目に地味なにんじんとごぼうのドーナツが出された。しかしゲストは

子供時代から野菜嫌いで来た人間ばかりがあえて選ばれていた。M3人がその

ドーナツを口にして、中からゲル状のクリームがとろけ出す瞬間の3つの顔をじっ

と観察した。


 「なんだ、ふわふわじゃないか!これはうまいな!」「Mちゃん、

これなんでできてるの?」「え~、人参とごぼう?うそだろう?」「これ行けそう

だね、次の春の新製品にどうかな?」「ドーナツならどこでも食べられるね。

うん、球場でも売れそうだし」そんな声が飛び交った。


           


 Mはほくそ笑み、心の中でつぶやいた。「うまいに決まっている。だって、野菜

嫌いの僕のために母が作ってくれていたドーナツを再現して、今風アレンジを加え

たんだから。当たり前だよ」


 その内一人がスマホを持って外に出た。そして2人目もスマホを持って外に出

た。さらに最後の一人はごぼうとにんじんのドーナツに何かのヒントを得たらし

く、2個づつ食べたあとで、スマホを握ってまた外に出た。


           


 この会ではケイタイは禁止にしてあるので、どうしても連絡をつけたい時は外に

出るしかない。3人目も出て行ったあと、Mはひとりになった。Mはさっとツリー

の後ろに隠してあったはしごを出して来た。はしごにするすると上ると、2.5m

ツリーのテッペンに銀紙で巻いた星をかぶせた。


           


 Mの『クリスマス会』はこうして終わり、M1年もこうして終わる。



   


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  いつもながら、架空の物語ですが、
  クリスマスの思い出ではやはりグリーンの
  モミの木という方、こんな素朴なパーティは
  いかがですか?
 


  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
             


p.s.2
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。






シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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