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リサコラム
本日のオードブル
第12回

星の王子さま


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つカリスマ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
趣味は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
15年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は、夏目漱石、檀ふみ、中谷彰宏、F.サガン
      ここに飛び降りてきて。届かないから。
                        

 


星の王子さま






 「5年生になったら、あの本を買ってあげるからね。サンテグジュペリの“星の

王子さま”よ」

毎年、叔父、叔母からのクリスマスと誕生日のプレゼントは本と決まっていまし

た。書店の棚の前で、叔母が指差した先は、遥か彼方にありました。小学2年

生の私には、まるで6階建てのビルの最上階にその本は載っているように感じ

ました。児童書のコーナーは、1年生、2年生、3年生と下から順番に置かれ

ています。高学年5、6年生向けと帯の背表紙に書かれたその書物は、ごく薄

く、まわりにある本にはさまれて、でもひっそりと光り輝いていました。


「アルプスの少女ハイジ」、「足長おじさん」、「赤毛のアン」、「小公子」、「小公

女」、「わんぱくニコラ」...今では児童書から消えているものもあります。小学

2年生の私はクリスマスと誕生日がとてもとても楽しみでした。          


”サンテグジュペリ”、“星の王子さま”始めて聞くその響き、美しいネーミングに

2年生の私は打ちのめされました。小公子、小公女にはない、今風に言えば

なんと、センスあふれるスタイリッシュな題名だろう!でも、6階建てのビルの最

上階にある“星の王子さま”に手が届くまでに背が伸びないと、あの本は買って

もらえない。そう考えると、目がくらみそうでした。
                     


学校帰りに毎日、私はその本屋さんに寄っては、ビルの6階に静かにたたずん

でいる、“星の王子さま”に会いに行きました。いつ売れてしまうか気が気では

なかったのです。2年生の私が見上げると、留め金のない私のランドセルから、

ふで箱やら、教科書やらが、バラバラと床に落ちます。あと3年をどうやって過

ごしたらいいのか、途方にくれるほどでした。そして、とうとう見かねてか、叔母

は次の3年生のクリスマスにプレゼントしてくれたのでした。“サンテグジュペリ

星の王子さま、内藤 濯(あろう)訳”です。
                         


ごく薄いそのハードカバーの本には、箱型のブックカバーも付けられ、そこにも

表紙と同じ絵が描かれていました。野性の渡り鳥にたくさんの紐を付けて、星

から脱出する王子さまと、小惑星B612に立つ王子さまの2つの有名な絵が

表裏に描かれていました。わくわくしながら、ページをめくった私はまったく面食

らってしまいました。どこから読み始めていいかわからなかったのです。今まで

読んだ、アルプスの少女ハイジも、小公子も、小公女も前書きがあって、さて

いよいよ始まりますよ、とばかりに、「あるとき、どこそこにこんな女の子がいまし

.」から始まるかと思いきや、始まったのは、ウワバミにのみこまれたゾウ

の絵でした。ウワバミ(ボワ)とはヘビのような生き物で、その細い体で一気に、く

まやゾウをのみこんで、消化するまでの6ヶ月間、身動きできなくなるそうなの

です。作者のサンテグジュペリが子供のころに書いた、ジャングルの恐ろしい

生き物です。「恐くないか?」とその絵を見せると、「何でぼうしの絵が恐いのか

?
」と大人は、相手にしないため、ゾウがウワバミのおなかの中にいる内部の様

子も透かして書いたけれども、大人は、そんなことより地理や歴史や数学を勉

強しなさい。と幼いサンテグジュペリに言ったそうなのです。その物語は、そん

な始まり方なので、3年生の私は、ここは、前書きだろうと、ウワバミのページは

飛ばして読もうとするのですが、するとどこから始まるのかわからないのです。

私は、叔母に「どこから始まるのかわからない
」。というと、「わからないから

