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リサコラム
本日のオードブル

第20回

 ホテル宿泊も戦いの場


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つカリスマ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
趣味は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
15年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は、夏目漱石、檀ふみ、中谷彰宏、F.サガン
.
  「今週はちょっと気を引き締めてくださいね。」
 
          「そうですか。ようじ、落ちてますよ。」
                

 

       


ホテル宿泊も戦いの場                                      




 「リッツのお客さん、イテハリマスカァ?」

ここ数年ぶりに全力疾走した私は、やっと間に合って、出発間際の高速バスに

乗り込んだところでした。「あ、はい、私です!」と手を上げると、15,6人の乗

客の視線をいっせいに浴びます。「いや、違うやろ」車掌さんは、まだ別の人が

駆け込んでくるものと思っています。そして運転手のほうに向かって、でも、全

員に聞こえるくらいの大声で、「リッツのボーイさんから、今、電話あったんや。

リッツのお客さんが今、キテハルトコロヤカラ、ちょっと出発、待って欲しいて」。

「いえ、私だと思いま~す」と、後方の席から注目される恥ずかしさをしのんで

叫んでいるのに、一向に信用してくれません。
「出発お願い致します。私のこと

ですから。ホテルから、そこまで一緒に走ってきたところだから、私に間違いな

いです」。そう言ってようやく納得した車掌さんは、運転手に出発OKを出しまし

た。


 「いったい誰が電話までしてくれたんだろう?あのフロントの男性かな?ホテ

ルマンの模範みたいな人だったし、伊丹空港行きの高速バスの出発時刻を教

えてくれたから。きっと彼に違いない」つい先ほど、ホテルに預けた荷物を受

け取りに行ったとき、すでに最終の高速バスの発車時刻まで、6分を残すのみ

でした。すばやく荷物を出してきたベルボーイは、一緒に出口まで走って先導

してくれました。しかし彼が指差した高速バスの停留所は、私には、遥か遠くに

かすんで見えました。「これに乗り遅れたら、変更のきかない格安チケットは無

駄になる。明日は、仕事」その思いを気力に変えて、必死で走り、息を切らし

て乗り込んだ私です。
福岡空港に着くと、感動覚めやらぬ私は、真っ先にリッ

ツ・カールトン大阪にお礼の電話をしました。しかし、フロントのスタッフはみな、

心当たりないとのこと。「さっきいた全員が今、いるわけではないですから」と、フ

ロントの女性は、ちょっとめんどくさそうな雰囲気。疑問は残りながら家に帰り着

くと、留守番電話にメッセージが残されていました。フロントの模範ホテルマンT

さんからです。「バスの車掌にお電話差し上げたのは、ベルボーイのSです。バ

スには間に合われましたか?お礼のお電話ありがとうございました」。すぐさま、

折り返しの電話をすると、ベルボーイのSさんは、お客さまのご案内でそこには

いませんでした。先ほどのフロントの模範ホテルマンTさんに、「私、高野さんの

本を読んで、ホントかどうか、確かめに来たんです。どうか、ありがとうございま

すと、お伝えください」。と少し話しをすると、「そうですか。またぜひお待ちいた

しております」とTさんは感じのよい返事をしました。                


 高野さんの本とは『リッツ・カールトンが大切にする、サービスを超える瞬間」』

という高野登氏著のベストセラーです。リッツ・カールトン日本支社の代表を務

める方らしく、私もマダム・ワトソンのスタッフも、その本にかなり大きな影響を受

けているのは事実です。書かれていることをちょっと確認したくて、実は用も

ないのに、ウォーク・インでリッツ・カールトン大阪に宿泊した私です。本来は飛

び込みで予約もなしにホテルに行くのはよしなさいと、中谷彰宏さんの本にも、

田中康夫さんの本にもたくさん書かれているのですが、それも第一関門のつも

りです。「何の、プランでもいいです」と言う私に、フロントマンTさんは、画面を

見ながら「ありがとうございます。3年ぶりですね」キーボードを打ち続けて、「あ

いにく、クラブフロアは満室で、ツインしかございません」。実は、これも代理店

に聞いて知っていたこと。「では、お一人様の一番シンプルな朝食付きのパッ

ケージでおとり致しましょう」。模範ホテルマンTさんは、きりっとした態度で、ウ

ォーク・インの客でもちゃんとお得なパッケージを提示します。さあ、第一関門

は何なくクリアです。でもそれから、私の繰り広げる、厳しい試練にリッツ・カー

ルトンのスタッフはさらされることになります。                    


 まず、ホコリが少々積もったレースカーテンを取り替えてもらえるのかと、つい

でにバスルームをもう一度掃除して欲しいとお願いしました。実は私はホテル

