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リサコラム
連載519回
      本日のオードブル
習慣

第9話

「自由と決断」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




藁葺きの
三角屋根の
ガゼボの下で
エステをしようと
最初に考えついたのは
どこだったのでしょうか?
バリか、プーケットあたりの
リゾートホテルでしょうか?
それならさらに一歩踏み込んで
天蓋付きカーテンの下がる
大きなベッドにして、
そのあとに座って
お茶も飲める
本格的な
ホテルの
ベッドルーム
みたいにしたら
素敵じゃないかな
と思ったのです。
インターのサービスエリアは
そんな海や森を臨める場所にある
ことがとても多いのですから。


 
      
  





       


第9話
 「自由と決断」


「ジジ、ジジ、ジジッ」はなのベッドの下で相棒が鳴く。ここ3、4日その相棒

は、はなの大きなベッドの下あたりに身を潜めているが、15分ほど前からしきり

に鳴きはじめた。はなはいつも通りの午前5時45分に目を覚ますと、足音を忍ば

せてベッドを降り、ナイトテーブルの引き出しを軽く開いてからパタンと閉めた。

するとコオロギはぱたりと鳴くのをやめた。


             


 「昔の私みたいね」はなはそう独り言を言いながら薄ぼんやりした東窓のカーテ

ンを開いて大きな伸びをした。それからまたいつも通りナイトテーブルの上のラジ

オのスイッチを押した。ショパンの静かな波音のようなピアノのメロディが流れ出

した。はなはローブをふわっと羽織ると、部屋の周囲を巡っているバルコニーに出

た。すると相棒はまた「ジジ、ジジ、ジジッ」を始めた。「ほんとに昔の私のみた

いね」はなはくすくす笑いながら、手すりに両手を置いてまだ薄暗い西の海を見渡

すバルコニーで潮風に吹かれた。


             


 はなの家は海に面した別荘地ともいえる場所にあるが、別荘地として区画整備さ

れている場所からは少し離れた雑木林の先にある。4面にバルコニーをめぐらした

タヒチアンリゾート風の2LDKの部屋が5年前からはなの家だった。はなはローブ

のポケットからアンティークなデザインの黄金色の双眼鏡を取り出すと対岸に向け

た。風光明媚なサービスエリアの茶色い木の柵が見える。はなのサロンの本店はそ

こにある。この家をここに建てたのは毎朝、その自慢のサロンを眺めるためでもあ

る。だからここに越して来た日から双眼鏡の時間は毎朝の日課にさえなっている。

しかし、そんな優雅なのぞき見は子供の頃に始まっていた。


             


 サラリーマン家庭に生まれたはなは、材木商を営んでいた裕福な友人の家に遊び

に行くことが楽しみだった。何人ものお手伝いさんがいる家の玄関ドアを開けると

キンコーンと鳴った。どの部屋も今日出来たばかりのように新しくきちんとしてい

て、ヒノキのような木の匂いとあちこちに大きな花の活けこみがあった。学校帰り

にその友人の家に遊びに行くとシシオドシのある和風庭園のような、しかし、傍ら

にバラのアーチと芝生もある庭を眺めながら手作りおやつがいただけた。透明のキ

ラキラしたゼリーやプリンの上にホイップした純白のクリームがうずたかく乗り、

メロンや梨やぶどうなどの季節のフルーツがたくさん周りを飾っている美しいデザ

ートは格別においしくて、それは今でもこの上なく贅沢な美しい思い出のシーンと

してはなの胸に刻まれている。


             


 はなのその友人の名をゆりと言った。そんなすてきな時間をずっと過ごせるよう

にと、そしてゆりと友人以上の親友になれるようにとはなはあらゆる努力をした。

ゆりがデザートの中に乗っていた梨がきらいと言えば、はなは自分のぶどうと交換

した。しかし、また次の日は、ぶどうが嫌いといい、はなは今度は梨と交換をする

こともあった。はなはそんなゆりと付き合ってゆくうちに、ゆりはわがままなので

はなく、それが自由な状態における人の普通の感情なのかもしれないと思うように

なった。


             


