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リサコラム
連載530回
      本日のオードブル

かつて

第6話


マ・シェリ、
マ・タント、
ル・リシュモン
なもので」

木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


青黒い
絨毯
白い壁
白いソファ
透け感のある
白いレースカーテン、
胡蝶蘭を絵に見立てた額縁。
青白く鈍く光るセンターテーブル
東窓に面した部屋から
朝日を受けて
インテリアが
目を覚ますときの
ねっとりと妖艶な感覚を
言い表せる言葉が見つからない
のはとても悔しいけれど、
その時間、空間に
すごい何かを見出す人もいるようで。


 
      
  





       


第6話
  マ・シェリ、マ・タント、ル・リシュモンなもので」



 「おはようございま~す、シェリぃ~」ユリエは大あくびをしながら叔母のシェリのサ

ロンに入って来た。「ボンジュール、ユリ。でも、それは何?」ユリエは「ふぅん?」

と言うと部屋の中を見渡した。


             


 「あなたのことよ」「はあ、あたしのなに?」「そんな厚ぼったい格好して、よくも

恥ずかしくないわね」ユリエは自分のへちまえりのガウンとネルのパジャマを着た姿を

眺め降ろした。「そんなに、ダサい?」と顔を上げた先には叔母の少々さげすんだような

あきれ顔があった。


             


 叔母のシェリはシフォンレースのようなくすんだピンク色のノースリーブのアンサン

ブルを着て、白いアームチェアに腰かけ、細い脚を組んだ先には細いピンクのパンプス

が揺れている。


             


 「シェリ叔母さんこそ、おかしくない?11月よ。寒くないの?」シェリはカールした

栗色のミディアムロングの髪の毛をふわふわとゆすって、「寒くない?なんて、よくも

そんな平凡なこと、言うわね」と言うと、シャンパングラスをユリエに手渡した。


             


 「何、これ?」「シャンパンよ」「朝から?」「ええ」ユリエは持ったグラスを口元

から遠ざけながら言った。「あの、ご存知だとは思いますがね、私、今日から学校で教

えるんですけど」「素敵じゃない。パリでは昼間から子供にワイン飲ませるわよ。もう

あなたいい大人でしょ」「それはもう、いい大人も大人ですよ。一応は見習い教師です

からね。そんな見習い教師の第一日目からシャンパンを飲んで出勤したらどうなると思

います?」シェリはふふふふと笑ってから、「レモンジュースよ」と言った。


             


 「ああ~もう~、いやな叔母さんね、びっくりさせないでよ~。私をからかっている

暇ないんでしょ。研究テーマの発表も近いんじやないの?」というと、ユリエはくいっ

とグラスを空にしてから洗面室に入って行った。


             


 シェリは姪のユリエが浪人を始め、そしてやっと大学に入学してやっと大学院を出る

までに、「ル・
リシュモン」という名のヘアサロンに加え「コレット」という名のティ

ルームを作り、さらに全国チェーンに広げていた。


             


 コレットという名は、19世紀のフランスの女流作家シドニー・ガブリエル・コレット

から取ったネーミングで、さらに「ル・
リシュモン」というヘアサロンは、コレットお

気に入りのジュネーブの湖のほとりのホテル、“ル・リシュモン”から取られている。しか

し、その名の由来を知りたがる人は皆無に等しかった。


 一方、私生活では、シェリは3度の結婚歴と3度の離婚歴を持ち、その間に不動産収入

を増やしていった。別に働かなくても十分優雅な生活はできるにも関わらず、今でも自

ら店頭に立って、顧客の髪の毛を扱う美容師を続けている。そして4つ目のこの家はシェ

リの生まれ故郷に程近い湖のある静かな別荘地に、昨年、建てられたばかりだった。ま

だ新築の匂いの残るこの別荘の3方は美しい湖面に向いてバルコニーが作られている。

それはまさに、ホテル・ル・リシュモンを真似たものだった。


             


 東窓からはようやく生まれたての陽ざしが白いカーテンを通して差し込み始めた。漆

喰で塗り込まれたまっ白な壁にはシェリの仕込んだ怨念なのか、それとも情熱なのか、

光を受けたむきたてのゆで卵のように反射をし始めると、反射したその光をシェリが漆

黒の闇を表現したかったというダークブルーの手織絨毯が吸い込み、その上のアイボリ

ーホワイトのソファとのコントラストを作り出した。さらにブルー、グリーン、ダーク

ブルーのデザインを遊んでいる数個のクッションは住み手のセンスを披露しているよう

に見える。


             


