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リサコラム
連載583回
      本日のオードブル

時代は変わり、
変わらないものは、
ここに存する。


第6話


「永遠のライバル」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つ販売員。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。甘いものは苦手。
アマン系リゾートが好き。ただし
お酒はぜんぜん強くない。
好きな作家はロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。






白い天蓋
白いベッド
白いカーテン
白いソファ
白い絨毯に
ローズで
縁取り
ました。
A子ほど
力入れて
ませんけど
私の寝室も
なかなかのものでしょ。




 
      
  





        

第6話 「永遠のライバル」




  クリスマスの人出で賑わう通りから一本脇道に入った小さな古い喫茶店。

茶色いドアをが、ぎいと鳴ると浅黒く日焼けした長身の女性A子こと、愛子が静か

な空気の中に割って入った。


           


 A子は1年前、仕事でアフリカ、インド、南アメリカと日本とは正反対の季節を

めぐりめぐった後、やっとのことで日本に戻って来た。しかし、それも束の間、

またアフリカに舞い戻って行った。そしてようやく日本のこの街に戻ってきたのは

つい3日前のことだった。


 その気配を一番に察知してカウンターの席を立ったのは、B子こと、

凡子(なみこ)。


           


 「わ~、A子~」B子は周りを気にせず小さな店内に響き渡る声を上げた。二人

は1年ぶりの再会をトアルコトラジャで乾杯した。


 「やっぱり、ここはいいわね~。私ね、アマゾンにも行っても、どこに行っても

コーヒー飲むたびに、ここのことを思い出してたのやっぱり、ここのコーヒー

が世界一おいしいわ。でも、あれ、あの、ガランゴロンっていうすごいドアベルの

音、今、しなかったよね….A子はカウンターの中の店主に向き直った。B子は

ドアの方を振り返った。


           


 「ああ、あれですね、ドアベルの鉄の支柱が曲がったみたいで、鳴らなくなって

いまして。他のお客様にも言われているんですが、すみません。近いうちに業者を

呼んで直してもらいますから」店主は申し訳なさそうに微笑んだ。


 A子は「そうですか。あの音、聞きたくてここに来たんだけどな~」とちょっと

恨みがましさをこめてにっこり笑い返した。それからコーヒーカップを両手で持っ

たまま、じっくり店内を観察した。


           


 「ここは私の第2のホームベースだわ~ほんと、昔から変わらない場所って、

ありがたいわ~。私ね、いろんなとこに行ったでしょ、でも、全部、南半球なのよ

ね。きっと私には巨大なラバーバンドがついていて、それはアフリカ大陸につなが

っているだと思う。だから、どこに行ってもいつも南半球に戻されるんだと思う」

A子はカラカラと笑い、そしてさっそく、カウンターの店主におかわりのカップを

差し出した。


           


 B子にはそれがとっさに理解できなかった。「ラバーバンドってなんだって?」

と聞き返した。A子は「ああ、あれよ。パンツのゴム」と言うとまたカラカラと笑

った。


 「はっ?パンツのゴム?」B子は頭を5℃くらい左に傾けた。B子は疑問に思う

と必ず頭を左に傾ける癖がある。A子はその懐かしいB子のしぐさを見ながらまた

カラカラと笑った。


 「きっとB子のパンツのゴムはそんなに太くないと思うけど、あれよ、ジャージ

のパンツに入ってるみたいな太いゴムのことよ。私のパンツのゴムは太いけどね

ふたりは同時に笑い転げた。


           


 それからやっと落ち着くと、B子は納得した風で、「そんな強靭な太いゴムに引

き戻されるってことね。なるほど、A子ぽい表現ね」と言った。


 A子はにこにこしながら続けた。「それでね、人間の祖先は間違いなく、アフリ

カ大陸から出発したんだってこと、身をもって納得したのよ。きっと私の人生の

終着点もやっぱりアフリカで、私、アフリカの大地にきっと骨を埋めるんだろう

って、今は確信を持ってるわ。それも人生最後を飾るスーパーチューズデーには

最高の場所なのかもしれないってね。つまり、自分自身の評価を下す場所として

はね」A子はそう言うと、チーズケーキにフォークと突き刺して、ぱくりと口に入

れ、ゆっくりコーヒーをすすった。


           


 「私にはA子の世界はとっても想像つかないけどね、でも、A子を見てると、

長くつ下のピッピを思い出す。どこでも自分流を押し通して、破天荒で、強くて、

お相撲さんでもなぎ倒すんじゃない?」するとA子はまじめな顔になって、左の口

の端をちょっと上に持ち上げてみた。「それじゃ、ためしに、私と戦ってみる?

