マダム・ワトソン　My Style

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連載５８０回 　　　　　　 時代は変わり、 変わらないものは、 ここに存する。 第３話 「セントラルパークは、 このこと、 知っているかな？」 木村里紗子のプロフィール マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。 大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。 著書「シンプル＆ラグジュアリーに暮らす」（ダイヤモンド社 紙の本＆電子書籍）（2006年6月） 「Bedroom, My Resort　 リゾコのベッドルームガイド」 （電子書籍2014年8月） 道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。 いろいろなインテリアを考えだすこと。 新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。 外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。 ２０年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。 アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。 好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、Ｆ・サガン、 マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。

3mの 高さの窓から 見えるものは もちろん、かの、 セントラルパークです でも、今は私の庭。 ここにいる間だけ 所有できる風景。 大金を払いましたが、 それなら、別の使い方が あったのかもしれないとは その時考えられなかったから できたことです。

第３話　「セントラルパークは、このこと、知っているかな？」 　「『もう、このまま死ねたらいいのに』『そんなわけにゆくなら、この世に生 まれてこなかったよ』わたしは最高にうれしいと感じる状況下でさえ、そんな自虐 的な問答をする趣味があります。まあ、悪趣味ともいえるでしょうが、それが私の 一番の長所ではないかとずっと思っています。 　　　　　　　　　　　　 　しかし、そんな悲観的な考え方をする私でも、数年前、ある失敗をしたからこ そ、今、こんな高見の演台からみなさまにつたない話ができるのではないかと思い ます。 　これからお話しすることは、私の大いなる失敗談でもありますが、反面、とても 貴重な経験談です。それ以来、私は『悲観的な考え方をする新楽天家』を目指すよ うになったのです。 　　　　　　　　　　　　 　今、すべてを楽観的に考えるのがよく、悲観的に考えることをダサいことのよう にいう風潮がありますが、しかし、表彰式という晴れの場に臨むことのできた将来 有望なみなさまが、この瞬間でも、物事を悲観的に考え抜いた後で、日々を楽観的 にちょっとだけ贅沢な気持ちで暮らすことができるとしたら、それは絶対に人生最 大の武器になるのではないかと、そんなおこがましいことを考えを持っています。 それでは、私の恥ずかしい失敗談を披露いたしましょう。 　　　　　　　　　　　　 　それは３年前のことです。私はある、ずっと行きたかった場所に行きました。 それはニューヨークのある場所です。それは観光でも、仕事でもありませんでし た。とにかくニューヨークのとある場所に行きたかったのです。それは超が３つ くらいつくほどのホテルでした。『アマンニューヨーク』という超高級ホテルで す。マンハッタンの5番街の角にあるクラウンビルという王冠をかぶったような 金ぴかのビルの中に、当時、できたばかりの新しいホテルでした。ほら、すぐに スマホで検索しようと指が動いた方はかなりのスマホアディクションでしょうね。 でも、私が言いたいのは、そんなことではありません。私はどうしてもそこに泊 まってみたかったのです。 　　　　　　　　　　　　 　もともと、私生活は質素倹約型でした。結婚もせず、仕事一筋頑張ってきたので すが、3年前、ようやくコンサルタントとして独立を果たし、そしてやっと軌道に 乗り、なんとか数人の社員と秘書も持つことができるようになった頃でした。そん な時、これまでこんなに生活も切りつめて来たのだから、人生一度くらいは贅沢を してもいいんじゃないかと思ったのです。そして、冷静沈着に綿密な予算計画、 行動予定を立て、実行に移しました。もちろん、飛行機はビジネスクラスです。 　しかし、アマンニューヨークに一歩足を踏み入れとたん、私は訳もなく舞い上が ってしまいました。すべてのインテリア、調度品、絵、そして部屋の中の微細なも のにまでが繊細なアートに見えました。しかも、私の予約した部屋は１０ｍもある 巨大な窓からセントラルパークを見下ろす部屋です。いくら、冷静沈着なコンサル タントといえども、舞い上がらないわけがありません。 　　　　　　　　　　　　 　