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リサコラム
連載407回
      本日のオードブル

時はやさしく、時につめたく

時をめぐる
約14のストーリー

第7話
「マリーのエンスーな20分」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)は
2013年12月で7刷)
Kindle版は2013年12月発行。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、他たくさん。


「正面がかの有名なフォンテーヌブロー宮殿か~。
泉が湧き出るのかな?」

「すご~い、ゴージャス!フランスの歴代の王が
改築し続けておよそ600年の歴史があるらしいよ。
その栄光の中庭を
今歩いているんだよね~
壮大な芝生の中の石畳だね。
過去の王様たちが
ここで栄光をイメージしながら歩いた足跡を感じるね~。

『栄光の中庭』はきっと、
インスピレーションンの中庭だったんじゃないかな?」
 
      
  





      


第7話

「マリーのエンスーな20分」


 

 「マリー、今、何時だ?」大柄な男性は、やく7,80cm後を歩いて

くる私の方を振り向いた。



           



 「はい。12時40分です。閣下」「今夜は何を着て行けばいいんだろ

うか?」「もうご用意しております」「そうか。やっぱりやるのかな?そ

れも他国の言語で、うざったいね~」「そんなことをおっしゃってはいけ

ません」「この演説の成功は私たちの未来がかかっているのですから。自

信を持って最高のスピーチをなさっていただかなくてはなりません。ご

自宅で十分な練習はなさってこられましたか?」「そんな暇はないよ。知

っているだろう、私のスケジュールを?」「そんなことだろうと思ってお

りました。まあ、よろしいです」私は溜息の代わりにちょっと皮肉めいた

言葉を続けた。


 「『案ずるより産むが難し』ですから」「それを言うなら『用意周到に

石橋はなし』じゃないのか?」私と閣下は笑った。「そうです。それでこ

そ、エンスーのエンスーたるところです」私の左の前を歩く運転手兼SP

言った。


 「エンスーって、君、意味を知っているのかね?」「もちろんです。閣

下。エンスーとはエンスージィアスティック、つまり、無関心な人からは

異常に思えるほどにあることに対して強烈な執着的趣向を持つ人、あるい

はその集団ということです」運転手兼SPは振り返らずに頭だけを振りな

がら答えた。


 「そうでしょうか?私はエンスーって情熱を傾けられる傾向を持つ人だ

と思いますけど。つまり、すべてのことに対してエンスーである人が神な

のだと思いますよ」



           



 「そう話を飛躍させものじゃない。すべてのエンスーは神だなんて私に

はまるで分らないね」運転手兼SPは相変わらず前を向いたままだった。


 「マリー、どう答えるかね?」私の右前の閣下は左半分の顔だけを私の

方に向けた。



           



 「それは簡単です。つまり人間はすべてのことにエンスーではいられな

いでしょ。だって興味のないことには熱心になれませんから。でも、神は

あらゆることにエンスーでなくちゃ、そのエンスーの人たちの神さまには

なれまえんものね。つまり、スポーツでも学問でも、農業、漁業、すべて

の分野にエンスーでなくちゃついていけませんもの。だから神さまは大変

だと思います。常に世の中の進歩について行かなくちゃならないでしょ」


 「世の中の進歩についてゆくって?」運転手兼SPは少し馬鹿にしたよ

うな声を出した。「だって、原始時代はまだよかったのかもしれませんけ

ど、今はコンピューターより万能でなくちゃテクノロジーの進歩の先は行

けないでしょ。すべての機器もだれより先に理解していなくちゃ、開発者

にインスピレーションを与えることだってできないですもの」


 「がははははは、そりゃ、面白い発想だ。神は進化を続けているか、う

ん。なるほど、リアリティがあるな~」閣下は空を仰いで、大きな笑い声

を響かせた。



           



