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リサコラム
本日のオードブル
第36回

おいしいインテリア

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
15年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は、夏目漱石、檀ふみ、中谷彰宏、F.サガン


        
  「ピンクのカーテン、作ってくださ~い!」

  「うちは、グリーンしかやっておらんです。最高級品は、

  わたしの生糸なもんで、ちょいと時間がかかります。」
           

 

       



"おいしいインテリア




 「冬用のカーテンに付け替えに来て」昨年の春にリフォームしたお客さまから

お電話がありました。店長は私の代わりにあらかじめ冬用に作っておいたカー

テンをもって付け替えに行きました。帰ってきた店長に私は、真っ先に尋ねま

した。「あれ、なくなってましたよね」「いや、ありましたよ」「うそでしょ?」「いや

ありましたよ、しっかり」私は愕然としました。しかし、“あれ”は、やっぱりあった

のです。“あれ”を排除したくて作った素敵な寝室のはずでした。アイスブルー

とホワイトの壁紙にペールピンクのオーガンジーのカーテン、ミルクがかったピン

クのシエード。白いベッドに合わせた白く柔らかなベッドスプレッド、リラックスピロ

ー。昨年の4月、慌しく人々が行き来するリフォーム最終日、私は脚立に乗っ

て上飾りに細いリボンを結びつけていました。そのそばを、「わぁ、素敵!」「僕

もこんな部屋で寝たいな~」と、若い男性のお手伝い人さんまでもが、寝室を

のぞいては、みな、ため息をついて行きました。だから、私はちょっと自信があ

ったんです。なのに、“あれ”は、まだにそこにいたんです。“あれ”とは、出窓に

鎮座する、キティちゃんです。体が置き時計になったキティちゃん、結構大き

めなぬいぐるみのキティちゃん計3体が、リフォーム前と同じ位置に陣取ってい

たのです。
                                                  


 その部屋の女主人とは10年以上の長いお付き合いです。美しい脚と明晰な

頭脳をもつ、女性社長さんです。最初にカーテンのご注文を受けたときから、

その“あれ”はありました。2度目の大がかりなリフォームの時、彼女は「キティ

ちゃんははずすからね」と言い、私は安心していました。3種類の寝室のイラス

トを彼女に見せると、意外にもピンクの寝室にしたいと彼女は言いました。フォ

ーシーズンズホテルパリのハネムーンスイートの写真を添付し、そんなピンクの

部屋をイメージした寝室のイラストでした。彼女の社会的地位と風格からは、ち

ょっと意外ではありましたが、私は上品な押さえたピンクの部屋にまとめたつも

りでした。これでキティちゃんは、排除できるぞと思いました。このリフォームで、

部屋全体のインテリアもすべて格段にグレードアップしたからです。「なのに、ど

うして、???」謎は解けぬまま、日々疑問符は増えるばかりでした。
  


 そのうち、彼女と同じように一人暮らしの女性から又インテリアのご相談を受

けました。彼女は、この家は8年前、終(つい)の棲家という気持ちで作った家だ

と言いました。「ずっと、ここにカーテンつけたかったんだけど、設計士さんに、こ

こには何もつけないでくださいって言われたから、ずっとつけられなかったのよ」

「でもお隣が丸見えですよね」「そう、でしょ。でも、その設計士さんも最近来ら

れなくなったから、カーテンつけてもいいかなと思って..」「他のカーテンも気

に入っていないんだけど、コーディネートした彼女は友人だし、今も時々家に

遊びにくるから、まだ、替えられないのよ」と。こういうケースはよくあることです。

特に有名な建築家に頼むと、自分の好きなようにインテリアを作ることも制約さ

れます。それは、建築という、芸術作品を損なう恐れがあるからです。それら

は、生活者の好みと設計者や、コーディネーターの意図がかみ合っていない、

よくはない事例だと思います。そして、たかが、キャラクターのおもちゃじゃない

のと、キティちゃんを軽んじ、排除しようとした私も同罪だと気づきました。
   

彼女にとって、キティちゃんは子供や生花のように生命力を持った存在だっ

たんだと私が気づけなかたのです。私は、キティちゃんに負けるのは当然だっ

たのです。一人暮らしの彼女にとって、きっとかけがえのない存在になっていた

のだと思います。だったら、私は、彼女のためだけの寝室ではなく、彼女とキテ

ィちゃんのための寝室を作るべきだったのです。キティちゃんを排除しなけれ

ば成り立たないスタイリッシュなインテリアではなく、キティちゃんが生き生きす

るようなインテリアを作るべきだったんです。経済評論家で、ミニカーのコレクタ

ーとして有名な森本卓郎さんという方がいます。彼の家には何千という数知れ

ないミニカーが美しく整然とガラスケースの中で各々が光りを放っています。

テレビでそのミニカーの部屋を見た時、彼の生命力がそのミニカーたちに乗り

移ったかのように美しく、まさにすばらしく神聖なミニカーの作り出したインテリア

でした。
  


 雑誌でインテリアの記事を見ていると、カサブランカやバラのすばらしいアレン

ジがダイニングテーブルや、センターテーブルの上に飾られている写真をよく見

かけます。その背後のインテリアが美しいのか、それともすばらしく美しい花が

美しいのかがよく判別できないまま、素敵なインテリアのような気がするときが

あります。その美しい花がもしなかったら、そのインテリアは、ほんとうにすばらし

いかと、考えることもよくあります。そうなんです。生きているものにはかなわな

いんです。私たちが寝室などを作る場合、最後に生花を添えます。するとその

空間が生き生きと生命力のパワーをほとばしらせ、まさに絵になる空間になり

ます。インテリアの色ではどうしても作り出せない花の美しい色と生命力を借り

て、空間にみずみずしい息吹を与えることができるのです。でも花に頼ってば

かりではだめなんです。花がなくても、写真に写したときにも、その中に入り込

みたくなるような、触ってみたくなるような、そしてその触った感触が伝わってく

るような、生命力をぞくぞく感じるようなそんなインテリアでなくてはばらしいイン

テリアとは言えないのだと私は思っています。           


 提案者と住み手の魂というと大げさですが、愛情やいつくしむ気持ちが同時

にそのインテリアにも乗り移らないと、それは、ただの“絵に描いたもち”のように

なります。“おまかせで”といわれても、その住人の人となりを深く理解しないと

すばらしいものは作れないと思います。本当に気心が知れた行きつけのお店で

ないと、おまかせ料理は注文してはいけないという論理です。話題のおしゃれ

なイタリアンに行ったけど、満足はしたけど、「家に帰ってお茶づけ食べた」と言

われた方がいました。それはおしゃれなイタリアンやインテリアが結局、お茶漬

けやキティちゃんに負けたということだと思います。一見、すばらしいインテリア

でも、何かしら物足りなさを感じたら、負けです。愛情を注いだインテリアは、そ

れ自体で十分、人を満足させ、新たにそれに加えることも減らすこともさせない

力があると思います。目でも触感でも舌でも感じることができるようなおいしいイ

ンテリアにするには、だから、料理と同じで、愛情を注ぐしかないのでしょう。



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木村里紗子 Risaco

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