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リサコラム
連載408回
      本日のオードブル

時はやさしく、時につめたく

時をめぐる
約14のストーリー

第8話
「Yumiriの3か月と3か年」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)は
2013年12月で7刷)
Kindle版は2013年12月発行。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、他たくさん。


半屋外の広々とした部屋。
右手には室内用のデイベッドが2台。
その前に細長い水浴び用のプールがあります。
そしてその左はベッドルームです。
外は少し勾配のついた芝生の庭に
白いデッキチェアが2つ。
その上にUVカット効果のあるパラソル。
女性をターゲットにするなら当然ですね。
それにしても、カーテンはどうしていつも片方は
タッセルで止め忘れているのかしら?
とお思いですか?
カーテンこそ、リゾートぽい効果的な空気の流れを
表現できるアイテムなのです。
一応、この絵の中でも役割分担があり、
みんな協力し合っているのです。
 
      
  





      


第8話

「Yumiriの3か月と3か年」




 “卵はポーチドエッグにしていただけませんか?” Yumiriはグミをか

むときにいつも10回数える要領で、頭の中で10回その言葉を英語で唱

えると、11回目を口に出した。電話の向こうの相手は理解しなかった。



          



 Yumiriは12回目をまた口に出した。相手はやっとわかったようで、

OKMadame”と言った。Yumiriはゆでたてを軽く生クリームであえた

パスタにポーチドエッグを乗せて刻みパセリと山盛りのパルメザンを乗せ

て、仕上げにたっぷりの黒こしょうをかけたシンプルなパスタが大好物な

ので、そのつもりで注文したのだけれど、しかしデッキチェアに座った

Yumiri
の前に置かれたものは真っ黒いイカスミに似たパスタのようなもの

だった。



            



 Yumiriは3年に一度、リゾートに行くのを自分の3か年の目標にしてい

る。けれど、メニューにない自分好みの料理方法で注文をしてもみるとい

つもうまく通じなかった。Yumiriは出されたイカ墨風パスタを黙って食べ

た。

 Yumiriは一度、会社の近くのランチの店で同じものを注文したことが

あった。「あのう、生卵でなく、卵はポーチドエッグにして、いただけま

せんか?」そう言ったYumiriに注文を取りに来たアルバイト風の店員は、

「ランチセットは、決まったもの以外、できません」と厳しい口調で断ら

れたことがあった。しかし、後でよく考えてみると、その店員はポーチド

エッグを理解しなかっただけなのかもしれないと思いいたった。


 そして3か年計画のリゾートの日程も3か月後に迫ったある日、Yumiri

は仕事で新しいプロジェクトチームに加わることになった。今までより一

層勉強しなくてはとてもついて行くどころか、足を引っ張りかねないこと

はわかった。そんな中でまさか、リゾートに行きたいからと先の休暇の予

定を願い出ることも、ぎりぎりになって言うこともどちらも自分の職を失

うほどの難関に思えた。



            



 Yumiriは翌日、時間を少し遅らせて近所のランチの店に行くと、カルボ

ナーラを注文した。「あの、できたらお皿の上に生卵を置いてその上にパ

スタを乗せてもらえませんか?生の卵が少し苦手なもので。でも大丈夫で

す。ちょっと火が通ればそれでいいんです」というと店員は眉を三角に上

げると、「キッチンに相談します」と言って引っ込んだ。そして目玉焼き

が上に乗ったオリジナルカルボナーラを持ってやってきた。Yumiriは黙っ

て目玉焼き乗せパスタを食べ、レジで「お気遣いありがとう」と言うとお

つりを置いて行った。


 翌日もまた同じカルボナーラを注文した。「できたら、卵をちょっとお

湯に落としていただけたら、うれしんですけど」と卵割るようなしぐさを

しながらにっこり笑うと、店員は眉をわずかにとがらせると、「わかりま

した。キッチンに伝えます」と言い、引っ込んだ。そして今回は少しいび

つな形ではあるけれど、パスタの上にポーチドエッグの乗ったものが置か


れた。Yumiriは支払いの時、「とてもおいしかったです。またよろしくお

願いします」というと、おつりを置いて行った。その翌日も同じ店員に

「昨日のは、とってもとっても美味しくて、またお願いできませんか?」

と言うと今度は眉を上げずに「かしこまりました。ポーチドエッグにしま

すね」と店員は笑いかけた。そして昨日よりはかなり形の整ったポーチド

エッグのカルボナーラがYumiriの前に置かれた。


 また翌日、Yumiriがやって来ると「あれですね」と言いながら店員はに

っこり笑うと昨日よりさらに美しい形のものが出された。



            