 雨あがりの空は刷毛でなぞった感じでうっすら雲を残してはいるけれど

ほとんどは水色に晴れあがっている。「それでは閣下、このあたりでちょ

っと練習なさいませんか?」私は小学生と中学生の二人の男の子を連れた

母親と思しき女性の脇を通り過ぎたところでちょっと小声になると、芝生

の間にいる男の子に手を振った。その男の子は脇からすっと前に出て来て

私たち3人の列の前に加わった。



           



 「彼が、その助っ人です」「助っ人って?」閣下の質問に運転手兼SP

の方が先に答えを言った。「つまり、口ぱくですよ」「口ぱくって?」

「探したんです、エンスーを」「エンスー?」閣下の声はブルーの空に裏

返った。私は空色のドレスを少しだけ指で広げながら、さらに声をひそめ

た。


 「子供だと馬鹿にしてはいけませんよ。ネットで探して見つけた天才で

すよ。つまり彼が演台の下に隠れて、マイクで演説原稿を読みますから、

閣下は口ぱくで結構なのです。口調も声色も閣下に合わせるように事前に

訓練されております。『演説エンスー協会』でも一番手なんですよ」私た

ちの歩みは少しだけゆっくりになった。



           



 「1万人の観客の前で演説したこともあるんですから。歴代の首相がこ

んな技を使っていたら、きっともっと聴衆を魅了したでしょうね」


 「つまり、私は口パクでいいってことか?」「そうです」「すべては今

回の閣下の演説にかかっているのですから。組織を挙げてのこのプロジェ

クトは国家にもかかわる一大事ですから、これくらいのエンスーの技は使

いませんと」「なるほどそうか。それじゃ、この子は質問にも答えられる

ってことかな?」「もちろんです。あらかじめ質問事項は集めております

ので、それ以外の質問は禁止されております」


 「よし、わかった。それじゃ、ジョークはどうする?」「閣下、この

演説エンスー協会のエンスーたるところがそれです。つまり、ジョークが

言えなくてはこの協会員にはなれないんですから。さらにこの子は引く手

あまたで、1年先も予定が入っているんですよ」「なるほど、それじゃ、

大船ってことかな」「ええ、おまかせください」



           



 閣下と運転手兼SPと演説エンスー協会から派遣された天才少年は今夜

の会議が行われるシャトーホテルの見事な庭を前にして歩みを止めた。そ

して私は背のびをした。


 その1分後、私の上司が現れた。


 「マリコ、今日のパーティのスケジュールはどうなっている?」私の前

をすり抜けながらドアの前に立った市長に私はすっと次の団体の陳情書を

持って従った。


 私は自称有能な市長の直属の秘書。昼休みの20分間は、秘書エンスー

協会のサクセスプログラムで通信教育をやっているのですから。好きな画

像を選んで、物語を作って送信する。それに点数がつけられる。秘書には

想像力とそして創造力を駆使して10手先を読む周到な準備なくしてはや

っていけない仕事なのですから。



            



 「市長、今夜の『古城愛好家協会』のパーティでは口パクでフランス語

の歌を歌って頂けませんか?私が後ろに控えてその歌を歌います」「なる

ほど、余興として面白いかもね」「ええ、それと、私の名前は『マリー』

と紹介くださいくださいませんか?」「マリー・アントワネット?って感

じか?」



  



 「ええ、その方がよりエンスーに聞こえますので」




   


   *上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10(最後に0)の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

P.S.
  今回のコラムは、フォンテーンヌブロー宮殿の写真からインスピレーションを受けて、
  などと大げさですが、書きました。イラストの中の人物は写真の中の人物にナポレオン時代の衣装を
  着させてちょっとおしゃれをしていただきました。お城も少しきれいに磨き上げて、屋根は明るめの
  ブルーグレーにしております。塔は今は修復中の様子でしたので、よその画像を見て描き入れました。
  私もフォンテンヌブロー宮殿の外観のエンスーになりつつあります。
  お写真はもちろん、「リサコラムの部屋」で有名なYukoさまとダーリンさま撮影によるものです。


  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

(Amazon、書店では1,500円で販売しています。)

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,800円にてお届けいたします。  
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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