私ね、カ、ラ、テ、初段なのよ」A子は高らかな声で笑ってみせた。


           


 「一体、いつ、どこで、そんな….B子はゴクリとコーヒーを飲み干すと、

A子はすかさず、「へへへ、カラテは世界共通言語よ。習おうと思えば、今はど

こだって。それでね、私、わかったことがあってね、それは、過去の戦争はみんな

腕力だけじゃ負ける人間が武器を作り出して引き起こしたものだから、腕力は忌避

すべきものだって思ってきたの、でも、上手に使えば人間の素の腕力はいい武器に

なることがわかったのよ。特に女性の場合は。空手、やってますって言っただけ

で、すごい武器になるのよ。それに体を鍛えると精神が鍛えられるのは間違いない

と思う。弱弱しいより、強いに越したことはないよ」


           


 「そうなの?」B子はまた頭を左に5℃傾けると、「アクション映画の世界に

A
子は生きているみたいね。さすがに、グレートジャーニーの関野吉晴さんを師と

仰ぐだけのことはあるわね」と言った。すると、A子はすかさず言った。


 「でもね、グレートジャーニーみたいなものに挑戦する女性は多いわよ~。そん

な女性は強いけど優雅な面も少なからず持っているものよ。それは、機動力がある

ってこと。新しいことを始めるときに迷いなく自然にす~と取り掛かるもの。やろ

うかやるまいか、とか、やらない言い訳をする前にもう、始めてるってとこがね、

優雅に見えるのよ~。私、そんな女性をたくさん見て来たわ。それで、私も心身を

鍛えたいと思って、道場の門をたたいたのよ」


           


 B子は浅黒い顔に口紅すら塗らないA子の顔を頼もしげに眺めてから、下を向く

と「私の祖先はアイヌだからね、私にだって、A子みたいな闘争心あるのかもよ」

と、ぼそりと言った。A子はすぐに言い過ぎたと思った。


 「いやいや、それでも、時々、私、B子みたいな女っぽい女性にあこがれるの

よ。想像できないかもしれないけどね、私の部屋、まるで女ぽいのよ。ベッドの

上には天蓋があって、レースのカーテンが下がってるのよ」


           


 「へ~、そうなんだ。A子の部屋、お姫ぽいの?」「お姫ぽいって言うか、きれ

いなホテルって言ってよ~。でもそんな部屋がなくちゃ、奥地なんかには行けない

ものよ。私の核みたいな部分は、どこ行ってもやっぱり、私の部屋だからね」A

は浅黒い顔から穏やかな光がB子に向けられた。


           


 B子はしばらく黙っていたが、A子のその表情から何かを読み解いたように、

「もしかして、オードリー・ヘプバーンのポスターとか飾ってるんじゃないの?」

と新たな口火を切った。


           


 「わかる?」A子の目からせん光が走った。「やっぱりそっか!わかる、その気

持ち、わかるよ!ああ~、やっぱり、強靭な女の陰にオードリーありかなるほ

どね」B子はA子の肩をたたいた。ふたりはしばらくオードリーの話で盛り上が

り、そしてB子はカウンターの壁に20年前から掛かっている振り子時計を見た。


           


 「私、そろそろ行かなくちゃ。でもA子はゆっくり懐かしい気分に浸ってね。

それじゃ、ここは私も持ちで」と言うとそれまでの会計を済ませ、さっと席を立

った。


           


 「A子、あの、」B子はドアの前で思い出して立ち止まってA子に声を掛けた。

「さっきの話だけど、いつでも受けて立つわよ」A子はぽかんとして「なんの話

だっけ?」と聞き返した。


           


 「挑戦よ。私の祖先、アイヌって言ったでしょ。祖父は子供の頃、いつも子熊と

遊んでやってたのよ。相撲を取ってたんだって。だから、私にもその血は受け継が

れてるみたいでね。私、黒帯なのよ」A子は驚いて目を輝かせたが言葉が出てこな

かった。


           


 「でも、安心して。子熊に勝つのも、人間の強い相手に勝つのも、コツは昔も

今もおんなじだって」そう言った後で、B子はドアを半開きにしたまま曲がった

ドアベルの支柱をグイっと戻した。


 「わざと負けてやることよ」逆光を受けたB子はオーラをまとっていた。


           


 ガラン、ガランと除夜の鐘のような大きな音がこだますとB子の後ろでドアが

閉まった。


   


 上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1
  子熊と相撲を取ったというアイヌの方の
  話は実話です。テレビで見ました。
  熊も人間も同じで熊は勝つまでやるから
  負けてやらないといけないと言われていたことが
  とても印象的でした。違うところは人間の言葉を
  しゃべれないところだそうです。
  負けてやるという勝ち方がありますね。
  しかし、多くの女性の真のライバルには
  元から負けてます。


  「もの、こと、ほん」は下の写真から。
           
             


p.s.2
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
    英語版を出版いたしました。
    "Bedroom, My Resort"の英語版がようやく出版されました。
    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。

           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”
    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:
    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTood Sappington先生に
    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに
    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。
    E-Book「
Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド
   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。

                 



  バックナンバーの継続表示は終了いたしております。

  書籍化の予定のため、連載以外のページは見られなくなりました。

  どうかご了承くださいますように。






シンプル&ラグジュアリーに暮らす』-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
             
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。                                
    
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