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リサコラム
連載405回
      本日のオードブル

時はやさしく、時につめたく

時をめぐる
約14のストーリー

第5話

「4つ目の誤算」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)は
2013年12月で7刷)
Kindle版は2013年12月発行。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、他たくさん。


「心地よい南の風は、格子窓から
外の緑色を縫って入ってきます。
私の部屋はその緑の角の部屋です。

エメラルドブルー色のガラスのランプシェードは3つ。
ブルーのストライプのシェードをかぶった
シャンデリアの下で
今日も涼しげな香りと光を競っています。

蘭の花と同じ柄のベッドスローは
私のここでのお気に入りよ。

あなたも来てみませんか?
きっとずっとずっと美しい部屋できっと驚くから」



 
      
  





      


第5話

「4つ目の誤算」

  空港に着くと私はまずリムジンカウンターに並んだ。タクシーでもよ

かったけれど女性の一人旅、やはり安全より安心なものはない。



            



 リムジンが私の前に停まるまでの数分間で、絡んだ糸の先を探しながら

過ごした13時間で出した結論に、自分でハンコをついた。


 これから私は有名な観光地の郊外にあるマナーハウス付きの瀟洒なホテ

ルに再び閉じ込められる。「閉じ込められるなんて、」私は自分でこんな

言葉を思いついたことを愉快に思った。閉じ込められた間、私自身は熟成

され、そしてワインのように芳醇な香りを放つホスピタリティを身に着け

た女に変身を遂げるはずだから



            



 それはもう昨年の出来事のように思えるけれど、事実は小説より奇なり

を突き付けられた瞬間からたった2日しか経っていない。その2日間で私

は脱皮し、これから70日後はその瀟洒なホテルでハウスキーピングスタ

ッフとして人生の第何章目かの幕を開けることになるだろう。そしていず

れ、コンシエルジュに昇格し、はるかな夢はゴージャスなスパのあるホテ

ルのオーナー。「ふぅ~ん、最高の気分よ~」私は曇天を快晴の気分で仰

いだ。


 それは2か月前の昼休み、夫は私好みのホテルで面白いステイプランを

やっているよと職場にわざわざメールで知らせてきた。それはハウスキー

ピングを学びながらホテルに滞在するプランでおもしろそうなカリキュラ

ムに思えた。最近の流行はホテルでのんびりするだけではなく、料理を習

ったり、荒野でキャンプ生活をしたり、険しい山に登り、川を渡るハード

な体験プランをさせる高額なホテルステイプランもたくさんあるから、そ

れらに比べれば驚くほどでもなかった。しかし奇異に思えたのはそのコー

スの値段だった。そこには3泊4日コース、2週間コース、そして70日

コースがあった。3泊4日のコースの1.5倍の価格が2週間コースで、

さらに1.5倍が70日コースだった。含まれるのは、教材費、授業料、

そして実地訓練費に3回の食事代。70日コースには将来、ホテルで働く

人を養成するためのコースでもあると書かれてあった。



            



 10日間の1.5倍の価格が70日間分なら本気でホテル業界で働こう

と思う人には最高の環境だし、時間なら売るくらいあるという人にはまた

最高のエクササイズだろう。70日間は無理としても、めり込むタイプの

私の性格からすると2週間は生き方を見直すにもちょうどいい期間だと判

断し、それに申し込んだ。


 高級エステティックサロンで働く私の行く末にも不安はあったし、自分

の夢の方向に少しだけ足を踏み入れてみたいとも思ったからだが、2週間

の休暇を取るのは勇気のいることだった。でも、いざとなればどんな仕事

にでもつける覚悟もあった。


 そして、はるばるホテルにやって来ると、ゲストで受講生の私たちはゴ

ージャスなマナーハウスに案内された。ホテル棟とは別棟のマナーハウス

は3ベッドルームの広い邸宅で、このホテルのオーナーが所有し、予約が

入れば高額な料金で他のゲストに貸し出されることになっている。集まっ

たゲストであり受講生は広いサロンとその先の広い芝生の庭、真新しいモ

ダンな四角いプールの景観に目を見張った。



            



