猫ちゃんタオルの秘密　　-秋の夜は不条理なミステリー

レジにこのタオルを持ってこられたら、決まって内祝いギフト。そんなタオ

ルがありました。それも、出産のお返しギフトです。今はもう、そのメーカー

自体がなくなってしまったので、存在しませんが、そんな猫ちゃんタオル

が実は、過去にはあったのです。


その猫ちゃんタオルは、バスタオル、フェイスタオル、ハンドタオル、タオ

ルチーフと４種類。しかしダントツいちばん人気はハンドタオル。それを２枚

とか３枚とか詰め合わせて、内祝いのしをつけます。とてもやわらかい

無撚糸のハンドタオルの真ん中に、アップリケされた猫ちゃんがいました。


来る日も来る日も、私たちは猫ちゃんタオルのギフト作りを受けました。

しかし、不思議と自宅用に買って帰る方ほとんどいませんでした。そのか

わいさのあまり、衝動的に買い物カゴに入れられても又、棚に戻されるの

です。しかしなぜかいつも出産の内祝いギフトには大人気でした。不思議

に思って、私は1枚買ってみました。そしてその秘密がわかったのです。


２５ｃｍＸ２５ｃｍのハンドタオルは、その中央に猫ちゃんが陣取っているた

めに、そのやわらかい部分で手を拭こうとしても、どうしてもその猫ちゃん

で手を拭いてしまいます。かわいい猫ちゃんでも、猫ちゃん自体は固くて

拭いてもあんまり気持ちよくはありません。猫ちゃんはそのかわいさで、　

まんまと、だましていたのです。


「ああ、この猫ちゃんさえいなければ、買うのに。」さっきまで、猫ちゃんの

かわいさに一目ぼれして買い物カゴに入れたのに、すでに猫ちゃんは、

邪魔もの扱いです。猫ちゃんがいなきゃ手に取られもしなかったのに。ギ

ンガムチェックの何色かの生地でアップリケされた猫ちゃんは、タオルの

中央でとても幸せそうにしています。「やわらかいタオルに包まれるように

かわいい赤ちゃんが寝ている。」きっと、赤ちゃんを産んだばかりのお母さ

んの今の心境にバッチリ、はまったのでしょう。そのタオルは、実は、タオ

ルに描かれた、かわいい猫ちゃんぬいぐるみだったのです。もちろん猫ち

ゃんはタオルに張り付いたままです。もちろん、取ることはできません。　

そんな不条理なタオルは世の中にあふれています。　　　　　　　　　　　　　　　　


「木村さんのおうちみたいにシュウ・ウエムラの真っ白いタオルがいっぱい

欲しいんだけど、もらい物のタオルがいっぱいあるから．．．。」　　　　　　

バラちゃんだったり、犬ちゃんだったり、ロゴちゃんだったりが、タオルの中

央に居座っているために顔を拭くときに邪魔になる。だけれど、あるから、

使う。そんなもらい物のタオルたちがいっぱい貯まって、おうちのタオルは

柄物だらけ。ピンクあり、黄色あり、色物だらけ．．。大きなバラちゃんは、

箱に入って詰め合わされたときにいちばん美しい位置にくるようにと刺繍

されています。顔をふくためにあるフェイスタオルのはずなのに、どうして

も真ん中より少し下の、いちばん顔や手をふくあたりにきてしまいます。　

長方形のフェイスタオルや、バスタオルの４隅の邪魔にならないところに

刺繍されていたら何の問題もないのですが、お店で、隅を見せずにたた

まれたら、バラちゃん刺繍はまったく見えなくなります。タオルの素材だけ

で、勝負するのもきびしいから、メーカーは「付加価値」という名をつけて

販売するために、だから、刺繍は４隅ではだめなのです。中央よりちょっと

下でなくてはだめなのです。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　


いまだに、手ぬぐいといわれる長方形の薄いタオルに会社名を印刷した

ものを持ってくる取引先があります。たくさんの白いタオルが並んだ、マダ

ム・ワトソンのバス用品のコーナーで、「本年もどうぞよろしく。」と社名入り

のタオルを受けとりながら、新年のご挨拶を交わします。そんなタオルで

も、○○株式会社とタオルサイズの大きな紙に書いて持ってこられたら、

何の役にも立ちませんが、タオルに書いてあれば、とりあえずは、ガラス

ふきにはなります。そのタオルを見て電話してもらうためにもってこられて

いる訳ではないのですから、新年の大きな名刺と思えばよいことです。


もともと、タオルメーカーもすべてのタオルを心地よく使ってもらいたいとの

気持ちをこめて作っている訳ではないのです。だから、嫌いな柄や色でも

タオルだからと我慢してタオルとして使う必要はないのです。


タオルの素材自体は、実はキャンバスでもあるのです。きれいな刺繍入り

の生地をもらったと思って、巾着にしたり、ランジェリーケースやシューズ

ケースにしたり、猫ちゃんクッションにしてもいいのです。あなたのおうちへ

やってきた時から、それはもうタオルでなくなってもよいのです。そう思え

ばさっきまで毛嫌いしていた猫ちゃんがかわいく思えてくるでしょう。　　　


どんなタオルがいちばん自分の体を心地よく包んでくれるかは、自分がい

ちばんよく知っています。素材も、色も、サイズも、使い方も、好みは人そ

れぞれだから、タオルは自分で買うべきです。それは下着を自分で買う

のといっしょです。タオルだけでなく、シーツや、ふとん、いちばん自分の　

皮膚に近いところのものは、頂き物でなく、買ってもらうものでもなく、自分

のお財布から買うべきだと思います。自分のお財布から出ると思うと真剣

に選びます。簡単に猫ちゃんにだまされなくなります。そのきれいな花柄

のベッドリネンに一目ぼれして買い物カゴに入れたけれど、ほんとに気持

ちいい素材かな？もし、その柄がなかったら、真っ白だったら、ほんとうに

買うかな？そんなふうに考えて選ぶと、本物を見分けられます。　　　　


猫ちゃんタオルも、バラちゃん羽毛ふとんも、「かわいいでしょ。きれいで

しょ。だから、おうちへもって帰ってね。」とメーカーが作り出した「付加価

値」です。「高い値段の羽毛ふとんだったから、買い換えられないの。真

っ白いカバーをかけたいけど、柄が浮き出てくるから、我慢して、ベージュ

にしとくわ。」よく聞くその嘆きは、悲しいです。￥１０００ぐらいのタオルなら

簡単にあきらめもつきます。硬い生地のカバーだけど、綺麗な柄が好きだ

からというなら、カーテンやクッションカバーに作り変えることもできます。

しかし、１０万前後のお金を出して買ったものは、使いたくないと思ってい

ても、なかなか捨てきれないものです。なのに、毎日お世話にならなくて

はならないのなら、幸せを逃しているような気がします。　　　　　　　　　　　　　


そんな不条理なことにならないように、皮膚に近いところで使うものは、　

自分自身の皮膚感覚によく相談してから、自分のお財布から買うべきだ

と思うのです。


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また、来週の金曜日にお会いしましょう。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

木村里紗子