MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載403回
      本日のオードブル

時はやさしく、時につめたく

時をめぐる
約14のストーリー

第3話

「オルテシア作戦」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)は
2013年12月で7刷)
Kindle版は2013年12月発行。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、他たくさん。



「“Like a Cat”と同僚の英語教師は
私に教えてくれたとおり、
私は愛情を注いだだけの
見返りを今、アジサイの庭から受けています。

今年もこんなに咲き誇りました。
色は変わり、移り気であっても、
私はこの大輪の中に繊細な
花を集めた花を好みます。

籐の椅子に白いクロスをかけて、
地元のワインも用意していますから、
遊びに来られませんか?

一面のアジサイに囲まれて
芝生の上で味わう赤紫はそれはそれは
格別な味わいに決まってますから」


 
      
  





      


第3話

「オルテシア作戦」


 

 小学3年の時、初めて算数でクラス1番になった。その時のうれしさを

思う時、今でもみぞおちのところが熱くなる。



            



 私は自転車のかごに通知表を乗せ、近所中をぐるぐる回った。誰に見せ

るわけでもないけれど、誰かに見せたくて仕方なく、かごに手を置いてク

ラス1番を飛ばさないように気を付けながら、自転車をびゅんびゅん飛ば

して夕方まで過ごした。


 担任の教師は、「応用問題に優れている」とコメントに書いてくれてい

た。以来、私は数学の教師を目指し、そして教壇に立った。


 それからもう結婚することもないだろうと思っていた30代も中半を過

ぎた頃、通勤途中の不動産屋の広告にわしづかみにされた。



            



 「シングルライフ、エレガントライフ」カタカタ言葉の向こうには紺碧

ブルーの海辺に建つ真っ白い外観に張りだしたバルコニーを持つマンショ

ン。それに吸い込まれるように私は自動ドアの前に立っていた。マンショ

ンでも買って優雅な独身貴族を楽しむのもありか


 中に入ると、早速声をかけられた。同年代か少し年下らしい営業マンは

私の前に座ると新人のような拙いしゃべり方でぽつぽつと物件の説明をし

始めた。しかし、私にはそんな説明はすでに不要な感じに思えた。見渡す

青い海、白い部屋、海からの風が吹き抜ける美しい部屋に人生で初めて一

目ぼれをした。通勤は今より不便になりはするものの、その生活は青と白

のバラ色に見えた。


 拾おうとさえすれば拾える場所にこんな生活があるのだと思うと、道端

の雨に濡れて汚れた袋でも臆することなく拾い上げ、コンビニの袋に入れ

て身近なごみ箱まで持って行くようになった。だから私は未だにコンビニ

の小さいビニール袋をバッグに数枚入れている。


 数回、「シングルライフ、エレガントライフ」のポスターの自動ドアの

前に立つうち、私はだんだんと数学的な計算を忘れる自分になっていた。


            


 5度目に自動ドアの前に立った時、説明をする彼は実はもっと上の階に

いい物件もありますとすてきなロケーションの広い部屋を見せた。


 その整って美しいリビングのテーブルセットとその向こうの真っ白い広

いキッチン。私は今まで料理などまともに作ったこともないのに自分がそ

こにエプロン姿で立っている情景を垣間見た。価格は約2倍だった。


 「それなら先に言ってくれたらいいんじゃないの?」私はその時、正直

そう思った。海風になびく髪、ブルーと白のベッドルームのイメージパー

スはずっと短かった私の髪と爪を伸ばさせていた。



            



 7度目の自動ドアが開いた土曜日の午後、カウンターの脇に置かれた青

と紫の大輪のアジサイの陰から彼は顔を出すと、少し恥ずかしげに「素敵

な青紫のワンピースですね」と私に話かけ、「アジサイ色のブルーと紫が

好きなんです」とアジサイの方をちらっと見た。「私もアジサイは大好き

ですよ」「そうかなと思って、実は庭から取って来たんです。と言っても

マンションのオーナーが育てている花ですけどね。でも、アジサイの咲く

芝生の庭を持つのが私の夢なんです。そんな別荘を郊外に持ちたいとずっ

と思っているんです」彼は笑いながらも真摯な表情を浮かべた。


 次の雨の月曜日、そのカウンターに座ると、土曜日とは違う濃い紫のア

ジサイが花瓶に挿されて置かれていた。「アジサイって色が変わりますよ

ね。だから移り気とか浮気みたいな花言葉らしいですから、ジューンブラ

イドには向かないんですけど、最近はそれでも気にしない人たちもいるそ

うですよ」と言った。「ここはいいけど、一人ではとても払えない金額だ

から」という言葉が今まさに私の口から出る寸前、彼は「二人で払いませ

んか?」という言葉でおおいかぶせた。



             



