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リサコラム
本日のオードブル
第11回

ローリーの寝室


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
趣味は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
15年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は、夏目漱石、檀ふみ、中谷彰宏、F.サガン
        am5:30のキャンドルは、優雅です。
                        

 


ローリーの寝室




am5:30、ミルク色の朝日が差しこむ明るく白い清潔な寝室。         

壁に付いた小ぶりな天蓋から大きなベッドの両サイドに下がる白いカーテン。

ナイトテーブルの上には白い陶器の皿にのった、乳白色のボーティブキャンル

つ。

朝の光の中でさえ、控えめに暖かい光を放つ。

心地よい緊張感も感じる白いベッドリネンのベッド。                

6個か7個の枕。


“シャワーの水圧、すごく強いね。滝に打たれているみたいだ”と、バスルーム

から出てきたサムは、ホワイトハウスの広報部次長。
ロブ・ロウ演じる彼は、  

大統領のすべての演説原稿を書く有能なスピーチライターで、弁護士。
昨日

知り合ったばかりのローリーと短い会話を交わす。                 

ローリーは、弁護士を目指してロースクールに通う高級コールガール。ピロケー

スの端についた白い綿レースが、ベッドの上でサムと会話する
ローリーの動きに

合わせるように動く。
                                           

ハート型の白い陶器製灰皿にセンスを感じさせながら、

美しいローリーは白い襟付きのスリーパーを着ている。                  


“ポータース自転車事故、すぐに出勤せよ。”とのベルのメッセージを見ると、

とたんに
慌しく身支度をするサム。ポータースとは、コードネームで大統領を示

すことをローリーに
教えると、“Ill call you.”(「電話、するよ」) と一言だ

け、言い残して、
ローリーの部屋を足早に出て行く。


自分の寝室以外で私が一番好きな寝室。7年にも及んだドラマシリーズのイン

トロのほんの短いワンシーンです。そんなロングランで続けた、NBCのドラマ、 

“The West Wing”。日本名のタイトル“ザ・ホワイトハウス”。上のシーンは

その第一シーズン、第一話のローリーの寝室の一場面。この美しい寝室のシー

ンは時間にして約30秒。じっと目を凝らして見ていないとあっという間に次のシ

ーンに切り変わります。
これに限らず、ザ・ホワイトハウス”このドラマのすべての

シーンはよそ見していたら、見過ごすような短時間で次のシーンに切り替わりま

す。インドネシア大統領の歓迎晩餐会のシーンから、ハリケーンの進路上に、

空母と護衛艦がいるという問題に移ったかと思うと、トラック業界の労使交渉会

議がもつれた末、怒った大統領が、軍の統治下に置くぞ、宣言。人質犯を取り

押さえたが、交渉人が重態とのニュースに愕然とするスタッフ。食堂のキッチン

で、フランス人の友人の政治犯を釈放して欲しいと、インドネシア側の側近に

裏工作を頼む、広報部部長トビーと次席補佐官ジョシュ。
             


 このドラマは、毎年、各部門でエミー賞を受賞。ドラマ部門では4年連続受賞

するほどの超人気の政治ドラマなのです。日本では3年半、BS2で放送され

たそのドラマを自分で録画したテープが11巻。そのビデオを私は毎日、欠かさ

ず見ます。アイロンをかけるときも、コラムを書くときも、食事のときも、掃除する

ときも、ベッドメイクするときも、先日の撮影のときも、筋も会話もすべて覚えてい

るのですが、いつも、サムや報道官CJやジョシュ、補佐官のレオの声を聞いて

いなくては寂しく感じます。実は私がこよなく愛する、いや、崇拝するリアリテ

ィドラマです。“ザ・ホワイトハウス”は、政治、経済、国際関係問題、多様な人

種間、移民、難民などの社会問題から、予期せぬ災害まで、アメリカが抱える

気の遠くなるような様々な問題に24時間直面しながら、日々戦う大統領と、

その側近たちのドラマ。彼らの強い結束と信頼関係に、きっと心動かされるは

ずです。この人々がアメリカを動かしているんだな、と納得するリアリティドラマ

なのです。
                                                  


また、その大きな魅力の1つは、完成されたすきのないインテリアセンスです。

白黒市松に張られたロビーの床。きらびやかではない豪華さを醸し出すシャン

デリア。ほの暗いライティング。廊下を曲がるたびに壁紙の色が変ります。1

1
つに過去の大統領の名前のついた美しいミーティングルーム、側近たちの個

室、廊下に至るまでに、掛けられる絵画の数々。まるで万全のセキュリティー

を完備した、美術館のようです。忙しく働く多くのスタッフや訪問者の姿が無理

なくそのインテリアと溶け込んで、調和が取れているから不思議です。     


大統領執務室からは、コロニアル風の白く美しいバルコニーに出られます。

護衛が24時間見守る中、凍えるような寒い夜、バルコニーで1人、チェスをす

る大統領の姿。強い意志と決断力を持った姿勢とは別に、ユーモラスで優しく

でも苦悩する人間的な弱さも随所にみせてくれます。それを見つけてチェスの

相手をしにくる、主席補佐官のレオ。40年来の長い無二の親友でもあります。

洗練されたウイットがちりばめられ、記者団の質問をかわす女性報道官CJ・ク

レッグの軽妙なジョーク、秘書のドナ・モスにやり込められながら、間抜けな一

面も見せる、ハーバード大卒の人気者ジョシュ・ライマン。彼は密かに心理カウ

ンセラーに通う、心優しくも、実は政治的裏工作の達人。その人物たちが醸し

出す雰囲気を堪能しながら、1話1話が感動的なラストへと一気に収束してい

きます。そのテンポのよさ、演出センスのすばらしさは誰が見ても賞賛に値する

と思います。人物一人一人の個性がしっかり確立されているため、いつ、どの

場面を、何度見ても、自分のお友達に会っているような気になるのです。“見

る”とうより、私にとっては、“入り込む”“その場に身を置く”という感じがするの

です。だから、365日、何度観ても、見飽きることなく、常に新たな感動を呼び

起こします。                                       


さて今日から、12月。今朝、私はローリーの寝室にベッドメイクして、これから

始まる、1年のうちでも、もっとも忙しい月を迎える準備を整えてきました。
  

長距離バスに、新幹線に、飛行機に乗って、200kmを運転してやってこられ

る方との出会いがあります。感動の手紙や、「離婚しました。でも独立して一人

で新たな仕事を始めました。」という、うれしい旅立ちのメールなども受け取るこ

ともあります。どんな方に会えるのか、どんな相談が持ち込まれて、どんな楽し

い話が聞けるのか、あるいは悲しくつらい話を聞かなくてはならないか、日々、

私たちの毎日もドラマの連続です。だから、今日の最後を平和なドラマで締めく

くって、私を待っているローリーのベッドに戻れるよう、私も努力を続けます。    





                


どうかみなさまも、今年もあと1ヶ月、風邪をひかれませんよう、暖かくして、

気持ちよいベッドでお休みくださいね。                        





また、金曜日にお会いしましょう。                     


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木村里紗子 Risaco
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