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リサコラム
連載535回
      本日のオードブル

かつて

第11話


「僕の発案だったんだ」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



モダンベッドルームは
実はとても簡単です
シンプル、直線
そして、単色
でもそこに
ブルーのベッドリネンで
メイキングしたベッドがあって、
絨毯はピーコックブルーだったり、
ネイビー&ホワイトのチョーク
ストライプの壁紙で
あったとしたら、
ええ?モダンじゃないよ、
アートだよと言いたくもなります。


 
      
  





       


第11話
 「僕の発案だったんだ」


村の人たちはShiroのそれを「掘っ立て小屋」とひそかに呼んだ。もともと、農家の納屋を安

価で譲りうけたもので、もう誰もそんなものに手を加えたいとは思わないようなありさまだった

からだった。


             


 「あんな汚い小屋を改造するくらいなら、新しく家を建てた方がいいんじゃないのか」という

のが、近所の人々の率直な意見だった。しかし、そんな声に耳を傾けるでもなく、Shiroはアマ

チュア大工に手伝ってもらいながら、DIYで掘っ立て小屋を理想郷にすべく夢を形に変えていっ

た。


               


 Shiroが購入したこの場所は、観光地でも、別荘地でもなく、買い物に行くにも車で30分も走

らなければ食料の調達さえ難しい場所だった。しかし、家づくりを始めて1年が経過しても、

Shiroには熱い夢があり、その情熱は冷めるどころか、週末の大工仕事に嬉々として励んだ。


 この地に別荘を作ろうと思ったのは、以前、アメリカのワイオミング州に出張で行った際、

ぜひ、少し足を伸ばして休暇を楽しんだらどうかと相手方の勧めで高原のホテルで3日間過ごし

たのがきっかけだった。


                


 そこはロッキー山脈の裾野に広がる冬は雪深いリゾートで、まだできて間もない頃だったため

ゲストも少なかった。そしてそのほとんどが冬のスキー客だということだった。Shiroが行ったの

11月の終わり頃で、そのリゾートのロビーに一歩足を踏み入れると、目の前に横5mX縦10m

はありそうな窓ガラス越しにロッキー山脈と裾野が一体となった白銀の世界が両手を広げていた。

Shiro
はあまりの大パノラマビューにそこに階段があることに気付かず、足を踏み外しそうにな

ったほど圧倒された。そして真っ白な景色を見ながらゆるゆると階段を降りると白銀のロッキー

はさらにまじかに迫り、思わず、居心地のよさそうなラウンジのソファにどさっと座り込んでし

まったほどだった。


                 


 案内された部屋はスイートでインテリアはごくシンプルだが、暖炉もあり、部屋の中からも白

い峰々を一望することができた。さらに絶景の雪景色を眺めながら泳げるアウトドアの温水プー

ルに至っては、リゾートというものを経験したことのなかったShiroを一度で虜にした。もちろ

ん、部屋のバスタブからもその雪渓を眺めることができた。


                


 Shiroは日が落ちかけると、もっと近くにロッキーを見てみたくなり、バルコニーに出てみた。

窓を開けると氷の粒がほほに突き刺さるように冷え込んだ空気が一気に部屋の中にまで流れ込ん

で来て、Shiroはコートを羽織った上に、頭から毛布をかぶった。そうして、ロッキーとその上

の空が作り出す七変化をじっと眺めていた。すると雪山にいくつもの白い筋を描きながら、スキ

ーヤーが滑り降りてくるのがわかった。それから3分もすると手がかじかんで来たので、急いで

ホットウイスキーを作り、手を温めながら、なぜスキーを習得しなかったのかとShiroは悔やん

だ。いや、そんな余裕を持てなかった日々を悔やんだ。Shiroはこれまで好んで休日出勤をし、

たまにしか休みを取ることもなく、その反動で休日は家でごろ寝が唯一の楽しみで、家事は妻に

任せきりで他に何をする気も起きなかった。そんな人生を30年も送ってきたことを今さら後悔し

てもなんともならないことが、実は一番悔やみたいことだった。


               