 シェリはこの家で、夜明け前に起きると、隣のベッドルームからバスルームとドレッ

シングルームを経由して身支度を整えてからこの20畳ほどのサロンにおかかえの運転手

が迎えに来るまで一人掛けの椅子に座って本を読む。その後、ティルーム「コレット」

で別荘からの優雅な朝食を狙ってやって来る常連客と一緒に、昨日読んだ本の話などに

知的な花を咲かせた後、別荘地内にある唯一のヘアサロン「ル・
リシュモン」に出勤す

る。これが昨年来、変わらないシェリの日課になっていた。


             


 ようやく身支度を整えたユリエがシェリの部屋に戻って来た。「ああ、さっき、言い

忘れましたが、叔母様、今日からどうぞよろしくお願いいたします」ユリエはぺこんと

頭を下げた。「何をどうぞよろしくなの?そんな曖昧で無意味な言葉は好まないわ」と

シェリは突き返した。「何をって、これから半年お世話になりますから」「お世話なん

て、何もしないからそのつもりでね」「はい。それは重々承知いたしております。掃除、

洗濯、アイロンがけ、食事の支度まで、メイドになり替わり、誠心誠意がんばります」

「またそんな垢抜けない言葉使って!それでも、フランス文学の教師見習いのつもり?

もっと洗練された言葉を使ったらどう?」「失礼いたしました。やり直します」ユリエ

はシェリの正面に向き直った。


             


 「マ・シェリ、今日から、私、ユリエは、身の回りのお世話をスマートにこなしがら、

あなたのこれまでの波乱万丈な、いえ、破天荒で優雅な生き方のエッセンスをたっぷり

吸収させていただき、私のこれまでの平々凡々たる人生の羅針盤に4次元的歪みを加え、

素敵な高見を目指してまいります。願わくは、あなたの人生に多大な影響を与えたガブ

リエル・コレットをさらに深く理解することを、ここに、人権宣言のごとく誓います」

ユリエが厳粛な顔でシェリの顔を覗き込むと、シェリはピンク色に高揚したユリエの顔

を黙って一瞥しただけで、うなずきはしなかった。


             


 キンコォーン、シェリのケイタイに表玄関のチャイムが鳴った。「さあ、ゆで卵の新

人先生、でかけましょ。素敵な朝食のお仲間を紹介するわよ」ふたりはほの温かな廊下

から玄関先に出て、運転手の白い手袋がドアを開け、閉め、そして車が動き出しても黙

ったままだった。


 沈黙に嫌気がさしたユリエが口を開いた。「もしかして、シェリ、」「なあに?」

「さっきのあれ、レモンジュースだけど、他に何か入れたりはしてないわよね?」ユリ

エは紅潮した頬でシェリの顔を見た。


             


 「あら、わかった?」「ほうら、やっぱりね」シェリが笑うと、「そんなことだろう

と思って、」ユリエはにやっと笑ってから、「口に含んだだけで、すぐに洗面室で吐い

てきましたよ。それから、頬紅を余計にはたいてきましたって!」と言った。「あら、

さすがに私の姪だけのことはあるわね。もう私から学ぶことなんて何もないかもね」

「そんなことないわよ。マ・シェリ、コレットに与えられたレジオン・ド・ヌール勲章

をどうやったら自分にもやって来るのか、日夜、早朝ずっと探求しているんでしょ?」

シェリは黙ったまま、あら、知ってたのね?という横顔を浮かべていた。


             


 「ほうら、やっぱり。さすが、一族の女傑と言われるだけのことはあるわね」ユリエ

はそう言ったあとで、シェリが笑っていないことに気付いた。“もしかして”ユリエは思っ

た。“叔母はコレットみたいではなく、そのものになるべくして生きて来たのかもしれな

い。”ユリエはシェリの表情をそう読んだ。


 ガタンと車が音を立てて、ティルームの段差を乗り越えた。


 「ユリ、ひとつどうしても解決できないことがあるのよ」「なんでも思いの通りにや

って来たシェリに、まだそんなことがあるの?」ユリエは笑った。


             


 「あとどうやれば、国葬されるのかしらね?かつての女傑コレットがされたみたいに




    


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 スイス、ジュネーヴにある、ホテル・ル・リシュモンは美しい湖に面して
コレットがかつて書き残したように、小鳥のさえずりを聴きながら、
バルコニーで朝食がいただける素敵なところ。行ったことはありません。
ずっと行ってみたいホテルのひとつです。



 「もの、こと、ほん」は下の写真から。

           
           

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

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マダムワトソンでは 
                                    
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