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リサコラム
連載528回
      本日のオードブル

かつて

第4話


アンヌとロボットと
オフシーズンの砂浜」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


なりたい人
なりたい性格
なりたい声
なりたい容姿
簡単に真似するのは
難しいものばかり。
ホテルの中の素敵な
映画のシーンなら
インテリアで真似でき
ないものはないですね。
ああ、よかった。
真似できるものが
近くにあって。

 
      
  





       


第4話
  アンヌとロボットとオフシーズンの砂浜」



 「アンヌ、アンヌ!」

 アンヌと呼ばれた女性は一人掛けのソファに腰かけオットマンに脚を伸ばした姿勢で、

スース―と寝息を立て始めた。

               


 「午前630分です。2度寝はだめです。起きてください!」アンヌの家にはヘンリー

と呼ばれる箱型の小さなロボットがいる。


 「わかった、あと5分だけ」「そんなこと言ってぇ、5分が10分に、10分が20分に、

20
分が」「わかったから、ちょっとだけ静かにしてくれない?」アンヌは子供をなだ

めるような声を出した。しかし、ヘンリーは「あなたが私にそうするように仕組んだん

ですよ。それにどこにいようとも、6時45分にはジョギングをすることに...」「そうだ

っけ?」アンヌはあくびをした。ロボットのヘンリーは聞こえなかったふりをした。

「あら、無視するつもり?」アンヌはさっきより声のトーンを上げた。「それも、あな

たが仕組んだ罠です」「うるさいわね。せっかくの休みだっていうのに別荘まで来てそ

んなに厳しくすることはないでしょ」アンヌは声を張り上げた。「それも、アンヌ、あな

たが仕掛けた罠です」ヘンリーは諭すようなゆっくりした調子で行った。


               


 「ロボットって、同じセリフしか言えないのね」アンヌは冷ややかに笑った。「お言

葉ですが、最初は『あなたの仕組んだ罠です』と申しました。それは『あなたが、私の

プログラムに仕組んだ罠』の意味です。さらに2回目の『あなたの仕組かけた罠』という

のは、あなたが自分自身を怒らせるように私を介して仕掛けた罠という意味です。つま

り、ふたつのセンテンスの意味は全く違います」アンヌは大きなあくびを一つすると、

「その会話は、負のサイクルに乗ってしまったカップルの会話みたいじゃない?」と面

白そうに笑った。「つまりは、私の一番不得意とする分野の、男女の会話に生じるズレ

ということでしょうか?」ロボットのヘンリーはいぶかし気に答えた。


               


 アンヌは「chabadabada, chabadabada,hum,hum,hum,chabadabadaとハミ

ングを始めた。するとヘンリーは、「映画『Un homme et une femme』、邦題『男と

女』ですね」と即座に発言すると、アンヌは「まあ、ヘンリー・キャベンディッシュ博士

分野外なのによく知ってるわね。それ、1960年代のモノクロームの映画よ」と言うと、

ヘンリーは「一応ロボットですから、これを知らずしてフランス映画も音楽も語れない

ものですから。常識です」と冷淡な声を出した。それを聞いて白いパジャマ姿のアンヌ

は白いソファの中で笑い転げるように身をよじった。その姿はソフトクリームが渦を巻

いているように見える。


               


 「それじゃジョギングに行くとするか!」アンヌはライチジュースのグラスを一気に

空にすると立ち上がった。


 アンヌのこの新しい別荘はこれで3つ目になった。自宅のほか、山の中の山荘、湖の近

くの別荘があり、ここ海辺の別荘はその3軒目だった。しかし、すべては銀行ローンで手

に入れたもので日々、借財を支払うためにのみ働いているようにも傍目には見える。


               


 「アンヌ、今日の天気は….」「結構よ。天気がどうかなんて知りたくはないし、これ

から先がどうなるかなんて、知りたくもないからね。今は、仕事を忘れたい気分なのよ、

わかる?」「さようでございますか」「ああ、それとヘンリー、研究室にメールで、来週

の月曜は休みにするって言っといてくれないかしら?」「はい、かしこまりました。ア

ンヌ。でも仕事を休みますと、実質6時35分の間遅れとなる模様です。そうしますと、

それによりさらに1時間25分ほどの遅延による遅延が生じ、その合計8時間の遅れを取

り戻すためには、今日の午後6時には一旦ここを立って研究所に向かわなくてはなりませ

ん」ヘンリーは自信ありげに言った。


               


