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リサコラム
連載573回
      本日のオードブル

彼女のアイデア


第3話


「女神は台風もお好き」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



オレンジ屋根の
オーベルジュは
黄色やグリーン
ペールブルーの
南仏リゾート風
インテリアです
白い窓枠
白っぽい木の床
そこに青い光を落とす
コバルトブルーのシャンデリア
美しい緑の中庭を眺めながらの
ランチ、アフタヌーンティ、カクテル
ディナー、そして、ナイトキャップまで。
眠くなればベッドはすぐ上の階にございます。


 
      
  





        


第3話  「女神は台風もお好き」



 「幸運は願っているとやって来ると思う?」マダム・ステファンはシャンパン

グラスを持ったしなやかな手首をちょっとくねらせながら斜め後ろを振り返った。

視線の先にはワインボトルを盆にのせた給仕のRenaがいた。


             


 オーベルジュのレストランは台風の接近の影響か、マダム・ステファン以外に

客はいないようだった。Renaは白いドアの前で立ち止まると背中に定規を入れた

ようにピン背筋を伸ばしてから、「はい?」と驚いた様子で返事をした。


             


 マダム・ステファンは一口、シャンパングラスに口をつけてから、「幸運は願っ

ているとやって来ると思う?」と1語1語をはっきり発音した。「Renaは直立し

た姿勢のままで、「はい。私はやって来るのではないかと思います」と答えた。

マダム・ステファンは3杯目の空のグラスを持ち上げた。Renaはすぐに新しい

グラスを取りに行った。


             


 時刻は午後の1時を回ったくらいだった。マダム・ステファンはお昼少し前から

この小さな中庭を望む席で待ち人を待ってアペリティフを楽しんでいる様子だっ

た。開け放った窓からは時折、なめらかな風が吹き込む。今はそれに乗って、隣

のオレンジの瓦屋根越しにバターとオリーブオイルがトマトとハーブを焦がす匂

いが流れてくる。


             


 マダム・ステファンは束ね損ねたブロンドの髪の端が軽くカールした先端を左手

の人差し指でくるくる丸めながら、「どうしてそう思うの?」とRenaの反応をか

すかな興味を持って尋ねた。Renaは少し口ごもると、マダム・ステファンの方に

歩み寄ってから黙ってグラスにシャンパンを満たし、「今は、よいお天気だからで

す」と答えた。そしてまた、同じ白いドアの前まで下がると直立の姿勢で立ち、

「こちらでは、1年のうちの30日ほどしか晴天の日はありません。たいていはど

んより曇っているか、雨か雪かそんな荒れ模様のお天気が多いもので」とはきはき

と答えた。


             


  マダム・ステファンは首元に引っ掛けた白い麻のナプキンを口元にあてると、

「なるほどね」とRenaの意見に一応の納得をした返事をした後で、またシャンパ

ングラスに口をつけた。Renaは緊張の面持ちを隠し切れない顔から笑みを作り出

すと白いドアの前でじっとしていた。

 「天気は人間の行動と同じで予測が難しいものね」とマダム・ステファンは言う

とボルドーのワイングラスに一口だけ飲んでから、他に誰もいない気安さからか、

そこにいる給仕人のRenaにまた話かけた。


             


 「幸運を得たいとか、この先をしあわせな気分で過ごしたいっていう果てしない

願望は人間にいろんなインテリジェントな道具をもたらしたけど、今はそれに使わ

れて窮屈感や閉塞感さえ感じているような気がするわ。私は世界中のいろんな場所

でいろんな人たちに密に接してきて、今、満喫しているって思う瞬間が得られたら

それが幸せなのかもと思うようになったのよ。だって、この地球上には、きれい、

清潔、整理整頓、安全、安心に守られることなく生きている人たちの方がはるかに

多いんだから。実際に誰の助けも得られない状況で、救いの手を待つというそんな

幸運を願うしかなかった場面もたくさんあったから。だから、私は幸運は願っても

いいかもと思うわね」Renaは黙って聞いていた。


             


