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リサコラム 本日のオードブル

第44回

300字の風景

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
15年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は、夏目漱石、檀ふみ、中谷彰宏、F.サガン


  「目からうろこ......この情景、ホテル”ダタイ”だわ」

 

       


300字の風景




 休日の昼過ぎ、締め切りより早めのコラムの原稿をY子氏にメールで送ると、

その夕方、Y子氏からコラムのダメだしの指令が届いていました。インテリア雑

誌の商品写真に添えるコラム記事、750字の書き直し指令でした。彼女曰く、

「後半はリサコラムのこの部分を持ってきて、前半でこのコラムを書いている自

分はどんな人間かを初めて読んだ読者にそれとなくわからせ、それから人生

論を述べ、癒しにいたり、この商品をすごく欲しくなって、人にプレゼントもしたく

なるような、そんなコラムを750字での展開をせよ」、と言うものです。そして、

やさしく力強い“リサコ節”をたっぷり振るって欲しいとも書き添えてありました。

後半のリサコラムからの引用部分450字を除くと、約300字が、私に与えられ

た先ほどの指令です。
                                         


 今、上に書いた文が約300字。その長さで私自身のプロフィールと、人生論

から癒しに至り、しかも、嫌みなく、ふふ~んと納得するような「起承転結」の

「起承転」までもって行けというものです。300字は原稿用紙1枚分の4分の3

です。こんな魔法のような文章を書けとの指令です。              



 次の日の昼下がり、私が座る窓の外は梅雨が明けたのか、雨上がりの空に

ひびきわたるように、うるさくせみが泣いていました。夏休み前のまだ子供たち

が学校で勉強している道端はひっそり静かに静まり返って、その隙を狙ってい

るかのように、せみの合唱が続きます。私はコラムの300字に頭をかかえてい

ました。お客さまとの約束の時間が迫ってきました。耳のそばでせみの鳴き声

を聞きながら、あの日のことをぼんやりと思い出していました。7年前、マレーシ

アのランカウイ島の”ダタイ”というリゾートホテルでのことです。


 朝からお昼すぎまで、何時間もプールサイドで本を読んでいた私は、暑くなり

すぎて、シャワーを浴びようと立ち上がり、石のプールサイドを歩きはじめたとき

でした。すぐそこのシャワーまで歩いても数十歩。なのになかなかたどり着けな

いのです。途中で非常に気分が悪くなって、何度かじゃがみこんだところまで

覚えていました。日射病でした。せみがうるさく泣いている音だけが耳に響きま

す。誰かが叫んで、気がついたときは、昨日ディナーを食べたアウトドアのレスト

ランの床の上に仰向けに寝かせられていました。足は石の階段で転んで怪我

をしていました。絆創膏とシップをして、部屋にもどりました。ランカウイ島のプ

ールサイドで聞いた耳鳴りのようなせみの鳴き声、もうろうとした意識の中でな

かなかたどり着けないもどかしさ。たった300字の文章になかなかたどり着け

ずに、書いては消すを繰り返して、あせりだけが時間を費やす。なのにせみは

うるさく泣き続けている、その様子に似ていたのです。


 私はスタッフのKに聞きました。「リサコ節ってわかる?」K君はにたにたして

「わかりますよ!」なのにどうわかるのかは言いません。「リサコ節をふるってく

れ」、といわれても、「ソーラン節」「かつお節」くらいしか、思い浮かばす、約束

の時間は迫り、300字はまとまらず、私はランカウイ島の暑いプールサイドで感

じた、吐き気と貧血が混じり合ったような同じ気分の悪さを味わっていました。



 「静けさや 胸にしみいる せみの声」なんて口に出してみて、今さらながら

俳句の世界の奥深さを味わったようなきがしました。17文字で人生論と世界

観をあらわすなんてことができるんだから。そういえば、クロス職人さんが突然

自分の携帯を開いて、「これ、私の作品なんですよね」、といって、絵を見せて

くれたことがありました。「クレパスで描いているんですよ」「すごいですね、これ

全部職人さんの作品ですか?」「でも、川柳もやっているんですよ」と、言い、

「『ゆっくりと 欲はみぞおちまで 落ちる(芳彦)』、これ、新聞で大賞とったん

ですよ」「どう読めばよろしんでしょうか?」「うぅん、深読みしてくれるんですよ、

読む人が。だから、それでいいんです」と。なるほどと私は納得した気になりま

した。
                                                      


 小学生から中学生にかけて、読書感想文コンクールが大好きだった私は

いつもトロフィーをもらっていました。ほかの生徒は、2,3枚の感想文しか書か

ないのに、私は7,8枚も書いていたからだと思います。でも高校生以上になる

と話は変わります。いかに短く端的に言い表すかという“小論文”をたくさん書

かされます。それは、採点方法を簡単に明確にするという意図もあるでしょう。

しかしとたんに私は小論文が苦手になってしまいました。大人になればなるほ

どより少なく話し、より説得力あるものが、あるいは、制約の中でいかに能力を

発揮するかが、求められます。インテリアにも制約がペアでやってきます。広さ

の制約、構造の制約、予算の制約。「6畳の部屋にセミダブルのベッドとドレッ

サーがあるんですけど、なんか狭いんですよね。どう配置したら、いいでしょう

か?」と紙に走り書きして質問されることがよくあります。「あ、じゃ、この壁にベ

ッのヘッドを持ってきて、こう、置いたらどうですか?」「あっ、すいません、そこ、

整理ダンスがあったんでした」「では、こちらは?」「あっ、そこベランダに出る窓

でした」という具合です。四苦八苦して配置図を描き、カーテンの絵を描いたら

「う~ん、やっぱり目からうろこ!」といわれることがよくあります。「お掃除エアコ

ンに付け替えたら、カーテンが天井からかけられなくなって、どうしたらいいでし

ょうか?」とお家に伺ったら、巨大なエアコンが窓の真上に陣取っています。家

族4人が息を殺して私の色鉛筆の先を見つめる中、私は孤独に真っ白いスケ

ッチブックに向かいます。巨大なエアコンが目に入らないかのような、すっきり

した窓辺の絵を描き出さなければなりません。きっと川柳をひねり出すのもこ

んな気分なんだろうと思うことがあります。そこにはない観葉植物やキャンドル

を描きいれて、「どうでしょう?」と見せると、「目からうろこね、わくわくしてきた

わ」とまた言われます。私の仕事は制約の中で“目からうろこ”を出すこと、そ

れを期待されることだともいえます。
                               


 「『こつこつと 地上で光る 星になる(芳彦)』これなんか、職人仲間で受け

たんですよ」と、先ほどの職人さんが教えてくれました。毎日同じような仕事を

こつこつ続ける人たちの気持ち、うん、よくわかります。“深読み”ね、私はその

職人さんのせりふを思い出して、「深読みしてもらえばいいのね」と、納得し、そ

うして約束の時間までに、Y子氏に課せられたイラストと、300字をやっと克服

しました。“リサコラム 負けるな2ヶ月 もう1年”

 せめてあと9月までの2ヶ月“リサコラム”、がんばります。     




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mmm@madame-watson.com

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木村里紗子 Risaco



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