 「はっ?」「いや、二人で払いませんか?」しかし、運命の分岐点は高

速道路の分岐点と同じで、一瞬の判断を要求するらしい。


 それから間もなく私たちは結婚の約束することになった。彼はアジサイ

の咲き誇る素晴らしい庭を持つワンルームのマンションに住んでいた。そ

して私は翌週には手付金300万円を支払い、その足で美容室に行き、髪

を整え、爪にマニュアをし、「青天のヘキレキ!」と笑いをこらえながら

帰った。そうだ。運命は「結婚」の2文字に収束することになった。


 すべては予定通りだった。数学の数式通り。それはもちろん、私の側で

はなく、アジサイの君の予定通りという意味で。



            



 1週間後、エレガントライフのポスターははがされ、自動ドアは再び開

くことはなく、その会社は倒産していた。アジサイの君はすでに引っ越し

た後で、行方も分からず、電話は通じなかった。手付金はアジサイの君が

持ち逃げしたに違いなかった。それからの最悪な私の第2幕は髪を元より

さらに短くし、爪は色を失わせた。


 「どんなことをしてでも探し出しだす」今度は復讐の2文字を彫刻刀で

刻み、壁にかけた。それは6月6日、ノルマンディ上陸の日を記念する式

典がアメリカとフランスで盛大に行われている日だった。


 そして私の綿密な作戦は10年計画で収束を目前にしていた。



            



 ソーシャルネットワーキングを駆使して網を張り、とうとう探し出した

アジサイの君は一本釣りするエサの先に来ていた。アジサイの君はさほど

場所を動いてはいなかったのは幸いだった。結婚している様子もなかった。


 私は作戦通り、郊外に別荘を建て、そこに素晴らしいアジサイの庭を作

り、猫をかわいがるようにアジサイを育ててきた。そしてようやくネット

上で売りに出した。彼は食いついてきた。もちろん同日に3人も問い合わ

せが来た。


 私は友人を案内人にし、その様子はスカイプで隠し撮りを決行した。私

は私のアジサイ荘を売る相手をもちろん決めることができた。先に決まっ

ている相手に。そしてきっかり300万円の手付をもらい、手放す手はず

になっていた。


 しかし、私はそこへきて、どうしても手放す気分にならないことに気づ

いた。10年かけて育て上げた私の麗しいアジサイの君は「私のアジサイ

荘」と名を変え、「復讐」と刻んだ2文字は「愛着」という2文字に変わ

っていた。



   



 私はこの10年を恨み、いぶかしかがり、愛おしみ、そして最後は自分

の綿密な作戦に酔っていた。さらにそんな綿密な作戦を決行する人間に変

えさせたアジサイの君に今では親愛の情さえ感じながら、そう、今日も雨

に濡れるアジサイを眺めている。



   



 コードネームの「オルテシア」はアジサイという意味のフランス語で、

それは6月7日の土曜日に終結した。


 そして私は「応用問題に優れている子供を育てる」作戦を「オルテシア

作戦」と呼ぶことにしたけれどその真意を知る人はもちろん誰もいない。









   *上のイラストから「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10(最後に0)の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

p.s.1
 
  不動産業なさっておられる読者様、大変失礼を致しました。
  でも、物語は今回も完全にフィクションです。

  最近わかったことは、リサコラム読者様は、人を驚かすことの好きな方だということです。
  きっと私もその一人だと思います。

p.s.2
  また、リサコラムでこれ、好き!というタイトル(漠然としたもので結構です)
  ございましたら、ぜひ、お教えくださいますように。

  AAA、N氏の場合、狐狸相談室、初期のコラム、いろいろご意見を頂戴致しまして
  ありがとうございます。

  必ずご返信致します。下のイラストをからメールの文面に入って頂けます。


                      


  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

(Amazon、書店では1,500円で販売しています。)

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,800円にてお届けいたします。  
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
    お申込はこちら→「Contact Us」           
                          

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.