 「だから、もしも、この人に会いたいと思う人がいたら、その間にいる7人とな

んとかつながって、人事を尽くして天命を待つしかいないかなって私は思うわ。あ

なたにも、そんな会いたい人はいるかしら?」


 Rena
は少し考えてから、「ええ」とだけ言った。「その人、有名な人だったり

する?」「ええ、そうですね」「それなら、まずは、誰でもいいからその人を間接

的にでも知らないか尋ねることね。そして7人目のつてまでたどればいいだけのこ

とだから。でも、そう言うとみんなSNSで何とかその人に会えるつてを見つけよ

うとするでしょ。でも、ほんとうに重要な情報は口伝えにしか伝えられないものな

のよ。だから、古風な手段が実は一番効果的なのよ。それは直筆の手紙よ」

 「そうですか、手紙ですか?」「そう、今はめったなことでは手書きの文字を書

かなくなったから、実はとても効果的なのよ」先ほどまで凪いでいた風は急に強く

なった。


             


 「ああ、とうとう台風が近づいているようですね」Renaは空を見上げた。

「そうみたいね。毎年、ここにきているけど、こんな季節に台風が来ることはなか

ったのにね」「窓をお閉めいたしましょうか?」「そろそろ、メインディッシュの

鮮魚のハーブ焼きができるころでございますから」「ああ、そうみたいね。さっき

からハーブのいい香りがしていたから」「ええ。ではお持ちいたします」Rena

空いたグラスをトレーに乗せてキッチンのほうに消えた。


             


 先ほどまで薄ら青い色に染まっていた空は、いつの間にか汚れた泡のようなどす

黒い雲に占領され始めた。マダム・ステファンはテーブルに軽く肘を載せた。


 彼女は自分の誕生日に、毎年変わらずここにやって来る。そしてその度に違う友

人や知人と2人でこの美しい島の瀟洒なオーベルジュのレストランで静かに2、

3時間を過ごすことにしている。しかし、待ち人は台風の接近で飛行機が飛ばず、

今日は来られないと直前に連絡があった。そのため、彼女はつい、メインディッシ

ュの前に飲み過ぎてしまったようだった。マダム・ステファンは吐息をひとつ吐い

てから、テーブルに軽く両肘をつき、香ばしいバター、オリーブオイルが醸し出す

香りが彼女の背中に近づいてくるのを待った。


             


 「お待たせいたしました」「まあ、おいしそう」マダム・ステファンは両手を軽

く顔の前で合わせた。「これが幸せというものね。また今年も無事にこの場所にた

どりつけて、そしてここの料理を堪能できるんだから、幸運だわ。幸運って、月並

みだけど、それまでのち密な頑張りの先にあるものかもね」そう言ってから目を閉

じ、白い皿の上の熱々の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。


             


 「先生、畏れながら、ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」Rena

はマダム・ステファンの前の空いた椅子に手をかけていた。マダム・ステファンは

目をパチパチさえて、「えっ?」と驚きの声を放った。


 「先生のご友人のおかげでございます。私にお相手をとのことでございます」

Renaは臆せず椅子を引くと腰かけた。そして呼び鈴を鳴らすと、すぐに同じ料理

を別の給仕人が運んできた。


             


 「先生にお手紙を書いたのはこの私でございます。お目にかかれて光栄でござい

ます。ほんとうに、ずっと憧れでした。この瞬間を夢見ていたのです。だから7人

の間をくぐり抜けてここまで手配するのは大変でしたがとても心躍ることでした」


             


 マダム・ステファンは「お~」とため息をつくと、すぐに笑い始めた。


 「ああ、どうか、ご安心くださいませ。今日と明日、このオーベルジュは全部私

の貸し切りですから。しかし、先生のおっしゃる通りでした。幸運はち密な頑張り

の先にあるものですね。まあ、台風で飛行機も飛ばないようですから、どうかじっ

くりと。ああ、これだけは幸運の女神の微笑みですけどね」



   


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  「間に7人」説は有名ですね。納得しています。

p.s.2

   台風の季節ですね。どうか人に利益ももたらしますように。


  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
             


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.4
    下は日本語版です。
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
    お申込はこちら→「Contact Us」           
                          

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