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リサコラム
連載557回
      本日のオードブル

秘密基地はバラの香り


第7話


「オレンジの香りのする
バラをください」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



天井高は
3m20cmもあります。
そのすがすがしく広々とした
スイートの正面の壁にミモザのような
黄色いオレンジのクロスを貼りました。
その手前には2m幅のキングサイズのベッド。
ベッドスプレッド、クッションカバーも、
クロスと同じ柄の生地で
作りました。
左右のサイドテーブルは
オードリーのナイトテーブル
黄緑のクリスタルのシャンデリア
ベッドの左右には白いシルクのレース
窓も白いシルクのカーテンと
レースのシャープシェード
その美しい光景を
オードリーの
ソファに
寝転がって
眺めるのです。
ただただ美して、眺めるのです。


 
      
  





       


第7話 「オレンジの香りのするバラをください」



 「時ちゃん、エマージェンシーです」コンシェルジュデスクの彩香からハウス

キーピングの主任の時子に電話が入った。


              


 彩香は自分のロッカーの前に立っていたが、その電話のベルにつられたかのよ

うに激しい雨粒がバタバタと時子のデスク横の窓をたたき始めた。時子はスチー

ルの取手にかけたその手を止めた。

 「はい、どうした?」彩香は素早くしかし冷静な声で応じた。


              


 「急遽、例の王女様がお見えになることになって….」「例の王女様って」彩香

はうるさく窓をたたく雨音を避けるように、受話器を持って自分のロッカーに頭

を突っ込んだ。「ごめんなさい。どのプリンセス?いつ?」彩香は小声で、「あの

マニキュアの、ほら、とてもきれいな」と時子に記憶のカードキーを渡した。し

かし、時子はそれがどの扉のものなのかとっさにはわからなかった。「マニキュ

ア?」時子にはマニュキアとプリンセスがまだ扉を開くヒントにはならなかった。


 「あの、オリジナルのマニキュアのプリンセスね。ああ~、思い出したわ。は

い、はい、なんでもそのカラーに塗られる方でしょ。部屋の壁も洗面室も、ベッ

ドも、そしてあのフライングレディもでしょ?」「そうそう、その方」時子の記

憶の扉とカードキーがやっと合致したようだった。時子はスチールのロッカーか

ら頭を出した。


              


 「それで?いつ?いつお見えになるの?何すればいい?何かいるものがある?」

彩香はたて続けに言ったあと、彩香の返事を待った。


 「あと50分後。正確に言えば、あと51分30秒ほどね。1時間あればまだよ

かったのに。50分しかないの」彩香はそれを聞いて「ひゅ~」口笛を鳴らして

から「最上階のスウィート、まだなのよね~」と言った。「準備できていないの

はわかっているんだけど、その新しい部屋をご指名なのよ」と彩香は少し困惑し

た声を出した。「前任者の時はこんな急遽な要請はなかったって聞いていたけど

ね」と彩香は地響きさえ感じる雷鳴に動揺を押さえながら、「リニューアルが完

成していないのはわかっているんだけど、でも、カーテンさえあれば、家具は他

の部屋から、なんとかなるから。最上階のスイートをとてもお気に入りなのよ」

と言った。「問題って、それだけね?」時子は彩香に念を押しながらもスタッフ

にメールで指示を出した。


              


 彩香は冷静に続けた。「最上階はほかの部屋より天井が30cmも高いから、他の

部屋のカーテンでは丈が合わないでしょう。問題はそこなのよ」彩香の『問題』

に時子はすぐに解決策を提示した。「カーテンの丈を30cm伸ばすしかないわ」

「30cmも伸ばせるものなの?」彩香は不安げに聞いた。「そのままなら無理。

ほどいて別のテープを挟んでデザインのように見せるしかないわね。ペンギンリ

フォームに持ってくわ!すぐに」そのやり取りの間に時子のデスクの上にはハン

ガーにかけられ、ビニール袋に入った白いシルクのカーテンが置かれていた。

「できるの?」「できるも、できないも、あと49分24秒しかないんでしょ。

やるっきゃないわ」時子はロッカーから自分のバッグと靴を出して履き替え、ロ

ッカーの扉を閉めるとガタンとスチール同士がこすれあう金属音が鳴った。そし

て外に出ると廊下を小走りに走った。


              


 「今からすぐに持って行けるスタッフいるの?そのペンギンリフォームってと

ころに?」イヤホンから彩香の声が聞こえる。「わたし。車で5分以内だから。

今、上がるところだったけど、大丈夫。大至急仕上げてもらってる間になにか必

要なものがあれば、買い物もできるけど。他に何かある?」時子は息を弾ませな

がら、キッチン脇のパントリーを抜けて、ワイン倉庫を抜けて非常階段を駆け降

りると地下の駐車場に出た。


               


 「それでカーテンのデザインだけど、あの部屋はオレンジ色の壁紙に張り替え

て、同柄のオレンジ色のベッドスプレッドとヘッドボードをコーディネートした

ばかりだから、カーテンの裾に挟むテープの色は同系色のオレンジで合わせてど

うかしら?わたし、前に、急なパーティに来てゆく服がなくて、そのペンギンリ

フォームのお店で同じようにやってもらったことがあるの。ものの6,7分で仕

上げてくれたわ。そのドレスがなかなかの好評で、だれもリフォームだなんて思

いもしなかったみたいよ。だから、今回もきっとうまく行くと思う。それにさっ

き出るときメール送ったからきっとオーナーがスタンバイしているはずよ」時子

はよどみなくそれだけ言うと車を発進させて駐車場の坂道を上った。


              


