MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載472回
      本日のオードブル

ーズワースの前庭

第14話

「終わりよければ

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


姉の家は郊外の一軒家です。
100平米の緑深い庭は都会では
めったに味わえない広さです。
その庭に面した主寝室はリゾートの部屋
そのままです。
ヘッドボードの後ろには
青い大きな花を生かしたタペストリー。
左右にはブルー&ホワイトのドレープカーテン。
手前にもベッドを囲むグレーベージュの
レースカーテンが掛かっています。
白いベッドスプレッド、アウトラインカットの
美しいベッドスカート。
ポイントは、タペストリーの中の
花から青い花びらがまるでひらひらと
舞い散っているように、絨毯、
ベッドスプレッドやヘッドボードにまで
青い花びらが刺繍されているところです。


 
      
  





      

第14話 「終わりよければ」



 「ユリ~、お茶よ」私の背中から双子の姉の声がする。私は黙ったまま、テーブ

の上に置いて欲しいと合図をした。私はヨガの瞑想のようにいつも30分の瞑想の時

間を持つようにしている。「自己を見つめ直し、真理を探究するために」という文句

を大義名分にして。


              


 じっと目をつぶっていると、私は10年前に訪れたアルプスのハイジの山小屋に来

ていた。中にはハイジのわらのベッドが置いてあり、それを見たくてここまでジャン

パーのフードを押さえながら息を切らして登ってきた。その先から緑の丘が全部私の

ものになると思いながら。しかし、歩いている内に周りの空気は真っ白に変わって来

た。たどり着いたハイジの山小屋の周りも霧でやっぱり、真っ白だった。ほとんど

1m
先も見えない。もちろんこんなはずではなかった。私のイメージはハイジの夏

の家のある緑の丘をフレアースカートの裾を押さえながらサウンド・オブ・ミュージ

ックさながらに颯爽と転がるようにかけまわり、高山植物を枕元に昼寝をするつもり

だった。リュックにはもちろん白いシーツが入っていて、アルプスの山々をバックに

草むらにぱあっ~と広げた私の姿をガイドさんに撮影してもらう、その綿密な計画は

空想上の夢に終わった。私のスケジュールにあと1日の余裕があれば、ハイジにシー

ツにそして高山植物をバックに写真に納まることもできたかもしれなかったけれど。


               


 そして次に瞑想の扉は水の都ベネツィアを開けた。その時はゴンドラでカンツォー

ネを聞きながら夜景遊覧するはずだったが、ぼたぼたと絶え間なく降り続く雨と冷た

い風で、ショップも街も水浸しになる状況でゴンドラはあきらめて仕方なくホテルに

戻った。それは数年前の大洪水で地下鉄が浸水した時のことを思い出させた。私の頬

を撫でるそよ風で巡るベネツィア、甘い砂糖菓子の匂い、ドルチエビータの夢のゴン

ドラも夢に終わった。


               


 その翌年、ナポリから1時間船に揺られてカプリ島の青の洞窟を見に行った。しか

し入り口付近まで来て、ひどい船酔いでせっかく見られたはずの青の洞窟に入ること

なく、少し休んで引返した。神秘的な青い世界も空想上の夢に終わった。


               


 また翌年はバリ島のウブドに行った。雨季を外したつもりだったのにジャングルの

ヤシの森にもライステラスにも大粒の雨が激しくたたきつけた。白い煙が立つほどの

大雨は丸2日間続き、ホテルの部屋から広重の浮世絵を見ているような驟雨の光景を

眺めるしかなかった。いつ降り止むとも知れない雨の3日目の午後、そのままホテル

から空港に向かった。同行した実家の母は「田舎の実家を思い出す段々畑が霞んで見

えてまだほっとしたわ」と言ったことが私をさらにがっかりさせた。


              


 次に行ったのは年末の寒い日本から避寒のつもりで行ったタヒチのボラボラ島だっ

た。3日間の内、2日が大雨。1日は曇天の雨模様。むんむんと湿気る空気の中、び

しょ濡れの水上コテージで太陽にきらめくにコバルトブルーの海をパソコンの画面で

見ながら部屋で私は苦くぬるいビールを飲んだ。その帰りの飛行機ではトランクが行

方知れずになった。しばらくたって、やっと自宅に戻って来たトランクを開けると、

湿気を含んだ衣類がむなしい匂いを運んで来た。


              