到着した日はお天気がよかったので、巨大パノラマは遠く霧のようにかすむ地平 線まで見えました。感動の嵐でした。そこで、最初に私が申し上げたセリフが出て くるのです。『もう、このまま死ねたらいいのに』私はほんとうにこのまま死ねた らどんなに幸せな死に方だろうと思いました。もちろん自分勝手な目線ですが。し かし、そのすぐ後に、『そんなわけにゆくなら、この世に生まれてこなかったよ』 と思ったのも事実です。ほら、私って、なかなか賢いでしょ？ということで、私は こんな非日常に溺れていてはいけないぞ、帰ったらたくさん仕事も待っているし、 これは一時の夢物語だから、一歩ここを出れば、どこからでも、ピストルの玉でも 批判でも飛んできかねない厳しい世界が待っているだから、そのことを忘れないよ うにしようと思ったのです。そうして4日後には元通り冷静沈着に社会復帰するた めにです。しかし、完全に舞い上がっていたのは事実でした。だって、1泊100万 円です。しかもオープニングプライスでその価格なのですから。 　　　　　　　　　　　　 　私は1秒たりとも無駄にしたくないと計画通りにきちんと時間を使いました。 どんな風に使ったかと言いますと、つまり、何もしなかったのです。セントラル パークを眼下に収めながら、シャワーを浴びて、バスローブのまま寝椅子に寝転 がって、ただただじっと、今や自分のものとなった庭を眺めるだけです。どこにも 行かず、部屋からは一歩も出ず、食事も部屋ですることにしたのです。そして、 そこに3日間滞在しました。 　　　　　　　　　　　　 　1日100万円ですから300万円と食事代の予算です。しかし、その時の私はその 金額を分不相応とは感じませんでした。それより、なんてお得な3泊4日だろうと 思ったのです。当然、得難い体験をしました。最高にセンスのあるインテリアの中 で最高に素敵な部屋で、最高のサービスを受けました。 　　　　　　　　　　　　 　その少し前に私は親友の結婚式に招かれ、とてもすばらしく素敵な披露宴に出席 していたのですが、後でその友人に聞いたら、なんと600万円もかかったとのこと でした。しかし、それは別段ゴージャスな方ではなく、ごく普通の金額だと聞いて 私はびっくりすると共に、すぐに計算をしたのです。つまり、3時間の披露宴に 一般的なものでも600万円かかるということは、1時間200万円です。それなら、 1日、24時間で100万円のアマンニューヨークはすごくお手頃ではないかと、 そんな風に思ったのです。私はずっとそんなことを行きの飛行機の中でさえ何度も 反芻しながら、過ごしていました。しかし、先に申しました通り、あのアマン ニューヨークに一歩足を踏み入れた瞬間、空気に漂う粒子にさえ、高貴な目に見え ない金箔がついているのではないかと思うほどに、非日常、異空間の中で、お金の ことは雲散霧消。きれいさっぱり忘れ去っていたのです。 　　　　　　　　　　　　 　私は予定通り、自分の時間を満喫しながら過ごしました。だれに邪魔されるでも なくです。しかし、3日目に悲劇が訪れたのです。なんと、ケイタイに電話がかか ってきたのです。私の秘書からの『緊急』の電話だったのです。どんな緊急だと思 いますか？その私のしゃべった会話をこれから再現します。 　　　　　　　　　　　　 　「今、ちょっと取り込んでるから、後でかけなおしてもいい？急ぎ？わかったけ ど、この電話、高いわよ。でも、なにより私の方が60分41,700円だからね。 いやこっちの話….それで？ああ、あの時計ね、あなたに任せるわ。だって修理す るしかないから。それで、修理代はいくら？4万１千円、うん？\4,170なの？ もちろん、修理すればいいわよ。だって、\4,170なんでしょ？ははは、いや、 ごめん、ちょっと、おもしろくて、いや、こちらの話。私の6分の値段だから。 なんでもいいけど、ついでに、ベルトも替えといてもらえないかしら？一番高いの でいいから。オーストリッチでも、真珠でも…ダイヤモンドが埋め込まれたベル トでもいいわよ。まあ、41万７千円までならOkね。それなら別の時計を買った方 がいいって？ダメ、ダメ、それは大事なクライアントからもらったものだし、それ も、イケメンのね。そんな大事な腕時計だから。それじゃ、他に、急ぎはないで しょ。では万事、よろしく」私は電話を切りました。 　　　　　　　　　　　　 　41万７千円と言ったのは、この部屋で10時間過ごしても41万７千円だからだ ったのです。それなら許容範囲だと思ったのです。ほら、笑ったでしょ。それが ふつうの感覚です。私は今、みなさまが笑ったように、私の秘書を笑い飛ばしまし た。 　私が緊急に関していつも思うことは、人が緊急なんて言うときはそのほとんどは 緊急っていうより、困った状況ってことなのです。他に大事な要件はもっとあるは ずなのに、困った、どうしようと思った瞬間に緊急と勘違いしてしまうものなので す。だから、その時、私もつられてしまったのです。 　　　　　　　　　　　　 　それから2日後、私は一皮むけて、帰って来ました。行き帰りの飛行機代を入れ て400万円でしたが、満足以上の感覚を持って次の日、事務所に出勤しました。 そして、私は自分の愚かさに気づかされました。