「バスローブとシャンペンと...」　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　





「バターとシャンペンでソテーした舌平目のムニエル、ワインはシャトー・ブ

リオン..,」ここはパリの豪華なスイートの客室。流暢にルームサービス注文

する脚本家。その電話口の横から、「デザートは、山盛りの野いちごよ。　

シャベルが突き刺さるくらいの濃いクリームを添えてね。」とタイピスト役の

オードリー・ヘップバーンが甘い声で追加の注文をします。ふかふかのバ

スローブを羽織り、シャンペンを飲む脚本家は、優雅な自由人として描か

れます。映画”パリの二人”のシーンです。1963年作。信じられませんが

今から43年も前の作品です。日本ではここ５，６年、シティリゾート系のホ

テルでは、部屋のメニューに“記念日のためのストロベリー＆シャンペン”

が登場するようになりました。パンフレットの写真には、バスタブのコーナ

ーにキャンドルが灯され、そのそばにふかふかのバスローブが置かれてい

たりします。時には、バスタブにバラの花びらが浮かべられていることもあ

ります。でもそんな非日常のサプライズは、その非日常の外では、めった

にやることはないでしょう。そしてそのバスローブもその非日常の小道具の

ようです。


バスタオルに袖がついただけのバスローブがなぜにそんなに非日常の小

道具になったのか？学生のときから、お風呂上りに必ずバスローブを使っ

ていた私には、大いなる謎のひとつでした。バスローブを羽織るだけで、

体を拭く手間なく掃除・洗濯、食事の支度とどんどん動けるのに。一万円

以内でいいものがたくさん手に入るのに。それは口を拭くための５００円の

麻のナプキンという布がいつのまにか高級レストランの小道具に昇進した

のと同じでしょう。１６年接客をしてきて、麻のナプキンは便利ですよ。ワイ

ンのシミも洗っただけで落ちるし、どんどん普通に使ってください。と説明し

てもなかなか受け入れられないのと同じかもしれません。バスローブも同

じことです。薄手のバスローブは動きやすく、忙しい人のためにあるような

ものです。それと反対に厚手でふかふかすぎるものは、全くその用途を果

たしません。実は、このコラムの左横で私が着ているバスローブは、中空

糸のため結構軽いのですが、ボリュームがありすぎて動きが取れません。

何をするにも袖が邪魔になります。だから、実際は、これを着るのは年に

数回です。本当に何もしなくていいときだけです。普段はバリバリ動ける

薄手のバスローブを着ています。そのふかふかのバスローブを着たら、ソ

ファにどっかと座ってシャンペンでも飲むしかないからです。つまり、ふか

ふかのバスローブとシャンペンは必然のベストカップルであるといってもい

いと思います。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　


ふかふかのバスローブとシャンペンには実は、もう一つのパートナーが

います。羽毛ふとん、ベッドリネン、ベッドスプレッドなどまとめて一緒に納

品するときは、私たちがベッドメイクをするときがありますが、先日も会社

社長さんの新居でベッドメイクをしてきました。主寝室、ゲストルームのヘ

ッドボードをふきあげて、アイロンをかけたﾍﾞｯﾄﾞリネンをおふとんにかけた

後、粘着ローラーでホコリを丹念にとって、ﾍﾞｯﾄﾞスプレッドをかけます。　

そこまでした後で、持参した小さい白いクリーマーに小さいバラを挿して片

隅に置きました。すると、そのクリーマーのバラをすごく喜ばれました

ベッドリネンにアイロンをかけてきたことより、ローラーで丹念にホコリを取っ

て、きちんとベッドメイクをしたことより、その小さいバラのアレンジを喜ばれ

ます。花の威力は偉大です。それはきっと生きているからでしょう。そして

最後に、花を飾ることにより、ﾍﾞｯﾄﾞメイキングという一連の行為にストーリ

ーを与えるからだと思います。「さあ、気持ちよくお休みください。」という、

行為者の心が見えるからだと思います。だから、私たちはカーテンをかけ

て、ﾍﾞｯﾄﾞメイキングまでするときは花を持参してその場で活けることにし

ています。　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　


あるいは、シティリゾート系のホテルでは夕食から戻ると、ベッドがターンダ

ウンされています。ﾍﾞｯﾄﾞスプレッドがはずされて、すぐに眠れるようにコン

フォーターの角を三角に折ったり、ナイトテーブルの上に水のボトルが置か

れていたり、小さいプレゼントやチョコレートにしゃれたメッセージが添えら

れていることもあります。ベッドサイドの足元に綿のランチョンマットくらいの

クロスが置かれていることもあります。寝る前に裸足なるからでしょう。そこ

までされたらうれしいものです。さらに私は１輪の花を１階の花屋さんで買

って部屋に活けてといてくださいといって、食事に行きます。するとナイト

テーブルの上に花が添えられることになります。どんな花瓶に挿されてい

るかもホテルのセンスを試せるチャンスです。一人で泊まる方は、ぜひお

試しください。ちょっと楽しいイベントです。普段は、投げ入れの１輪か２輪

でもベッドメイクされた部屋に花が添えられるだけで、寝室が生き生きと

輝いて、癒されるものです。


それを応用すれば、贈り物に1輪でも花や小さなブーケを添えるのは、セ

ンスをUPし、さらに、贈るという行為に特別なストーリーを与えることができ

ると言えます。そしてそのとき、メッセージカードも忘れずに。できればポイ

ントは、ストーリーを持たせることです。素敵なシーンをイメージさせる小道

具を添えることだと思います。花は小さいブーケでも花がしおれてなくなっ

た後もずっと記憶に残るものです。”バラ、シャンペン、いちご、バブルバ

ス”。これらは、ちょっとセンスを感じさせる有能な小道具です。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　



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木村里紗子