 Shiroは完全に冷たくなった体を硬直させて、だんだんと外の空気と自分自身の区別がつかな

くなると、たまらずベッドからふとんをはぎ取ってデッキチェアに寝そべった。真黒な空にLED

ランプを散りばめたようなと、Shiroは思った。そんな満天の星空を眺めながら、おそらくは初

めて経験する夢のような1時間を過ごした。


 それから3年後が過ぎた。Shiroは妻を誘って、そこに足を運ぼうと思ったが、あの夢のよう

なロッキーのリゾートは、瞬く間に多く人が知るエクスクルーシヴなスキーリゾートとなってい

た。そして宿泊費は2倍ほどに高騰し、Shiroはやむなくあきらめた。


               


 それからほどなく定年を前にShiroは転勤を命じられた。それは飛行機か新幹線を使わなくて

は行けない熊本の阿蘇に近い場所だったが、Shiroは受け入れ、単身、その地でマンション暮ら

しをすることになった。


               


 1年が経過し、
Shiroはマンションのベランダに立って、洗濯物を干していたとき、散り始め

た銀杏並木が地面に
黄色いわだち作っているのを見て、ふと、極寒の中、星空を眺めたロッキー

のスキーリゾートを思い出した。Shiroはその時から、そんな別荘をこの阿蘇の山裾に広がる場

所になんとか作れないものかと考え、場所を探し始めた。そして妻に内緒で半ば打ち捨てられて

いた小屋とその周りの敷地を安価で手に入れることに成功したのだった。


 今までくぎ一本打ったこともなかったShiroが本を買い込むと週末、地元のアマチュア大工に

頼んでそこで一緒に家を作ることなったのだった。地元の住人から「掘っ立て小屋」と呼ばれた建

物には
五右衛門風呂を置き、そこからも阿蘇の雄大な雪景色を眺められるようにした。そして、

その横に新たに作ったログハウスには土間を作り、そこで
料理のできる暖炉も作った。一段上が

った場所にシンプルな床の部屋を作り、そこを寝室として、天窓もつけた。


               


 
そしてやっと間に合ったクリスマスイブ、Shiroは妻を最寄りの駅に車で迎えに行った。秘密

を抱いたShiroの手はハンドルを湿らせ、その代わり、口の中はカラカラに乾いていた。幸いな

ことに一度もこの地に足を運んだことのない妻は「いったいどこまで行くの?」とは聞かなかっ

た。


               


 Shiroは阿蘇の雄大な姿が視界に入って来た時、一度右に曲がり、そして曲がりくねった道を

どんどん上った先で車を停めた。「さあ、着いたよ!」とShiroが先に降りると、妻はどちらかと

言えば疑心暗鬼の表情を浮かべた。Shiroは「掘っ立て小屋」と村の人々が呼ぶ温泉の湧き出る

五右衛門風呂をまずは見せた。次に、完成したばかりの木の香りのするログハウスを披露した。

そこでShiroのクリスマスプレゼントは全く外れたことを知った。


               


 「こんな『掘っ立て小屋』を黙って作っていたの?それなら私の希望も聞いてくれたらよかっ

たのに」と妻は言ったきり、不機嫌になった。Shiroはテーブルと椅子が自作であることや、一

段高くなった場所にふとんを敷いて天窓の星を眺めながら眠れることを実際にやって見せたが、

反応は芳しくなかった。


               


 それから1年後、Shiroの別荘は都会から移住した他人に安価で売ることになり、それを資金

に加え、現在の住まいに近い、公園を見晴らす敷地に小さな家を建てた。インテリアは妻の希望

通り、サンモリッツのハイソでモダンなホテルのイメージで建てられた。


 Shiroは友人がやって来て別宅を褒めるたび、この別宅を作った経緯を事細かに話したが、

友人は目の前にないログハウスもロッキーの山並みも想像しがたいようだった。


 するとShiroはいつもこう言った。

 「かつては、妻もワイルドな感覚を好んでいたんだがね」と。


    


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 ワイオミング州に実際にあるアマンリゾートのアマンガニをイメージして
書きました架空の物語ですが、お客様で阿蘇に自分でログハウス建てられた方が
いらっしゃいます。そして奥様は全く行かれないとのこと。


 「もの、こと、ほん」は下の写真から。

           
           

p.s.2
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
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