私はどんな状況でも、悲観的に考 えるというのが私の信条であり、趣味的な性質でもあったと思っていたのにかかわ らず、です。私は自分の机の上にビニールの袋に入った、ダイヤモンドがきらめく ベルト付きの腕時計を見つけました。それは私の趣味ではありませんでした。少な くとも、前のベルトの方がセンスよかったと感じました。単にシンプルなベージュ のベルトでしたが、大事なクライアントから頂いたものでしたから、なおのことそ う思ったのでしょう。 　私はあの時、金銭感覚が全く麻痺していたことがやっとわかりました。『セント ラルパークを眺めるために、1日100万円を使ったのよ、3日間も』と、そんなこ とを言って、『すごいね～うらやましい』という人間は私の周りにはいません。 『それより毎日をちょっとだけ贅沢に過ごせばよかったのに、そんなケチケチしな いで』と忠告する人間ならたくさんいます。楽観的はとても素晴らしい考え方 ですが、悲観的に考え抜いた後で楽観的に遂行するべきだと今は痛感しています。 だってそんなに慌てて行かなくても、セントラルパークはずっとそこにあって、多 くの人々の憩いの場なのですから。これがその失敗から学んだことです。私は41万 ７千円使ったその時計を今は大事に額に入れています。そして、常々、私の戒めに しているのです。 　　　　　　　　　　　　 　最後に一言付け加えますと、実は、そのあと、そのイケメンクライアントに時計 を見せました。『頂いた時計、ベルトも替えて大事にしています』って。すると、 彼はほとんど忘れていたような感じでしたが、同時にとても恐縮してこう言いまし た。 　『すみません、あんな安物を。いつも買って置いてあるノベルティグッズなんで す。量販店で。税込￥1,080で」と私が修理代とベルトに41万７千円かけた時計 を見て、照れ笑いしたのです。」 　　　 　上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。 p.s.1 　　アマンニューヨークができるという話題で 　　私自身、盛り上がり、勝手に部屋の様子を 　　イラストにして、さらに根も葉もない話を 　　冷静沈着にでっち上げてしまいました。 　 　　「もの、こと、ほん」は下の写真から。 　　　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　　　 p.s.2 　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　 リゾコのベッドルームガイド」 　　　　英語版を出版いたしました。 　　　　"Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。 　　　　写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。 　　　　　　　　　　　 　　　　タイトルは、"Bedroom, My Resort” 　　　　Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories: 　　 　Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms 　　　　趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に 　　　　チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに 　　　　E-bookにしていただいたものです。 　 p.s.3 　　　　下は日本語版です。 　　　　E-Book「Bedroom, My Resort　 リゾコのベッドルームガイド」 　　　どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。 　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　バックナンバーの継続表示は終了いたしております。 　　書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。 　　どうかご了承くださいますように。

	シンプル＆ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り- 　　　　　　　　　　　　　　（木村里紗子著/ダイヤモンド社　）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。 マダムワトソンでは　 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて 　　1,944円にてお届けいたします。 　 　ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。 　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　 　　　　お申込はこちら→「Contact Us」

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