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リサコラム
連載404回
      本日のオードブル

時はやさしく、時につめたく

時をめぐる
約14のストーリー

第4話

「夕暮れ時の画家」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)は
2013年12月で7刷)
Kindle版は2013年12月発行。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、他たくさん。


大きな川には2つの橋がかかっています。

手前の小高い丘から対岸の街の様子が
すべて見渡せるここは絶好の写生スポット、
撮影スポット。

そして○○スポットです。


お天気のいい夕暮れ時は西から南に向かって
空の色はどんどん変わって行きます。

川の色は空の色をそのまま映し、

そこにいる人に○○の力を与えてくれるんです。

 
      
  





      


第4話

「夕暮れ時の画家」



「あいつだと思うよ」ロンは私に小声で言った。


 「はぁ?」「ほら、何流か知らないけど、ほら、スターのあいつじゃな

い?」「まっさか~」

            



 小高い丘の公園まで息を弾ませ、引きずられるようにやっと登って来た

私はすぐには冷静な目にはなれなかった。


 街を見下ろせるこの場所は私の裏庭のような所で子供の頃から見慣れた

風景なのに、このとっておきの時間だけは街も空も全く違って見える。



            



 今日も特製のオレンジ色のシャーベットの上にとろっとして透明なぶど

う色のゼリー状のソースがかけられてゆくみたいに、空の色はみるみる大

人好みの色に変わってゆくのだろう。


 ロンがスターと言った、野球帽をあみだにかぶってイーゼルの前で筆を

動かしている30代くらい男性を私は気づかれないように自分の背中の

半分で見てみた。こんな時、女性は後ろの目を使うことができる。そこは

男性にはない特殊な能力だと物の本で読んだことがある。


 「そうかも」「ほらね、だろう?声、かけないの?」「そんな~、今は

悪いよ」「何が?」「だって、絵、描いてる人に声かけたら、悪いじゃな

い」「それって、単に勇気なしの人間の言い訳じゃないのかな?」ロンは

いつも正論で私を追い詰める。そこがロンの嫌なところ。



            



 「ほら、『素敵な絵ですね~』ってそう言えばいいだけさ」「プライベ

ートな時間にスターに声をかけちゃ失礼になるのよ~」私は大した興味な

どないというそぶりをした。だって、一秒の半分くらい目をそらしていた

ら大事な変化を見落としてしまうこの貴重な空のショーを見逃すのも惜し

いというのもあったから。私は目の前のパノラマに精神を集中した。


 私は生まれてからずっと大きな川のある比較的大きな街に住んでいる。

丘の上から見下ろすと対岸のビルの群れと緑のせめぎ合いはなかなかうま

く行っているようで、心地よい都会の風は都会過ぎないバランスのいい色

の間から吹いてきた。



            



 洗練された建物、そこにお金と物と人が行き交い、そしておいしい食べ

物の匂いがあり、素敵な会話とそして粗野な会話もあり、繁栄と衰退、喜

びに悲しみの混じり合ったものを夕暮れの空はエネルギー全開でうまく調

整して、今日の終わりの色に包み隠そうとしているように私には思える。

そんな晴れた日の空気の澄んだ日でないと見られない夕暮れのパープル色

のショータイムは休日の私の密かな、そしてかけがえのない楽しみで、な

んて表現していいのかわからないけれど、ずっと心待ちにしている気まぐ

れな連載ドラマのようなものだと思う。


 そこは時間の感覚と空間の感覚とが混じり合って区別もつかなくなる、

私のいわば、エスケープゾーンだと思う。そのことに数年前から私は気づ

いていた。



             



 「エッフェル塔があればいいのにね」私は振り向いてみたけれど、私の

ほかに人間は誰もいない。三輪車に乗ってそこら中を走りまわっている成

長途中の大人はおそらく対象外だとすると、スターは私に話しかけている

ことになる。


 「エッ?エッフェル塔ですか?」「ああ、あそこに」男性は川向うを指

差した。「のっぽなビルが建つ前にエッフェル塔みたいなものを建てれば

ここも観光名所になるんだろうけれど」「はあ~そうですね」「パリには

行ったことはある?」「いいえ」「パリの空は広いよね。どこから見ても

空の広さは変わらないんだけど、空が高く広く感じるんだよね。それは高

い建物がエッフェル塔だけだからなんだよね。そこが観光戦略のうまいと

ころだけどさ」スターは大きなキャンバスにどんどん鉛筆で線を描きはじ

めた。



            



 「なるほど、そうなんですね」「簡単な論理だよね。映画だってドラマ

だって、スターを際立たせれば、半分は成功じゃないかな。スターがたく

さん出てくるようなものが仮にあったとしたら、かえって焦点が合わない

メガネみたいに全部がぼやけて見えて、ヒットはしないよね。どんなもの

でもスターがいなきゃだめなんだと思うよ」「そうですね。おっしゃる通

りだと思います」


 私は絶え間なくうつろう夕暮れのパープルタイムに架空のエッフェル塔

を建ててみた。なかなかいい感じかもしれない。エッフェル塔のある街は

世界中から人を呼び集めることができるんだし、エッフェル塔は当然スタ

ーってことね。


 「そのスターを見物できる場所も要るんだよね。つまり、モンマルトル

の丘みたいな場所かな」「つまり観客席ってことですね」私は街を見降ろ

したままで素直にうなずいた。スターがいて、スターより目立たないけど

味もあり、くせもあり、美しくもあり、醜くもあり、そしてドロドロして

いても見かけは美しい人間みたいな場面がいるってことか~「ああ、なる

ほど、わかりました。それが、この街みたいなものですね」「きっとね」



            



 スターの画家は大胆に絵筆で色を入れ始めていた。「それって、もしか

して架空のエッフェル塔ですか?」「ああ、そのつもり」いつの間にか、

キャンバスの中心には白いエッフェル塔だけが描かれ、他は赤ぶどう色に

塗り込められていた。


 「それじゃ、僕はそろそろ帰るかな」スターの画家は航空ショーのよう

に空の色が薄黒いグレーから黒になりかけたところを見計らって、イーゼ

ルからキャンバスを降ろした。



            



 私は見知らぬ絵描きさんが無言のまま去り、エッフェル塔とスターの画

家も消えた公園でしばらく余韻に浸った後、犬のロンのリードを引っ張っ

た。


「ロン、私たちもそろそろ行こうか~」


 夕暮れの空が紫に燃え上がる数分のパープルタイムは私のミラクルエス

ケープゾーン。だから、そこに入ると普段は、知らない人とは打ち解けら

れない地味でふつうのOLの私が架空の物語を組み立ててその中で会話がで

きる。そして物語のインスピレーションを与えてくれる誰も知らない時空

間。もちろん誰にも言ったことはないけれど。



   



 「いつかそのうち、私の漫画だって、世に出る日が来るはずよ」ロンと

私はくるっと後を向くと小走りに、いや小躍りにモンマルトルもどきの丘

を駆け下りた。




    








   *上のイラストから「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10(最後に0)の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

p.s.1
  いつも思うことは、物語を作ることは、知らない誰かと会話をするということで、
  つまりそれは勝手な○○ですよね。その○○をどうやって引き出すのか、
  これが問題であります。
  ○○はつまり、空想

    
p.s.2
  また、リサコラムでこれ、好き!というタイトル(漠然としたもので結構です)
  ございましたら、ぜひ、お教えくださいますように。

  AAA、N氏の場合、狐狸相談室、初期のコラム、いろいろご意見を頂戴致しまして
  ありがとうございます。

  必ずご返信致します。下のイラストをからメールの文面に入って頂けます。


                      


  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

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