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リサコラム
連載566回
      本日のオードブル

思い返せばいろいろ
ありまして


第8話


「桃源郷で憂うなら」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。


濃い
ブラウンの
床に映える、
白く輝く漆喰の壁
青緑の格子窓からは
お隣のバンガローとを
隔てる、緑濃い生垣の庭
その窓には先端が三角になった
アイボリーのシルクレースシェード
オーソドックスな籐で編んだ2つの椅子
窓を背中に2人掛けのソファがひとつ。
左右シンメトリーのインテリアは
シンプルなランプスタンドで
まとまっているようです。
まずは
水浴び
プールに
浸かってから
すっかり洗い流すと
いたしましょう。もちろん現世を。



 
      
  





        


第8話  「桃源郷で憂うなら」



 車は6km続く長いトンネルを抜けると小高い丘に登る坂道に差し掛かった。

左右の鬱蒼と茂る木立の間を息つく暇もなく100kmを超える速度で通り過ぎた

後、なめらかにカーブを切りながら、螺旋に登り詰めた後、やっと平坦な道に出

た。後部座席の女性はその道すがらじっと身を縮めてしていた。


            


 窓の左にはかなりの急こう配の土地に青緑色の稲のじゅうたんが見えて来た。

「この風景、懐かしいわ~」女性はやっと口を開いた。運手席の女性ドライバー

はちらっと後ろを振り向くと、「ええ」とだけ言った。女性は彼女のミラーグラ

スに映る自分の顔を確認したあとで、ちょっと居住まいを正した。


            


 「もう田舎を離れて、17年。あれ以来、帰ってもいないのよ。きっと今頃、

こんなふさふさした緑のだんだん畑ができているころよね?」また少し間をおい

て、ドライバーは「ええ」とだけ言った。


            


 「でも、もう帰る家はないのよ。両親は他界したし、兄夫婦がサラリーマンを

しながら田んぼを維持してきたけど、段々畑を維持するのはどんなに大変かっ

て、いつも言ってた。だからもういよいよやめるらしいわ。もうやる人がいなく

なった後、あの田んぼ、どうなるのかしらって思うと、無責任にも寂しくなるの

よね。先祖代々の田んぼだからね、でも、まさか私が今さらまあ、今となって

はそれも選択肢だったりしてね。だってこんなことになっちゃたんだものね~」

と、最後は声のトーンを落とした。そして高速で行きすぎる段々畑に目を細めた。

緑色のふさふさしたじゅうたんはずっと先も続いている。

 しばらくして、「ええ」と短いクールとも聞こえる返事が返ってきた。女性は

胸を射抜かれた気持ちになった。


            


 「やっぱり?そうよね。スキャンダルで、まっさかまさに転落か~。こんなこ

とになるなんて、思ってもみなかったのよ。まあ、それほど、私は注目に値した

ってことだとは思うけどね?」「ええ、そうですね」またドライバーは少し間を

置いてから短い返事を返した。「ああ、ごめんなさい。答えにくいわよね。わか

っているのよ。結局、相談できる相手は自分しかないってことはね。こんな風に

逃避行したって」女性は後ろを振り向いた。「もう、追っ手は巻いたんでしょ

う?もう大丈夫なのよね?こんな赤道の小さな島まで飛んできても、なおね~」

女性は運転席のシートにしがみついた。「ええ」「ああ、よかった。でも、あな

たって、まるでニキータみたい。知ってるかしら?ニキータ?」女性は運転席に

しがみついたままで言った。「ええ」またドライバーは短い返事だけで返した。


            


 「できれば、新婚旅行でこんな隠れ家リゾートに来たかったのよ。なのに、

ひとりで隠れるはめに来るなんて、ほんと悲しいし、情けなしいわ。でも、もし

かして、青い海と白い砂浜で、じっと太陽に焼かれたら、結論がでてくるかもし

れないかもってどうせ、なるようにしかならないなら、こんなときこそ、リゾ

ートで癒されてみたいと思って。先のことなんてわからなのにね」車はようや

く林の間を抜けて、整備された街路樹の道に出た。


            


