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リサコラム
連載531回
      本日のオードブル

かつて

第7話


さんちゃんと
チャイルドの別荘」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


白い別荘は
オレンジがかった
茶色の屋根とひさしが特長です。
石を積んで、窓をくりぬいたような玄関も
とてもイタリア風でしょ。
小さい家ですが、
あひるのプールも
あるし、芝生の庭で寝転がるのもすてきよ。









 
      
  





       


第7話
 さんちゃんとチャイルドの別荘」


「さん、ちゃ~ん」瑠璃子が玄関先から走り出てくると、思い切り大声を張り上げて手を振っ

た。その二の腕はプルプルと左右に揺れ動いた。同時に庭の木々に止まっていた小鳥が一斉に羽

ばたいた。玄関の壁に寄りかかってそれを見ていた長男の三太郎は、その振れ幅は去年よりだい

ぶ小さくなったなと思った。


               


 森に囲まれた別荘地の朝は早くやって来て、長い昼を経て、長い夜を迎える。瑠璃子一家の別

荘はこの別荘地の一番奥にあり、そしてその家の前には左右を糸杉に囲まれ、すうっと空に吸い

込まれてゆくように伸びる白い砂利道が続く。その白い線の上を瑠璃子の二の腕の方めがけて近

づいて来ている小さな動くものがさんちゃんであることに間違いなかったが、まださんちゃんが

着ているシャツがブルーかボーダーかは三太郎には判別がつかなかった。


               


 三太郎は昨年できた庭先のプールの前の階段を3段上ってさんちゃんの姿をじっと観察した。

そして、さんちゃんの乗った自転車がシャリシャリと土の上とこする音を響かせるようになって

やっと、さんちゃんの着ているシャツがブルーのボーダーだとわかった。


 小学校時代から水泳部に所属している姉のまるこが、まるで「あひるの池」だと文句を言うそ

の真新しいプールでまるこは朝も早い時間から泳いでいた。そんな時は、母親の瑠璃子が薄いピ

ンクのシフォンのワンピースを着て、それはときにブルーや花柄の時もあるが、やはり朝早くか

ら玄関先を出たリ入ったりしていた。


               


 瑠璃子のシフォンレースのワンピースはオーダーメイドでミディ丈という丈らしく、袖はフレ

ンチスリーブで蝶の羽のようにふわふわと浮き上がっている。それを着ているときの瑠璃子は母

親ではなく、着飾った女性のように三太郎には見えた。二人がそんな風に朝からそわそわしてい

るときは特別な日だった。つまり、さんちゃんがやって来る日なのだった。


               


 さんちゃんとはこの別荘地のよろずデリバリー係だった。この別荘地は環境を守るために車の

乗り入れを禁じているから、別荘にやってくると、入り口の管理人室の前に車を停めて、そこか

らはみな自転車に乗り換えてそれぞれの自分たちの家に赴く。そのため日々の糧は初日に自転車

で運べる分とその後のさんちゃんたちデリバリーマンのお世話になる。つまり、この便利な21

紀にキャンプ生活のような暮らしをする不便をあえて楽しむためにここの住人はやって来るとい

うわけだった。


               


 瑠璃子の家はその別荘地の一番奥まった場所にあるため、デリバリー係の、特にさんちゃんは

命綱に近いくらいの存在をもって、家族からは大事に思われていたし、そしてやはりさんちゃん

はどの家でも人気者で、よく夕食やパーティに誘われることもあった。ときにはその家に泊まる

こともあるようだった。


 さんちゃんは別名、“チャイルド”とも呼ばれていた。その理由をあるとき、三太郎は姉のまる

こから聞いた。それはいつものようにさんちゃんが配達に来て、母の瑠璃子と話し込んでいると

きだった。


               


 まるこは「ねえ、さんた、あなた、知ってる?」とデッキチェアの横を走り去ろうとした三太

郎を呼び止めて言った。「さんちゃんってほんとうの名前をチャイルドっていうのよ」「へえ、

そう」三太郎はいつものように冷静な、およそ子供らしくない表情で答えた。「ねえ、チャイル

ドって、英語、わかってる?」中学1年のまるこは小学3年の三太郎を上目遣いで見ると左の口

元をちょっと引き上げていった。「知ってるさ。子供って意味だよ」と三太郎が言うと、まるこ

は「あのね、サンちゃんのはね、同じチャイルドでも違うのよ」と言った。


 「違う?」「そうよ。上にロスがつくのよ」「ロス?」「そう、そのうちわかるようになるけ

、ロスって、アメリカのロサンゼルスじゃないのよ。ロスって、なくすって意味よ。つまりロス

トチャイルドって意味らしいわ」三太郎は不思議そうな顔をした。「ロスチャイルドって、その

昔の大富豪なのよ。大財閥、つまり大金持ちってこと。さんちゃんはその子孫にあたるんだって

よ」「へえ~」三太郎はそれでも大した関心を示さなかった。


               


 「戦争中にそのロスチャイルドの子孫はヨーロッパからみんなアメリカに逃げて、そして散ら

ばったらしいわ。それで、戦争が終わってヨーロッパに戻ったらもうどこかよその人間たちが占

領したりしていて住めなくなってて、さんちゃんの一族も結局ホテルに変わったドイツのロスチ

ャイルド家の元別荘に住み込みで働いていたらしいわ」

 「ふ~ん」三太郎は半ば納得したような返事をしたあと「僕たちもどこかに行くってこと?」

としばらく沈黙してからぼそっと言った。


               


 まるこは「お父さんはやっぱりずっと海外だから、まあ、夏だけはずっとここに来ることにな

るんじゃないの?でも、お父さんもお母さんもお互いにもう飽きちゃったみたいだから、来年は

どこにいるのかはわかんないわね」三太郎はまるこが昨年の夏、そんなことを言ったのを思い出

しながら、じっと近づいてくる自転車を観察していた。


               


 きゅっと、さんちゃんの自転車が玄関先の砂利の上で止まった。「わ~、さんちゃん!うれし

いわ。お久しぶり~、今年もどうぞよろしく。今日はね、あなたの大好きなレモンのメレンゲパ

イを焼いたのよ。ねえ、お昼までは時間あるでしょ」瑠璃子は早速、さんちゃんを独占した。


               


 さんちゃんは手に抱えて持って来た花かごをまず瑠璃子に手渡した。かつての大富豪の子孫で

そして地主でそして、デリバリーマンだというさんちゃんは、花かごにダイヤの指輪の箱をそっ

と忍ばせて、今年の夏、初めて瑠璃子一家の別荘に配達にやって来た。


 さんちゃんは三太郎を見つけると「おかえり」と手を振り、ボーダーのシャツを引っ張って見

せた。


               


 三太郎も去年の夏、さんちゃんにもらったさんちゃんとおそろいのブルーと白のボーダーのシ

ャツを着ていた。この夏からはさんちゃんは三太郎の父親になる。


    


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 ドイツ、フランクフルト郊外にある、ロスチャイルド家のヴィラは、ヴィラ ロスチャイルド ケビンスキーと呼ばれていますが、前は、ホテル・ゾーネンホーフでした。
以前、ロスチャイルド家のドキュメンタリー番組をテレビで見たとき、
その独特なシノワズリーのような外観に魅せられました。
行ったみたいホテルの一つです。


 「もの、こと、ほん」は下の写真から。

           
           

p.s.2
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Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



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  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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