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リサコラム
本日のオードブル
第8回
 ッキー・ロークと
  引き出しと


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
趣味は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
15年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は、夏目漱石、檀ふみ、中谷彰宏、F.サガン
    
              裏切りの部屋
                                リサコ

 


「ミッキー・ロ-クと引き出しと」




「クローゼットは絶対に開けるな」と女に言い残して、電話で呼びだされて

出かける主人公。ミッキー・ローク主演の映画“ナインハーフ”の1シーン

です。1985年の映画だそうです。しかし、その場面は強烈な“裏切り”の

イメージとして忘れられないシーンとなり、私のライフスタイルに大きな影

響を与えました。



お金持ちの遊び人か?前衛芸術家なのか?マフィアか?浮浪者のような

生活をしているかのような神出鬼没で強烈な個性を持つ主人公。その正

体がここ、クローゼットのシーンで暴露されます。どうしてクローゼットを開

けてはいけないのか?家具売り場や、冷蔵庫売り場で、買う気もないの

に取手という取手を、手当たり次第に開けている人がいますが、開けるな

といわれなくても、引きやすそうな取手を前にしたら、開けたくなるのが自

然な衝動です。



さて、その問題のクローゼット、「クローゼットを開けるなんて、そんな無作

法なまねはしないよね。」ときつくいわれた彼女ですが、彼の留守中に、

その正体を知りたい衝動を抑え
ることができずとうとう開けてしまいます。

死体でも入っているのだろうか、あるいは、麻薬か、武器か、ホラー映画

のように何か飛び出してくるのか?恐る恐る、勇気を出してクローゼットの

扉を開けると、そこには、紳士服売り場と見間違うばかり。整然と、美しく

高級なスーツがずらりと並んでいました。引き出しを引くとプレスのきいた

シャツにネクタイが又同じく端正に並んでいます。そこには几帳面な性格

の、きっと仕事も完璧だろう、エリートビジネスマンの姿がありました。彼は

実はロビーストだったのです。



そのシーンを見て、私は、「その人を知るには、その人のクローゼットを見

ればよい。」と悟りました。つまりそれを逆手に取れば、クローゼットを整え

引き出しを整理し、しわひとつないベッドメイクを習慣づければ、
できる

人“になりきることも可能だということです。つまり自分が自分をもだまして

そんな人になりきることもできるということです。今まで悩んでいた私のラ

イフスタイルはまるで霧が晴れたように、決まりました。まず、貯まりすぎ

たベッドリネンを整理し、本当に使いたいものだけに減らしてゆきました。
 
次にタオルクローゼット、ベッドリネン&ふとんクローゼット、パジャマク

ローゼット、書棚&カーテンクローゼットと、少しずつ、少しずつ収納を確立

してゆきました。収納の不満やストレスが解消されると、仕事や他のことに

集中できます。さらに私は職場にも、ミッキーのクローゼットが欲しくなりま

した。会社から与えられた、狭いスティール製のものでは、ミッキーにはな

れません。私は他のスタッフを説得し、丸め込んで、スタイリッシュな、幅

90cm高さ210cmの引き出しも3段ついたクローゼットをそれぞれ自分

たちで買うことにしました。それを一列に並べると、美しいオフィスになりま

した。それに着替えの服が20着、ハンカチ、タオル、替えのストッキング

常備薬などなど、靴も5足から10足もはいります。
                        

私は、夏はTシャツ&ショートパンツのものすごくラフな格好、冬は、ロゴ入

りのナイロンのジャンパーを着て、カジュアルなパンツで通勤します。外で

私を見た人は私とは見分けられないかもしれません。でも、そのクローゼ

ットのおかげで私は1日3回だって着替えられます。フリル系のロマンティ

ックな服が好きな顧客の方がこられたら、急いでそんなボレロをはおり、プ

リーツのスカートにはき替えます。黒しか好まない顧客の方の家に行くとき

は、真っ黒い格好を。反対に真っ白いインテリアが好みの方のところには

白いブラウスや白いスカート、ジャケットなどに着替えてゆきます。職場環

境はそれぞれですから、すぐに真似できるところは少ないと思います。  

しかし、自宅はやろうと思えばどんなふうにでもやれます。



よく女性雑誌のタイトルに“セレブは外見から”というタイトルが掲げられる

ことがあります。それは、どんな服をどのように着こなして、靴やバッグは

どんなものを持てばよいのかアクセサリーは....というものです。外見か

ら入るというのも一理あると思います。セレブでなくてもそんなふりをすれ

ば、そのうちに私生活もセレブらしくなっていけばよいことです。しかし、私

生活がセレブについていかなくて、あるいは間に合わなくて、それが知れ

たときは、幻滅され、信用されなくなるかもしれません。「本当はあの人、

汚い部屋で、ベッドリネンはいつ洗濯したのかわからないような感じ、クロ

ーゼットはぐちゃぐちゃなのね。」なんて思われたら悲しいものです。だ

ったら、ミッキー・ロークみたいに良いほうに裏切られたほうが得ではあり

ませんか?ずるい言い方をすれば、外見がぱっとしなくておしゃれでなけ

ればないほど、ギャップが大きくて、得をするような気がします。。

               

マダム・ワトソンのスタッフは私の2LDKの部屋を宮殿と呼びます。その宮

殿に私は毎日、ナイロンジャンパーに着替えて帰ります。時々、「木村さ

んは、普段はああなのね。ほっとしたわ。」といわれることがあります。見た

目のままの人生もいいですが、ギャップの大きい人生も楽しめます。漫才

のネタみたいに人をも楽しませることもできます。問題は、よいほうに“裏

切られる“か、悪いほうに”裏切られる“か、そこが重要なポイントではあり

ます。


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また、来週の金曜日にお会いしましょう。
                      

木村里紗子 Risaco
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