 「はあ~」後部座席から深い吐息が聞こえてきた。「やっとあの門から桃源郷

へ入れるのね?」まもなく、大きな石の灯篭と大きな石にリゾートの名を彫り込

んだサインボードが前方に見えて来た。


            


 「まもなくです」運転席から冷徹とも聞こえる声が後部座席に届いた。「ゲー

ト中に入れば、もう、安心よね」後部座席の女性は運転手のシートをしっかりつ

かんで言った。「ええ」短くきっぱりした2音が女性の胸に響く。


            


 守衛のいるゲートからリゾートの敷地内に入った途端に、渓谷のせせらぎが聞

こえてきた。そこで車はやっとスピードを落とした。まだ先なのだろうか?女性

は黙ってそこかしこのヤシの木々が作り出す木陰を目で追った。


            


 「でも、あなた、ほんと運転がうまいわ。それに、強そう。私なんか全然、も

う、どうしたらいいのかこんな時、男ってなんの助けにもならないってわかっ

たしねあなたみたいな、ニキータみたいな女性」“うらやましいわ“と本音を

吐く手前でやっとこらえた。


            


 「私も今までの大女優みたいに開き直ればいいってことなのかな?もう、やぶ

れかぶれだけど、人生はまだ何回だってやり直せるってことかもね….」女性はし

ばらく黙っていようと思った。車はゆっくりと整った庭園の間の道に入ると、大

きな石の柱のある正面玄関の車寄せに止まった。すぐに生成りのチュニックにパ

ンツ姿のスタッフ数人が鈍い銀のネームプレートをきらめかせて、車寄せに並ん

でいるのが見えた。


            


 「もう、なんでも来いって感じでいいのかもね」ドライバーは静かに車を止

めた。


 「到着しました。さあ、行ってらっしゃいませ」ドライバーは首を後ろに向け、

サングラスを取った。精悍なほどに日焼けした彫りの深い目鼻立ちに黒い大きな

瞳、太い漆黒の眉とそれに反したあどけない表情が満面の笑みを送った。


 「またなんでもお申し付けください」「あなたって、強いでしょ?すべての女

は頼りになりそう女性を見つける天才だから..ええ、行ってきます。それじぁ、帰

りもよろしく。元気に立ちなおっているはずだから」女性は軽く笑った。


            


 ガラス窓を軽くノックする音がして、そしてゆっくりとリアのドアが開かれた。

「ようこそ、私どものリゾートへ」笑みをたたえた3人のスタッフが一斉に女優

に挨拶をしたため、その音は和音となって回りの美しい庭の木立に響き渡った。


            


 カタンとヒールの音を立てて石畳の上に優美に降り立ったのは、後部座席で怯

えた表情を抱えたひとりの女性ではなく、ピンと背筋が伸びて、実際よりさらに

長身に見える女優だった。


            


 「ごきげんよう」女優は美しいつま先をハの字に向け、かかとをそろえた。

「彼女、気に入ったわ、」女優はいちばん偉そうに見えるスタッフに向かって言

った。「だから帰りも彼女で」。


            


 「かしこまりました。手配いたします」流ちょうな日本語で男性スタッフは答

えた。


 「あなたも彼女も日本語、お上手ね」スタッフはお辞儀をして、「恐縮でござ

います。何か失礼がなかったかと心配しておりました」と言い終える前に女優は

2人のボーイを従えて、石畳を歩き始めた。そして美しい笑顔で振り返ると、手

をひらひらと振ってから「そんなことはないわ」と言った。男性スタッフはゆっ

くり遠ざかる美しい後ろ姿に向かって「なにしろ、彼女はまだ日本語がぜんぜん

理解できませんもので」と言ったものの、ヤシの木立のざわめきはその言葉を

すべてかき消してしまった。



   





 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  

  頼りに強いなる、女性、ああ~すてき。幻想でもすてき。
p.s.2
  適当に相槌を打つて会話が成立する外国人との会話、
  これでいいのかと思うことも過去に多々あり...多々あり...



  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
             


p.s.2
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.2
    下は日本語版です。
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
    お申込はこちら→「Contact Us」           
                          

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