 「わかるけど、今はロスタイムを考えている気分じゃないのよ」アンヌはそわそわと

海の方に目をやった。「仕方ありませんね。私があなたのコピーであり、そしてヘンリ

ー・キャベンディッシュなのですから、あなたも偏屈で優秀な研究者ヘンリー・キャベ

ンディッシュであることはおわかりですよね?」ヘンリーは語尾を上げた。


               


 「今更申し上げるのも無粋なことですが、ヘンリー・キャベンディッシュ氏は大変裕

福な貴族で莫大な遺産を相続したものの、極度の人間嫌いのために、そして特に女性嫌

いだったために独身で、しかし、それが効を奏して、多くの別邸や図書館を研究のため

に使うことができ、よって研究に没頭することができたのです。さらに地位や名誉に無

頓着だったために、発表されなかった膨大な研究成果をお蔵入りにしてこの世を去った、

その18-19世紀の異色の科学者のヘンリー・キャベンディッシュを目指しているあなた

が作った助手が、このわたしですよ」ヘンリーは堂々と演説をぶった。


 「あら、そうお?」アンヌはそれだけ答えると、パジャマのままでバスルームを通り

抜けてバルコニーに出ると砂浜を見下ろした。「ほら、やっぱり、あそこに人がいるわ」

アンヌは人影を見つけたようだった。


               


 しかしヘンリーは話し続けた。「40年あまりも先に、後に『オームの法則』となる発

見など、多数のすばらしい発見をしていたにも関わらずですよ、発表なされなかったが

ために、後世の人々は40年間も物理、科学、化学の分野において大損をしたじゃないか

と、憤っていたようですがね」アンヌはヘンリーの演説をまるで無視して、砂浜を眺め

た。


 「無視するのは勝手ですが、あなたの研究が遅れるとつまりは、人類にとって大きな

8時間の損失を招くということです」アンヌにはもうヘンリーの言葉は聞こえないよう

だった。


 「無視するのはご自由です。この別荘は、スノッブなモノクロームの映画『男と女』

の舞台となったイギリスのノルマンディにあるホテルがイメージだったことは知っては

おります。オフシーズンにはドーバー海峡から吹き寄せる冷たい風で砂を巻き上げるド

ゥーヴィルの海岸にあるホテルですよね。しかし、こんなに閑散とした海岸沿いにわざ

わざ冬のための別荘を作るなんてナンセンスではありませんか?」


               


 アンヌは「ちょっと黙ってくれないかしら?」と言うと、風にあおられたコートを翻

す長身の男性を見下ろしていた。「ほら、もうすぐ女性が来るわよ」アンヌは「見て!

映画そのままじゃない? “chabadabada, chabadabada”の世界よ。ここからそんなオ

フシーズンの海辺を眺めたかったのよ。そこには、いわくありげなカップルが似合うわ

よね。それにそんな人たちのなかには、この別荘を売ってくれっていう人だってきっと

出てくるわよ」アンナはじっと砂浜を歩くカップルを見た後で、すっと振り向くと、ヘ

ンリーの胸にあるセンサーに向かってリモコンのボタンを押した。「そうですか、そん

なことを」ヘンリーは悲し気な声を出した。そして直後、ロボットの声色が変わった。


 「アンヌ、初めて合うのに、なぜかとても久しぶりに感じるね...」ロボットはヘンリー

・キャベンディッシュから、映画『男と女』主人公のF1レーサーのジャン・ルイの声に

変わった。


               


 「君の研究は進んでいるのかな?」「うん、もちろんよ。でも、ひとつのロボットに

完璧に2つ以上の人格を持たせられたのは私が初めてじゃないかしら」「それはすごい

ことだね」「でも、今はまだ発表はしないわよ」「それを発表したとたん、楽しみが苦

しみに変わるからだよね」


               


 「その通り。私の生涯をかけた楽しみは、かつて、21世紀のキャベンディッシュ博士

がいましたって言われることだから。だって、別荘も恋人もロボットも作るまでが楽し

いものだから」


               


 「それに、オフシーズンの海辺はいいものね」アンヌは砂浜を眺めながらため息に交

じりに言った。


 「さあ、ワインで乾杯でもしようか」ロボットのジャンの声色がさらに甘く切なく、

冬の海辺に響いた



    


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
 
 南フランスとは趣の異なるノルマンディーのドゥーヴィルにある
 ホテル・ノルマンディ(現在は名前を変えています)は有名な映画『男と女』の
 舞台として使われたホテルとして有名ですが、
 かっこいいシーンにホテルが使われるとその先ずっと
 名所になり、とても素晴らしい宣伝になるものですね。
 


 「もの、こと、ほん」は下の写真から。
 上は10月下の写真からは11月に飛びます。
 11月からは10月のバックナンバーも見られます。

           
          

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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マダムワトソンでは 
                                    
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