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リサコラム
本日のオードブル
第38回

”夏の麻から”

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
15年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。
好きな作家は、夏目漱石、檀ふみ、中谷彰宏、F.サガン


        
  「ラ・フランス2号、見てないで手伝ってよ!
                     じゃ口、かたいんだから

  「そのうち、水、たまるわよ、」

 

       


夏の麻から




 2004年の夏休みも終わりに近い蒸し暑い日でした。焼け付くベランダで私は

麻のベッドリネンを物干し竿に干していました。白い麻のローブをはおり、麻の

ナプキンを頭にのせるとその暑さも木陰にふっと入ったように和らぎます。「麻

ちぢみ、使った人だけが得をする」きのう書いたPOPが頭をよぎりました。涼し

く、さらっとして、しなやか、汚れもさっと落ち、ナプキンにしてよし、夏のローブ

にして最高。夏のベッドリネンには、極上。“麻は、奇跡の発見じゃないか?”と

いつも思います。そして、麻をふんだんに使う夏になるといつも思いだす、子供

のころの光景があります。遠方に住んでいた祖父は夏祭りになると、やってきて

いました。彼はいつも白い麻のジャケットにズボン、つばの付いた麻の帽子をか

ぶっていました。どうしていつも白い背広を着ているんだろう、と不思議に思っ

ていた記憶があります。その白い物はきっと麻だったに違いない、と気づいたの

は、もういい大人になってからです。
                               


 昔の人は、季節ごとにふさわしい素材を、自然に当然のごとく使い分けてい

たんだな、と後になってようやくわかりました。そして、私はその暑い夏の日、焼

け付くベランダで、なぜか、突然ようにひらめいたんです。「本を書かなくちゃ、

それしかないわ、私が思っていることをじっと思っていたってどうしようもない。

ひとりひとりに口伝えに伝えていても、らちがあかない。もっとたくさんの人にこの

思いを伝えなくちゃ」と。翌日の8月31日、私はY‘s for livingの部長に相

談の電話をしました。「あの~、寝室からは始まる生活みたいな、美しく、端正

に、心地よく眠るための生活スタイルのような、そんな寝室をテーマにした、イ

ンテリアの本を出したいんですけど、どうしたらいいと思われますか?」じっと聞

いていた彼は、「うん、いいですね」と一言。「私、実は、自分の寝室を2つ持っ

てるんですよね。一つは、シンプルでモダンな白い寝室、もう1つは、クラシカ

ルな寝室なんです」彼は、「そりゃ、すごい、贅沢な!」といい、でも自分は専

門外でわからないと言いました。でも、友人にビーズ作家の人で本を出してい

る人がいるから、その彼女に聞いてみようと。その後しばらくして、彼からの返事

は、「かなりハードル高いって、言ってたよ。でも、まず、企画書なくちゃ、話に

ならないって」私は、次のY‘s for living の10月末の展示会のときに企画

書のような、さわりだけのものを彼の元に持ってゆきました。彼は、「いいんじゃ

ない?でも未完成でしょ」と。そこで私は、完璧なものを作ろうと決意しました。

そして、次の年の初売りが終わった翌日、やっと原稿に取りかかかることができ

ました。毎日、仕事が終わると、店長とK君、S君をチーズまんやピザまんで誘

惑し、部屋の写真撮りに付き合わせました。そして50枚の写真とA4で50ペ

ージの文章が対応するような見開きの100ページの原稿を約2ヶ月で作り上

げました。バインダーの厚み5cm。それを私は持って、電話でアポイントをとっ

た出版社に直接持ち込みました。
                                


 運よくダイヤモンド社から出版することとなりましたが、でもそれからが実は大

変でした。会社から何の支援もなく自分勝手に始めたものです。多くの顧客を

持っている私は、通常業務のほかに締め切りがある仕事をもうひとつかかえる

ことになり、そのやりくりにはかなりの苦労を要しました。そうして、原稿の書き直

し、撮影、追加の写真撮り、さらに原稿の書き直し、本が出来上がるまでの1

年+準備の半年は、もうこんな大変なことは2度としたくないと私に思わせるに

十分なものでした。
                                            


 学生時代、おもしろいからと友人に薦められて読んだ岸田秀さんの「ものぐさ

精神分析」、「続ものぐさ精神分析」に、とりつかれたことがありました。精神分

析といっても、まったくの素人の私にも、かなりわかりやすく書かれています。

精神分析学なる学問を知らない私でも噛み砕いて自分なりに理解できるよう

な書き方です。その本を読んでいて単純明快なひとつのことが霧が晴れたよう

にわかったんです。“作家はなぜ、ものを書くのか?”それは、“ものを書くこと

によってしか自己実現ができないから”に過ぎないんだと。難しい精神分析用

語を駆使しなくても、“芥川龍之介はなぜ短命だったのか?”“それは短編し

か書けなかったことと同じで、すぐに結末に至らずにはいられなかたからだ”と。

“ものを書くという行為によって、自己を確認し、表現することができなくなった

時、破綻した”のだと。つまりは、自殺するしかなかったと。生き急いだんだと、

私は、明解な答えを見出した気がしたのです。
                   


 そのことを理解した時、芥川龍之介のようなそんな偉人でなくても、私を含め

多くのまじめな凡人も同じことをしているだけなんだなと気づいたんです。アート

フラワーなどの身近な、あらゆる芸術、エッセイなどの書き物、そしてブログに

至っても、日々私たちが自ら、やりたくてやっている行為は、それを表現するこ

とをしなくては、大げさかもしれませんが、“自己確立”ができないからではない

かと。自己確立をしたいから、やっているのではないかと。3年前の暑い夏の日

のベランダで「本を書かなくちゃ、それしかないわ、もっとたくさんの人にこの思

いを伝えなくちゃ」と思ったのは、きっと私の中のバケツの中の水がいっぱいに

なって、どうにかして、これを外に出さなきゃ、という思いだったんだと、後にな

って、気づいたんです。黙ったままでは思いは伝わらないし、何かの手段で、

これを多くの人に伝えたいと。
                                    


 私は1冊本が売れたら71円45銭の印税をもらえます。でも、100冊売れて

も、ショップで一番安いパジャマを1枚しか買えません。“労力X時間+経費”

という投資対効果だけで計っても、こんなに割に合わないことはないと思いま

す。でも、その本を、「くたびれるまで、何度も読んでます」とメールで書かれて

こられた方に、「新しい本を差し上げますから、ぼろぼろの本は捨ててください」

と返事をしたら、「くたびれても大事な本です。新しい本は、まだその世界を知

らない人にあげてください」という返事が返ってきました。そんな言葉がいただ

けるとき、私はほんとうに救われた気がするんです。“表現することは、伝える

こと、伝えることは、与えること、いかに与えるかで、自分に与えられる量が決

まるんだ”と。そして、また3年前の夏の暑いベランダで、麻ナプキンでほおか

むりをして、麻ローブを着て麻のシーツを干していた自分を思い出すのです。

そのときにひらめいたのは、つまりは、こういうことだったんだと。
       





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木村里紗子 Risaco

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