難しいのよ。」と叔母は答えました。なるほど、始まりがわからない本=難しい

本。その有名なウワバミの絵のおかげで、その図式を大人になるまでずっと、

信じていました。
                                             


すっかり、読む気を失った私は、ぱらぱらとページをめくっただけで、すぐに放り

出してしまいました。やっぱり、ビルの6階に手が届くまで待っているべきだった

と思った小学3年生のクリスマスから、次に私が、星の王子さまに出会ったの

は、フランス語学科の大学2年生のときです。それも、中公新書の「星の王子

さまの世界-読みくらべへの招待(塚崎幹夫著)」をたまたま、書店で見つけ

て買ったのがきっかけでした。
それは私が今まで抱いていた、「星の王子さま」

とはまったくかけ離れた世界でした。あの中に書かれていたことは、すべてが暗

喩で一つ一つの言葉に深い意味が存在するということ。「星の王子さま」つまり

Le Petit Prince」に書かれている文字数の、何千倍もの、研究書、解説書が

存在するということ。そのとき初めて、飛行士サンテグジュペリという人物を知

りました。リヨンの裕福な家庭に生まれながらも、4才で父をなくし、幼い弟もな

くし、バカロレア(大学入学資格試験)は通ったものの、海軍兵学校の試験に2

度失敗し、挫折を味わい、民間の航空会社に入って、郵便飛行をした経験か

ら、「夜間飛行」は生まれたということ。わがままで気の強い、王子がかわいが

って育てたバラがそのモデルだといわれる、コンスエロという未亡人と結婚した

が、うまくいかない時期も多くあったということ。賞金をかけた飛行に失敗し、

リビア砂漠に不時着したこと。2度の大戦を経験し、飛行機事故で何度も瀕死

の重傷を負っていること。そして、1943年「星の王子さま」はその第2次世界

大戦中に亡命先のアメリカで書かれたということ。そして翌年、44歳で偵察飛

行にでたまま、地中海上空から帰らなかったということ。「Le Petit Prince

は、フランスで飢えと寒さの中で耐え忍んでいる、無二の親友のレオン・ウォル

トに宛てて、と書かれているのは、どんな意味があるのかということ。そしてこの

本は、決して、児童書ではないということ。3年生が6年生になったからといっ

て、その背景を知らずには、深い意味が理解できないということ、です。
     


「星の王子さま」を読んだことある?と聞くと、聞いたことはあるけど、読んだこと

はない。と答える人が多いです。子供のときに読みそこなった本だから、大人

になった今は、恥ずかしくて読めないと思っている人も多いのではないかと思い

ます。そんなことは決してありません。フランス文学者でさえ、40歳で始めて

読んだという人もいるのですから。私はクリスマスが近づくと、真っ先に思い出

すのは、この「Le Petit Prince」内藤濯訳の岩波書店から出された、「星の王

子さま」です。有名な、「心で見なくちゃ、肝心なことは目では見えない。」とい

うキツネの言葉は名言として、この本を語るときに必ず出てきます。それは、名

作は何度でも読み、味わえる理由だということもいえます。            


昔はよく、本屋さんで小学生の姿を見かけたものですが、最近は子供のころ、

名作を読み損ねた、大人ばかりが目立つような気がします。クリスマスに毎年

1冊づつ、子供に名作を贈るのはいいことだと思います。そのときおもしろがっ

てくれなくても、大人になってまた、その本に出会うときが来たら、そのときはも

っと感慨深い思い出になって、また読み返すことができるからです。
        


このクリスマスに、新しい「星の王子さま」を書店で見つけました。池澤夏樹訳

集英社発行のこの本は、紺の布張りに金文字で「Le Petit Prince」と刻印され

ています。紺のしおりにも「Le Petit Prince」の金文字が印刷されています。 

昔、よくやったみたいに、自分の名前と贈る相手の名前を書いてクリスマスに

誰かにあげようかと、考えているところです。     



              


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また、金曜日にお会いしましょう。
                      

木村里紗子 Risaco

  

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