MadameWatson
マダム・ワトソン My Style Bed room Wear Interior Others Risacolumn
News
HOME | 美しいテーブルウェア | 上質なベッドリネン&羽毛ふとん | インテリア、施工例 | スタイリッシュバス  | Y's for living
リサコラム
連載529回
      本日のオードブル

かつて

第5話


ワイルドの分まで
入っているの」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


💛
ベッドには
ホワイト&ピンクの
2段のベッドスカートと
白いベッドスプレッドをかけて
フリルのピローをたくさん置いて、
白いカーテンの裾にも天蓋カーテンにも
花びらのような飾りをつけ、
壁にはピンクの花びらが
こぼれ落ちていく様子を
描きました。
白い一人掛
ソファに
座って
眺めると
わたしだって
負けるものかと...


 
      
  





       


第5話
  「ワイルドの分まで入っているの」



大型トラックが通る。ガンガンガンという地響きがRemiのいる部屋に響き渡った。



               

 「えっ?今、なんて言った?」「いえ、ただ、それだけよ。ただ、」電話の向こうの相手の

Sayaは気恥ずかしさを隠すように笑った。


               


 「いったいどうしたっていうの?この部屋、私の前の部屋よね。なんでこんなに変わってる

の~信じられないRemiはベッドの上の花びらがつながったように見える首飾りを手に取っ

た。「ほんと素敵。夢みたい。こんな、素敵な部屋、変わるなんて私、まだちょっと現実か、

夢か、わかんないRemiはそこで「ちょっと待ってね」と言うと部屋の外に出た。


               


 そして、慎重にゆっくり階段を降りた。それから外に出て、大きく深呼吸をひとつしてから

ピンクのマフラーをきゅっと結び直したあとで、Remiは両手の平で顔をたたいた。そのしぐさ

は高校時代、バスケット部で気合を入れるためにやっていた名残だった。そうしてもう一度階段

をゆっくり1段、2段と忍び足で登った。そして、ドアの前で深呼吸をすると、ノックをした。

当然、誰もいない部屋に返事はない。Remiは妙にうれしいような気分でそうっと中に入った。


               


 ほの温かなバラのような香り。屋根裏部屋の斜めの天井の前に置いてあるベッドは高校生の頃

自分が眠っていたベッドとはとても思えない。そのベッドの脇の緩やかな曲線を描いて落ちかか

る白いカーテンのふちにはきれいなピンク色のシルクフラワーのふちどりがしてあり、それが天

井近くで集まったところに、王冠をさかさにしたような飾りがついている。ついこの間までこの

部屋にはくすんだベージュだか、グレーだかもう思い出そうとしても思い出せないけれど、ゴー

ジャスとは程遠いうすら寒い感じのカーテンが低い窓枠の上あたりからスチールのレールをむき

出しにしてつり下がっていたはずだった。


               


 「やっぱり夢じゃなかったみたい」Remiはやっと電話の相手に話しかけた。しかしSaya

「まだデザイナーの卵の作品だからじっくり見ないでよ」と言うと、恥ずかしそうな笑い声でご

まかした。「でも、どうしてこんなことをしようって思ったの?」Remiは部屋の中をぐるぐる

回りながら、Sayaの作品に感嘆のため息をつき、そしてSayaの返事を待った。Sayaはなかな

か返事をしなかった。


               


 Sayaは田舎からRemi のいた高校に2年生からやって来た転校生で、同じバスケット部に所属

したことから急に仲良くなった。しかし、Sayaは卒業後、デザイナー養成学校に進学したとた

ん、両親の離婚による家庭環境の変化で、優雅な学生生活を続けることはもちろん、住む家さえ

失ってしまった。どんな安アパートでも生活費を得るためにアルバイトを掛け持ちすればするほ

ど、学校は休まざるを得なくなった。19歳にしてSayaは厳冬期の野原に放り出されたような現

実を実感した。その中でだんだんと凍りついてゆく自分の夢を温めて溶かすには自分の両手の平

しかないことをあらためて確認した時、恥を忍んで高校時代の親しい友人Remiを頼る決心をし

た。


               