の部屋に入ったら、真っ先にすることがあります。
それは、バスタブにシャワー

の水をかけることです。すると、たいていは汚れが浮き出てきます。黒ずみが

ひどいときは、すぐに電話して、「バスタブが汚いから、すぐに出たいです」「いえ

いえ、別のお部屋にご案内いたしますから」「いえ、けっこうです。他のお部屋も

きっと、いっしょでしょうから」といって、国内も海外も何度ホテルを後にしたこと

でしょうか...。そのレベルだったら、きっと他のこともそれ以上の期待は持て

ないからです。今回はそこまではなく、第2関門も通過。次に「ひとりツインで寝

たくないから、2台のベッドをくっつけて下さい」と言ってみました。「真ん中に

ナイトテーブルの配線がありまして、動かせませんので、かなり前に出すことに

なります。だから、ちょっと見た目は悪くなりますが..」「けっこうです。ぜひ、お

願いいたします」。すると案の定、配線を伸ばして2台のベッドは無事元の位置

でくっつき、大きなキングサイズのハリウッドベッドに。第3関門通過です。そして

出かける前に1階のフラワーショップに寄り、「スイートピーを1本ください」。そし

てひとこと、言いかけた私に、すかさずその年配の女性は、「お部屋にお持ちい

たしましょうか?」部屋に戻ると、私の¥315のス
イートピーは細長いガラスの

花瓶に入れられて、
            

デスクの上に置かれていました。以前泊まった、東京の汐留のホテルでは、買

ってきた1輪のバラが、巨大な円筒形のガラスボールに挿されて持ってこられ

ました。一輪の花を部屋に届けることさえ、ホテルによっては、むずかしい関門

になることがあります。しかし第4関門も見事に通過した後、私は、遅い夕食

にルームサービスを注文しました。「お料理はベーコン系、お肉類抜きで。

そばアレルギーです。中華は油を控えめに、薄味で」もちろん、「かしこまりまし

た」と自然に要求は通り、そして出てきたお料理を見て、「ナプキンがない!」

すぐに電話でお願いをしたのですが、これがなかなか通じません。今は、なくて

も何も言わない人が多いのか、「綿でも麻でも何でもいいですから、とにかく、4

0cm角くらいの布か、紙、持ってきてください。それがないと食べられないんで

す」迄言って、とやっと通じました。そして食べ終わったお皿の上に、こんなメッ

セージを残
しました。「自宅では、粗食ですが、必ず、ぴんとした麻のナプキン

で食事をする習慣なのです。そんな人もいると言うことを理解してください」


             


 そしてナプキンをかぶせてカートをドアの外に出し、その旨を電話で連絡。 

翌日、チェックアウトのため、フロントに行くと、そこにいた女性はなにやら、急い

で電話をかけ、誰かに簡単なメセージを伝えました。「これから、ここに行きた

いのですが...」私が簡単な場所を書いた紙を差し出すと、その女性はフロン

トから出てきて地図を広げ、丁寧に説明をします。説明を受けている間、隣に

なんだかマネージャーらしきスーツの男性がずっと立っています。そして時々

一緒に話に加わります。その話が終わると、深々とおじぎをして、「昨日は、誠

にご丁寧なメッセージを戴きまして、ありがとうございます。ナプキンは、出し忘

れでございます。誠に失礼致しました。今後、このようなことのないように...」

「いえ、いえ、そこまでは、..」でも、わたしのメッセージはもみ消されず、チェッ

クアウトの時までに、ちゃんとトップまで伝えられ、そして、検証され、対策が講

じられたことがわかります。                              


 ルームサービスで、ちょっと失点したものの、こんな丁寧な謝罪をされたら

まあ、仕方ないかな?色々不満はあったけど、所詮、人間のやることだから、

完璧はないでしょう、と思った私に、先の高速バスでのハプニングが起こり、な

んと一気に大逆転。やはり、リッツ・カールトンにやられてしまったと、感動覚め

やらずのウォーク・インになってしまいました。



 常連でもないのに、チェックアウト後にホテルのフロントから、お礼の電話があ

ることはめったにないでしょう。今日あったホテルマンと電話で本の話をするこ

ともないでしょう。アンケートでクレームを書いても返事が来なかったり、来ても

謝罪文を毎日大量にプリントアウトしているとわかる手紙形式印刷物だったり。

ホテルは、チエックアウトしてからそして、宿泊客でなくなった後で、その真価が

わかるといえるかも知れません。


 それは、私たちの仕事でもどんな仕事でも同じことでしょう。こんなリッツ・カ

ールトンの話がスタッフ間で話題になるとき、あるいは朝のミーティングで高野

さんの本を読む時、スタッフ全員は神妙な面持ちで緊張しっぱなし、なぜか、

すっと背筋が伸びているのです。          




リサコラムに関する、ご意見、ご感想はこちらまで。→risaco@madame-watson.com
 

 お名前と、お差し支えなければ、ご住所も書き添えてくださいね。ご返事いたします。

また、来週の金曜日、お会いしましょう。 
                    

木村里紗子 Risaco

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