 雨女の私に初めて訪れた青天のリゾートは冬に行ったマレーシアのランカウイ島だ

った。リニューアルされたホテルということだった私の部屋の壁にはしみが浮き、シ

ャワーのホースは折れて途中から水が漏れていた。静寂なはずのプライベートビーチ

には色とりどりのビーチボールが飛び交い、海は波を巻き込んで真っ黒に見えた。


 以来、私は海外のリゾートをあきらめて近場の都会で優雅なホテルライフを満喫す

る方が得策だと思い、早速、バンコクに飛んだ。老舗のホテルのプールはやはりネッ

トの画像より遥かに小さく、しかも、欧米人のまるまると太ったおなかが見事にプー

ルサイドの寝椅子を埋め尽くしていた。私はあきらめて数々の小説を生んだ有名な大

河を部屋から眺めることにした。その大河、チャオ・プラヤ川を感じられる低層階の

部屋を指定した私に、その川は熱帯の風に乗せて悪臭も運んで来た。


              


 次に行ったシンガポールの5つ星ホテルはホテルの迎えの車でやって来たばかりな

のに、フロントで「お名前は?」と聞かれた。案の定、バスルームにはカビが点々と

生え、屋上の南国ムードの漂うはずのプールにはアヒルが浮かび、水は濁っていた。


 グアムのホテルでは部屋に入った途端、落ちていたオモチャのゴムボールに足を取

られ前のめりに転倒し、そしてソファの下に食べかけのオレンジを見つけた。別のホ

テルに移った時、バルコニーのジェットバスからは黒い得体の知れないものも出て来

てお目当てのジャグジーはあきらめた。私は美しすぎる画像を提供する海外の観光地

もきっぱりあきらめた。


               


 そして国内旅行に切り替えた。阿蘇を見渡す別荘風の旅館なら申し分ないだろうと

思ったが、阿蘇は霞み、温泉も壁に守られ何も見えなかった。紅葉の季節に行った湯

布院は駅に降り立った途端、原宿かと思う程の喧噪で、しっとりと風情のあるはずの

湯煙の街は観光客を乗せた人力車が行き交い、民家はカフェになり、その中にコンビ

ニが点在していた。私はアンバランス感覚でめまいを感じ、そのまま駅に向かい京都

の老舗旅館に部屋を取った。しかし、障子窓を開けたその先の窓はホテルのそれのよ

うに開けることすらできなかった。私は閉塞感に息が出来なくなり、激しくむせた。


              


 「大丈夫?」双子の姉は私にすぐお茶を注ぎ、背中をたたいてくれた。「風邪、引

いたんじゃないの?庭でうたたねするからよ」と言ってベッドルームの白いベッドス

プレッドを外してぴんとした白いリネンのカバーを大きく広げながら「ここで少し休

んだらいいわよ」と声をかけた。


               


 姉の部屋はいつ来ても美しく整っている。ベッドヘッドの向こうの大胆な花柄のタ

ペストリー、左右のシフォンレースのカーテン、その奥の壁にもブルーのストライプ

のカーテンが個性的にグレーの壁を飾っている。


               


 「またカーテン、変えた?」「ああ、自作だから縫製がどうかな?じっくり見ない

でよ。ボロがわかるから」私はじっくり見た。しかしそのボロは見つからなかった。


              


 姉は私と正反対に海外旅行に行ったこともなく、オタクを続けている。そして家の

中のあらゆるものを手作りすることが趣味を越えて道楽になっている。その道楽は最

近「ワーズワースの庭」というクラブでさらに花開いたようだ。クラブを通した依頼

で最近はよそ様のお宅をよく訪問しているらしい。そして姉の家も進化を続けている

ようだ。


 「あっ、ボロ、みつけたよ!」私は適当にカーテンの脇の部分を指差した。「あら

っ?どこ?」姉がじっとカーテンをチェックしている隙にベッドの中で瞑想の続きに

入った。夢の中では満足する旅の風景に出会えるように願いながら。


              


 たとえ現実の旅でがっかりしても、私には姉の家というすべり止めの逃げ込みホテ

ルがある。これで私の旅はいつも終わりよければすべてよしとなる。




   



   
*上のイラスト及び写真から「リサコラムの部屋」へ入れます。
    こちらも人気のページです。ご愛読に感謝致します。

  
   
*「リサコラムの部屋」は10最後に0の付く日の連載です。

   
P.S.1
 

 観光旅行、癒しの旅に予想外のアクシデントや悪天候は実は「想定内」なのでしょう。
この中に出てきたそれらの「想定内」は実際に私自身の体験談もありますが、
お客様から伺った実話も多いです。どんな旅も素敵な終わりが自宅でありますように。



P.S.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   リゾートとは何かについてこれも真剣勝負で書いたものですから、
   インテリアだけの本ではなく、難しい部類のコラムに入ると思います。
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                      



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
    お申込はこちら→「Contact Us」           
                          

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.