 耳に突っ込んだイヤホンから彩香のほっとした溜息が聞こえた。「ありがと

う。時ちゃん。それじゃ、バラのルームミストもいつものフレグランスショップ

に寄って買って来てもらえるかしら?連絡しておくから」「わかった。他には?」

「他はこちらで全部手配するから安心して。それじゃ時ちゃん、くれぐれも安全

運転で」「OK。任せて」「ほんとにありがとう。助かったわ」彩香は電話を切っ

た。


              


 時子はペンギンリフォームの前で車を止めるとハンガーにつるしたカーテンを

抱えて店内に走りこんだ。「ホテル・ジョルジュサンドです。メールでお願いし

ていた至急品です」


 すぐにメガネをかけた中年の細面の男性が出てきて、カーテンの包みを受け取

ると「30センチ伸ばすんだよね、テープの色だけど、黄色に近いオレンジって、

こんなんでどうかな?」と時子にサンプルを見せた。「まさに、その色です。さ

すがだわ~」時子はスマホの画像を見ながら確認すると、「それでお願いします。

でも、急ぎでごめんなさい。というより、いつも急ぎしかないですね」と申し訳

なさそうに言いながらお辞儀をすると、オーナーは「それがうちの取り柄だから

ね」と品よく笑うとカーテンを胸に抱きかかえて、「20分以内でできるよ」と

言ってから中に入った。「ほんと、ありがとうございます」時子はオーナーが奥

に引っ込むのを確認するとすぐに車に乗り込んで、その先のフレグランスショッ

プに急いだ。注文のバラのミストは彩香の手配ですでに用意してあった。時子は

2、3分ほどスタッフとおしゃべりをして店内を回って香りを楽しみ、そして先

の段取りをメールで送り、確認し合うと、リフォーム店に戻った。


              


 裾に黄色味がかったオレンジ色のテープが足されたカーテンは元のハンガーに

かけられ、ビニールの中で何事もなかったように静かに時子を待っていた。あと

はホテルに戻って通用口で待っているスタッフにカーテンとローズのピローミス

トを渡せば任務は終了し、時子は昨日の夕方からの長い緊張の一日から解放され

るはずだった。しかし、時子はどうしてもそのスイートの部屋の完成を見てみた

くなった。


              


 駐車場に車を止めると先ほどの逆回転でオフィスに戻り、狭いロッカーに頭を

突っ込んで、カバンを置き、靴を履き替え、ジャケットを羽織った。最上階のそ

の部屋の中には10人ほどのスタッフがそれぞれ慌ただしく家具を並べたりカー

テンをかけたり、洗面室や部屋のいたるところを拭き上げたりしていた。そこに

彩香もいた。


 「お疲れさま。間に合ったみたいでよかった~」時子は時計を見て、予定時刻

にあと123分あることを確認した。「ほんと、ありがとう。時ちゃん。プリン

セスも喜んでくれるでしょう」二人は鮮やかな黄みがかったオレンジに白い花が

浮き出している壁、そして同じ柄と色のベッドスプレッドが一本のしわさえなく

掛けられている美しいベッドを隣のリビングから眺め、そして感嘆の溜息をつい

た。


              


 2mのベッドの脇にはシルクレースのデコレーションカーテンが下がり、幾重

にも切り上がった天井からは珍しいグリーンのクリスタルのステムを伸ばしたシ

ャンデリアが下がっている。眺めている間に、時子と彩香以外、もうだれもいな

くなり、スタッフはそれぞれ元の平常時の持ち場に戻って行ってしまった。


 「今日はほんとうに、ありがとう」彩香は部屋を出るときにまた時子に礼を言

った。「ぜんぜん、わたし、時間に追われるのが性に合っているみたいだから、

また遠慮なく。だって名前が時子だしね」二人は軽く笑い、そして外に出ると手

を振ってそれぞれ反対方向に歩いて行った。


              


 絨毯の上を歩きながら軽い疲労感を感じる余裕を時子はやっと感じることがで

きた。またオフィスに戻るとデスク脇の自分のロッカーに頭を突っ込んでから、

カバンとコートを取り、伝言を確認してから地下の駐車場に向かった。時子の長

い一日もこれでやっと終わる。


 時子は地下駐車場の重いドアを押し開けた。そして愛車のシルバーのオープン

カーに乗り込むとゆっくりと出口に向かった。ラジオをつけるとクラシック音楽

が流れて来た。「キラクラ」というクラシック専門の人気の音楽&トーク番組だ

った。ホテルの仕事をする以前には日曜日の昼下がりによく聴いたものだった。


              


 時子がイヤホンを外すのを忘れていることに気づいたのはその時だった。

 「ああ、時ちゃん、今どこ?あのね、ほんとうにごめんなさい。プリンセスが

ね、オレンジの香りのするバラを100本部屋において欲しいんだって…」




   
              


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  私たちにも困ったときにすぐに引き取りに来て持って来てくださる
  服のリフォーム屋さん、
  側生地があれば、30分以内でダウンをふきこんで羽毛ふとんに作りあげて
  くれる工場スタッフがいます。
  そんな神の手を持つ協力者のおかげで
  仕事ができることを日々実感し、感謝しております。


  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
             



p.s.2
     
お待たせをいたしましたが、
     近日中に下のe-bookの英語版をアマゾンで出版いたします。

     自分で四苦八苦して訳してネイティブの先生にチェックしてもらい
     わいこさんに編集作業をお願いしました。

   
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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