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リサコラム
連載409回
      本日のオードブル

時はやさしく、時につめたく

時をめぐる
約14のストーリー

第9話
「ツキにおまかせ」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書”シンプル&ラグジュアリーに暮らす”(ダイヤモンド社)(06年6月)は
2013年12月で7刷)
Kindle版は2013年12月発行。
道楽は、ベッドメイキング、掃除、いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。外国語を学ぶこと。
そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、他たくさん。


セルリアンブルーの壁と
印象的なほど鮮やかな色の寝室は
誰が眠るのでしょう?

カーテンが4重にかかっています。
入り口にはドアはなくカーテンのみ。
そして、奥にはクイーンサイズのベッド。
ぼかした絵画風の花模様。
あざやかなグリーンに赤紫色の花
ちょっとハイソな感じ。
濃紺とブラウンのベッドスカートと
ランプスタンドの色、壁の色が同じと
いうのはちょっとラッキーな気配を
感じします。

 
      
  





      


第9話

「ツキにおまかせ」

 「おまかせしようかな」私は思った。


            


 私は掃除を終えた部屋を後ろ足で出ると、外に洗濯物の袋を置いて一旦

身なりを整え、一礼をして廊下に出る。広い玄関先のクロークルームまで

行くと白いルームシューズを脱いで帰り支度をし、玄関で女主人に挨拶を

する。


            


 私だって別に大したことを望んでるわけじゃない。でも、面白そうかな

と思った。自分では結論は出ていた。でもこれから実家の母に誕生日プレ

ゼントを買って持ってゆくから、さっきの件は母に一言だけ確認すればい

いと思った。


            


 父とふたり、郊外で暮らす母の誕生日プレゼントに買うものは決まって

いるし、それに母に一言言えば後はおまかせでいいだろう。迷いはなかっ

た。

 夕方の雑踏の商店街を歩きながら、私は兄の店先を覗く。兄は中でお客

さんと話をしているようだ。兄の店先には新しい柄のシックな花柄の生地

が並んでいる。店先のウインドウディスプレイも変わり、ずらっと壁一面

に並んだ海外の派手な柄の生地のサンプルブックは少し変わったような感

じはする。


            


 私は兄のカーテンショップの店先を通りすぎると、バラ、ユリ、ガーベ

ラ、トルコききょうなど、さまざまな色の混在する店に鼻先を向ける。新

鮮ないい香り。花店の前を通るだけでうっとりしていい気分になれる。私

は少しだけゆっくり歩く。


 店先のケンちゃんはケンイチなのか、ケンジなのかケンなのか未だにわ

からないけれど、元気そうにお客さんに話かけている。ケンちゃんの店先

には、夏の青いススキが並んでいる。


 実家の横の坂道の脇は今でもすすきの道で、子供の頃はそれを2本抜い

てスキーのストックのようにしてとんとんと調子を付けて走り降りていた

ことを思い出す。


 母は今以上を望まない人で、大工の棟梁である父の父つまり、大工の祖

父の建てた昔ながらのわりに大きな家をきちんと手入れしながら住み続け

簡素なものを食べ、自分で管理できるものだけをきちんと管理しながらず

っとこの年まで教育者として仕事を続けてきた。


             


 固定電話しかない母の暮らしは毎朝同じ時間に始まり、庭の水やり、掃

き掃除、玄関の水打ち、部屋の掃除、朝食の支度と後片付けに終わり、そ

れから自転車で学校に出かける。帰りは近所の商店街の食料品店と魚屋と

肉屋のどれかに寄って帰る。日々変わらない暮らし。ただ母はとても夢を

たくさん見るという。それは潜在意識にあるところの夢なのだと言うけれ

ど私はそれがよくわからない。


 花店のケンちゃんは「よっ!元気?」と魚屋さんのような掛け声をかけ

る。「ええ、元気よ」と答える。「何にしましょうか?」とケンちゃんは

緑色に汚れたエプロンで手を拭きながらにやっと笑う。「う~ん、このバ

ラ、いろいろでください、21本」と私は言う。「オッケー!」ケンちゃ

んは私の方に顔を向けると真剣な顔で言う。「素直なやつがいい?それと

も陰険なやつがいい?それともかわいいやつがいい?」とバラのバケツを

持ちながら私に聞く。「うん、おまかせ」「オッケー!」ケンちゃんはが

はははと大きな声で笑い飛ばして、21本を抜くと、素早く白い紙で包ん

で「『ヘイ、おまけで3000万円!』と言う。


 私は商店街の雑踏を歩く。夕暮れ時は徒歩と自転車の買い物客でなかな

かまっすぐに歩けないほどで、こんな世の中なのにいつもこのアーケード

街は繁盛していると思う。


            


