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リサコラム
連載406回
      本日のオードブル

時はやさしく、時につめたく

時をめぐる
約14のストーリー

第6話

「3秒ルール」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)は
2013年12月で7刷)
Kindle版は2013年12月発行。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、他たくさん。



向こうに見えるのは、何かの塔でしょうか?
その手前にも四角な石造りの塔が見えます。
さらに手前の広場をとり囲むようにベージュの外壁の
すてきなホテルのような建物があります。
1階のカフェはブルーと白のストライプの
テントがさわやかです。
そしていちご色のテントのレストランは
おいしそうな香りが表まで漂ってきそうです。
その中心の広場にはところせましと絵が
並んでいます。
絵を売っているのでしょうか?


質問です。ここはどこでしょうか?
1.東京タワーの下の広場
2.福岡タワーの下の広場
3.パリのテルトル広場


 
      
  





      


第6話

「3秒ルール」


 「昨日のセンターコートはすごかったよな~」僕の隣りの奴(やつ)は

鉛筆を握ったまま、雨の上りのキャンバスという空にいきなりボレーをあ

げた。



            



 僕らのいる絵画クラスの小さな窓はグレーとブルーの交差する薄曇りの

空から遠慮がちに今日最後の光を落している。僕はそんな色を作り出そう

と、パレットと空を交互に見比べているところだった。しかし、僕は奴の

そんな問いかけには3秒間返事を延期することにしている。


 まず1秒で息を整え、1.5秒間でドリブルをして、相手の動きを観察

する。そして、0・5秒でパスを回す。これが僕のやり方でかなり効き目

はある。それは相手にとってというより、自分にとってという意味で。



            



 さらに、ここは無駄口禁止の絵画クラスだから、秒以内に奴が返事を

催促してきたとしても、口に人差し指を立てるだけで済む。奴はきっとい

らいらしながら、モデルを見るふりをしてデッサンを続けているはずだ。

だって、デッサンとウインブルドンのセンターコートとの間に関連するも

のは何もないから。つまり、集中できていないということだ。集中できな

いということは、0・5秒ごとに僕の返事をイライラしながら待っている

ということになる。



            



 さらに有利なことに僕はテニスに興味がない。それも奴は知っている。

少なくとも10数年前から。なのに、テニスの、それもウインブルドンの

テニストーナメントというテニス愛好者にはよだれの出そうな話題でさえ

も、僕のような人間には「昨日の幕の内弁当のステーキ肉はうまかったよ

な~」と少しも変わらない。それも奴は十分知っている。なぜなら僕らは

中高と幼馴染で、さらに同じ美術部で6年間も一緒だったからだ。だから

といって二人とも芸術の分野に進むでもなく、その分野の教職の道を見つ

けようとすることもなかった。


 午前8時のラッシュアワーでもよれよれにならない洗えるスーツを着て

通勤する営業職のごく一般的なサラリーマンというに過ぎない。それが唯

一の共通点だと思う。もちろん週に1回、午後時半から始まるこの絵画

クラスに通っていることを除けば。



            



 奴は独身で、自慢できるストックと言えば、絵の具とカップラーメン。

家具は作り付けのクローゼットだけで、段並んだバーにすべてコンビニ

の袋をつるし、下着、靴下、ハンカチ、その他雑多な物を整理している。


 部屋の中央には大きなベッドを一つだけ置き、大きなクッションを床の

上に数個転がしてその上でカップラーメンを優雅に食べる半異常者的な生

活でも、自信を持って送っている。奴曰く、そのカップラーメンは、あら

ゆるネットワークから探し回った栄養価の高いバランスのとれた健康的な

ものらしい。


 しかし、想像するよりはるかに潔癖性で2LDKをワンルームにしたマ

ンションの部屋に毎朝掃除機をかけると、シャワーを浴びて髪の毛を乾か

し、その後洗面室、玄関とだんだんと外に向かって掃除機をかけてゆき、

もうこれ以上は掃除をするところがないという場所の玄関ドアのすぐ横の

クローゼットに掃除機を納め、そしてその横の扉を開けて、シャツとスー

ツを出し、それを着て出社する。奴によれば自分以上に効率的な生活を送

っている人間はいないらしい。



            



 そんな奴の一番尊敬する人間はウインブルドンの優勝戦が終わった瞬間

に決まる。その男子の覇者がそれから1年の奴の尊敬する人間になるから

で、そのシルバーに輝く栄光のカップを手にしている間だけが彼の尊敬を

勝ち得ることができるというわけだ。その短絡的というのか、ミーハーと

いうのか、それに唖然した僕は奴のほぼ反対の家庭生活を送っている。


 つまり、生活感に満ちた3部屋と半ばうんざりしながら、日に2回開け

る生活感と充足感に満ちすぎたクローゼットのある古い戸建の家に暮らし

ながら、休みの日には子供のサッカーの試合に付き合い、もちろんワール

ドカップはすべて録画して観る。



            



 しかし、奴はサッカーのことをまるで理解しない。奴の中では、10分

の1
秒台でボールの動きに反応して相手にフェイントをかけながら10分

の1秒台だけ空いた向かい側のコートに直径10cm程の黄色いボールを

打ち込める人間こそ、素晴らしいと信じているからだ。


 サッカーの話をする時、奴はなぜあんなに広いコートにボールを100

%蹴り入れられないんだ?ラケットの面積の数100倍は広いはずだろう

としか言わない。つまり僕と奴はほとんどかみ合わない。


 「もう始まってんだっけ?その、え~と、ウインブルドンは?」私は

秒数えて返事をした。



            



 「賭けないか?」僕が言い終わる瞬間、奴は今年も昨年までと同じ質問

を繰り返した。尊敬する人物を懸けで決めるような人間の誘いに付き合う

理由は全くない。しかし、実際はその懸けに僕はこの7年間連勝し続けて

いるし、今年も勝てる自信があった。僕が勝てる理由は僕らの全く合わな

い趣向のように明らかだと僕は思う。それは、奴には考えられないほど長い

3秒間の余裕を僕は常に持っているため、奴よりはその分、常に冷静な分

析が下せるからという理由によると信じている。



   



 秒後、僕は出来上がった水彩画を奴の方に誇らしげに見せて、今年も

「ああ、いいよ」と答えた。




    



p.s.1
   Yukoさまとダーリンさまよりお送りいただきました写真を見ながら今回はイラストを描きました。
  季節は雨上がりの6月に変更してみました。お写真のアングルが憎いですね。
  裏窓のように、後ろ側からのアングル、面白いです!キャンバスの裏をたくさん描きました。
  正解はもちろん、3番。パリのテルトル広場です。
  今回も物語はフィクションです。


      



   *上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10(最後に0)の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。


p.s.2
  今までのリサコラムで「これ、好き!」というタイトル(漠然としたもので結構です)が
  ございましたら、ぜひ、お教えくださいますように。


  必ずご返信致します。下のイラストをからメールの文面に入って頂けます。


                      


  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

(Amazon、書店では1,500円で販売しています。)

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,800円にてお届けいたします。  
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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