 まだ秋とはいえ、Sayaは震える手でRemiの電話番号を押した。Remiは事情を聞くとすぐに

折り返して、使っていない離れをタダ同然で貸せるといったが、「離れと言えば美しい響きだけ

どね、」と言ったあとしばらく言いよどんで、「音は響くし、冬は寒いよ」と申し訳なさそうに

言った。離れとはちいさな軽量鉄骨のプレハブ住居だった。それでも、Sayaには温かな暖炉の

燃えるロッジと大して変わらなかった。


 Sayaは半年以内に定職を探して出てゆくつもりでいたが、ひと夏とひと冬を超え、また次の

夏が終わった。Sayaはその間、Remiが高校生の頃に使っていた屋根裏部屋のような3階の部屋

で過ごしながらデザイナー養成学校に通うことができた。それから幸運にも、卒業作品に出品し

Sayaのドレスが大賞を取り、それはある企業の採用担当者の目に留まり、Sayaをアルバイト

人生から抜け出させる大きな橋渡しをした。


               


 Sayaはこの部屋を出てゆく前、タダ同然で部屋を提供してくれたRemiの恩にどうやって報い

たらいいかを毎日考え続けた。自分の技能を活かせるもので、Remiが喜ぶものは何かと考えあ

ぐねた末、Remiの部屋を自分のできる最大限でリニューアルしようと考えたのだった。


               


 ずっと言葉を探していたSayaはやっと口を開いた。「パリにロテル・ギィ・ルイ・デュブシ

ュロンっていうホテルがあるの、知ってる?」「ロテル?いや~知らないわ」「私の卒業作品の

テーマに使ったんだけど、そのホテルの吹き抜けのホールにはとっても美しい楽園の底を見るよ

うな螺旋階段があるのよ。もちろん、行ったことはないけどね。卒業作品でその螺旋階段のイメ

ージをドレスのスカートのデザインに応用することに決めて、それで、いろいろそのホテルのこ

とを調べていくうちに、今から116年前に、セバスチャン・メルモットっていうイギリスの詩

人で作家がそこで亡くなったことがわかったのよ。それがたまたま、私の誕生日の、1130

でね。でも、セバスチャン・メルモットの名前は偽名で、本名はオスカー・ワイルドって言った

のよ。貴族の出身で、若くして作家として成功をおさめて一世を風靡したのに、ある事件がきっ

かけで裁判に負けて投獄されてから身を持ち崩した伝説の人物らしいわ。釈放された後、フラン

スに渡ってからは、そのホテルのオーナーの温情でホテルに住まわせてもらって、そこでひっそ

りと亡くなったらしいわ」


 「へ~、オスカー・ワイルドってそんな人だったのね~、ふ~ん」Remiはおなかの底から大

きなため息を吐き出した。


               


 「今でもオスカー・ワイルドって名前の部屋があるらしいわ」「そう、でも、わかったけど、

それにしてもここまでしてくれるなんて..」「ええ。オスカー・ワイルドが亡くなった日がたま

たま私の誕生日の1130日だってだけなんだけど、でも、つまり、ワイルドの分も
入っている

のよ
Sayaは茶目っ気を加えて言いながら笑った。


 「ああ、なるほど、オスカー・ワイルドの分まで恩返しってことね」「いや、でも、ほんとう

に、ほんとうに感謝してるのよ」「そうか、わかった!いいこと思いついた」Remiは叫んだ。

「この部屋は私が維持しながら、大事に守ってゆくよ。将来、Sayaがオスカー・ワイルド並み

に有名になった時、かつて、彼女はこんな部屋を残して去って行ったって言えるようにね」

「それはうれしいわね。がんばらなくちゃ」Sayaはもう一度丁寧に礼を言うと電話を切った。


               


 Remiは白いソファに腰かけて長い時間、部屋の中でじっとしていた。それから部屋の鍵をか

けると、カンカンカンカンとドラム缶をたたくような大きな音を響かせて外階段を降りて行っ

た。


    


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
 
 パリのサンジェルマン・デ・プレにある、通称”L'HOTEL”と定冠詞のみで
呼ばれる、L'Hotel Guy Louis Duboucheron”は、オスカーワイルドの
終焉の地としてことに有名ですね。その吹き抜けのホールにある
すばらしい螺旋階段を写真などで見るにつけ、
これを何かのデザインにと、きっと多くの人が思ってきただろうと
思います。
 


 「もの、こと、ほん」は下の写真から。

           
           

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
    お申込はこちら→「Contact Us」           
                          

                                       * PAGE TOP *
Shop Information Privacy Policy Contact Us Copyright 2006 Madame MATSON All Rights Reserved.