 私は電車に乗ると終点の駅までバラの包みを逆さにして、一番安全そう

な場所を選びながら移動を続ける。母はきっと「それであなたはどう言っ

たの?」と聞くと「おまかせしたら」とい言うに決まっている。私は自分

で決められないときは母にまず相談するようにしてきたから、もちろん今

回もそうするけれど、結論はもちろんわかっている。ただ、ちょっと今回

の相談は変わっているけれど。


 駅を降りてだらだら続く坂道を額の汗をぬぐいながら歩くと、まだ青い

ススキの見えるところまでやって来た。実家がある。今の時間、母は白い

四角な部屋の中でひとり、その潜在意識というものを目当てにキャンバス

に向かって絵を描いている。


 私は家の木戸をあけて中に入った。夕方の打ち水をした玄関はまだうっ

すらと水たまりを残し、私はそれを大股で越えると鍵のかかっていない静

まり返った家の中に入った。取れるようなものは何もない家。大正風の玄

関のような、応接間のような場所に丸い籐のガラステーブルと椅子のセッ

トだけがあって、ユリの花が活けられている。


 そして正面の中庭はガラス扉の廊下が四方をぐるりと取り囲んでいる。

そのちょうど向かい側の白いカーテンのかかっている部屋に母はいるはず

だ。私は静かに廊下を歩いて母のアトリエに入った。母は立てかけたキャ

ンバスに向かっていつも通り絵を描いている。


            


 「お誕生日おめでとう」私はスモックを着た母の背中からそっと声をか

けると、「ありがとう。花瓶は後ろにあるわよ」とにっこりしながら私に

ガラス細工のされたものを筆で指した。「もうすぐできるから、来週末に

取りに来てね」と言うと、また続ける。


 「テレビ局のゆうちゃんから電話があって、お母さんとお父さんとお兄

ちゃんと私で番組に出て欲しいって」母は黙って背中で聞きながら筆を動

かしていた。「その番組ってちょっと変わった家族を紹介するらしいよ」

母は真っ白い壁を見つめながらとても派手でゴージャスな部屋の絵を描い

ていた。「それって、どこのお家?」私は母に聞く。「さあ、知らないけ

ど」母はひょうひょうとして答える。



            



 「ねえ、お母さんはどう思う?それって『ツキに願いを』って言う番組

だって。おかしな名前よね。でも私たちに順番が回って来たってことは、

私たち家族のこと、ツイてるって思ってるみたい」


 母は「それで?あなたはどう答えたの?」と聞いた。「私の務め先の奥

さまにお友達に贈りたいからって、母の絵を頼まれて、贈られた方が父に

家を注文して、お兄ちゃんのお店でカーテンを作って、そこのお家に私が

お掃除に行くことになって、そのお家の方はお友達に贈りたいからって、

母の絵を頼まれて、贈られた方が父に家を注文して、お兄ちゃんのお店で

カーテンを作って、そこのお家に私がお掃除に行って


            


 「おまかせしたら」母は背中で答えた。「わかった」それ以上は黙った

方がいいことを私は知っている。


 「ツキって、そんなものでしょ」母は真っ白い壁を見ながら赤紫のカー

テンに、紺色のトリミングを点々と塗りながら言った。


  


 「そうよね。それじゃ、ツキにおまかせね」私はうなずきながらいつも

通りそっと後ろ足で部屋を出ると、玄関の水たまりを大股で越える。



  


 


   *上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   * 「リサコラムの部屋」は10(最後に0)の付く日の連載です。
      時々変更させて頂きます場合はNEWS欄でご案内致します。

P.S.
 よくお伺いするお家のお掃除のレベルがとてもよい感じだったので、お掃除の方をご紹介してもらい、
他のお客さまにご紹介しましたら、とてもよいと言われて、また別のお客さまにご紹介したら、
またとてもよいと言われて、どんどんご紹介するうちに、どこかのお家にお伺いするたびに
そのお掃除の方にお会いするようになってしまいました。
お付き合いはそのようなものですよね。そのお家の方々にちょっと共通点を見つけました。
「おまかせするわ」だったのです。
しかし、物語は全部フィクションです。


  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

(Amazon、書店では1,500円で販売しています。)

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,800円にてお届けいたします。  
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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