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リサコラム
連載166回
本日のオードブル
華麗なる贋作人生 第5回


最初の晩餐


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンに勤務し、400名以上の顧客を持つカリスマ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)がある。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まること。
18年来のベジタリアン。ただしチーズとシャンパンは大好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒は強くない。
好きな作家は夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、マルセル・プルースト
      
      
  『ダヴィンチ・コード』で有名になった、イエスと左の

 ヨハネとの間のV字の隙間なんですがね、あれは、

 単にバランス上の隙間のような気がしましたんですけど」                    
 
      
  






最初の晩餐




「血のしたたるような、佐賀牛のステーキをた~あくさん食べたいな」と言った

のは、宅配便を持ってきてくれる配達員さんでした。そう、「明日がもしも、地球

最後の日だったら何が食べたいか?」という質問に対する答えでした。ほんとに

好きなものをおなかいっぱい食べたい、という率直な答えだと思ったものです。

そう聞かれて、平目のエンガワとか、たくあんの尻尾なんて答える人はいないで

しょうから。


 しかしながら、上質のスモークサーモンにキャビアをたくさん食べにノルウェー、

北欧ツアーに行った方が帰ってきた途端、「サーモンもキャビアももう見たくもな

いわ」と嘆息され、さもありなんと思ったものです。だったら、きっとそれは一番食

べたかったものじゃなかったんじゃないの?って、話しになったんです。


 ある方は、地球最後の日はお茶漬けがいいなんていわれてましたけど、そちら

の方がわかるような気もいたします。しかしながら、実際、地球最後の日なんて

なったら、地球をしっかり見届けるか、ぐっすり眠ったまま死にたいと思う方も多

いことでしょう。


 さてあなたはご存知かどうか、およそこの世の中の小説を純文学、大衆文学、

ミステリー、SFなどと分類していったときにどうしても分類できない小説があると

したら、それは「奇妙キテレツ」という分類かもしれません。そんな分け方がある

としたら、まず一番にこの本を入れるであろうと思います。そのタイトルは、『最後

の晩餐の作り方』(J・ランチェスター 新潮文庫)一見料理本であり、殺人ミステ

リーであり、哲学書の類に属し博覧な知識の大見本市のようでもあるものです。



 ガストロノミーをうならせる季節ごとの献立を掲げながら、横道にそれること華々

しく。たとえば、『ブリニ(パンケーキの類)のサワークリームとキャビア添え、アイリ

ッシュシチュー、プディングの女王』という冬の魅惑的な献立を提示しながら、ギ

リシャ神話から、社会科学者の引用を聞き、量子物理学的パラドクスなんていう

論理の展開に付き合わされ、ヒースロー空港第4ターミナルの話題他、数種の

迷路のような横道を行きつ戻りつしなければ、1品目の
ブリニのサワークリーム

とキャビア添え
のレシピすら教えてもらえない。そんな小説がまさに、これです。


 冬から春まで四季の最高の食材を使ったよだれものの、おすすめ晩餐4コース

を解説するのに、文庫本325ページ分の文字が投入される物凄さなのでありま

す。もしもあなたが、この魅惑のレシピを早く知りたければ、繊細な切れるナイフ

が必要でしょう。 1994年にすでにこの世を去った伝説のレーサーが持ってい

たような技とナイフが。


 彼の名は、アイルトン・セナと言いました。ニュース解説で知った話ですが、アイ

ルトン・セナは、ウエイト及び体調管理に厳格であり、さらに当然ながら、非常に

繊細な神経を持っていたプロのレーサーであったゆえの逸話でした。


 来日の際に出された、最高級松坂肉の霜降りステーキを、ナイフとフォークに

て、肉と脂身の部分を美しく丹念に切り分け、脂身をきれいに残し、肉の部分の

み食したと。つまり、そのくらいの繊細な技で、必要なレシピと不要な横道の雑学

の部分を切り分けないと、おそらく、この小説からレシピのみを切り取り、自分の

血肉にするのは大変困難ということです。



 さらに博識な作者によれば、多くの人が嗜好する高価な卵、つまり、キャビアと

いう生みの親であるチョウザメは100万年前から現在の形を保っている最古の

