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リサコラム
連載749回
      本日のオードブル

あるパリのホテルで

第14話

「もうひとつのRitz」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




グランドピアノのある
縦長のサロンには
モスグリーンの
カーテン
一人掛け
ソファと
コントラスト
を作っている
紫色の絨毯が敷かれ
ています。赤紫の柱には
Ritzの文字が見えます。
モダンで居心地よさそうな
ステキなお部屋のようですが…



 







        

 第14話 「もうひとつのRitz」




「そんな指示はいたしておりませんが」白いマスクのフロアマネージャーは

いつもように、首を傾げながら、後手で腕組みをした。



            


 「指示はしていないって、現にこう変わっているじゃないか!」黒いマ

スクのフロアマネージャーはドアの前からさらに一歩部屋の中に足を踏み

入れると、深く長いため息をついた。後に立っている白いマスクの若いチー

フスタッフは「確かにそうですね」と答えた。「はぁ?」マネージャーは今

度はあっけに取られた声を出した。「誰の指示でこの部屋のインテリアを変

えたのかと私は聞いているのだよ!」「それは、あの、デザイナーの意向

でして」「また、例のデザイナーか?」「はい。あのマダムです」「わかっ

た。すぐにここに呼んできてくれ」「かしこまりました」チーフスタッフは

胸ポケットからスマホを取り出すと部下に電話をかけるために部屋の右の方

に5、6歩移動した。チーフスタッフは要件を手短に伝えるとほぼ1分後、

またフロアマネージャーの元に戻って来た。それから
2人は無言で部屋の中

を歩き回った。しばらくすると別の若いスタッフが部屋に急いで入って来

た。チーフスタッフはそのスタッフをマネージャーに紹介した。


            


 「この部屋をご予約なさっておられるゲストにつきましては、彼が詳しい

内容を知っておりますので、今、こちらに呼んで参りました」と言った。

フロアマネージャーは20才そこそこに見えるうら若いスタッフに軽く挨拶

をすると腕組みをした。「君もこのホテルの輝かしい歴史について十分な

知識はあるはずだと思うがね、まずは、質問だ。リッツのこの場所だが、元

は誰の邸宅だった?」若いスタッフは臆せず、「はい。それは、ホテル王と

言われた、セザール・リッツです」と答えた。慌てた横のチーフスタッフ

は、「大変失礼いたしました。私の教育が行き届かず、訂正をさせていただ

きます。伝えられるところによりますと、このヴァンドーム広場にあった

お邸はアンリ4世の愛人のガブリエル・デストレの長男でセザール・ド・

ブルボン、つまりはヴァンドーム公の邸であった場所だと言われています。

その後、数人の貴族の手に渡りましたが、セザール・リッツはこの地に

1898年…」「もう、結構。それから先は言うに及ばない」マネージャー

はまたため息をついた。


            


 「それでは、建物の設計に携わったのは誰だ?マネージャーはまた若いス

タッフに向かって尋ねたが、代わりにチーフスタッフがすぐに答えた。

「はい。それはかの有名なマンサールです」「フルネームは?」やはり、

すぐにチーフスタッフが答えた。「ジュール・アンドゥアン・マンサール

です。1690年代に建築されたと言われています」


            


 「もう、よかろう、しかし、君、」フロアマネージャーは、若いスタッフ

の方に向いた。「つまりだね、その17世紀初頭のマンサールが作ったファ

サードのデザインを採用したのが、セザール・リッツであり、設計者はシャ

ルル・メウェス。パリ万博の会議場や数々のホテルの設計に携わった優れた

建築家だ。セザール・リッツはその名を残したが、メウェスの名を語り得る

人間は今では少なくはなってはいるがねしかしだね、私が言いたいこと

は、フランス国民に最も慕われ、紙幣にさえ使われたブルボン家の国王、

アンリ4世にゆかりのある場所に立つ由緒あるホテルとは、いかなるものか

ということをもっと認識して欲しい。リッツはマルセル・プルースト、

ショパン、ヘミングウェイ、シャネルなど著名な芸術家や作家、アメリカの

大富豪だけのものではなかった。第二次世界大戦中はドイツ占領軍の宿舎、

そして負傷兵の病院としての役割も果たしたのだから。そしてその同じ場所

に私たちはいるということをね、」フロアマネージャーは再び、サロンとな

る部屋を見渡した。


            


 「あの柱のいちご色の壁をアンリ
4世なら好まんだろう。それに、グリー

ンの何の変哲もないソファカバー、カーテンはまだしも、上飾りのバランス

はルイ14世が見たらこの先はバスルームかと思うだろう。それに派手な今

風の絨毯の柄は貴族的趣味とはかけ離れている。ここは
NYの某ホテルでは

ないぞ。そもそも、私共の130年の歴史あるリッツに下にカール○○など

とつけて、あたかも私共の由緒正しいホテルと何か関係があるかの如き錯覚

を敢えておこさせているあのホテルチェーンには相応しいかもしれんがね。

それに、あの変なロゴ入りのクッションカバーは許しがたい」フロアマネー

ジャーの顔は紅潮し始めた。


            


