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リサコラム
連載537回
      本日のオードブル

饒舌な場所


第1話


「ローズホテルの絵」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



わずかに
グレーがかった
絨毯のベッドルームは
アイボリーホワイトの
天蓋カーテンのかかったベッド
そして白いカーテンの向こうには
鮮やかな芝生の小さな庭があります。
赤い花をたわわにつけたオールローズの木は
ずっと端正込めて育て上げた自信作です。
いえ、すべてが実はそうなのですが。



 
      
  





       


第1話
 「ローズホテルの絵」



「秘密の花園だね」とカウンターの中心あたりでマティーニを飲んでいた若い方の男

性はショートの髪をきちんとなでつけた女性のバーテンに向かって言った。「子供の頃

に読んだよね、わがまま娘が両親を亡くしてから、叔父の大きな家に引き取られる話だ

よ。そこにこんなベッドが出てくるよね」


               


 バーテンは「そうですか。よくごぞんじですね」と言った。ふたつ椅子を挟んで横の

中年の男性はちらと若い男性を振り向くと、「ほう、そうかもね。でもバーネットは好

かんがね」と冗談めかした感じで言うとすぐに出て行った。


               


 しばらく黙って飲んでいた先の若い男性はまたカウンターの後ろの大きな絵をまたじ

っと見ながら、「バーネットって何だっけ?」と言ったとたん、またすぐに、「ああ、

『秘密の花園』の作者か、はん、はん」と首を縦に数回振ってから、まだ口をもぐもぐ

させたままでコートラックからひょいと自分のコートを取り上げると肩にかけて出て行

った。


               


 この雰囲気のいいバーはオフィス街の谷間の一角にあり、中庭のような広場には小さ

な運河に見立てた人工の川が流れ、雰囲気はさながらヨーロッパの古都のようにノスタ

ルジックな匂いを放ち、それは洒脱な気分を好む人々を引き寄せていた。


               


 その中でも際立ってセンスのいい小さなこのバーは、オーナーでもある女性のバーテ

ンが20年がかりでやっと出した自分の店だった。昼間は営業せず、17時を過ぎると、

バラが彫り込まれた木彫りの看板が掛けられて、開店となる。その木彫りの看板には

「ローズホテル」とちいさく彫刻されていたが、その名が店の中でも聞かれることも、

また「ローズホテル」という名がなぜ、このバーにつけられているのかと問い正す客も

まだいなかった。


               


 店の中はカウンター席のみのため、大半が一人客で、場所柄、世界中いろんな場所に

行った経験を持つ商社マンやオフィスガールがほとんどで、週末をのぞく毎日、サラリ

ーマン風の男性や時には女性が入れ替わり、立ち代わり入ってくる。さらに店内ではス

マホ禁止を掲げているため、約半数のゲストは黒っぽいビールやカクテルを黙って飲ん

で帰り、そして残りのゲストは、バーテンに話かける。


               


 そのあとバーテンに親し気に話しかけて来た2人目の客は、黒い高級テイラーメイドと

わかる服を着た男性で、やはり黒ビールを注文して、ぐいと一口飲むと、「ふ~ん、な

かなかいい店だね、それにいい絵じゃないか」と、明るい内装の細長い店内を見渡した

後で言った。それからバーテンとしばらく世間話をした後、大股で歩いて立ち去った。


               


 店が一旦だれもいなくなってから、また一人の饒舌な若い女性がふらりと入ってきた。

明るいグレーの床にこつこつとヒールの足音を響かせながら、カウンターの上の丸い卵

型のペンダントライトを眺め、その3つ目のペンダントの下に座った。すぐに店の中を

見渡した後、しばらくメニューを眺めてから明るい声で「お勧めは何です?」と聞い

た。

 バーテンは紺地に白い水玉の蝶ネクタイをちょっと直してから、「ホットワインで

すね」と答えた。「それじゃ、それを」女性はひらひらしたシフォンレースのスカー

フをくるっと後ろにまわしてから、カウンターに肘をつき、組んだ手の甲に顎をのせて

から絵を見た。


               


 「きれいね~。ここ、どこです?」「さあ、どこでしょうか。私もよくは知りません

が」とバーテンは答えると、すっと女性の方にホットワインのグラスの乗ったコースタ

ーを押した。「ふ~ん」女性は手持ち無沙汰に手帳を開いてからぼんやり眺めた後、

「ああ、わかった!ここ、ザルツブルクのホテルじゃない?私、以前行ったことがある

わ。きっとそうだよ。だって、この大きなベッドに白い天蓋カーテン、それに、大きな

枕がたくさん。そうよ。庭にはバラがいっぱいで、夢みたいな場所だったのよ。名前は

思い出せないけど」とバーテンに空のワイングラスを押しながら言った。


               


 「そうですか。よくごぞんじですね」とバーテンはそう言うとにっこり笑みを送った。

「ええ。それはそれはすてきでね。もう一度行きたいわ~。そのうちにね」と言うと、

2
杯目のワインも飲み干して、あっさり席を立って帰って行った。


               


 それからやって来た饒舌な客はいつの間にか座っていたエグゼクティブぽい男性で、

「甘さ控え目のレモネードとフィッシュアンドチップスをもらおう。まだ仕事中だから

ね」と言ってから、バーテンの後ろの大きな絵を一瞥した。


               


 「ほう、いい絵だね。これは誰の絵なのかな?」言った。「それが私にもよくわから

ないもので」とバーテンが答えると、「そうか」と男性は言い、しばらくはレモネード

をすすりながら本を読んでいたが、「どっかで見たよ、ここ。ああ、あれだ!あれ、あ

れ、こんな専用のバラの庭があったし、このゴージャスなベッドだよ!ベルエア―じゃ

ないか!テレビで見たことあるよ。ちょうどこんな感じの大きな天蓋のあるベッドがあ

ってさ、ハリウッドスターの隠れ家だよ」とだんだんと口が軽やかになった。


               


 バーテンは静かにグラスを洗いながら、「よくごぞんじですね。私はホテルのことは

よく知りませんが」と言った。「だから、ベルエア―だよ。カリフォルニアのね」とま

たじっとまた絵を見つめながらレモネードをすすった。


              


 バーにはそれからは無言の一人客が入れ代わり立ち代わりやって来て、そして今晩も

閉店時間となった。


               


 バーテンは今晩もポップス流しながら満足の表情で店の掃除を終えた。絵は自分で書

いた自信作で、絵の中の部屋は昨年やっと持てた自分の家だった。


               


 バーテンは口笛を吹きながら木彫りの看板をゆっくり外した。


    


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
 自慢のお部屋ができたらそれを今度はみんなに見せて評価してもらえる
場所を作る。本末転倒でも、そちらの方がきっと幸せでしょう。



 「もの、こと、ほん」は下の写真から。2017年1月号が始まりました。

           
           

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
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