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リサコラム
連載575回
      本日のオードブル

彼女のアイデア


第5話


「あたし、
アンリンが安心なの」



木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。



10月
半ばに
なると街は
クリスマスの
気配を表してきます。
shopにはリースやツリーが
置かれウインドウは華やかになり
赤やグリーンのものが増えてきます。
さあ、いよいよ、今年もあと2か月ですね。
これからは
坂道を
転がり
落ちる
ように
早く
進みますから。



 
      
  





        


第5話  「あたし、アンリンが安心なの」



 「ほら、この歌、アンリ・サルバドールよ、知ってる?」私の座っているカフェ

の後ろの席からそんな女性の声が聞こえ来た。私はびくっとして、ウインドウに写

った自分の顔と後ろの席の彼女の顔をそれとなく見た。


            


 「さあ?知らないな」同じテーブルの男性はそう言うと、パクパクと何かを食

べ続けた。

 「知ってるよ」と私はガラスの中の彼女に無言で言った。


            


 散歩の途中で入ったカフェでそんな懐かしい名前を耳にしたのは、大きな仕事が

一段落ついた、たまの休日で、朝も夜もわからないような日々からやっと解放され

た安寧ともいえるひと時だった。そんな昼下がり、そのカフェのガラスに映った自

分の顔がとても老けて見えたのは、その時、カフェの店内に流れ始めたそのアン

リ・サルバドールのフレンチジャズのせいだ、90歳まで歌い続けた人生の刻印が

刻まれた顔に私の顔がダブって見えたせいだと私は自分を納得させようとした。


            


 子供の頃、私は祖父の横でアンリ・サルバドールの曲をレコードでよく聴いてい

た。かといって私がそのアーティストに詳しいわけではない。しかし、つい先日、

ラジオから流れて来たその懐かしいようなおっとりした歌声に、「ああ~、あの、

アンリ・サルバドールの歌だ」と思い出したことがあった。しかし、それは別の歌

手がカバーした歌で、「やっぱり、アンリでなくちゃ」とその時、私はまるで通人

のようにつぶやいた。そして、そんなことをつぶやいた自分をおかしくも思った。

それは祖父が「やっぱり、アンリでなくちゃ」とよく言っていたからで、もしかし

たら別の世界に行った祖父の言葉が自分を通して発した言葉かもしれないと、その

時、妙な共感を得たのだった。


            


 今は亡きその祖父は変わった人、つまりは変人というイメージしか私にはない。

もっと言えば洒落者で通人という言葉が一番似つかわしいように思う。何にでも通

を極めようとし、常に口うるさく、細かいというそんなマイナスのイメージが私の

中の祖父の印象を支配している。そんな祖父がカバー曲を嫌って、「やっぱり、ア

ンリでなくちゃ」と嫌悪感をあらわにしていた感覚には、今の私も賛同できる気が

して、ちょっと驚いた。それ以外は今となっても何一つ祖父に好きな点を見出すこ

とはできないままでいた。


            


 そんなふうに祖父のことをあれこれ懐かしく思い出しながらアンリ・サルバドー

ルの歌声に耳を傾けていると、手に熱いおしぼりを垂らしたギャルソン風のボーイ

が注文を取りにやって来た。「コーヒーを」と私は注文した後で、「スイーツは何

があります?」とメニューブックを開かずにたずねた。


             


 「季節のタルトやオリジナルパフェなどがおすすめでございます」とボーイは

言った後で、早口で、いや私には早口に思えただけかもしれないが、ひとつひとつ

を名称とともにその内容を述べ始めた。私が理解できたのは、「マロン、パフェ、

ショコラ」という言葉くらいで、あとは何語かさえわからなかった。「ごめんさな

い。もう一度お願いできませんか?」と言うと、彼はまた長々としゃべり始めた。

私は注意して聞き始めたが、途中からウインドウ越しのショップの前で繰り広げら

れている光景にくぎ付けになった。


            


 それは車の通らないプロムナードを挟んだ真向いのショップの前で展開されてい

る女の子と小さな細い犬を連れている女性とのやり取りで、ふたりは親子だと思え

た。その女の子は、ウインドウの中のマネキンの前で、「これがいい!」と言って

離れない様子だった。母親は「これはだめ、だめ、これは大人の女の人の服よ。あ

なたには大きすぎるわよ」と彼女はかなり大きな声で言った。しかし、その子は、

ウインドウにぺったりと両手を張り付かせ、じっと中のマネキンを覗き込んでい

る。それから小さな足を縁石にトントンと叩きつけてじだんだを踏み始めた。

「これじゃないといや!」女の子は甲高い声を上げた。「もうちょっと大きくなっ

てから!」母親は周りに誰もいないことを確認すると女の子の手を引いた。「これ

じゃないといや!」女の子は強情に見える。


            


 そのやり取りをそばにいる犬はじっと見守りながらどうしたものか思案している

ようにも見えた。「あんり!もう、行くわよ」「いや!これがいい」「それじゃ、

あんり、パフェ、ねえ、パフェ、食べに行こうか!」母親は魅力的な提案を思いつ

いた。あんりちゃんは一瞬、母親の顔を覗き込んだが、すぐに、それは嘘で、きっ

とわなだと察知したようで、今度は体をペタッとガラスに張り付けて動かなくなっ

た。


             


 「あの、お決まりですか?」ギャルソンが私の方に腰を曲げて十分に丁寧な風で

催促した。私はやっと我に返った。「ああ、ええと、すみません。ええと….」私

は思い出そうとしたが、聞き取れなかったものは思い出すことはできなかった。

「あの、すみませんが、その..」私は指を立てて、もしかして、もう一度、つまり

3
度目を言ってもらえないかと交渉にかかった。彼は、ちょっと深呼吸するような

風で、また繰り返した。私は自分の感性に敏感な方だと思うし、それを常に大事に

してきたから、今回も自分の感性にピンときたところで、ボーイを制した。


            


 「あっ、それそれ、今のでお願いします」と私はテキトウかつ感性に従ったも

のを注文した。その間、あんりちゃんと母親と困惑犬はどこかへ行ってしまってい

た。そしておよそ67分後、私の前に供されたものは、白い小さな立方体の集合

体の上にチョコレートが混じったような丸いアイスクリームがぽこんと乗り、

その上に黒い蜜がたっぷりかかったものだった。


             


 「これ、なんていうものでしたっけ?」私は自分の直感に頼ったものの、イメー

ジとは違うような気がして恐る恐る尋ねた。「ご注文のフレンチアンニンです。

杏仁豆腐を使ったデザートでございます」「ああ、フレンチアンニンね、そうそ

」私は大きくうなずくと、「それそれ、アンニンでなくちゃね」と笑いながら

やせ我慢を言った。


            


 私は祖父のような通人とは正反対で、何かにとても影響されやすいことを自分で

よく知っている。ただ、音が似ていと言うだけで、アンリとアンニンには何のつな

がりもなかった。そんなことを確か経済学の用語でハロー効果とかなんとかと言う

らしいが、私はいつもそのようなものにひっかかる。


            


 しかし、「アンリを聴くなら、やっぱりアンニンでなくちゃね、それで仕事もう

まく行って来たんだから。祖父と違っていいのよ」私はやはりフレンチアンニンを

ぱくついている後ろの席の彼女に向かって、そっとつぶやいた。



   


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  ハロー効果か、感性か?難しい場面もたくさんあります。
  懐かしい歌声が聞きたくなる秋、10月に突入です。

  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
             


p.s.2
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。




シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-               

(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      

Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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