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リサコラム
本日のオードブル
第49回


サンプラスの
 タオルから

 
木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに1990年より勤務し、400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
15年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。好きな作家は、夏目漱石、檀ふみ、中谷彰宏、F.サガン

     
     "サンプラスの湧き水って、プールの大きさ!”


 

       

サンプラスのタオルから





 “ウインブルドン”、毎年そこで行われるテニスのトーナメントがあります。

そのセンターコートで、2000年までの8年間に7度も優勝トロフィー手にしたのが

ピート・サンプラスという選手でした。彼は試合中、大きな声を出すことも、表情

を変えることもなく、静かに淡々とプレーを続けるスタイルでした。その紳士的な

態度が引退した今でも数多いファンをもつ理由のひとつだと思います。格式高い

ウインブルドンにふさわしい、“芝の王者”と呼ばれる由縁だともいえます。

 それとともに、彼が試合のたびに持参するまっ白なタオルのために私は彼のテ

ニスが好きになりました。選手にはウインブルドンのロゴと、ラケットのマークが入っ

たグリーンのタオルが用意されます。しかしサンプラスの持参する“マイタオル”

はまっ白で大きく毛足が長くやわらかそうなものでした。センターコートの美しい

芝の緑に映える白さとラグジュアリーなほどの肉厚さにあふれた彼のタオルは

試合中の束の間の休憩を優雅なものにしていました。


 彼はまた、セカンドサービスのためのボールをポケットに入れることによる違和

感を嫌うことでも有名です。ボールパーソンの少年が投げてよこす2つのボール

にまるで顔があるかのように、すばやく吟味して、残りの1つを少年に投げ返すし

ぐさが特徴でした。神経質な彼がそこまでこだわるタオルは、もしかしたらこんな

タオルだったのかも、と思ったのは、“ルクソール”という名のエジプト綿のタオルに

出会った時でした。リゾートホテルでもなかなかお目にかかれないしなやかさ、

光沢、そして肉厚。そのタオルをいっぱいに並べるためのクローゼットを30万円

かけて私は作ってしまいました。


 どうしたら毎日同じ調子で、同じ仕事を続けられるだろうか?その答えを私は

長年探し続けて、サンプラスのタオルをヒントに最近見つけたような気がしてい

ます。きっとサンプラスのゴージャスな家にはこの何倍ものタオルが美しく整然と

並んでいる巨大なクローゼットがあるでしょう。それを前にたたずむサンプラスの

姿を私は思い描きました。もしかしたら、その淡々とした冷静な気分を形作って

いるのが、そのタオルの並ぶクローゼットではないのだろうか?そう、思ったので

す。



 癒しの空間、癒しのリゾート、癒し系と“癒し”にはここ数年、食傷気味です。そ

う安売りされると“癒し”では癒されなくなるような気もします。「ほんとうの癒しと

はいったい何ものだろう?」ずっと考えてきて、最近やっと1つの答えにいたるキ

ーワードを見つけました。それは“癒し”は単独では行動しないということです。見

慣れた同じ空の夕日を見て懐かしい喜びを感じるとき、静かな青い海を目の前

にして心が洗われるようだと感じるとき、かわいい赤ちゃんや子供の寝顔を見て

癒されると感じるとき、好きな映画や本を繰り返し観たり読んだりしては幸せな気

分を感じるとき、すべて、“癒し”はひとりではやってこないのです。そこにはあるX

というものが一緒にくっついて来ているのです。その一緒にくっついてきたXが変

化して“癒し”となるときもあります。Xが必ず先にやってきて、その後ろをくっつい

てきたものが“癒し”のようなのです。


 そのXとは、つまり“感動”ではないかと思うようになりました。“感動”のすぐ後

に、じんわりやってくるのが“癒し”だと思うのです。だからその逆説は“感動のな

いところ、癒しはやってこない”となります。癒しがやってくるとわかっているから、

何度も読んだ本でもまた読めもし、映画も観られるのだと思います。私の叔父は

母校が甲子園で優勝した野球の試合を予選から繰り返し見ると言いました。先

がわかっているから安心なのです。最後には幸福感に満たされるから、途中の

ピンチも安心していられるし、ウイニングボールの感動をまた味わい、勝利の美

酒に酔い、最後に、癒しという長いしっぽを持った幸福感に浸れるのだと思いま

す。感動を大輪の花火とするならば、癒しはその残像とあたりを包みこむ余韻だ

と思います。その余韻が薄れてきたとき、又予選から繰り返し見始めるのだと思

うのです。                           



 毎日、仕事から家に帰って、自分の寝室を眺めるとき、私は感動を覚えます。

もう何年も見飽きるほど見ているのに、天井まで切られた白いドアを開けて、白

い寝室に入るとき、また美しいカーテンの間にたたずむ真鍮のゆるやかに輝くベ

ッドの前に立つとき、美しいな、と感じます。バスローブを着て、整然と並んだタオ

ルクローゼットを眺めるときも、やっぱり心が動きます。そして体の中の湧き水が

又、ころころと湧きだす感覚を得るのです。美しく整った寝室やたっぷりの白いタ

オルの丘は、何度でも飽くことなく感動を呼び起こします。そしてその後にやって

くる感覚が“癒し”だと感じます。それを毎日続けていると、湧き水は絶えることな

く体の中に湧き続けます。整ったタオル棚や整った寝室を日々感動を持って眺

められる自宅であれば、それはきっと癒しの源泉のようなものになり、日々、同じ

調子で穏やかに同じことを続けられるしっかりした源泉がだんだんと形作られる

のではないかと大げさですが、そう感じています。 


 先日、私の元にこんな手紙が来ました。「木村さんのタオルクローゼットとリネン

ふとんクローゼットの寸法を教えてください。家を建てているところなんです」と。

彼女からの3通目の手紙でした。そしてまた、彼女は仕事でいやなことがあった

ときは、テレビドラマに似せて、心の中でこうつぶやくのだと書かれていました。

「キムラサン、事件です。でも何とか頑張ります」と。そう私に報告するのだと。で

も彼女の新居の美しいクローゼットが完成したら、きっと彼女は私に報告すること

もなくなるはずです。それは、“癒しの源泉”と呼ぶ湧き水の源泉がきっと彼女自

身の中にもできるに違いないからです。                       



                                      
                                    木村里紗子 Risaco








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