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リサコラム
連載512回
      本日のオードブル
習慣

第2話

「常連客」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


三角屋根の編み方は
バリ様式
白いソファや白い回り淵などは
ヨーロピアン風。
180℃の水平線も変わらず、
集う人々もスタッフも料理も
ずっと変わらず
できるこっとなら永遠にと
願う気持ちが
ここの常連になる
理由なのです。

 
      
  





       

第2話「常連客」



美しい女性は浅いブルーのローブの裾を軽く跳ね上げるように、そろりそろりと

長い廊下を渡ってやって来た。そして長い方のソファに先に来て座っていた男性の

方に軽く首を傾けて会釈をすると、海に背を向けた隣のソファに座った。男性も軽

く会釈をすると手持ち無沙汰に雑誌をめくり始めた。


            


 小さな町ほどもある広大な敷地の中に、たった40戸のコテージとメイン棟、スパ

森に囲まれた200mプールに子供用のプール、そして、海に流れ落ちるホリゾン

タルプールの3つと、海から上がったばかりの魚を目の前で調理するパフォーマン

スが人気のビーチサイドのシーフードレストラン、フレンチ、そしてオールデイダ

イニングがある。


              


 さらにメイン棟から海に向かって伸びる三角の茅葺き屋根の渡り廊下の先にはこ

のリゾート自慢のサンセットラウンジがある。そこは美しい海と対峙する絶好の場

所で、お天気の良い日にはガラス扉が全開放されて、ビーチそのものにいるよりす

がすがしく感じられるようでたいへん人気があった。


               


 わずかに西に向いた陽が水平線の上下の曖昧な空間をかすかにうす桃色に色付け

はじめる頃、昼間の暑さをまだ名残おしく思うゲスト数名は水着の砂を払い、男性

はバッグから短いズボンを出し、女性はパレオを巻き付けてラウンジの外の砂浜の

延長線上に白い石を敷き詰めたデッキの長椅子に移動する。


             


 すでにディナーに向けてドレスアップした早出組のゲストたちがその前に軽くカ

クテルをと、ここに立ち寄りシャンパングラスを傾け、一日の終わりにまた今年も

この場に居られたことに感謝する。


            


 ゲストの顔ぶれも、ここにやって来る時刻も毎年同じである。常連客はおのおの

場所が決まっているためにすでにテーブルは用意されているが、新参者はデッキに

立って、どこでカクテルをやろうかとちょっとうろうろしているからすぐに判別が

ついた。そんなゲストにはそっとスタッフがやって来てその場にテーブルと椅子を

運びこんで、テーブルクロスを広げてくれる。あとは席に着き、沈みゆく夕日のシ

ョーを無料のカクテルとともに楽しむだけである。


               


 約20分遅れて、暑い日中はなりを潜めていた遅出組のゲストたちもそれぞれの

決まった時刻にそれぞれが渡り廊下を渡り、ラウンジを通りデッキに出て自分のテ

ーブルに着く。ゲストのほとんどは顔見知りなのに他のゲストが透明人間に見える

かのようで、言葉を交わすことも、社交辞令の挨拶もなく、ひたすらサンセットと

わたしの間に横たわるここだけの貴重な時を有意義に過ごすことに集中しているよ

うに見える。こうして今年も人々は同じ時にやって来て、数週間の間に一財産を使

い、そして来年の予約を入れて帰ってゆく。


               


 ソファに座った男性は雑誌をめくるページもすでになくなり、3度目の時刻の確

認をした。それから首をぐるぐる回し、肩をぐるぐる回し、かかとで同じリズムを

刻みながら、着替えとメイクに時間がかかっている妻がやって来るのを待っていた。

次第に男性は落ち着きを失ってゆくのも例年通りだった。この手持無沙汰を何とか

解消するには、隣の美しい弁護士の女性に話しかけるしかないと男性は判断した。


              


 男性はジョークにかけては多少の心得があった。たとえどんな場面であれ、ジョ

ークは常に人を楽しませるために使われるべきであり、そうでなくては人生など無

に等しいと思っていた。TPOに応じて男性のジョークのバリエーションは優に500を

超えていた。その一つ一つのジョークは今まで使った回数、場所がきちんとスマホ

の中に記録されていた。男性がソファに腰かけてからちょうど1時間が経った。

男性はいよいよだと思った。


              


 「あの、失礼ですが、法学部でご一緒ではありませんでしたっけ?」男性は隣の

ソファの弁護士の女性にとうとう話しかけた。「はい?」女性はきっとした顔をし

た。「どちらの法学ですって?」と少し険しい顔で聞き返した。男性はそれでも笑

顔を絶やすことなく女性の方に少し身を乗り出しながらその素敵な質問に答えた。


               


 「私などはいまだあちらの方角で、司法試験には毎年落選しております」男性は笑

い、女性はうんざりした顔をした。そして男性はスマホにまたカウントを入れた。


              


 ここでは常連客は毎年同じ時期の、同じ時間に同じジョークを交わすことすら、

習慣になっていた。男性のこの受けないジョークは同じ二人の常連客の間で交わさ

れ、今回で4周年を迎えた。




    



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

p.s.1
  こんな常連客ばかりのリゾートはあるようですが、
   そんなに素敵な場所を作れるものなら、そこ行くより幸せかもしれません。
   そんな場に作り上げたいものです。



 「もの、こと、ほん」は下の写真から。

            

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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