 「あの、マネージャー、恐縮ですが、」若いスタッフがチーフスタッフに

耳打ちしたのを受けて、チーフスタッフは仕方なく話の腰を折った。

「実は、この部屋を担当したデザイナーが今、自粛中で来られないとのこ

とです」「なに?自粛中で来られない?他にもっともらしい理由はないの

か?」「ええ、申し訳ございません。今、午後6時でございますので。8時

以降は外出禁止になりますため、こちらにやって来ても、おそらく帰れなく

なるとのことです」フロアマネージャーは怒りの焔を一気に燃やし始めた。

「わかった。いいだろう。しかし、このホテルのロゴのデザインを変えた刺

繍はもちろん、印刷物など私の許可なく作成することは絶対に認められない

から、そのことだけは伝えておいてくれ!」


            


 チーフスタッフは棒立ちの若いスタッフに、モダンな書体でRitzと刺繍さ

れたクッションを下げるように耳打ちした。マネージャーの目の前に気に入

らないものがあった場合は、すぐにそれを取り除くに限る。そうでないと、

彼はずっとその話を続け、怒りはますます激しさを増すということをチーフ

スタッフはよく知っていた。


            


 若いスタッフはまた何かチーフスタッフに耳打ちした。「わかった。

しかし、それは後だ」チーフスタッフは小声でそう言うとすぐにロゴ入り

のクッションをマネージャーの視線から外すようにと促した。


            


 「ところで、ここにはどんな著名なゲストがやって来るのだ?」「いえ、

実はパリの別宅に住んでおられる日本の菓子メーカーの社長さんが、別宅を

リフォームするため、私どものホテルに
3ヶ月ほど滞在なさるとのことでご

ざいました。まあ、長期滞在との事もあり、こちらのデラックスのコネクテ

ィングルームを繋げました。その時のご要望が、まず、クラシカルはあまり

性に合わないから、変更できる部分でいいから、多少モダンなインテリアに

して欲しい。そして自分のパリのアパルトマンからグランドピアノを持って

きたいということでした」「そのあたりの事情は勘案できるが、私たちの

130年の歴史と気品に満ちたインテリア空間を表している部分はどんな有名

なデザイナーでも、王様のお墨付きのデザイナーであっても変えることはで

きないことだけは覚えておきたまえ。そのひとつがRitzのロゴマークだという

ことを肝に銘じて欲しい」「わかりました」二人のスタッフは同時に返事

をした。


            


 マネージャーは直立した二人の前を大股でゆっくり通り過ぎると、ドアの

前で振り返った。「このパンデミックの最中、君たちには新しいアイデアを

出して欲しいと言ったし、私も期待しているが、しかし、私も入社したての

頃は、身の程知らずに自分の力で、このホテルをよくしてやろうと思った。

その時、私も上司に言われたよ、『君がRitzを変えるのではなく、Ritzが君

を変えるだろう』とね」フロアマネージャーはそう言うと、その背中でドア

がカチリと閉まる音を立てた。


            


 それからピンク色のほほをした若いスタッフがチーフスタッフに向かって

言った。「チーフ、これ、どうしましようか?」若いスタッフの腕の中には

モダンなRitzのロゴ刺繍入りのクッションが3個収まっていた。「こちらの

お部屋をご予約のお客様の会社はRITZという商品名のクラッカーを販売な

さっておいでらしいのです。そのため、デザイナーはあえて、モダンなロゴ

デザインのクッションを作っておもてなしの気持ちを込めて置いたのだと思

いますが…やはり、うちのひげ文字のロゴ刺繍のものと交換しますか?あれ

はちょっと古臭いなと、実は私も思ってます」


            


 チーフスタッフは若いスタッフをにらみつけた。「その、古臭いだけは言

うんじゃないよ。ここでは密かに思うことさえ許されない。そんなことはこ

れからもたくさんあるが、マネージャーがおっしゃった通り、君もその内変

えられるだろう、この名前にね」というと、刺繍入りのクッションをポン

と押した。


 「さあ、カバーを交換するだけでいいんだよ、もう一つのRitzにね




  



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

  
 *リサコラムは2021年より毎週水曜日に連載いたします。

p.s.1
 
 Ritzは苗字でもあるので、思惑はいろいろでしょう。
しかし、Ritzはきっとスタッフを変えるでしょう。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
 
 「もの、こと、ほん」は下の写真から、2021年2月号です。


           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
    の英語版です。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。







シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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