 将来に夢を抱いているゲストもいれば、お金を無駄に使うためにやって

来ているゲストもいて、その意欲にはさまざまな色のあることは見てわか

った。


 講師のジャネットはまず、私たちの前でこういう宣言から始めた。「新

しい習慣を完全に身に着けるまで66日間かかります。ですから、その前

に帰る方は自宅で続きをなさってください。それ以上を超えてここに残ら

れる方はきっと私たちのお仲間として迎え入れられるでしょう」


 私たちはそこで午前中いっぱいの授業を終えると各部屋の掃除やベッド

メイクをアシスタントとして実地で訓練し、そして夕方、ハイティの時間

になるとまたマナーハウスでお茶に集まった。3日目、終わった後にシャ

ワーを浴びるとベッドに倒れ込むほどぐったりと疲れていた。そこでホテ

ルの仕事の大変さを始めて知った。さぼる人もちらほら出て来た。なるほ

ど、だから3泊4日なのか。私はあとの7日間をどう乗り切ればよいのか

想像もできなかった。



            



 7日目に私に変化が表れた。今思えばそれが最初の誤算だった。私はも

ういてもたってもいられないという気分で家に帰りたいと願った。それは

自分の家でもやってみたくなったからという率直な気持ちからだった。


 他人の部屋をきれいにしても自分の部屋がきれいになるわけはなく、わ

ざわざ高い授業料を払ったものの、1日でも早く自宅に戻り、身に付けた

ハウスキーピングの技術で部屋を掃除し、整えれば、美しいホテルの部屋

のように、そしてこのマナーハウスみたいに作り上げることだって夢では

ないかも。そんな切迫した思いに駆られ、帰りがオープンチケットの航空

券に感謝しながら、4日早く帰国の途についた。もちろん夫には内緒で。


 見違えるほど美しく変わった部屋に帰って来た時の夫の驚く顔を想像し

ていると、機内の狭い中の13時間を優雅な気分で楽しむことさえできた。


 私は踊る気持ちで空港からタクシーを走らせ、家のドアを開けた。そし

て2つ目の誤算はその直後にやってきた。



            



 「えっ、もしかして、空気が違う」10日間で新たに私にインストール

された第6感はあることを理解した。それから先はその直観を確認するだ

けだった。玄関の花、床、香り、そして磨き上げられたキッチン、しわな

く整ったベッドルーム。私は見知らぬ女性の匂いを探した。


 しばらくはワックスで鏡のように光る床にじっと座ったままで物事を整

理した。そして、そのまま空港近くのホテルに向かった。私はそこで講習

中に仲良くなった講師のジャネットと連絡を取り、70日間の講習に切り

替えて本気でやらせて欲しいと頼んだ。彼女は私のことを気に入ってくれ

ていたようだし、日本人のコンシエルジュが欲しいとも言っていたから、

私はそれに望みを託した。


 翌朝、仕事先には辞表を送り、そして夫とのことは保留のまま、再び人

生の折り返しのようにマナーハウスへと折り返した。



            



 やって来たリムジンの運転手は私にドアを開けながら、「ようこそ、マ

ダム」と、にこやかな笑みを浮かべた。そして運転席からすっと封筒を差

し出した。


 「まず66日間、また楽しくやってみましょう。夢を実現する時間でも

あり、解決できる時間でもあり、そして引き返せる時間とも言えるのです

から。まあ、ヘアピンのカーブの部分は想像するより弾力があるものよ」

ジャネットの差し向けた運転手だった。



  


 「見違えるような姿を楽しみに、辞表は70日間受理を保留します。」

私のケイタイには3つ目の誤算が届いていた。



    



   *上のイラストから「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10(最後に0)の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

p.s.1
 こんなホテルがあれば面白いのにと思えば、どんなに奇妙でも物語でなら
 作れるところが楽しいところです。
 ホテルはいろんなものがたくさん集まった小さな社会なのでとても好きです。
 お付き合い頂きまして、ありがとうございます。今回も物語はフィクションです。
    
p.s.2
  また、リサコラムでこれ、好き!というタイトル(漠然としたもので結構です)
  ございましたら、ぜひ、お教えくださいますように。

  

  必ずご返信致します。下のイラストをからメールの文面に入って頂けます。


                      


  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

(Amazon、書店では1,500円で販売しています。)

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,800円にてお届けいたします。  
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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