生き物であり、キャビアの生みの親であるのに、チョウザメの卵、キャビアを食す

るといいます。作者の言い回しは“洗練と先祖がえりという取り合わせに身をゆだ

ねる”行為だと述べています。そのような例を上げ、「価値の希少性理論」にあ

てはめれば、物の価値は、それ自体の質の高さや重要性とは無縁であるという

結論を引き出しています。


 これで少しはお分かりのように、この本は料理と食材のウンチクが折り重なるよ

うにおびただしい量で登場する間に、詩人、哲学者、芸術家、科学者、さまざま

な分野のその道の達人の言葉に振り回されることになるのです。クロック・ムッシ

ュ(ハムとチーズを挟んだホットサンドイッチ)の極秘の技や、ボルドーの甘口白ワ

インとフォア・グラ、白トリュフとパスタ、ポルト酒とスティルトン(イギリスのブルーチ

ーズ)の約束された組み合わせ、マリアージュを極めようとする読者は作者の言

うとおり、辛抱強く振り回されるに身を任せることをお勧めします。


 作者引用の名言、「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人

であるかあててみせよう」。それを言った人物は、ブリア=サヴァラン。


 ご存知『美味礼賛』という料理人を志す方なら知らない人はいない、19世紀

の著名な書の作者であります。あるいは、“サヴァラン”というお菓子、ラム酒に

漬け込んだ甘いブリオッシュでご存知の方も多いことでしょう。


 わたしはまだ中学生くらいのころ、フランソワーズ・サガンの小説にその名がよく

出てくるそのお菓子は、どんなに魅惑的な舌触りと味わいだろうと思いを募らせ

ておりました。パリの街角のカフェで通りを眺めているような気分で、サガンの小

説を耽読するためには、カフェ・オレとサヴァランが必要不可欠なお菓子だと信

じておりました。そのうち、どこの洋菓子店でも置くくらい普及してくると、またたく

間に色あせてしまったものです。



 わたしが自分の最後の晩餐を考えるなら、まずは、義務教育時代の家庭科を

思い出すものです。オードブル、メインディッシュをきちんとナイフとフォークを使

ってテーブルマナーに沿って食事をする、そんな授業を受けました。が、デザー

トに移ったら、皿の上にバナナ1本が出され、さて、どのように淑女はそれを食す

るかと問われて、いきなり手でつかんで、皮をむいて食べる勇気はだれも持ち合

わせず、ナイフとフォークを駆使して上手に皮をめくり、等分に切り分ける先生の

お手本を見ながら、おそらく一生やらないであろうその動作を真似たものでした。


 だいたいまるごと1個の果物が皿に乗り、レストランにて恭しく出されることはあり

えなく、ほかのどこかの店が絵画のごとき盛りつけで繊細なデザートを出そうもの

なら、丸ごとをやっているような料理店は、経済の競争原理を持ち出すまでもな

く、即刻なくなるはずですから。


 今は、外で食事をするたびにナイフとフォークなどより”はし”がうまく使えない

日本人の大人が多いことに気付かされます。わたし自身ベジタリアンのため、は

しを使って、楚々と食するものであれば、自分の最後の晩餐にしたいと思うこの

頃です。



 さて、『最後の晩餐の作り方』、食べられないけどあなたの未体験ゾーンに迫る

“最初の晩餐”になるでしょうか?




            


p.s.1

 無農薬で育てた野菜に、植物原料の肉を使ったチンジャオ・ロースとか、鶏肉

風野菜のロール蒸し、偽ひき肉とダイコンの煮物など。これは、肉ではないの?

と食べながら心配するほどのおいしさで、今、お昼に足しげく通っている料理店

があります。


            

p.s.2

 NPO法人で、障害を持つ子供たちの育成をしながら、障害をもつおとなも一

緒に働くピュアな空気が流れているお店なんです。職場から徒歩3分。2か月で

30回通い詰め、すでに「リサコさん!」と呼ばれるほどの常連になってしまいま

した。


 『花の花』 092-511-0612  (殺到されないことを願っています。)

福岡市南区野間4丁目18-19 日・祝定休


          



p.s.3 

そこで、ベジタリアン用食品や無農薬野菜、パンなどまで、つられて買ってしまい

実は“大金”を使っております。



                 

                                    Risaco


p.s.4

本日は、田中康夫氏風に仕上げたつもりです。








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mmm@madame-watson.com






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