 Yumiriは2週間その店に毎日通い、同じものを注文し続け顔なじみにな

った。そこでYumiriはまた別の店で同じことを試してみた。結果はまた同

じになった。

 そしてプロジェクトチームの初の合同ミーティングが決まり、Yumiri

はお茶くみ係を申し出た。チーム6人の内、自分より下の人間は一人で、

他は自分よりキャリアのある人間ばかりだった。Yumiriは好きな飲み物を

一人ずつそれとなく聞き出し、その飲み物にふさわしいカップを用意して

一番よい状態で出すことに注意を払った。


 そしてミーティングが始まり、ひとりが話し始めるとYumiriは穏やかな

表情でそのひとの目を見てうなずき真剣にノートを取った。次の発言者の

場合も同じことを繰り返した。そして週1回、そして3か月間同じように

繰り返した。その間Yumiriは特に発言を求められることはなかった。



            


 それからほぼ最後となる会議で、Yumiriは次回はどうしても私用で休ま

せて欲しいと願い出た。するとひとりが「Yumiriさんがいないんじゃ、最

終打は出せないね。やりがいないしね」と言い、そして他スタッフもそれ

ぞれに同意し、Yumiriは一度も表立った発言をしたことはなかったにもか

かわらず、ミーティングは翌々週に延期された。



            



 Yumiriは今、3年前と同じリゾートに来ていた。これで4度目だった。

小さなリゾートではあるけれど、ヴィラ風の建物の周囲は森に囲まれ、窓

の向いた場所からはすべて海岸を見渡すことができた。


 ベランダのひさしの下から光は広い室内に入ると、まずはベージュのざ

らざらした石の壁に反射しまろやかな光に変えてベッドルームにも、室内

の水浴び用の細長いプールにもミントスプレーをまき散らしたようにさわ

やかな雰囲気を作り出した。青緑色の水はプールのタイルの色を映し込ん

で、水面には鮮やかな南国の花がたっぷり浮くその中で、Yumiriはじっと

目を閉じていた。



             



 先ほど女性スタッフにチップをはずんで、プールに浮かべるために持っ

て来てもらった赤紫の蘭の花のおかげで青緑のプールはさらにリゾートら

しいコントラスを持ち、Yumiriはその情景の中で自分の姿にさえ魅了され

ていた。


 「ふ~、ファンタスティック!」静かなプライベートビーチに吹く風の

かろやかさはプールの端に伸ばした両手の平でわかる。そして2台のデッ

キチェアは白いパラソルの下で次を待っていた。



             



 「お料理をお持ちいたしました」ドアの向こうの声に「どうぞ。ベラン

ダの方に」とYumiriはプールで目をつぶったまま答えた。しなやかに響く

衣擦れの音で先ほどの女性だとわかった。女性はプールから出ようとする

Yumiri
にすぐにバスローブを取ってはおらせ、バスタオルを手渡した。


 「さあ、どうぞすてきなランチタイムお楽しみくださいませ。」女性は

スタッフはチップを断って、すっと出口の方に下がった。



   



 ポーチドエッグはきっとマシュマロのように完璧な形だろう。Yumiriは

その上に粉雪のようにパルメザンをふりかけるその瞬間とリゾートにやっ

て来るまでの3年を重ね合わせていた。「恋愛によく似たもの、時間をか

けて、かけた分だけ、逆に与えられるもの

 
   


 「それが協力というものよね」Yumiriはフォークを握った。


   *上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10(最後に0)の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

P.S.
  チームワークで最も大事な「協力」、サッカーの試合だけでなく、あらゆる仕事においても、家族、地域社会、国家、あるいは旅先、旅先のホテル、そこにいる場所場所で人はいろんなチームに所属しているのだと思います。いろんなことをうまく運ぶためには、きっと愛情が行き来するチームワークが必要なのだと感じます。恋愛上手の方はきっと仕事上でも素敵な協力関係を築いておられることでしょうね。
 リサコラムの読者さま、いつも愛情をありがとうございます。

  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

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