 そんなゆりと二人で日曜日、モールにお買い物に行くことが月に一度あった。

はなは、大したものは何も買えなかったけれど、そのお買い物に同行できることこ

そがステイタスであるかのように感じていた。ゆりは自分の好きなものをなんでも

買った。しかしその買い物の大半はゆりの家で働く人たちへのプレセントだった。

そしてお買い物の〆はいつも同じ3階建てのパーラーでの“反省会”で終わった。

反省会とはゆりの父がよく使う言葉らしく、ゆりの父が夜遅く帰って来る時は必ず

「反省会が長引いて遅くなる」と電話を入れていたそうだった。はなにとっては〆

のパーラーでのデザートがまた楽しみで、メニューを一瞥するだけでゆりは一瞬で

好きなものを選んだが、はなは写真の下に小さく書かれている数字とその写真をい

つまでも見比べてはなかなか決められなかった。ゆりはそんなはなを気にする様子

もなく、文具店で買って来た10枚余りのグリーティングカードをテーブルに広げ

ると、「早くやらなきゃ、来ちゃう、来ちゃう」と言いながらどんどんメッセージ

を書き入れると、プレゼントのリボンに挟んだ。


             


 ある時、ゆりはパーラーの3階の白い格子窓のあるバルコニーを見て「今日はあ

そこで食べない?」と言った。そこはどう見ても食べるためにある場所ではなく、

ディスプレイの目的で設置された白い塗装の鉄のティテーブルと椅子のセットだっ

た。しかし、ゆりは譲らなかった。とうとうお店の人が根負けして、ゆりとはなは

他のお客さんが注目する中、その狭いバルコニーでパフェを食べることになった。

早速、ゆりは買ってきたオペラグラスを取り出すとモールの下を歩く人々や看板、

スクリーンに映る宣伝などの観察を始めた。その日から外の狭いバルコニーはゆり

とはなの指定席になった。


             


 はなは潮風に吹かれながら、そんな子供時代のゆりとの日々をアンティーク風の

双眼鏡の中で客観的に眺めているのだった。当然のことながら、当時、はなはゆり

がうらやましかった。ゆりは勉強もできたし、何を決めるにも早く、言動にも迷い

がなかった。それはゆりに限ったことではなく、ゆりの家族にも、そしてそこでき

びきびと働く人たちの姿にもゆりと共通するところを見て取ることができた。


             


 それから約25年が経ち、はなは6年前に眼下に海岸線を見渡せるサービスエリ

アの中でエステルームのある美容室を始めた。サロンの外には藁葺き屋根のガゼボ

を作りそこで潮風に吹かれながらリゾート風のエステを受けられるように優雅なベ

ッドも置いた。「人目をはばからない方はぜひお外でも!」とメニューの下には書

かれている。


             


 それ以来、サービスエリア内のはなのサロンは話題になり、年に2軒のペースで

サービスエリア内に新たなサロンを開業し続けている。今、はなが双眼鏡を向けて

いるサロンのカウンターの棚の上には二人が中学3年生のときにお互い好きな言葉

を書いて交換し合った色紙、つまりゆりがはなに贈った色紙が今も額に入って飾ら

れている。


             


 はなは、色紙に「美」と書いてゆりに渡し、ゆりは、「自由と決断」と書いては

なに渡した。


ようやく西の空も白み始め、そして静かなショパンの音色はいつしか、ジョン・
 
ケージの金属的な音に変わっていた。はなは時間通りにローブを翻してバスルーム

に向かった。




    



 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 きっとこんなお家も、そしてこんなお友達もそして、こんな人生もあるのかも
 しれません。


 「もの、こと、ほん」は下の写真から。

            

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
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